【連載】横田一の直撃取材レポート

岩手県知事選、少子化対策が争点に(後)明石視察を勧める泉前明石市長(データマックス8月25日)

横田一

本サイトでも紹介した泉・前市長の講演を聞くと、「国政にも反映可能な少子化対策のお手本(モデルケース)になる」と確信した。「岸田政権も見習うべき」「野党は泉前市長が実践した政策(歳出改革で子ども予算倍増)を旗印に、次期総選挙を戦うとよい」という思いにも至った。

泉前市長は8月5日、渋谷区の伊藤真塾で講演し、3期12年の明石市政についてこう振り返っていた。

「明石市は本当に変わりました。どう変わったのか。本当に優しい街に変わった。元気な街に変わった。数字で言いましょう。

私が市長になった12年前、明石市は三重苦でした。1つ目。人口減少が始まっていました。両隣の神戸市と反対側の加古川市は人口が増え続けていたけれど、明石市だけが人口減少が始まっていた。2つ目。財政が完全に赤字でした。3つ目。明石の駅前は幽霊ビル化して、地方衰退の象徴的な状況でした。この三重苦がスタート。

私は市長になった瞬間に方針を全部転換しました。お金を市民に使う。結論からいうと、子どもにたくさん使いました。半端ではないです。明石市は人口30万人。全体の予算額が2,000億円。そのなかで子どもに使っていたお金は当時、129億円。だいたい、全国平均です。普通の予算でした。私の最終年度の子ども予算は297億円。129億円から297億円へと、2.4倍に子ども予算を増やした。だから子ども施策ができるのです。

子どもに寄り添う職員数も、私が市長になったときは、2,000人の職員のうち30数名だった。これも平均的人数。最後の年は138名に。子どもに寄り添う職員数を4倍にしたから、すべての子どもの家庭訪問ができる。理屈だけではない。金を子どもに、人を子どもに。しかも質を上げる。明石市は弁護士資格のある職員が10名以上います。全国最多です。そうやって金と人を子どもにふりむける。人は量だけではなく質を上げる。そういうかたちで明石の街をつくり変えてきた。その結果、どうなったか。

明石市は私が市長になった3年目からV字回復しました。10年連続人口増。明石市の人口増加割合は、中核市という同規模の、全国60ある市のなかでトップです。兵庫県のなかで人口が増えているのは明石市だけ。地価はどんどん上がり、私が市長になった時に比べて、今の明石市の実勢価格は2倍になりました。

人気も高まった。私が市長になるまでは、明石市は関西で住みたい街ランキングの圏外だった。それも急上昇して、いまついに(住みたい街)第3位に。(中略)明石市は人気の街に変わった。その結果、人口も増え、街はにぎわい、税収は一気に増えました。

人口だけではありません。明石市はお金を市民に使った。その結果、市民は財布のひもが緩んでどんどん消費が行われ、いま明石の駅周辺の商店街は過去最高利益を更新しています。コロナのときにJRの駅前のショッピングモールで西日本で唯一黒字だったのが明石だけ。つまり、明石だけが儲かっている状態です。それはなぜか。金を市民に使っているから。無駄な公共事業を削り、そして市民や高齢者に使っているから。その結果、明石市は財政が完全に黒字化したのです。

私が市長になったとき、かつて170億円あった市の貯金は70億円に減っていた。そして隠れ借金が100億円あった。そこで私が市長のときに何をしたかといえば、100億円の借金を全部払い切った。おまけに貯金額を50億円増やした。明石市は子ども政策全国トップレベルの5つの無償化をやっています。

実は、明石市は高齢者(施策)もトップレベルです。明石市は高齢者のお金を子どもに回すようなことはしていません。明石市は高齢者に対しても、バスの無料化、診断費用の無償化、そして予防接種の無料化をしている。世の中と反対。世の中は年寄りの負担を増すけれども、明石市は年寄りの負担を減らしている。子どもも高齢者も障がい者も、全国トップレベルの政策をしながら150億円の金をつくった。

理由は簡単。金なんか余っている。日本は国民負担率が5割近く。いまやほかの国並みです。日本は国民負担をしていない国ではないのです。他の国と同じように負担しているのに、その金が国民に使われていない酷い国。せめて明石市だけでもという思いでやってきました。

私は職員にいつもこう言います。市役所の職員は市民から預かっているお金で養われている公務員。雇い主は市長ではない。市役所の職員は市長を含めて、市民の金で食わせてもらっているのだ、と。市民の金で食わしてもらっている市長として、私は言い続けました。職員は必死に市民に尽くすのだ。市民から預かっているお金を、市民のお金で雇われている市長と職員は、汗かいて知恵を出して付加価値をつけて戻すのだ。市民にとって(税金というかたちでお金を)もっともっと預けたい明石にするのだ、と。おかげさまで、市民からよく言われますよ。明石市だったらいくらでも税金を払いたいと言われる。そう言われるまでにやろうと思ってやってきた。」

こう一気に語った後、泉前市長は国政にも反映可能な、「歳出改革による財源捻出(子ども予算倍増以上)」という核心について述べ始めた。それは「命がけの歳出改革」とも呼べる、壮絶なものだった。

「無駄な金はばっさばっさ切っていきました。私が市長になった一年目、無駄と思った公共事業は全部蹴った。600億円の下水道事業計画があったけれども判を押さず、150億円に減らした。市営住宅建設計画もあったけれど、もういっぱいあるからつくらなくてもいいと思って判を押さず、白紙撤回。私が市長のときには一軒もつくっていない。その結果、金が生まれた。金なんかつくるのは簡単や。無駄なことに市長が判を押さなかったら一瞬でできる。その金を子どもや高齢者の医療費などに回した。

その代わり、私は一年目から、その公共事業を切った瞬間に、家のポストに『市長を殺す』という殺害予告がくるように。(市長を務めた3期)12年間、『殺す』『殺す』と言われ続けた。最後の12年目は140通を超える殺害予告メールがきた。いい加減にせいや。やっと1人捕まったが、警察は『良かったですね』と。『最低5人はいますね』とのことでしたが、だったら5人捕まえろよ、と(笑)。

たとえ誰かに嫌われ憎まれても、時代に即して本当に必要なことをするのが政治家だから、政治家をやる以上ある意味覚悟をしていたし、わが恩師(石井紘基元衆院議員)も殺された。私も殺されたい、とは思わないけれど、痛いのは嫌だから痛くないようにしてほしいけど、まだこの年なので、もう少し頑張りたいと思っています。

暑苦しい話でしたけれども、そんなかたちで明石市は大きく変わり、駅前もにぎわい、本当に皆さんにも注目していただけるようになりました。明石市で始めた無料化施策、子ども施策が全国に広がって。兵庫県では3、4年前まで、『あんな明石がやっていることなんか、変わり者の市長がやっているだけだ。そんなものできるわけがない』というふうにみんな言っていた。でも、この2、3年で変わった。

私は言いたい。変わり者の市長でなくてもやれるのですね、あれだけ金がないと言っていたのに、どこにあったんですかねと。つまり、やればすぐできたことなのです。やると決めた瞬間にできることをやらないために、『金がない』と言っていた。政治というものはやろうと決めたらできることばかり。そういう意味では(政治は)変えられる。」

泉前市長は8月下旬に達増知事の応援で岩手入りする予定と報じられたが、これを機に少子化対策をめぐる政策論争が県知事選でさらに活発化する可能性がある。地元選出の広瀬氏のフランス視察に加え、泉前市長の応援演説が有権者にどれだけ響くのか。岩手県知事選の結果が注目される。

(了)

【ジャーナリスト/横田 一】

本記事は「データマック:岩手県知事選、少子化対策が争点に(後)明石視察を勧める泉前明石市長」2023年8月25日の転載になります。

前半「岩手県知事選、少子化対策が争点に(前)県選出参院議員も参加した仏視察の成果は」2023年8月24日はこちら

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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