【連載】改めて検証するウクライナ問題の本質(成澤宗男)

CIAの公然部隊「全米民主主義基金」(NED)と「台湾独立派」(上)

成澤宗男

写真説明:2022年3月に、台北でNED新会長のデイモン・ウィルソンと会談した台湾総統の蔡英文。NEDは台湾を「民主主義」と称賛している。

昨年2月のウクライナ戦争勃発以降の国際情勢をめぐる論評で、「台湾のウクライナ化(Ukrainization)」という用語が登場している。これはロシアの「侵略」を受けたウクライナと同じ運命を、今後台湾が中国からの「侵略」によってたどりかねないという趣旨で使われている。わが国でも「ウクライナ化」という用語を使うか別にして、「台湾有事」を扇動する文脈でこうしたロジックが往々にして目につく。

早くから初期にこの用語を使っていた一人に、1989年の「天安門事件」を経験し、その後米国で右派シンクタンクのハドソン研究所の客員研究員を務めながら反中国共産党の言論活動を続けているリアンチャオ・ハンがいる。ハンによればウクライナ戦争を「利用」し、「共産中国が台湾を攻撃する機会」にしようとしており、「中国共産党の習近平国家主席が台湾を事実上『ウクライナ化』するという現実的な危険が存在する」のだという。これを「阻止」するため、ハンは欧米が「台湾防衛の決意を断固として固め」、「『一つの中国政策』を放棄」(注1)するよう呼びかける。

こうした認識には言うまでもなく「ロシアのいわれなき侵略」という、米国政府や主流派メディア(MSM)が流す戦争に至るまでの経過を一切無視した虚構の「物語」(narrative)に基づいている。だがその定義はともかく、別の意味で台湾の「ウクライナ化」が進行している事実は否定できない。米国はロシアを戦争に誘発するため、ウクライナのネオナチや極右を「利用」してロシアが「レッドライン」とした「ウクライナのNATO加盟」を目論んだ。

それと同様に米国は、中国を武力衝突に導くよう台湾の民進党の蔡英文一派ら「独立」派を「利用」し、中国にとっての「レッドライン」である「一つの中国」政策の変更を画策している。さしずめ米国にとってウクライナのネオナチは、台湾の蔡一派に相当するだろう。それが、台湾の「ウクライナ化」の実態に他ならない。

しかもウクライナも台湾も、共通項がある。米国の内政干渉・現状変更の手段として、どちらも「全米民主主義基金」(National Endowment for Democracy,NED)という機関が投入されている点だ。

このNEDは、自身を「世界中の民主主義制度の成長と強化に特化した独立した非営利財団」と称し、「100ヵ国以上で民主主義の目標に向けて活動している海外の非政府団体のプロジェクトを支援するため、毎年2,000 件を超える助成金を提供しています」(注2)としている。

CIAの作戦を代行

だがこれは単なる表向きの顔に過ぎない。米国の著名な歴史家で、自国の対外政策の最も激しい批判者の一人であった故ウィリアム・ブルムは2005年に刊行した『Rogue State: A Guide to the World’s Only Superpower』で、以下のようにNEDの本質を明らかにしている。

「NEDは、1970年代後半に(議会で)CIAに関するあらゆる否定的な事実が暴露されたことを受け、レーガン大統領の下で1980年代前半に設立された。1970年代後半は驚くべき時代だった。上院のチャーチ委員会、下院のパイク委員会、そして大統領が設置したロックフェラー委員会が、CIAの調査に奔走した。まるで一日おきに、CIAが長年にわたって関与してきた、犯罪行為とさえ言えるようなひどいことが発見されたという新しい見出しが躍っていた。CIAは非常に悪名が高くなり、権力者を困惑させていた。

何とかしなければならなかった。何をしたかといえば、こうしたひどいことをやめることではなかった。もちろんそうではない。行なわれたのは、このようなひどいことの多くを、響きのいい名前の新しい組織、『全米民主主義基金』に移すことだった。NEDは、CIAが何十年もの間、秘密裏に行なってきたことを、ある程度あからさまに行なうことで、CIAの秘密活動にまつわる汚名を返上しようというものだった」

「こうして1983年、『民間の非政府の努力によって、世界中の民主主義制度を支援する』ための『全米民主主義基金』が設立された。この『非政府』という言葉に注目してほしい。実際のところ、NEDの資金源は事実上すべて連邦政府からであることは、年次報告書の各号の財務諸表に明記されている。NEDは自らをNGO(非政府組織)と呼びたがるが、これは米国政府の公式機関にはない信頼性を海外に維持するためである。しかし、NGOというカテゴリーは間違っている。NEDはGO(政府機関)である」

「NED設立法案の起草に携わったアレン・ワインスタイン(注=NEDの共同創設者)は、1991年にこう宣言している。『私が今日行なっていることの多くは、25年前にCIAによって秘密裏に行なわれたものだ』」

2014年2月のネオナチ主導のクーデターでは、NEDが暗躍した。NEDにとってウクライナは、「最大の獲得物」となった。

 

ウクライナクーデターとNED

実際、NEDが海外の「民間組織」を通じ、政情不安を誘発して政権転覆活動に手を染めている実態はよく知られている。特にラテンアメリカのニカラグアやヴェネズエラ、ボリビアの左派政権に対する攻撃の中軸を担っているが、代表的なものが「カラー革命」であり、一般に以下がNEDの主な関与例として記録されている。
●セルビアのミロシェビッチ政権を打倒した、2000年の「ビロード革命」。
●ジョージアのシェワルナゼ大統領を辞任に追い込んだ、2003年の「バラ革命」
●大統領選挙で当選したヤヌコヴィッチを、「不正選挙」だとして追い落とした2004年のウクライナの「オレンジ革命」
●エジプトやアルジェリア、イエメン、リビア等で反政府デモが高揚した2011年以降の「アラブの春」

特に、今日のウクライナ戦争の最大要因とされる2014年2月のネオナチ主導の暴力によって対ロシア協調派の大統領ヴィクトル・ヤヌコヴィッチが打倒された「マイダン革命」は、NEDの影が濃厚に認められる。

米国の調査報道で優れた業績を残し、早くからNEDの危険性を指摘していたジャーナリストの故ロバート・パリーは2014年3月4日に、米インターネットサイトTHE REAL NEWS NETWORKに掲載されたインタビューで、クーデターについて米国が「ウクライナをロシアとの緊密な関係を引き離そう」とすることにあったと指摘。「米国は、この反民主主義的移行を達成しようとする役割を果たしてきた。彼らはそれを民主的だと呼ぶかもしれないが、選挙で選ばれた指導者を打倒することは、表面的には民主的ではない」としながら、次のように指摘している。

「NEDの報告書によれば、ウクライナでは65のプロジェクトが進行中で、活動家の訓練、ジャーナリストの支援、企業グループの組織化など、基本的には、国を不安定化させるために実行に移される、ある種の影の政治構造のようなものを作り上げている。そしてそれが、我々がクーデターで目にしたものだ。この国が不安定化したのは間違いなく(政治に)問題があり、指導者に大きな欠陥があったからだ。しかしそれでも、憲法に則った選挙プロセスを経る代わりに、別の方法がとられた」(注3)

ちなみにNEDのHPでは、ウクライナへの「授与された補助金」のデータベースが、以前は2014年以降が検索可能であったが、現在は2017年以降しかできなくなっている。理由は「ロシアのいわれのない侵略」という「物語」と整合性を図るため、対ウクライナ工作の実態を隠蔽するためとしか考えられない。

「ウクライナは最大の獲得物」

また、クーデターで果たしたNEDの役割については、次のような報告がある。
「ウクライナのNEDの活動家たちは、次のような広範な広報戦略を採用した。a)有償の市外抗議者をキエフにバスで送り込むb)オンラインTVの抗議放送局と扇動用具を作成するc)反ヤヌコヴィッチの学生指導部に海外訓練を提供する」(注4)

無論、ウクライナのクーデターではNEDだけが暗躍したのではない。ジョージ・ソロスの「オープン・ソサエティー財団」を始め、CIAやヴィクトリア・ヌーランド国務次官補(当時)ら米国務省、米国大使館の関与が指摘されているが、こうした米国の大々的なクーデター工作で最も公然と活動していたのはNEDであったのは疑いない。

1983 年の設立以来 、2021年までNEDの会長を務めたカール・ガーシュマンは、『ワシントン・ポスト』紙2013年9月26日付に寄稿。ロシアがジョージアやモルドバ、アゼルバイジャンといった周辺諸国に対し、EUに接近していることに不満を募らせているとしながら、唐突に「ウクライナは最大の獲得物(the biggest prize)であり、ロシアの(周辺諸国への)脅しは結果的に裏目に出ている」(注5)などと記述している。

クーデターには触れていないが、これは明らかにNEDの工作によってウクライナをロシアから引き離し、西側に取り込んだことを指す。ガーシュは2016年8月18日、台湾のインターネットサイトTHE NEWS LENSに掲載されたインタビュー記事で「NEDはCIAと違い、米国の利益に不利な政権の交代を目的とした組織に資金を提供し、アドバイスを提供していると言う人たちがいる」という問いに対し、「それは全くのウソだ」と否定。「NEDは資金提供機関」で、「政権転覆に関する限り、これは我々の使命ではない」(注6)と反論している。

だが、「政権転覆」を「使命」としているからこそ、ネオナチと協力してクーデターを成功させ、「民主的」に選出された大統領を暴力で追放してロシアから離反させたウクライナは、「最大の獲得物」という表現が使用されるのにふさわしかったのではないのか。

そのNEDは近年、台湾における存在を強めている。NEDは「4 つの中核的助成先」を有し、実質的に傘下にある4つの「NGO」を通じて活動しているが、そのうちの国家民主主義研究所 (NDI)と国際共和主義研究所 (IRI)が2020年に台北に事務所を設立した。前者は民主党系、後者は共和党系とされ、NEDが宣伝する「超党派」的性格を反映している。このうちIRIの会長ダニエル・トワイニングは事務所開設にあたり、「中国共産党が世界的なルールに基づく秩序を破ることに積極的になっている今こそ、すべての民主主義国が台湾との関係強化に投資すべき時である」(注7)と、「台北を拠点にする」意義を語っている。

NEDのフェイス・ブックに掲載された、各国での活動の写真。「民主主義」を看板にしながら、実際はCIAの介入活動を代行している。

 

「台湾とウクライナが民主主義闘争の二大最前線」

IRIが「世界中の民主主義と自由を推進」する「NGO」と自称する割にはずいぶん生臭い発言だが、トワイニングは共和党でも極端な好戦・タカ派だった上院議員の故ジョン・マケインの外交政策顧問・スタッフという経歴を有する。実質的にNEDが直接台湾に進出したのは、中国への敵対政策に全面的に乗り出した当時のトランプ政権の意向と無縁ではなかったはずだ。

さらに、2021年7月にNEDの新会長となったデイモン・ウィルソンは翌22年3月9日、台北を訪問。同日に、総統の蔡英文と会見した。席上、蔡は次のように発言している。

「世界の民主主義の発展は現在、権威主義の拡大によって挑戦されている。しかし、ウクライナ危機が勃発して以来、私たちは多くの民主主義国家が団結してロシアの侵略を非難し、制裁を発動するのを目にしてきた。……ロシアのウクライナ侵攻は、民主主義諸国が団結して権威主義に立ち向かう重要性を改めて浮き彫りにした」

これに対しウィルソンは、「台湾の民主主義の活力は世界の模範だ」として、「(台湾は)NEDの会長としての私の初めてのアジア訪問の最初の目的地だ。私たちが台湾を支持することを強調するのは意図がある。我々は台湾の民主主義を守り、台湾と協力して世界中の民主主義を守ることに全力で取り組んでいる」(注8)と応じた。

続いて2022年10月7日、NEDはHPで同月25日から27日にかけ、台北でNEDが事務局を兼務するフロント組織「世界民主主義運動」(World Movement for Democracy)の第11回世界大会を開催すると宣伝した。そこでは「70ヵ国の約300人の民主主義活動家、専門家、政策立案者、寄付者が、今日の権威主義的課題に対抗し、民主主義の機運を促進する方法について話し合う」という趣旨と共に、次のような記述がある。

台湾とウクライナが今日の民主主義闘争の二大最前線であることを認識し、世界大会は偽情報や偽情報と闘い、自己組織化スキルを強化し、結集するために、台湾とウクライナの民主主義擁護者や世界中の他の人々の間での学びを促進する」(注9 傍線引用者)

以上の記述からうかがえるのは、中国が設定した「レッドライン」を超え、破局的事態を引き起こそうという米国の意図だ。

 

活況を呈する台湾の高雄港自由貿易港区。今や台湾の輸出先の4割以上を中国・香港が占め、経済の融合が進んでいる。

 

権威主義対民主主義という図式

1971年10月25日に採択された国連の2758号決議は、「中華人民共和国政府の代表が国連における中国の唯一の合法的な代表」と定めた。これによって台湾は国連から追放され、「中国の領土の一部」とされた。米国も中国との間で、「一つの中国政策」つまり台湾は主権国家ではないという事実を1972年8月の上海コミュニケと1978年12月の米中コミュニケ、1982年8月の第二次上海コミュニケによって確認している。現在のバイデン政権も表向きは、「一つの中国政策」を崩していない。

これに基づき、中国と台湾は1992年に「一つの中国」原則を堅持しつつ、その解釈権を中台双方が留保する(一中各表)という内容の口頭了解「1992年コンセンサス」(注=又は九二共識。中国側は「一中各表」を、民進党は「コンセンサス」自体を認めていない)を成立させた。さらに中国国家主席の習近平は2019年1月の「台湾政策に関する重要講話」で、2049年までの「一国二制度」実現に向けた「平和統一」を強調したが、米国が狙うのは台湾が「平和統一」されることの阻止に他ならない。

2021年の数字では、台湾の輸出先は中国(香港を含む)が42.3%で、米国の14.7%を圧倒する。輸入先は中国が22%で、米国は10.3%だ。海外に勤務する台湾人の6割が中国在住であり、中国側は中台間の経済的融合の発展と双方の理解の進展により、「平和統一」に向けた機運が熟成するのを待つ戦略を基本とする。日本国内を席巻する「台湾有事」論とは異なって中国は「統一」を急いではおらず、「武力行使」はあくまで「台湾独立勢力と外部勢力に向けたもの」、つまり民進党と米国が共謀し、「一つの中国」原則を破棄した場合、つまりレッドラインが超えられた事態を想定している。

米国はそれを承知の上で、中国にとって長年の念願である帝国主義列強に簒奪された領土を最終的に回復し、経済的にも大きなメリットとなる台湾の「統一」を妨害する意図を隠していない。さらにはウクライナ戦争と同様に主要敵に対し、その周辺国を「駒」として利用して武力衝突を引き起こすという意味での「代理戦争」を、中国に対しても再現しようとしている。そのための手段として、NEDが登場している。

なぜならば一方的に中国を「覇権主義」とレッテル貼りし、台湾を「民主主義の活力」などと脚色すれば、両者の「統一」は無理筋となるか、あるいは無理筋であるとする雰囲気を拡散しうる。「一つの中国」原則など忘れ去られ、「民主主義」という一見誰もが異議を挟まない理念を前面に立てれば、それと両極の関係にあるだろう「権威主義」との「統一」はあり得ない以上、中国の路線に対する決定的な阻害要因を生み出せる。

この図式は、ウクライナ戦争でロシアが悪の側の「権威主義」で、ウクライナが善の側の「民主主義」であるという虚構の二項対立の図式が集団的西側におけるMSMの圧倒的な宣伝力で定着してしまっている現在であるからこそ、絶大な説得力を持つ。この図式は意図的に「権威主義」の中国と「民主主義」の台湾というそれに置き換えられ、NEDの「台湾とウクライナが今日の民主主義闘争の二大最前線」などとするプロパガンダに有効性をもたらすだろう。そしてその先には、「台湾独立勢力と外部勢力」による、中国が設定した「レッドライン」の突破が周到に計算されている。
だがNEDにとっての最大の陥穽は、この図式のいかがわしさにあるのだ。    (この項続く)

 

(注1)March 14, 2022「Preventing the Ukrainization of Taiwan」
(注2)「ABOUT THE NATIONAL ENDOWMENT FOR DEMOCRACY」
(注3)March 4, 2014「DID THE U.S. CARRY OUT A UKRAINIAN COUP?」
(注4)March 4, 2022「If the National Endowment for Democracy (NED) Is Subverting Democracy—Why Aren’t Some of the Left Media Calling It Out?」
(注5)「Former Soviet states stand up to Russia. Will the U.S.?」
(注6)「INTERVIEW: A Conversation With NED President Carl Gershman」
(注7)October 30, 2020 「Two Washington-based pro-democracy NGOs to establish offices in Taipei」
(注8)March 29 , 2022「President Tsai meets US National Endowment for Democracy President Wilson」
(注9)「DEMOCRACY ADVOCATES FROM 70 COUNTRIES GATHER IN TAIWAN FOR 11TH GLOBAL ASSEMBLY OF THE WORLD MOVEMENT FOR DEMOCRACY」

 

※ウクライナ問題関連の注目サイトのご紹介です。
https://isfweb.org/recommended/page-4879/

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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