偽史倭人伝52:アベ暗殺の地政学
メディア批評&事件検証国際――米国の東アジア新冷戦戦略のために
統一教会は「粛清」の対象となった
昨年7月の安倍晋三の「暗殺劇」は60年前のケネディ大統領「暗殺劇」の「オズワルド単独犯行説」のように暗殺前後の状況に不可解な点が多い。
この“不可解”を解き明かす媒介変数として統一教会の存在は重要な意味を持つが、最近露見した「中国による防衛省ハッキングを安倍政権が黙認し続けた」という米国発の告発は、北朝鮮政府“内通”の統一教会に迎合する自民党の「スパイ」的性格に米国政府が強烈な不信を持つことを示している。
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ケネディ暗殺事件を髣髴(ほうふつ)とさせる
疑惑だらけのアベ暗殺事件
奈良市内の駅前で選挙応援の街頭演説をしていた前首相・安倍晋三が、元自衛官の山上徹也容疑者(当時41歳)から至近距離で、自作の“火縄銃”で銃撃されて事実上「即死」したのは、昨年7月8日のことだった。
安倍晋三は、10回も組閣を繰り返し、大叔父(おおをぢ)・佐藤栄作の九回を超えて「歴代最多の組閣回数」記録を作り、しかも2019年11月20日には、憲政史上最長の首相「通算在職日数」を長年誇ってきた桂太郎(2886日)を抜き、「連続在職日数」も2020年8月24日には歴代一位の佐藤栄作(2798日)を抜いて「総理大臣の長期在職記録」を塗り替えた。
十回も衣装替えを繰り返しながら「平成」と「令和」をいで長々と政権をってきた「宰相アベ晋三」が、首相在任中に行なった“国権をする”「トモダチ政治」の腐敗ぶりはともかくとして、すくなくとも日本の憲政史上、抜群の長期政権を構えてきた政治家だったのに、その暗殺の前後の“事件処理”の状況は、あまりにもズサンすぎて世人(せじん)を唖然(あぜん)とさせるものであった。
もっといえば、アベに致命傷を負わせた「銃弾」が検死では発見できなかったのに、“手作り火筒(ひづつ)”を公衆の面前でぶっ放した山上徹也に、あまりにも安直(あんちょく)に「殺人犯」の容疑がかけられて、世間はその出鱈目(でたらめ)な“刑事手続きの進行”に納得してしまっているのが、現状なのだ。
安倍晋三の「暗殺劇」とそっくりな展開をしたのが、今から60年前(1963年)の11月23日にテキサス州ダラス市内でオープンカー行進のさなかに銃殺されたジョン・F(フィッツヂェラルド)・ケネディ(JFK)の「暗殺劇」であった。この大統領銃殺は、リー・ハーヴェイ・オズワルド容疑者の「単独犯行」だと決めつけられて処理された。オズワルド本人が、逮捕収監されていた状態で、警察署内で銃殺されたので「死人に口なし」となったが、生前の彼にはケネディ大統領を暗殺する「動機」が見られず、逮捕後も犯行を強く否認し、自分は「駒」として利用されたと訴えていた。
ケネディの突然の死で、副大統領から大統領に「昇格」したリンドン・B(ベインズ)・ジョンソン(LBJ)は、大統領暗殺調査委員会(ウォーレン委員会)を設置したが、「オズワルド単独犯行説」は数多(あまた)の疑惑と矛盾があって成り立たないにもかかわらず、同委員会は強引に――「オズワルドが単独で暗殺を計画実行した」という説だって、一種の「陰謀説」であるが――この犯行説を通してしまっ 跨(また)執(と)私(ワタクシ)汚(ヲ)た。
実際の「証拠」の検証によって、オズワルドは“人間わざ”では不可能なほど速い間隔で連続射撃を行なっていることや、オズワルドが撃ったとされる弾丸が、あれこれと反射して飛び跳ねながら“一発”で何役もの“仕事”をこなしていることが判明し「魔法の弾丸(マヂック・ビュレット)」とさえ呼ばれてきた。結局、ケネディは、背後の教科書ビルの高所からオズワルドが撃った銃弾を受けただけでは、検死結果を説明できず、前方からも狙撃されたと想定せねばならないわけだが、ウォーレン委員会はこの可能性を葬り去ったのである。
ケネディ暗殺から三十年ちかく経(た)って、1991年にオリバー・ストーン監督の映画『JFK』が公開されて、暗殺にはCIAやマフィアが関与していた「陰謀説」を提起したのが契機となって、翌年に米国議会が『JFK暗殺記録収集法』を制定して、JFK暗殺事件の関連文書を二五年以内に全面公開することが決まった。この法律によれば2018年に「全面公開」されるはずだったが、トランプ大統領は公開を拒んだ。共和党は、民主党ケネディ政権の“敵対政党”であるし、ケネディの前任の共和党アイゼンハワー政権の時代にニクソン副大統領が中心となって対キューバ戦争(自作自演の対米テロ攻撃「北の森(ノースウッヅ)作戦」を口実にキューバを軍事攻撃するというシナリオや、亡命キューバ人部隊によるキューバ侵攻作戦「豚河豚(ピッグズ)湾」侵攻計画)を企(くわだ)て、その実施をケネディ政権時代に強行して大失敗した、という事実経緯があったので、身内の犯行を隠蔽し続けたいと考えても無理はない。
2020年の大統領選でドナルド・トランプが敗退し、民主党のジョー・バイデンが大統領に就(つ)いたので、“ケネディ暗殺関連文書”は当然に全面公開されると誰もが期待していたのだが、今年6月30日の夕刻
――すなわち7月4日の「建国記念日」までの連休の直前――に、バイデンは、関連文書の一部(数1000点)の機密解除の無期延期を決めてしまった。これはケネディ暗殺の真相究明をいまなお続けている研究者やジャーナリストたちを驚愕(きょうがく)させる行為だったのだが、60年前の暗殺事件の当初から、テキサス出身の(つまりテキサス政界の大御所である)ジョンソン副大統領が暗殺計画に関与していたと囁(ささや)かれていたので、民主党が自分たちの恥部を隠し続けたいと望んだとしても不思議ではない。ケネディは生前、秘書に対して「64年の大統領選挙では副大統領候補をジョンソンからノースカロライナ州選出の信頼のおける人物に挿(す)げ替える」と語(かた)っていたことが知られている。ジョンソンはこれを阻止するためにケネディ暗殺に手を貸した、という疑いが濃厚なのだ。
アベ暗殺と統一教会とをつなぐ点と線
アベにむけて至近距離から“自作の火筒”をぶっ放した山上容疑者は、逮捕後に「統一教会によって家庭を破壊された」事実を供述した。それゆえ「統一教会の広告塔」として日本では“最高の地位”を享受して きた安倍晋三にむけて“仇討(あだ・う)ち”を実行した旨(むね)を、供述したと伝えられている。こうして、教祖・文鮮明(ムン・ソンミョン)の死後に団体名を「世界平和統一家庭連合」に“変装”して従来にくらべれば隠密(おんみつ)に活動を続けていた“統一教会”(正式名は「世界基督教統一神霊協会」)に再び世間の疑念が向(む)かい、結果的に、自民党が今もなお、全体として統一教会に侵蝕されている事実が判明するに至っている。
統一教会は元来、全世界に根を張りめぐらした“国際反共組織”であり、中南米などでCIAや現地の右翼テロ組織と結託して活動を続けてきた(詳細は本誌〔=鹿砦社『紙の爆弾』〕昨年〔=2022年〕10月号の「統一教会は《世界極右テロ組織連合》の中核機関である!」を参照)。だから冷戦時代には、日本では“反共プロパガンダ”こそが存在理由(レゾン・ドエトル)だと自任するフジサンケイグループの『産経新聞』が、一般新聞としては唯一、一貫して統一教会の宣伝と代弁を行なっていたし、日本の右翼「愛国」諸団体も、統一教会と“共闘”関係を作りながら『スパイ防止法』制定運動や「改憲」運動を展開してきた。(但(ただ)し、一九八四年に統一教会の機関紙である『世界日報』の編集者が、教会内部で「文鮮明の足元に天皇を拝跪(はいき)させる」などニッポン愛国者にとっては堪(た)えがたい“反日”儀礼が行なわれていることを暴露して、統一教会に対する日本の右翼勢力の態度は“韓国カルトを拒絶する国粋主義派”と“金銭めあてに韓国カルトに靡(なび)く売国右翼派”の二つに割れた。)
ソ連が内部崩壊し、世界地図から消滅して「冷戦」が終わるや、統一教会は教祖の生誕地のある北朝鮮を慕(した)って、独裁者・金日成に接近し、バブル経済時代のニッポンで「霊感商法」によって集金した莫大な金銭で構築してきた統一教会の資産を、北朝鮮に注(つ)ぎ込み始めた。いまや北朝鮮は“無視できぬ核武装国家”になったが、その核武装を経済面で助けたのが、統一教会であったことは否定できない。
狂信的な“反共主義”だった統一教会が、突然に“北朝鮮の庇護者(ひごしゃ)”に変身したので、私は統一教会の節操の無さに唖然としたけれども、自民党の政治家たちは、いまだに“北朝鮮の庇護者”たる統一教会の支援に縋(すが)っており、しかも「スパイ防止法制定」などと叫び続けている。日本の防衛は“日米安保体制”が基調になっており、安倍晋三の祖父である岸信介が“首相生命”をかけて1960年に“改定版・安保条約”を米国と結んだことで、ニッポン防衛のアメリカ依存体質は恒久化した。日米安保体制の下での「スパイ防諜(ぼうちょう)」は、1990年以後も「冷戦」が終わっていない東アジアにおいては、米国の仮想敵国である“共産中国”と北朝鮮、それにNATOの長期にわたる挑発政策によって“ユーラシア民族主義”を強めたロシアということになるから、北朝鮮と“内通”した統一教会は米国が駆逐(くちく)すべき“第五列”の「スパイ」集団だということになる。つまり統一教会に“汚染”された自民党の政治家たちは、日米安保体制によって共有可能となる“アメリカ側の軍事機密”にアクセスできる道理はない、ということだ。
韓国の前政権(文在寅(ムン・ジェイン)「共に民主党(トブロ・ミンジュタン)」政権)は“反米・反日”の姿勢をことさらに強調して韓国ナショナリズムを煽(あお)ってきたので、アベ政権ニッポンとの外交関係は刺々(とげとげ)しく、おそらく1965年に日韓国交が「正常化」して以来、それから20年あまり続いた軍事独裁政権の時代を含めても、最も冷え切っていた。これは北朝鮮と“共産中国”を主敵とみなす米国政府にとっては由々しき問題であった。なぜなら、日本および韓国と“一本釣り”の二国間軍事同盟を構えてきた米国にとって、東アジアの“防共の埠頭(ふとう)”たる韓国と、“不沈空母”たる日本が、ケンカをしていては東アジアの地域安全保障が成り立たないからだ。
安倍晋三は、妻・昭恵とともに韓流ドラマのファンであることを公言していたし、祖父の岸信介、「外務大臣」で鳴(な)らした父・安倍晋太郎がいずれも“韓国びいき”であったから、個人的には“韓国大好き人間”だったのかも知れないが、「戦犯サタン国家ニッポンは韓国に対して“原罪”を負っているがゆえに韓国に永久に謝罪と献金を続けるのは当然の義務である」といった類(たぐ)いの“日韓民族憎悪”を煽(あお)ることで“集金”を行なっている統一教会や、それに迎合する《日本会議》その他のカルト的右翼集団の「支持」を得て“自民党総理・総裁”の権力に就いているわけなので、韓国の“反日外交”に対して“目には目を”の攻撃的外交を構えてきた。
米国はオバマ政権時代に「外交の軸足をヨーロッパからアジアに移す」と宣言してアジア太平洋外交へのコミットを一段と強めたが、これを踏襲(とうしゅう)したバイデン政権にとって、“犬猿の仲”の韓国と日本をらせるのは急務の課題となった。韓国は昨(2022)年5月に尹錫悦(ユン・ソンニョル)「国民の力(クンミネ・ヒム)」政権に交替し、同政権は「親米・親日」を掲げて“米韓日”三国同盟の強化を打ち出して、米国の外交方針に直(ただ)ちに従ったわけだが、そうなると米国政府にとっては、日本の“統一教会に汚染”された自民党を“粛清”する必要が出てくるわけである。
つまり“米韓日”三国同盟をまともに機能させるためには、「統一教会の宣伝塔」である自民党のシンボル格の、安倍晋三そのものを“粛清”する必要が出てきた……。これが、アベ晋三が暗殺された直後に、私が仮定した“見立て”であった。
筑波大学で喧嘩を学び、新聞記者や雑誌編集者を経て翻訳・ジャーナリズムに携わる。著書『もうひとつの憲法読本―新たな自由民権のために』等多数。