「知られざる地政学」連載(4)「ジャニーズ帝国」と「アメリカ帝国」:恐怖による権力支配(下)
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新聞とテレビの同系資本を止めよ
とくに問題なのは、新聞とテレビを同系資本が支配している日本のマスメディアのあり方だ。はっきりいえば、テレビ朝日と朝日新聞は即刻、資本関係を解消し、ジャニーズ事務所に「おんぶにだっこ」だったテレビ朝日を糾弾せよといいたい。テレビ局と新聞社との関係から、新聞報道がどうしても委縮してしまうのだ。その結果、ジャニーズ事務所はテレビ局から籠絡させて、新聞による批判から身を守ることに成功したのだ。
加えて、テレビ局の首根っこを総務省に押さえられているから、新聞社は、文芸春秋のような政権批判ができなくなっている。とくに、新聞代への低減税率適用によって、新聞社は自らの首を絞める結果になった。政府と新聞は共謀関係にある。
同友会の新浪代表幹事こそ反省せよ!
同時に、多くの日本の大企業はジャニーズ事務所における性加害を知りながら、CMスポンサーは「とまどえる群れ」向けにジャニーズタレントを使いつづけた。食品メーカー「ネスレ日本」元代表取締役社長兼CEOでビジネスプロデューサー・高岡浩三のフェイスブックのつぎの記述は必読である。
「クライアントサイドにいた私でさえ、ジャニー喜多川氏が元々性癖があってジャニーズ事務所を開設したという噂は、かれこれ20年以上前から噂として知っていた。メディア関係者も絶対私以上に知っていたはず。なぜなら、私が知ったのは業界関係者とメディアだからだ。
ただ、ジャニーズが人気絶頂の間は嫌われたらジャニーズのタレントを使われなくなるからと、怖くてニュースにも出来ないと、テレビ、新聞等のメディアは蓋をしてきたわけだ。
私は、ネスレのガバナンスとコンプライアンス規定の観点から、キットカットと言えども一度もジャニーズのタレントをCMや販促に起用しなかった。私からすると、今回のジャニーズ問題はBIGモーター社と損保ジャパンの癒着問題と重なって見える。
今更、ジャニーズ事務所のタレントと契約しないという大手クライアントこそ、この手の問題を知っていたはずだし、知らなかったとしたら恥ずべきことだ。
それ以上に、日本のメディアはクライアントの不祥事や人気芸能事務所の問題に蓋をして、事が起こってから白々しく報じる体質だと理解しておくべきだ。」
日本経済新聞によれば、経済同友会の新浪剛史代表幹事は9月12日の定例記者会見で、ジャニーズ事務所の故ジャニー喜多川元社長による性加害問題に関連し、同事務所の対応を「真摯に反省しているのか大いに疑問だ」と批判したという。私にいわせれば、「まずは、あなたが真摯に反省すべきであり、自分の不明を謝罪すべきだろう」ということになる。
悪質なのは、日本ラグビー協会だろう。ジャニーズ事務所が性加害の現場であったことを認めながら、桜井翔なるタレントを使いつづける(9月16日現在)というのはどういうことか。桜井はそもそも「ニュースキャスター」なる仕事をしながら、CM活動をつづけてきた人物であり、喜多川の性加害に見て見ぬふりをすることで加担してきた人物そのものだ。こんな人物を「ジャパンラグビーアンバサダー2023」に起用しつづける日本ラグビー協会は、性加害に対して見て見ぬふりをすることで数百人もの被害者を生んできた構造の一翼を是認することになる。ラグビーは性加害を助長するのか。
先に高岡の発言からすると、アフラック生命保険は性加害企業、ジャニーズ事務所の問題点を知りながら、桜井をCMに使いつづけている可能性が高い。アフラックは性加害を是認してきた会社とみられても仕方ないのではないか。最低最悪の会社ということになる。
中居正広、木村拓哉、香取慎吾、城島茂、二宮和也といった人物を見るたびに哀れに思う。それは、世襲議員の「ドリル優子」や「けちけち鮎子」への眼差しに似ている。
マスコミの「ていたらく」
遠い海の向こうの米国政権への批判についても、マスメディアは取りあげようとしない。拙著『知られざる地政学』に書いたように、遺伝子組み換えやゲノム編集の危険にしても、人工知能(AI)のリスクにしても、米国批判につながる問題はまったく報道しようとしないのだ。
おそらく日本政府は、米国政府と命運をともにする決意を固め、マスメディアの米国批判を意図的に封じているようにさえ思えてくる。そこには、国民に情報を知らしめず、あくまで政府自民党が恣意的に日本国民をリードするという専制主義が跋扈しているようにみえる。世襲議員ばかりが目立つ日本政治は非民主主義そのものだ。もちろん、こんな連中を選ぶ国民も相当に罪深い。
じっくりと考えてほしいこと
いま、ジャニーズタレントは被害者であり、罪はないといった言論がある。この論理を適用すると、国民から支持されて選挙で当選した世襲議員に罪はなく、日本をダメにしているのは不都合を報道しないマスメディアであるという論理構成になりかねない。
だが、多数のファンから支持を受けてきたジャニーズタレントは100%、喜多川による性加害の事実を知っており、見て見ぬふりをすることで自分が有名になる道をめざした。その結果、喜多川の性加害は数十年もつづいたのだ。彼らは被害者というよりも、喜多川に性を貢ぐことで得をしたのではないか(最初は被害者であったにしても)。そして、多くの後身の被害を助長した。この罪はきわめて重い。同時に、マスメディアは沈黙を守ることで、喜多川の性加害に加担した。CMスポンサーは喜多川の性加害を薄々知りながら、ジャニーズタレントをCMに使い、利益を貪ってきたのである。
世襲議員の多くは選挙において、地盤、看板、鞄(資金)の面で優位にたっている。にもかかわらず、彼らは何世代にもわたって、国民の支持を得て議員業というビジネスに従事している。政党助成金を平然と身内に還流させて懐を肥やしている。私は、彼らに罪はないという人に同意できない。もちろん、こんな世襲議員に投票する国民も罪深い。世襲議員には、長年にわたって地元支援者が多くいて、彼らは世襲議員を担ぐことで利益を得てきた。CMスポンサーの罪深さとよく似た構造にあるといえるだろう。彼らは世襲議員にひどさを熟知している。だが、神輿を担ぐには、軽いほうがいいから、「ドリル優子」や「けちけち鮎子」がちょうどいいというわけだ。『知られざる地政学』など読むはずもなく、ただ地元の番頭のいわれるとおりに活動しているだけにみえる。
こうした構造が日本中のいろいろな場面でみられる。大切なことは、自分がだまされてきたこと、そして、いまでもだまされていることに気づくことだ。
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1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。 著書:(2024年6月に社会評論社から『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』を刊行) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。