矢ヶ﨑克馬:第129回原発事故避難者通信―汚染水海洋投棄―主権者の「視点」は?(上) (2023/9/8)
核・原発問題1 IAEA ICRPは被曝を強要する国際システム
「トリチウム放出基準」等を作成してきたIAEAは原発維持の為の『国際的大元締め』であることを前回お話しましたが、「被曝防護体制」の上でも国際的司令部です。「住民への被曝させっぱなし」を主張し、東電福島事故で実現してしまいました。
チェルノブイリ法で実施された「移住」を金が掛かりすぎる方法として排除したのです。1996に開かれたIAEA会議「チェルノブイリ事故後10年」では、非常に率直に、「移住(被曝量軽減)はもはや行なわない」ことを主張しています。IAEA曰く「被曝を軽減してきた古典的放射線防護は複雑な社会的問題を解決するためには不十分である。住民が永久的に汚染された地域に住み続けることを前提に、心理学的な状況にも責任を持つ、新しい枠組みを作り上げねばならない」と結語で述べています。
それを受けてICRPが2007年に具体的指針を発表するに至っております。それが福島で実施されてしまったのです。
2 物理的に見たトリチウムの危険
放射能には「ここまでは大丈夫」という量はありません。基本的人権を大切にし、地球を大切にするならば、わざわざの海洋投棄などあり得ません。倫理違反の強権執行そのものです。
今回はIAEA/ICRP等により、目的意識的に軽減され危険が見え無くされている「トリチウムの危険性」についてお話しします。トリチウムの特別の危険の根拠を物理的側面から概説します。
(1) 電離密度はセシウム137の20倍
トリチウムβ線のエネルギーが低いから安全と言いますが、トンデモナイ。全くの虚偽です。エネルギーが低い故に特別の危険を持ちます。エネルギーが低いことは速度がゆっくりになることで、相手の原子と接触している時間が長くなり、相互作用の機会が増大し、電離がしきりに生ずるのです。
トリチウムの線エネルギー付与(単位長さ当たりの電離の作用数)はCs137の20倍なのです(T:5.5keV/μm, Cs137:0.25 keV/μm)。
密集した電離では、疎らな電離に比べて修復(切られたところが元のように繋がる)確率が激減するのです。特にDNAに水素結合で取り入れられた有機トリチウムから発射された場合は深刻です。ICRP等が言う「低エネルギだから大したことはない」は全くの虚偽です。
(2) 有機トリチウム
トリチウムは通常水に化合しして存在します。体内では自由水と呼ばれる通常の水と同じに振る舞い短期間で体外に出てしまう状態と主として水素結合と呼ばれる化合形態で体内の組織に取り入れららます。これを有機トリチウムと言います。
①有機トリチウムは生物学的半減期が長くなり、それだけ被曝確率が増加します。②通常のトリチウム水は10日ほどが生物学的半減期ですが、③硫黄、リン、窒素と結合した場合は1ヶ月ほど、④特に炭素と水素結合した場合は年単位となります。被曝被害が大きくなるのです。
後述しますが、有機結合の割合は時間と共に増加します。有機結合しない自由水でいるときは生物の外界の濃度と同じです。
(3) 有機トリチウムは動植物の摂取対象⇒濃縮される
有機トリチウムは動植物の摂取対象となり生物体内に濃縮されます。また食物連鎖により高位動物に汚染が濃縮されます。
(4) DNAと水素結合したトリチウム水
体内重要組織(特にDNA)に結合する場合の危険が大きいといわれます。DNAの2本の鎖は塩基で架橋されています。架橋の結合内容は2つ有って、1個の架橋は2個及び3個の水素結合で結ばれています。その水素結合にトリチウム水が入りベータ崩壊する場合は、3重の危険が生じます(T特有の危険)
①ヘリウム転化で水素結合の水素がヘリウムに変化しますので、直接水素結合を破壊します。この結合破壊に対して修復は自由水を結合水として取り込み、元の水素結合を復元する必用が有ますが、通常の分子切断の修復にないプロセスを経るので、修復確率が非常に悪くなる虞があります。
②水分子のトリチウムがヘリウムに変わると水酸基が生じ、これは非常に化学作用が激しいので、他の結合を破壊し電離作用を致します(間接電離作用)
③崩壊に際して発生するβ線は最大500本ほどです。DNAの局在している細胞核(ミトコンドリアDNAは除く)で発射されますのでDNAを多数密集して電離させ、修復確率も電離が密集するほど低く、危険が大きいものです。
(5) トリチウムは通常水素の質量の3倍重い⇒結合状態の存在確率が増幅
質量が重いことにより、自由水の結合水への落ち込み確率より結合水から自由水への脱出確率が小さくなります。結合相での存在確率が大きくなります。 結合相に濃縮が起こるのです。
①結合水状態の増加
②蒸発・凝縮の際液相で増加。海岸線砂浜に濃縮。
③光合成で生成物に濃縮
④生物体で結合水状態に濃縮(自由水は外部濃度と同じ)
⑤その他あらゆる平衡状態で「結合相」に濃縮
(6) ICRPモデルは通常水と同様に100%血液に入るとし、10日半減期で体外へ排出される、として「変換係数」(ベクレルから被曝量を推定する)などを設定しています。この手法でトリチウムの危険性を見えなくしています。
有機結合して生物学的半減期が長くなることも、有機結合故に動植物の積極的摂取の対象となることも、食物連鎖で濃縮されることも、DNAに水素結合した場合の特別な危険も全く考慮せず「全く危険ではない」としています
(7) 「IAEAにお墨付きをいただいたように「科学的に」安全である」は全く虚偽です。
基本は岸田政府に環境を汚さない、住民を守る誠実な考えが無いことが決定的です。
3 私たちの視点
1) 屈辱の戦後再出発
戦後講和条約を結ぶと称して「アメリカの反共防波堤」と日本を位置づけ、徹底したアメリカの傀儡政権として国際信義に反する卑屈な「日本国」を宣言。南西諸島と北方領土を犠牲にしました。
吉田茂首相のみが認識し、他の日本国民には秘密裏での「日米安保条約」締結は特に酷い。吉田が単独署名を行なって、沖縄などの米軍の継続統治に道を開いた体制をスタートさせましたが、残念ながらの日本の戦後は「屈辱」の歴史の開幕でありました。
2) ウクライナ紛争を利用し、日本のポリシーを「国を守るのは文事力のみ」と明治憲法下の富国強兵軍国主義を強行しようとしています。
徹底した米軍事覇権主義に追随し、卑屈な茶番坊主を演じ、他ならぬヒロシマに於いて「核兵器禁止条約」・被爆者には一言も触れず「抑止力を持って核を制す」姿勢を露わに強調しました(G7)。
3) 岸田政権は年内に国家安全保障会議(NSC)を開き、殺傷武器の輸出を解禁しようと急いでいます。
税金投入により武器輸出を促進する「軍需産業強化法」が10月1日は施行されます。岸田内閣は『死の商人』の国家を作ろうとしています。沖縄県の民意を無視し、強引に司法も屈従させて「辺野古米軍基地建設」の強行を図っています。そこには傀儡としての屈辱と国家権力として何を守るのか?の柱が米国追随と、戦争のできる美しい国作り、核抑止力のインフラを確保する原発回帰として露わになっています。誇り高き主権の尊厳はありません。
4) 日米軍事条約は日本法律を超える治外法権を認める屈辱条約。屈辱と認識しない日本政府の屈辱姿勢。
5) 当然、自民党などにとっての戦後処理では「平和憲法」は目の上のたんこぶ、如何に換骨奪胎して「戦争の出来る美しい国」の実現に向かうか?に集中しています。
6) とりわけ教育は本来の教育理念を逸脱し、服従精神を仕込む体制が1957年当たりからひたひたと国民を変質させました。
7) この世界観は自民党「改憲草案」を見れば明瞭です。今や自民党は天皇を国家元首にして富国強兵を支えた旧家族制度を根本に据えて、ジェンダーもLGBTQ:性的マイノリティーも「人権?なんだそれは?」との世界観をむき出しにしています。
8) 彼ら戦略的目的意識の中で最も犠牲になってきたのが、「主権者の育成」です。
9) 日本は、米国への依存から脱却をはかり、独立した主権国家として立つべきです。エネルギーと食料の自給ができず、資源をもつ他の国々からの交易に頼らなければならない国です、国外にそもそも「敵」を作らない、多極的な平和外交の姿勢を示すべきではないでしょうか!?
憲法9条の精神はまさにそこにあります。
10) 国民を大切にして国民のための政治を取り戻すことがこの汚染水海洋投棄を止めさせることの背景です。主権者を大切にする政治を実現しましょう。
(下に続く)
(2023年9月11日・矢ヶ﨑克馬文責)
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1943年出生、長野県松本育ち。祖国復帰運動に感銘を受け「教育研究の基盤整備で協力できるかもしれない」と琉球大学に職を求めた(1974年)。専門は物性物理学。連れ合いの沖本八重美は広島原爆の「胎内被爆者」であり、「一人一人が大切にされる社会」を目指して生涯奮闘したが、「NO MORE被爆者」が原点。沖本の生き様に共鳴し2003年以来「原爆症認定集団訴訟」支援等の放射線被曝分野の調査研究に当る。著書に「放射線被曝の隠蔽と科学」(緑風出版、2021)等。