CIAの公然部隊「全米民主主義基金」(NED)と「台湾独立派」(下)
国際写真説明:今年7月に台北で開催された、NEDと密接な関係を持つ「台湾民主財団」の設立20周年記念式典。蔡英文(中央)も参加し、出席者らと記念撮影した。
米国のこれまでの「全米民主主義基金」(NED)による中国介入工作は、主要にはチベットや香港、ウイグル(新羅)が対象であり、台湾は優先度が低かった。それでも時代ごとに程度の差はあれ、米国は戦後一貫して中国共産党の支配を許容する意図はなかった事実をまず確認する必要があるだろう。
「1949年の(革命による)中国の『喪失』は、おそらく第二次世界大戦後のアメリカの覇権を直撃した最大の痛打であり、それは今日に至るまでますます感じられている。過去70年間、中国に対するワシントンの戦略は、世界最古にして最大の国の一つを不安定化させ、分裂させることであった。……中国の共産主義を破壊する米国の計画には、中国の国際的に認められた国境内にあるチベットや新疆などの最大の省から、中国を分離する試みが含まれている」(注1)
米国は冷戦期に旧ソヴィエト連邦との対決を優先し、1972年2月に大統領として初めてリチャード・ニクソンが中国を初めて訪問した後、1979年3月に両国の国交を正式に回復している。だが米国は旧ソヴィエト連邦と同様に、国交があろうがなかろうがこれまで中国を「破壊する」ための試みを断念することはなかった。そのために照準が合わせられたのがチベット、香港、ウイグルであり、さらに台湾が加わった。この4カ所についてはすべて中国からの「独立」あるいは「分離」が目論まれており、いずれも現在までNEDがその工作のための最大部隊となっている。そして特に台湾については、中国の「不安定化」や「分裂」に留まらない次元で利用されようとしている形跡がある。
チベット関しては、早くもCIAが1950年代初頭から「独立」させるために現地に要員を派遣。失敗に終わった1959年の反中国暴動を経て、1974年までCIAの軍事訓練を受けたネパールを拠点とするチベットの約1万4000人とされる「自由戦士」が、米軍の支援で武装抵抗を続けるが最終的に鎮圧されている。だが以降も、「ダライ・ラマの指導の下でチベット自治区の概念をチベット人の間および諸外国の間で支持することを通じて、中国政権の影響力と能力を軽減する」(注2)という目的は変更されてはいない。そして現在、その任務を負っているのがNEDに他ならない。
中国外務省は2022年5月7日、NEDに関する子細な報告書を発表した。これまで独立したジャーナリストや調査機関が公表してきた内容と重複しており、特にオリジナルな情報はないが、政府の文書にしては客観性が保たれているように思われる。以下は、そこで触れられているチベットに関する記述の一部だ。
「NEDのチベット関連プログラムは、『チベット独立』勢力を強化し、国際的にチベット問題を煽ることに重点を置いている。2019年、NEDはチベット関連プログラムに60万ドルの助成金を提供した。主なプログラムには、『チベット独立』勢力がチベットで社会運動を展開する能力を高め、国際社会にチベット問題に干渉するよう働きかけ、後押しすることを目的とした『チベット運動の強化キャンペーン、訓練、戦略的組織化』プログラムがある」(注3)
「星条旗」を持ち、行進する香港の「民主化運動」の参加者ら。一部は街頭で破壊活動をするまで過激化した。(2019年)
「民主主義」を振りかざしながらの他国介入
また香港では、2019年の街頭における破壊活動を含めたNEDの介入工作の本領が発揮されている。欧米から「民主化運動のリーダー」と称賛されている黄之鋒や黎智英、羅冠聡といった面々とその団体が、ほぼ例外なくNEDの潤沢な資金供与によって影響下にある事実を多くの文献が証明している。彼らの一国二制度を拒否した「中国からの分離」という主張は、「民主主義」とは無縁に約2世紀前に大英帝国によって植民地化された香港を再併合し、「ワシントンの帝国主義的な政治目的に沿って香港をそれに委ねるというただ一つの目標のために動員されている」(注4)といえよう。以下は、前述した中国外務省による報告書の内容の一部だ。
「1997年以来、(NEDの傘下の)国家民主主義研究所(NDI)は香港の『民主的発展に影響を与える』ことを目的とした18の評価報告書を発表している。2002年、NDIは香港に事務所を開設した。……NEDは『香港独立』を全面的に支援している。いわゆる『労働者の権利』、『政治改革』、『人権監視』に関するプロジェクトを香港で長年実施しており、香港の街頭デモのほとんどに関与している」
「2003年以来、NEDは違法な『セントラル占拠』運動や立法改正案をめぐる暴力デモなど、香港の多くの大規模な街頭運動を秘密裏に組織し、計画し、指揮し、資金を提供してきた。2019年の(逃亡犯条例改正案)反対騒動では、NEDは舞台裏から最前線に立ち、香港の主要な反中国不安定化勢力と直接関わり、暴動に関与した人々に助成金と訓練を提供した」。
さらにウイグルに関しては、今や中国に悪印象を植えつけるための材料として最大限活用されているという意味で、NEDの工作としては特筆すべき「成功事例」になっている。だが、欧米主流メディアによるウイグルにおける中国の「大量虐殺」や「強制収容所」、「強制労働」といった報道は、同性愛や男女平等に反対するドイツ生まれの極右キリスト教原理主義者エイドリアン・ゼンツと、NEDの資金援助を受けた米国の「中国人権擁護ネットワーク」が発信した明らかに事実無根の情報にほぼ依拠している。
ゼンツは、ワシントンの米国議会の法律により設立された「共産主義の歴史と遺産に焦点を当て」ているという「共産主義犠牲者記念財団」に所属。この組織はNEDとスタッフを共有している。ゼンツの主張は何人かの研究者やジャーナリストによってその本質的誤謬が指摘されているが(注5)、NEDはゼンツの主張に依拠したワシントンの「在米ウイグル人協会」(UAA)やカナダの「ウイグルの権利擁護プロジェクト」、ミュンヘンに拠点を置く「世界ウイグル会議」(WUC)といった米国内外のウイグル関連団体に、多額の資金援助をしている。
「NEDは、ウイグル分離主義運動の国際的な台頭の中心的役割を担ってきた。2020年、NEDは2004年以来、ウイグル人団体に875万8300ドル(UAAへの年間7万5000ドルの資金提供を含む)を提供してきたと自慢し、『ウイグルのアドボカシーと人権団体に対する唯一の組織的資金提供者である』と主張している」(注6)
NEDの工作が遅れていた台湾
改めて「第二のCIA」としてのNEDが国際的に発揮する影響力の強さを感じるが、その活動は他国への内政干渉と破壊工作に過ぎない。中国問題研究家で筑波大学名誉教授の遠藤誉はこの7月3日、「習近平が反スパイ法を改正した理由その1 NED(全米民主主義基金)の潜伏活動に対抗するため」という題名の記事を発表。4月の第14期全国人民代表大会第2次会議で「改正反スパイ法(新修訂反間諜法)」が可決され、7月1日から実施された背景について「NEDが仕掛けてきた政府転覆運動とそれに続く紛争の実態」が考慮され、「7月1日という、香港の中国への返還日を選び、香港を拠点として活躍してきたNEDが再活躍できないようにしよう」という目的があったと見なす。加えて、「NEDはいま、その力を集中的に台湾に向けている」と指摘する(注7)。
問題は、なぜこれまでのチベットや香港、ウイグルに増して、NEDが中国にとっての「核心的利益中の核心」(習近平)である台湾に「集中」し始めたかだ。この3地域とは異なり、中国がその「独立」について「中米関係の越えてはならない第一のレッドライン」と設定した台湾に対し、NEDがあえて工作に着手したことの意味は軽くない。
遠藤は前述の記事に続き、8月6日に発表した「中国政府転覆のためのNED(全米民主主義基金)の中国潜伏推移」という記事で、NEDの年次報告書が発表した1985年から2021年までのデータを基に独自に作成した興味深い表を掲示している。それによるとNEDは1990年にチベット関連の資金拠出を始め、支出ゼロの空白期が計6年あるが、総額1122万4786ドル、292件のプロジェクトを記録。香港は1991年に資金援助が始まり、それぞれ空白期3年、963万3576ドル、69件。ウイグルは2005年からで、計1265万9501ドル、61件となっている。だが台湾については、記載があるのは1986年と1989年のみ。計11万35ドル、2件に過ぎない。(注8)他の米国諜報機関や「民間」を装った団体もこれらの数字とは別に関与したであろうが、そこには米国の対中国戦略の重要な変転が示唆されている。つまり米国のこれまでのチベットや香港、ウイグルとは次元を異にした対応が開始されたということだ。
遠藤によれば、「台湾は、1990年以降はNEDからの支援金はなく、むしろ台湾の方から出資して、台湾におけるNEDの活動を支え、2003年には(NEDと協力関係にある)財団法人『台湾民主基金会』を設立している」(注9)とされ、長らくNEDの工作外であったようだ。だが現在の台湾に「集中」するに至ったNEDの動きを考察するにあたっては、オバマ政権時代の対中国政策をめぐる内部対立から検証する必要がある。これについては、以下の米国の著名な調査ジャーナリストであるギャレス・ポーターの分析が有益だろう。
「1990年代から米国政府は台湾政府に対し、『一つの中国原則』を公然と無視することをやめるよう求めていた」
「2003年に、(2000年に当選した)陳水扁総統の発言や行動が、台湾独立に向けて一方的に『現状を変更』する可能性を米当局者に示した。これを受けて2008年、国務省高官は陳水扁総統に対し、台湾の安全保障をいたずらに危険にさらす政策に反対するよう警告した」
「次に、蔡英文が民進党代表候補として初出馬した2011年、オバマ政権は民進党政権下で海峡両岸の安定が続くことに『明確な疑問』を表明した」
「しかし、民進党候補として2016年に初当選した蔡英文総統は、一貫して要求を受け入れなかった。蔡英文総統の強硬な姿勢は、2008年から2016年まで国民党の馬英九政権下で続いていた両岸関係の安定を著しく損なった」
南シナ海で中国を挑発する「航行の自由作戦」に加わった、米海軍巡洋艦チャンセラーズビル。(2022年)
オバマの対中国戦略転換
だが蔡英文が総統として就任する直前の2016年4月、オバマ政権は表向き「一つの中国論」を変えないまま、中国と台湾の国民党政府の間で交わされた「1992年コンセンサス」を拒否する蔡の立場を支持し始める。この背景についてポーターは、「米国内の政治的・官僚的慣性(inertia)が、軍事問題をめぐる北京との対決へとシフトしていた時期」であったと指摘。オバマ政権は結局、「米軍や国防総省、議会共和党から、中国に対し強硬路線を取るよう圧力が強まっていた」ことに屈したと分析している。(注10)
おそらく2016年以前から軍産複合体の深部で中国への軍事政策に対する不可逆的変化が開始された模様だが、以前は「分離主義者」として警戒していた蔡や民進党への支持の鞍替えが「台湾の安全保障をいたずらに危険にさらす」ことになっても、中国との対決を優先するという意思決定を反映していたのは疑いない。そしてこの変化に至るまでいくつかの伏線があった。
まず、オバマの「アジアに軸足(pivot)を移す」という戦略により、2012年に国防長官(当時)のレオン・パネッタが、「海軍兵力の約60パーセントを太平洋に配備する」と発表した。2014年11月には米太平洋艦隊(注=当時。現在はインド太平洋艦隊)司令官に就任した海軍大将のハリー・ハリス・ジュニアが、中国政府の怒りを承知の上で中国が主張する領土の12海里以内の海域での「航行の自由作戦」を主張。オバマは当初抵抗していたが、2015年10月に横須賀を母港とする駆逐艦ラッセンが、中国軍が駐屯する南沙諸島・スビ礁の 12 海里以内を通過し、中国に対する新たな軍事挑発の先駆けとなった。
なお、米政権の深部で対中国シフトの劇的な転換が進行していた2014年に、ウクライナでネオナチと国務次官補(当時)のヴィクトリア・ヌーランドの結託によるクーデターが決行(2月)。さらに1カ月後、台湾で「独立派」の学生らが日本の国会にあたる立法院を占拠する「ひまわり運動」が起き、国民党の馬英九政権に打撃を与え、2016年1月の総統選挙での蔡英文の勝利による民進党の与党復帰につながったのは、果たして偶然なのか。
蔡が勝利した1ヵ月後、「アシュトン・カーター国防長官(当時)は『大国間競争への回帰』を予感し、『台頭』する中国に対抗することを誓った。ホワイトハウスは国防総省にこのような挑発的なレトリックを使わないよう命じていたが、政治的な地盤はすでに軍の立場を支持する方向に変化していた」(注11)。
トランプがさらに対中関係を悪化
なおこの2016年7月に軍産複合体の「頭脳」とされ、抜きんでて巨大なシンクタンクである「RAND」が『中国との戦争:考えられないことを通して考える(War with China:Thinking Through the Unthinkable )』という挑発的なタイトルの報告書を刊行している。そこでは「様々な種類の航空機とミサイル」が飛び交い、「宇宙とサイバースペース」においても実施される中国への「米軍の非核攻撃は広範囲に及ぶ可能性がある」と指摘。さらに「長く厳しい戦争は中国経済を荒廃させ、苦労して得た経済発展を失速させて、広範囲にわたる困難と混乱を引き起こす可能性がある」(注12)とも記述されている。
ここでいう「可能性」とはむしろ米軍が設定した目的と意図を示していると考えているが、『中国との戦争』では必ずしも政治・軍事中枢を狙うのではなく、今日の中国の国際的なパワーの根源である経済力を支える産業地帯の壊滅を優先する意図が色濃くうかがえる。この報告書では戦争で中国のGDPが25%~35%縮小すると推計しているが、米国は5%~10%のそれに留まるとし、そうした意図が達成可能と見なしているようだ。2016年という年の重要な「変化」を象徴していようが、同年の米大統領選挙で共和党のドナルド・トランプが当選したことも同様であったろう。
トランプは翌年1月の就任式を待たずに2016年12月、「一つの中国」という建前上ありえなかった台湾総統の蔡と電話で会談するという異例な行動に出る。これについて当時「外交、経済、軍事面で全面的に中国との攻撃的な対立の準備を整えることを意図した計画的で計算された挑発」であり、「『一つの中国』政策を覆す可能性があるとほのめかすことで……中国との衝突の危険を冒している」(注13)という批判があったが、トランプは任期中に次々と対中国関係を悪化させる政策を繰り出し、軍産複合体の「慣性」に忠実であるという事実を如実に示した。以下は、そうした事例の一部だ。
●2018年4月に128品目の米国製品に懲罰関税を発動する「貿易戦争」を開始。同年に中国政府資金による米国ハイテク新興企業への投資を事実上規制する、対米国外国投資委員会の法案に署名した。
●2018年3月に「台湾旅行法」に署名し、1979年の台湾との断交以来途絶えていた米台両政府関係者間のハイレベルの外交的関与を奨励。2020年3月には、米国と台湾の関係範囲を拡大する「台北法」に署名した。
●中国が「主権と管轄権を有する」と主張する台湾海峡で、2018年7月を皮切りに任期中に確認されているだけで22回も「航行の自由作戦」を実施。さらに爆撃機や偵察機も台湾上空で飛行させるなど、一挙に周辺海・空域での軍事的緊張を激化し、それを常態化させた。
だが一方でトランプの任期4年間とバイデン政権発足の2021年に、NEDが台湾に予算を拠出した形跡がない。既述したようにNEDが台湾での活動に「集中」し始めたのは、会長のディモン・ウィルソンが訪台した2022年3月を前後した時期と見られ、同年10月には台北でNEDが事務局を兼務するフロント組織「世界民主主義運動」の第11回世界大会が開催されている。
2023年7月には、NEDと関係が深い「台湾民主基金会」の創立20周年記念式典が蔡も出席して開催されているが、これらの動きは2024年1月の台湾総統選挙が近づいていることと無縁ではないだろう。米国としては引き続き蔡一派の「分離主義者」に権力を維持させることが「平和統一」を阻止し、台湾を「駒」にした中国への軍事挑発と戦争誘導に絶対に不可欠であるからだ。
7月に台北を訪れたNED会長のデイモン・ウイルソン(左)と会見する、副総統で2024年総統選挙の民進党候補者の頼清徳。頼は「台湾独立派」で、すでに総統選では有利に立っているとされる。
戦争に踏み出したバイデンとNEDの課題
だがNEDによる台湾への今日の「集中」は総統選挙だけで説明するのが困難で、トランプですら踏み込めなかった新たな戦争誘導策が、バイデン政権になって登場したことと関連している。その策とは、長年米国が堅持してきた「戦略的曖昧性」の放棄だ。
バイデンは就任以降、4回にわたって中国の侵攻があった場合、台湾を「防衛」する旨の発言を繰り返している。これは、40年近く守られてきた「中国が軍事力に訴えた場合、米国政府がどのような反応を示すかについて明らかにしない政策」の放棄であり、「台湾に対する実際の政策を正確に反映している」(注14)のは疑いない。さらに2023年3月9日に開催された上院情報委員会の公聴会で証言に立った国家情報長官のアブリル・ヘインズは、共和党議員から「戦略的曖昧性に関する政権の方針に変化はあったのか」と質問され、「大統領のコメントに基づく我々の立場は中国にとって明らかだと思う」と回答(注15)。「戦略的曖昧性」にもはや拘泥されないという方針を、追認した。
台湾外交部は2022年9月19日、その前日にバイデンがCBSのニュース番組で4回目の「台湾防衛」を言明したことに対し、「米国の台湾に対する確固たる安全保障への取り組みを改めて強調したバイデン大統領に心からの感謝の意を表する」(注16)ともろ手を挙げて歓迎している。「分離主義者」にしてみれば、「台湾の独立」が中国の主張する「レッドライン」を超えるのを意味するのは熟知しており、軽々に宣言できない。だがそれまでと異なって米国が「台湾防衛」を「曖昧性」なく明言したならば、「独立」志向に弾みがつく。バイデン政権は、中国との戦争に向けてルビコンを超えた。「戦略的曖昧性」の放棄と同時に、「一つの中国」政策も同じ運命をたどったと考えられる。
加えてバイデンはこの7月、昨年議会で承認された大統領権限を初めて台湾に適用し、議会を通さず年間10億ドルの軍事供与の第一弾として3億4500万ドルの武器を米軍の備蓄から直接供与した。すでにバイデン政権は数十億ドルの武器を台湾に売却しているが、台湾にとっては「戦略的曖昧性」の破棄を担保するものとして受け止めているのは間違いない。しかもバイデン政権は米国内(ミシガン州)で台湾の軍派遣団の訓練を開始し、今後台湾駐留の米軍訓練部隊も現在の4倍にあたる200人前後まで拡大しようとしている。
一方、NEDや台北に事務所がある傘下のNDI、IRIの活動実態はなかなかうかがい知れないが、これまでの世界各地での動きからして2024年の総統選挙で蔡の後継者であり、自身を「台湾独立のための実用的な労働者」と称し、「ワシントンの北京に対する攻撃的な戦略に即一致するのは疑いない」(注17)であろう民進党の頼清徳を当選させるのが喫緊の任務のはずだ。その次に、台湾の政権と世論を名実ともに「独立志向」に誘導するよう動くだろう。バイデン政権はおそらく最終的に、そして歴代米国政権として初めて台湾に「レッドライン」を超えさせるのを決意し、チベットや香港、ウイグルの工作とは異なって中国の武力行使を引き出すところまで狙っている。そこに、初めてNEDの活動が台湾に「集中」するということの意味があるのではないか。
現時点で2024年の台湾総統選挙と米国大統領選挙は共に予測がつきがたく、進行中のウクライナ戦争の行方も混沌としている以上、米国がいかなる策動によって台湾を「駒」とした中国との戦争を実現しようとしているのか想像するのは困難だ。だがNEDの中国における動きは、米国の戦略転換と今後の出方を反映している。少なくとも彼らは台湾の「民主主義」や人命などよりも、台湾海峡の近未来図を限りなく危険領域に近づけることに関心がある。後は台湾の民衆が、NEDの振りまく「権威主義対民主主義」という虚構の二項対立の図式と情報操作に惑わされることのないよう、祈るしかない。
(注1)June 28, 2020「US Plans to Break Up China: CIA Funding for Terrorists, Narco-trafficking and Proxies」
(注2)米国務省が機密指定を一部解除した、対チベット工作の概要を記している1968年の内部文書「Memorandum for the 303 Committee」(1968年作成。)より。
(注3)『Fact Sheet on the National Endowment for Democracy』
(注4)November 22, 2019「Hong Kong’s opposition unites with Washington hardliners to ‘preserve the US’s own political and economic interests」
(注5)ここでは、ギャレス・ポーターの「US State Department accusation of China ‘genocide’ relied on data abuse and baseless claims by far-right ideologue」を薦めたい。これは洪水のような主流派メディアのフェイクニュースが、独立したジャーナリストによって完全に論破された一つの記念碑的記事といえる。
(注6)March 31, 2021「“Wipe out China!” US-funded Uyghur activists train as gun-toting foot soldiers for empire」
(注7)リンクはこちら
(注8)「図表1:NEDの中国における地域別支援金およびプロジェクト件数(1985-2021年)」
(注9)遠藤「中国政府転覆のためのNED(全米民主主義基金)の中国潜伏推移」より
(注10)July 29, 2021「Behind Obama’s Risky Shift on Taiwan」
(注11)(注と同)。なおこうした米国の対中国政策の転換は、習近平が2014年11月の北京における「アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議」で一帯一路計画を提唱し、さらに2015年7月に中国が「2025年までに製造強国への仲間入りを果たす」と宣言した「中国製造2025」を打ち出したことと無縁ではないだろう。
(注12) https://www.rand.org/pubs/research_reports/RR1140.html
(注13)December 06, 2016「Trump’s Phone Call with Taiwan: A Provocation Against China」
(注14)May 27,2022「Strategic Ambiguity on Taiwan Is Dead 」
(注15)March 11,2023「 US Director of National Intelligence confirms end of “strategic ambiguity” over Taiwan」
(注16)「Regarding comments made by US President Joe Biden during a CBS 60 Minutes interview that US forces would assist Taiwan’s defense in the event of an attack by China, MOFA responds as follows」
(注17)July 19,2023「Taiwanese presidential contender to make provocative US “stop-overs”」
※ウクライナ問題関連の注目サイトのご紹介です。
https://isfweb.org/recommended/page-4879/
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
● ISF主催トーク茶話会:船瀬俊介さんを囲んでのトーク茶話会のご案内
※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内
1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。