【特集】終わらない占領との決別

沖縄と世界を、ミサイルを排し、未来に向けて対話と交流でつなごう!

羽場久美子

「沖縄を平和のハブに!」というシンポジウムを、2023年6月24日、「沖縄慰霊の日」の翌日に、78年前の悲惨な戦争を思い、沖縄の犠牲者を悼んで、昨年に引き続き、行うことができました。ぜひ全国の人々に、先の戦争の歴史、沖縄、広島、長崎の犠牲を思い起こしていただき、来年からもさらにその次の年も、戦争は二度と起こさない、東アジアで平和を維持し、対話と交流で作っていくことを誓いたいと思います。

敗戦の色濃かった日本で、1945年3月、時の近衛内閣が「近衛上奏文」を天皇に献上して「停戦」を訴えたにもかかわらず、時の天皇と軍部がこれを却下したことで、その後の5か月間、以下に悲惨な状況を自ら作り出していったかを思い起こしていただきたいと思います。

3月末、米軍が沖縄に上陸し、米軍艦隊が続々と日本を取り囲む中、上奏文が却下されたその下で、沖縄戦が始まり、軍だけでなく、ひめゆり部隊を始め、住民や子供たちが次々に米軍によって火炎放射器で焼き殺されたり、日本軍によって集団自決させられたりなどの、地獄図が引き起こされました。

44年10月から始まった神風特別攻撃隊の「志願」の募集により、250㌔爆弾2つを抱え、その後は800㌔爆弾を抱えて、片道だけの燃料で、10代20代の若者たちが、アメリカの艦隊にぶつかって爆破する無駄死にを強いられました。それが広島・長崎への原爆後も、8月15日の終戦の日まで続いたとされます。

さらに全国への無差別爆撃が始まり、東京大空襲、横浜大空襲を始め、日本列島全土の都市で多くの無辜の住民が犠牲になりました。いずれも停戦を、近衛上奏文の時に受け入れていれば、起こらなかった悲劇で、その悲劇のほとんどが住民、及び若者や若い女性・子供たちに強いられた悲劇でした。

これらを考えると、ロシア・ウクライナ戦争が始まった翌日から既に停戦要求が出され、1か月後にはトルコによって出された停戦要求をウクライナ・ロシア共に受け入れたにもかかわらず、ブチャの事件によってそれが覆され、今や、戦争が始まって1年6カ月を過ぎているにもかかわらず、ウクライナとアメリカの戦争継続要請、「大反撃」の要請の中で、イギリスが劣化ウラン弾を、アメリカがクラスター爆弾を供与し、いずれも「ウクライナ東部」の地域に大量投下していることを重く見る必要があると思います。これらの毒物破壊兵器は、戦争が終わった後も長期にわたりその地の環境と人々・特に子供たちに被害を与えることを考えると、ウクライナ東部はもはや米英にとっても無法地帯と考えられているのか、そこに住む住民たちの保護は考えていないのか、非常に理解に苦しむところです。

無限に続く住民たちの犠牲を抑えるために、私たちがなすべきことは、一つには、可能な限り早期のロシア・ウクライナ戦争の停戦。停戦を押しとどめているのは、ウクライナ政府と、アメリカ政府であるという認識。そしてもう一つは、このロシア・ウクライナ戦争を、東アジアに決して飛び火させないということ、台湾有事は決して起こしてはならない、ということです。

「沖縄を平和のハブに」、という思いを形に変えていくために、重要なことを3点、指摘したいと思います。
ひとつは「境界線」とは、分断するものではなく、つなぐものであるという認識です。沖縄の美しい島々から海を越えて、また、日本全国から、そして中国や台湾から人々がやってくるなかで、それを痛感しました。

二つ目は、「ダイバーシティー(多様性)」ということです。エイサーやカチャーシー、それから沖縄しまことばを聞くなかで、「標準化」でなく、豊かな文化の多様性を開きつなぐことがこんなに素晴らしいことなのかと、感動をもって実感しました。

三つ目は、若者たちのエネルギーと、未来につなぐ平和と希望ということです。若者のパネルで宮古島の高校生や石垣の方などが、素晴らしい社会意識、政治感覚、政治意識をもって参加し発言してくれました。
沖縄を平和のハブ!は実現できる、しなければならない、ここにこそ、東アジアの国連を持ってくることができる、と痛感しています。

これらの点をもう少し具体的に述べて、これからの動きに向けての指針としたいと思います。
第1は、「境界線(ボーダー)」は、「分断するもの」ではなく、「つなぐもの」である、ということ。これは欧州の地中海と同様、沖縄という美しく、豊かで、かつおおらかな地で、国境も、1300㎞という海も、人々を分断するのではない。琉球・沖縄は、歴史的にも文化的にも、そして社会的にも、大陸と東南アジアの島々、そして日本列島や朝鮮半島とを昔も今も、つないできた、という事実を認識できたということです。
欧州古代史では、海は、分断するものではなく、つなぐもの、という言い方をします。

とりわけローマ帝国の時代、むしろアフリカ大陸のエジプトの方がより豊かな文明をもっている時代に、ヨーロッパは南に憧れと尊敬をもって、地中海を行き来してきました。

有名な欧州建国の神話では、「ヨーロッパ(エウロペ)」という言葉が、フェニキア(今のレバノン)の王女のことを指し、それを白い牡(お)牛(うし)に姿を変えたゼウスが背中に乗せて欧州に連れて帰った、彼らがギリシャの地中海沿岸で交わってミノス王という、触れるものがすべて金になる王を生んだ、とされています。ここには様々なシンボルが埋め込まれています。海は分断ではなく憧れと希望をもってつなぐものだった。白い牡牛は白人、エウロペはカラード。二人が交わって富を生み出す子孫ができたと。富は豊かで美しい南から、カラードの地域からやってきたと。それらすべてを今回、沖縄に見るような気がしました。沖縄は、まさに、南の富と文化を包摂した豊かさ、美しさ、繁栄を抱えた南の群島、平和の象徴です。

境界線にミサイルを配備して隣国を敵視したり、フェンスや壁を築いて人の移動を分断したりするという、現代米欧の軍事的な思考が、いかに歴史に学ばず未来にも希望をもたせない行為であるか。それを、沖縄に強いることが、いかに歴史と時代に反しているか、決して許してはならないということをまざまざと感じました。

二つ目は、その結果としての、「多様性(ダイバーシティー)」、多文化共生、多民族共存共栄ということです。ダイバーシティーとは、別の言葉で言えば、「寛容」とか「和解」ということでしょう。
沖縄の美しさ、おおらかさは、大陸の文化も思想も、遠い東南アジアの(と言っても沖縄にとっては、東南アジアは東京より近いのです)習慣や音楽も、日本とも明らかに異なり、すべての違いを飲み込み、悲惨な歴史も乗り越えて「和解」でつなぐという素晴らしさを痛感しました。やはり沖縄という地においてこそ、上海、北京や台湾、韓国や時に北朝鮮、東南アジアの国々、そして日本を結ぶことができると確信しました。
ここでこそ、大変難しいことではあるけれども、沖縄戦の悲惨な過去を超え、安保3文書や防衛費の倍増いう日本の危険な選択を超えて、「二度とこの地を戦場(いくさば)にしない」という長期的な視点で、かつ覚悟と展望をもって、多様な思想を容認し共存する「東の国連」をつくることができるのではないか、と確信しています。

3番目は、若者たちの参加と未来に向けての希望と確信です。
運動は「老若男女」であるべきで、老人を排すべきとは思いません。しかし現実に、ウクライナに武器を送ることを積極的に支持し、戦争をゲームのように鼓舞し、停戦を訴える人たちを「お花畑」と言って叩(たた)くのもいくさを知らない若者・中堅の人々です。平和と未来のために、若者たちとどう積極的に共同していくか、考えなければならない最重要課題だと考えます。

そうしたなかで、今回「沖縄を平和のハブに!」の場で、若者たちのコーナーが設けられ、高校生から20代、30代の方々が、現状を憂い、人権と平和と、安定した社会発展やおいしいモノづくり、環境の維持や近隣国とのネットワークに心を砕いているのを見ることは、言葉に表せないほどの感動を生むものでした。インドカレーも、台湾・中国の小籠包も、ベトナムのファーも、大変美味しくて、こうした食・音楽・踊り・経済・平和をすべて合わせて地域からの発信を訴える沖縄・平和のハブ!の運動は、これは続けていける!、5年から10年後には生活・文化・社会・安全保障を含む、体制も思想も異なる国々や地域との対話を構築し東アジアの国際機関を持ってくることが必ずできる、と皆で確信することができました。

日本は若者を育てる、ということを大変軽視しています。また企業が、大学の学問は何の役にも立たないと今や大学1年から就職活動ができるようになり青田刈りを繰り返しているのにも危機感を覚えます。若者たちの柔らかい感性と、御老人たちの豊かな経験、言葉に尽くせないほどのつらい経験をあわせて、より豊かな沖縄、日本、台湾、中国、南北朝鮮、極東ロシアを共に作っていけたらと思います。

今後に向けての課題
最後に、今後に向けての課題と目標を明確にしておきたいと思います。
アメリカが「6年以内に中国は台湾に戦争を仕掛ける」と言い続けているということは、アメリカ自身が本当にそうしようと思っているからでしょう。6年というのは中国がアメリカのGDPを抜くと言われる年でもあります。ウクライナもそうでしたが、アメリカが「戦争が起こる」と言ったら起こる可能性が高いということを本気で考えて対応する必要があります。

戦争をさせないために、沖縄に続き全国の自治体でアジア近隣諸国との自治体外交をそれぞれ活発化させること、また、ミサイル配備や戦争準備の自衛隊地下司令部建設などをさせないことが重要です。

もう一つは、若者を運動の中心にすることを本気で真剣にかつ短期間でやらないといけないということ。これが極めて大切なのだと思います。
沖縄では若者たちが、議会で、平和運動で、環境問題で、平和のハブづくりに、力を注いでいます。この影響を本土にも広げていくのは私たちの仕事です。そのために沖縄の若者たちも積極的に本土に来てもらって発信してもらいたいと思います。

また、ヨーロッパには「欧州文化都市」という都市交流があり、毎年、選ばれた都市で若者や文化を中心として大々的なイベントを繰り広げます。実は東アジアでも「東アジア文化都市」が鳩山政権の時に日中韓で構想され、チェジュ島や横浜などで行われた。ぜひ「東アジア文化都市」を再建し、沖縄で、台湾で、朝鮮半島でも行われていけば、境界線をつなぐもの、としての文化、音楽、芸術、若者の交流が活発化していくでしょう。

沖縄を平和のハブに!を、まずは5年、そして10年続け、首里城に東アジアの国連を、ミサイルでなくて対話と交流を、をスローガンに、ぜひ頑張っていきましょう! 沖縄と、日本全国、また中国、朝鮮半島、ASEAN、そしてインドとの共同を、若者を先頭に、豊かな経験を持った壮年・高齢者とともに、これからも、未来を見据えて高く飛翔していきましょう!

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羽場久美子 羽場久美子

博士(国際関係学)、青山学院大学名誉教授、神奈川大学教授、世界国際関係学会アジア太平洋会長、グローバル国際関係研究所 所長、世界国際関係学会 元副会長(2016-17)。

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