【連載】コロナ騒ぎ謎解き物語(寺島隆吉)

第43回 朝日新聞「治療薬 増える選択肢」を考える②:メルク社の、モルヌピラビル宣伝作戦とイベルメクチン攻撃

寺島隆吉

私は前節を次のように結びました。

しかし実を言うと、これまで述べてきた朝日新聞の記事「治療薬増える選択肢」が本当に問題なのは、単にイベルメクチンについて詳しくふれていないという点だけではありません。

この記事で問題なのは、メルク社が開発している「モルヌピラビル」という経口薬について、この記事が異常なスペースを割いて紹介しているという点です。

これがなぜ問題なのかを説明しているとかなり長くなりますし、またもや夕食の時刻が近づいてきましたので、次節に回します。

そこで朝日新聞の記事「治療薬増える選択肢」は、どのように「モルヌピラビル」という経口薬について書いているのかを、次に示します。

先述のとおり、これについて朝日新聞が「異常なスペースを割いて紹介している」ので、引用も少し長くなりますが、お許しください。

 

軽症患者向けの飲み薬は、実用化が見えてきた。厚生労働省は、早ければ年内にも米メルクの「モルヌピラビル」を特例承認して、使えるようにする方針。

軽症の人に使える飲み薬としては、世界初となる見通しだ。診断された段階で処方してもらい、手軽に自宅で服用できれば、重症者を減らせると期待されている。

先行するメルクは、10月1日に日本や米国などでの最終段階の臨床試験(治験)の結果を公表した。重症化リスクのある軽症や中等症の患者が入院したり、死亡したりするのを半減させることができたという。服用は12時間おきに5日間、計10回。

メルクは、食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可(EUA)を申請している。米国での審査が終わり次第、日本にも申請する見込みだ。

(中略)

抗インフルエンザ薬「アビガン」と、抗寄生虫薬「イベルメクチン」は最終段階の治験を続けている。いずれもほかの病気では承認されているが、新型コロナに対する有効性や安全性の評価は定まっていない段階だ。

新型コロナの軽症患者に使える飲み薬は、世界でもまだ登場していない。このため、第1号になる見込みのメルクの飲み薬は世界的に需要が高まることが予想され、政府は必要な量を確保できるように交渉している。

ご覧の通り、 「軽症患者向けの飲み薬は、実用化が見えてきた。厚生労働省は、早ければ年内にも米メルクの『モルヌピラビル』を特例承認して、使えるようにする方針」と書いています。にもかかわらず朝日新聞は、現在、世界各国で使用されているイベルメクチンの詳しい説明については全く言及がありません。

前節でも紹介したように、朝日新聞がイベルメクチンについて書いているのは次の「2文」だけです。

抗インフルエンザ薬「アビガン」と抗寄生虫薬「イベルメクチン」は、最終段階の治験を続けている。いずれもほかの病気では承認されているが、新型コロナに対する有効性や安全性の評価は定まっていない段階だ。

ここでは、イベルメクチンは「最終段階の治験を続けている。いずれもほかの病気では承認されているが、新型コロナに対する有効性や安全性の評価は定まっていない」と書かれているだけです。

このような記述では、イベルメクチンについてよく知らない読者は、次のような誤った認識をもちかねません。

(1)イベルメクチンは最終段階の治験が続けられている。
(2)したがって新型コロナに対する有効性や安全性の評価は定まっていない。
つまり、この記述からは次のような事実を読みとることは不可能です。
(3)イベルメクチンは大村智博士がメルク社と共同開発し、2015年にノーベル生理学医学賞を受賞した治療薬である。
(4)動物の抗寄生虫薬として開発されたイベルメクチンは、人間に対しても有効であることが分かり、WHOの要請でアフリカに無料で提供され、毎年2億人の人々を熱帯病から救ってきた。
(5)しかも年1回飲むことで達成され、また経口薬なので水と一緒に飲むだけでよいので簡便。そのうえ一般の抗生物質と違って耐性菌をつくりださない。このため「奇跡の治療薬」としてWHOから激賞された。
(6)そこで、この「奇跡の治療薬」をコロナ薬として使用してみようと試みた世界各地の現場医師から、次々と治療効果が報告されている。
(7)ところが不思議なことに、WHOはこれをコロナ治療薬として認めようとしない。

もっと不思議なのは、イベルメクチンを大村智博士と一緒に共同開発したはずのメルク社が、 「コロナ薬として有効であるどころか有害事象をつくり出す恐れがある」として、今はイベルメクチン攻撃の先頭に立っている。

WHOという団体は国連の専門機関の一つとはなっているものの、今では資金源を巨大製薬会社やビル・ゲイツ財団などに大きく依存しているため、公共の団体というよりも、すでにビル・ゲイツが所有する一種の私的企業に堕落しつつあることは前著『謎解き物語2』で詳しく説明しました。

しかし問題は「イベルメクチンを大村智博士と一緒に共同開発したはずのメルク社が、なぜ今はイベルメクチン攻撃の先頭に立っているのか」です。

その答えを探しているうちに、デイビッド・シェイム博士(バージニア州ブラックスバーグ公衆衛生局)による次の論考を見つけました。

Merck’s Deadly Vioxx Playbook, Redux: A Debunked Smear Campaign Against Its Competing Drug─the FDA-approved, Nobel prize-honored Ivermectin
「イベルメクチンへの打ち砕かれた中傷戦術:それはメルク社の欠陥薬品バイオックスVioxx販売戦略の完全なる再演だ──FDAが承認しノーベル賞まで受賞したイベルメクチン」( 『翻訳NEWS』2021-09-22)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-673.html

 

バージニア州ブラックスバーグ公衆衛生局デイビッド・E・シェイム博士(David E.Scheim)
https://medicalupdateonline.com/2021/02/ivermectin-dosing-and-distribution-for-mass-treatment/

 

この論考で、シェイム博士は、まず冒頭で、メルク社の性格について次のように結論づけています。(和訳は寺島)。

2021年2月4日、COVID-19治療薬であるモルヌピラビル(molnupiravir)の発売を控えたメルク社は、その新薬の競合薬であるイベルメクチンについて報道発表し、それを中傷した。

メルク社自身は、イベルメクチンを、ヒト用に開発し、1987年にFDAの承認を得て、それ以来
37億回分の投与量のほとんどを安全に世界中に配布してきたにもかかわらず、最近、多くのニュース報道がメルク社のイベルメクチンを取り上げ、 「騙されやすい消費者が『危険な馬の駆虫薬』を使用している」と非難した。

最近では、BBC、ローリングストーン誌、ガーディアン紙、MSNなどが、 「オクラホマ州の病院施設がイベルメクチンの過剰投与で逼迫し、他の救急医療を遅らせている」と報じた。

問題となった病院は、 「イベルメクチンの過剰摂取の事例は一件もなく、その嘘を捏造した医師は2カ月間この病院に勤務していなかった」と述べ、この嘘話を否定した。

アメリカの大手メディアが総力をあげてイベルメクチン攻撃に乗り出したことは、先述のように、 『謎解き物語2』で朝日新聞批判をしたとき、詳しく紹介しました。

そのとき、ビル・ゲイツがどのような手段で欧米のメディアを支配したか、その支配がどれくらい広範囲にわたっているかも、具体的に新聞名や放送局名をあげて説明したので、ここでは割愛させていただきます。

それはともかく、シェイム博士は上記の説明に続けて、メルク社がなぜイベルメクチンを激しく攻撃しているのかについて、さらに次のように説明しています。

イベルメクチンの安全性に関する(これら大手メディアの)偽の警告は、メルク社によるイベルメクチンへの中傷を口写しにしたもので、科学的には無意味である。

イベルメクチンはヒトへの使用がFDA(米国食品医薬品局)から承認されており、その発見は「数百万人の健康と福祉を向上させた」として2015年のノーベル医学賞を受賞しており、 「副作用はほとんどない」 。

イベルメクチンは、分子生物学上の妙により、SARS-CoV-2のスパイクタンパクに結合しており、ウイルスの感染を妨ぐ。だからこそ、COVIDワクチン市場への新規参入によってメルク社が期待する数十億ドルの収益も妨害する。

メルク社が過去におこなった他社製品を中傷し自社製品を防御する手口について、4億1,000万ドルを投じておこなった偽情報キャンペーンを考えてみるだけでよいだろう。

これを読むと、まず第一に次のことが分かります。

「イベルメクチンは、分子生物学上の妙により、SARS-CoV-2のスパイクタンパクに結合し、ウイルスの感染を妨ぐ。だからこそ、COVIDワクチン市場への新規参入によってメルク社が期待する数十億ドルの収益も妨害する」

つまり、イベルメクチンの効果が抜群だからこそ、それが市場で広く使われるようになれば、メルク社の新薬「モルヌピラビル」は出番がなくなります。そしてメルク社が期待する数十億ドル(数千億円)の収益も煙となって消えてしまいます。

しかも、シェイム博士の上の論考を読むと、メルク社は過去にも自社製品=致死性医薬品バイオックスを守るため他社製品を中傷し、そのため4億1,000万ドル(500億円)を投じたことが分かります。

だからこそメルク社はイベルメクチン攻撃に総力をあげなければなりませんでした。

にもかかわらず、この製品は、後述するように、副作用のあまりのひどさで、2004年に発売中止となったのでした。

ところが前節で紹介したように、朝日新聞は、メルク社の新薬「モルヌピラビル」を詳しく説明する一方で、過去にメルク社がおこなった偽情報キャンペーンについては、一言の言及もないのです。

これが、前節で私が「しかし実を言うと、これまで述べてきた朝日新聞の記事『治療薬増える選択肢』が本当に問題なのは、単にイベルメクチンについて詳しくふれていないという点だけではありません」と述べた所以です。

では「自社製品を防御する手口」 「メルク社が4億1,000万ドルを投じておこなった偽情報キャンペーン」とは、どのようなものだったのでしょうか。それをシェイム博士は次のように説明しています。

メルク社は早くからバイオックスVioxxの心臓血管への深刻な悪影響を知っていた。バイオックス使用の結果、13万9,000件もの心臓発作や脳卒中が発生し、そのうち30~40%は致命的なものだった。

メルク社はそのような死亡例を隠しただけでなく、、これらの致命的なリスクを警告した人々を組織的に攻撃した。

それどころかメルク社は、バイオックスVioxxの副作用を警告する人物の一覧表とそれぞれの人物に対して、 「排除せよ」 「無力化せよ」 「信用失墜させろ」などという計画すら作成した。

その計画には、それらの人物に対応するための割り当て人員リストまであった。

メルク社のある幹部は、2001年10月15日、別の幹部にメールを送った。 「私たちは彼らを探し出し、 彼らが住んでいる場所で破滅させる(殺す)必要があるかもしれない」。

 

ご覧の通り、メルク社は恐ろしいことに、 「排除せよ」 「信用失墜させろ」 「無力化(すなわち暗殺)せよ」などという計画までつくっていたのです。

アメリカのCIAが(イスラエルの「モサド」と同じように)暗殺計画をもっていること、それを今でも実行していることはよく知られた事実ですが、なんと私企業まで暗殺計画をもっていたのです。私にとっては実に衝撃的な情報でした。

しかし考えてみれば、1973年9月11日にチリでクーデターが起こされアジェンデ大統領が帰らぬ人となった事件、いわゆる「もうひとつの911事件」も、アメリカの私企業がCIAを使って起こしたものですから、驚くほどのことはないのかもしれません。

(このチリにおけるクーデターについては『肉声でつづる民衆のアメリカ史』明石書店下巻315~319頁に詳しく紹介されています)。

それはともかく、シェイム博士は上記の事実を述べるにあたって、その根拠をひとつひとつ明らかにしています。

それについては、上記の引用でお分かりのように、文の末尾に[25、26]などといった番号を付け、論考の最後に示された参考文献一覧で、その情報源を確認できるようになっています。詳しくは先に示した『翻訳NEWS』の邦訳を参照ください。

ただし、この『翻訳NEWS』では、論考の末尾に付けられた16項目の参照文献しか和訳されていません。が、実は原文では、その後にNOTESが追加されていて、ここには49項目の参照文献(とURL)が列挙されています。

ですからシェイム博士の論拠について、もう少し詳しく知りたいかたは、これもぜひ参照してください。

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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