第2回 続・ウクライナ戦争報道の犯罪:米欧日の事実上の参戦を容認する日本メディア
メディア批評&事件検証*米ロ戦争化しているウクライナ情勢
2月24日に始まったロシア・ウクライナ戦争は2カ月半経過したが、停戦への有効な動きはなく、長期化が必至の情勢だ。米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官は、ロシアのウクライナ侵攻から2カ月の4月24日、キエフを訪れ、ゼレンスキー大統領と会談した。開戦後、米閣僚がウクライナを訪問したのは初めて。
IWJ(岩上安身代表)によると、オースティン長官はキエフを訪れた足で4月26日、ドイツの米ラムシュタイン空軍基地で北大西洋条約機構(NATO)加盟国など40カ国の首脳を集め、ウクライナの軍事支援会議を開催。オースティン長官は硫黄島など第2次世界大戦の激戦の戦場を次々数え上げながら「ウクライナはよくもちこたえている」と、第2次世界大戦と現在のウクライナ危機を直接結びつけた。
これは第3次世界大戦を見据えての新「連合軍」結成の動きではないか。オースティン長官は、米国がロシアの「弱体化」を望んでいるとも発言した。この会議には岸信夫防衛相もオンラインで参加した。この戦争は、ロシアと米国率いるNATOの代理戦争になってきた。
また、国連のグテレス事務総長は4月26日モスクワでプーチン大統領、28日にはキエフでゼレンスキー大統領とそれぞれ会談したが、進展はなかった。
日本メディアのウクライナ戦争報道に決定的に欠けているのは、バイデン氏が副大統領時代の2014年に親ロのヤヌコービッチ大統領の追放に加担し、大統領に就任して以降、ロシアの武力介入を誘発した経緯の追究だ。
ヴィクトリア・ヌーランド氏(オバマ政権の国務次官補、現バイデン政権の国務次官=政治担当)とジェフリー・パイアット駐ウクライナ大使(現ギリシャ大使)が14年のクーデター工作に加担した。その後、バイデン氏の次男ハンター・バイデン氏(当時、ウクライナのエネルギー最大手プリスマ社の取締役)のウクライナ利権が捜査対象になっている。
*開戦日はウクライナ軍によるドンバス攻撃の2月16日
ウクライナ戦争はロシアによる特別軍事作戦が始まった2月24日が開戦日ではなく、ウクライナ軍が2月16・17日に、東部で独立を宣言したドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国でこれまでの最大規模の無差別攻撃をしたのが始まりだという見方も海外メディアにはある。
米ネオコン勢力とウクライナのネオナチ団体などが2014年、民主的に選ばれていた政権を倒した後、親米政権は東部のロシア系住民を虐殺してきた。ウクライナでは8年前から内戦が続いていた。
遠藤誉筑波大学名誉教授は<2014年、ウクライナにアメリカの傀儡政権を樹立させたバイデンと「クッキーを配るヌーランド」>(5月1日、ヤフーニュース)と題した記事で、14年以降のウクライナ政権を米傀儡政権と断じている。
https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220501-00294078
プーチン大統領は2月21日、両共和国を承認し、ウクライナの攻撃から両国を守るために特別軍事作戦を始めたと主張している。日本のメディアは「ロシアの侵略」と決めつけているが、「今の国際法では、侵略ではなく、集団的自衛権の行使だ、という理屈は成り立ち得る」(伊勢崎賢治東京外国語大学教授)という見方もある。
日本の政府、れいわ新選組を除く政党、企業メディアは揃って「ロシア=悪、ウクライナ=善」で熱狂しているが、ウクライナのゼレンスキー政権を支えるバイデン米政権の責任は追及しない。ロシア、中国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核による威嚇だけが非難され、77年前に核兵器を戦争で使った前科のある米国の核による脅迫は語られない。
日本がウクライナ軍に防弾チョッキなど自衛隊の装備品を供与したのは明らかに違憲だが、反対の声はほとんど上がらない。街頭では革新系団体の活動家らがウクライナの国旗を掲げ、「ウクライナとともにある」と訴えている。「ロシア軍の撤退」と共に、「米・NATOは武器援助を止めろ」というスローガンも見られるが、ごく少数派だ。
自民党は4月27日、政府の外交・防衛政策の基本方針の改定に向けた自民党提言を岸田文雄首相に提出した。提言は、相手国のミサイル発射拠点などをたたく「敵基地攻撃能力」について、「反撃能力」に改称した上で保有を求めた。攻撃対象として「指揮統制機能」も含むとした。
防衛費をめぐっては、NATOが国内総生産(GDP)比2%を目標としていることに触れ、「NATOの目標も念頭に、5年以内に防衛力を抜本的に強化するために必要な予算水準の達成を目指す」と強調した。
ウクライナ戦争に乗じて、安倍晋三元首相ら極右勢力は「憲法9条で国を守れないことがはっきりした」と決めつけ、軍拡、壊憲を煽っている。また、ウクライナは核を保有しない非同盟・中立国だったから侵略されたとして、「核共有」と日米同盟の強化を狙っている。
日本国憲法の前文と第9条は「戦争の放棄」「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」と規定している。公務員である閣僚、国会議員には「憲法尊重擁護の義務」(憲法第99条)があるのに、メディアは違憲発言を垂れ流すだけだ。
*2カ月半続くロシア非難一色報道
4月23日に知床半島で遊覧船沈没事故があり、同日、山梨県道志村で行方不明になっている小学1年生(当時)のものとみられる骨と運動靴が発見され、テレビのウクライナ報道はトップニュースにならなくなったが、「ウクライナ=善、ロシア=悪」の二元論報道が依然として続いている。私のメディア批評はフェイスブック(FB)とブログ「浅野健一のメディア批評」で発信している。
http://blog.livedoor.jp/asano_kenichi/73
防衛省防衛研究所の職員である研究員が専門家としてテレビに頻繁に出演し、米国と自公政権の代弁を続けている。特に、シャツとネクタイを黄色と青色にして登場する高橋杉雄・防衛政策研究室長の解説は異常だ。
4月17日のTBS「サンデーモーニング」で、「旗艦・『モスクワ』沈没の波紋、ロシア軍が東部を総攻撃か」を特集した際、高橋氏は、ウクライナ軍の「戦果」を称え、「戦争はまだ2カ月。アフガン・イラク戦争は何年も続いた」と解説した。
高橋氏は「侵略なのだから、ロシアが2月24日の前に戻すしかない。それ以外に戦争の終結はない。ロシアは言論を統制している。メディアとジャーナリズムの力で戦争を終わらせるしかない」と報道の在り方にまで言及した。
高橋氏は16日、読売テレビ「ウェークアップ」に出演し、ロシアが日本海で14日、巡航ミサイルの発射実験を行ったことを受けて、「20年前と比べて安全保障環境は非常に悪くなっている。同じ防衛費の水準でいいのかどうか議論すべきだ」とコメント。野村修也キャスター(中央大学法科大学院教授)は「日本は中国、北朝鮮、ロシア、三正面で防衛していかなければならない」と同調した。
1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。