偽史倭人伝52:アベ暗殺の地政学

佐藤雅彦

“共産中国”による防衛省ハッキングを
容認しつづけてきた自民党政府の“裏切り”

8月18日の午前11時半(米国時間)から米国のキャンプ・デイヴィドで、バイデン大統領と岸田文雄首相と尹錫悦大統領の三者による「日米韓首脳会合」が行なわれ、極東における“三国同盟”の結束が確認された。安倍晋三が暗殺されたのは一年前の7月8日の午前11時半であるから、安倍の“粛清”的な死からちょうど後の、この時刻に、米国バイデン政権の米日韓“再結束”ができたというわけだ。
この“三首脳会談”の十日ほど前に『ワシントン・ポスト』紙(2023年8月7日付)が、米国“国防当局”からのリークをネタ元にしたと思(おぼ)しき衝撃的な記事を出した。それは「中国が日本の機密防衛ネットワークをハッキングしていたと、複数の政府高官が語る」と題する記事だったが、報道内容は概(おおむ)ね次のようなものだった――

 

《2020年の秋にNSA(国家安全保障局)が、驚くべき発見をした。それは東アジアにおける米国の最も重要な戦略的同盟国ニッポンの機密防衛ネットワークの最も機密性の高いコンピュータに、中共“人民解放軍”のサイバースパイが深く永続的に侵入して、防衛計画・防衛能力・軍事的欠陥の評価など、手に入るあらゆるものを盗んでいる様子だったのである。

これは非常に憂慮すべき危機だったので、NSAおよび米国サイバー軍の長官だったポール・ナカソネ大将と、当時の国家安全保障担当・大統領補佐官マシュー・ポッティンジャーが至急、東京に派遣され、日本の防衛大臣に状況を説明した。
〔注記――当時の防衛大臣は岸信夫で、彼は菅義偉(すが・よしひで)内閣、第1次および第2次岸田内閣(2020年9月16日〜22年8月10日)に防衛大臣を務めた。〕

防衛大臣は大きな懸念(けねん)を表明し、自(みづか)ら首相に警告するよう手配した。ナカソネ大将とポッティンジャー補佐官は、この中共による対日ハッキングは日本の歴史上もっとも被害甚大なハッキングになったと語った。日本人は驚いたが、検討する意向を示したので、米国から派遣された二人は、「本当に自分たちの主張を理解した」と安心して帰国した。

その後しばらくはトランプ政権からバイデン政権への移行期で、国防関係者も政権引き継ぎやロシアからの対米ハッキングの問題などに忙殺され、日本の問題に対処する余裕はなく、「日本政府のことだから、きっと上手に問題解決してくれているだろう」と安心しきっていた。

ところが2021年初頭にバイデン政権が自分たちの忙殺から解放されて、日本の状況を評価するだけの余裕が出来ると、人民解放軍のハッカーは依然として日本の機密防衛ネットワークに潜(ひそ)んでいて、問題がますます悪化していることが判(わか)った。それ以降、米軍の監視の下で、日本政府はネットワークセキュリティを強化し、今後五年間でサイバーセキュリティ予算を10倍に増やし、軍のサイバーセキュリティ部隊を4倍の4000人に増員することが決まった。

バイデン政権は、トランプ政権時代から激烈化したロシアおよび共産中国からのサイバー攻撃やハッキングによる“政府情報どろぼう”に対処するため、非常なる危機感を募らせながら全力を挙げて対策を講じ、その一環としてサイバー軍が同盟国ニッポン政府に、ネットワーク侵入被害の“索敵(さくてき)と殲滅(せんめつ)”を行なうための“サイバー捜査”支援チームを派遣した。このサイバー索敵殲滅(さくてきせんめつ)チームは、すでにウクライナ、北マケドニア、リトアニアなどで現地政府の“サイバー防衛戦争”を支援してきた実績がある。ところが日本政府は、自分たちのネットワークに“外国の軍隊”が参加することに不快感を抱いた。

結局、日米両政府は細(ささ)やかな“妥協”に達した。つまり日本側は国内の営利企業に「ネットワーク脆弱性(ぜいじゃくせい)の評価」を行なわせ、米国側のNSAとサイバー軍の合同チームが、その結果を検討して改善点を指導する、という“方策”だった。ホワイトハウスの国家安全保障スタッフと、日本政府の国家安全保障会議は、以来、定期的な技術交流やビデオ会議を行なってきた。

ところが2021年秋に、米国政府は、共産中国による日本の防衛システム侵害の深刻さと、日本政府自身による防衛システムの“防疫封鎖”があまり進展していないことを、あらためて知ることとなった。それで同年11月、日本がまだパンデミック封鎖下だったのに、国家安全保障担当の大統領副補佐官アン・ニューバーガーおよび数名のスタッフが敢(あ)えて東京に乗り込んで、日本の軍・諜報機関・外交当局のトップと面談し、対策を急(せ)かした。》

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この報道があった直後の八月八日(日本時間)の午前中に、浜田靖一防衛大臣が記者会見で「サイバー攻撃で防衛省が保有する秘密情報が漏えいした事実は確認していない。サイバー防御は日米同盟の維持・強化の基盤で、引き続きしっかり取り組んでいきたい」と述べたが、『ワシントン・ポスト』紙が報道した“日本政府の怠慢と無能の事実”については黙して語らなかった。この防衛大臣の発言を受けて、同日付けの《ラジオ・フリーアジア》は「中国の対日“軍事ハッキング”に関する米国の報道を、日本政府が軽視(ダウンプレイ)した」と題する記事を報じたが、この大見出しにつづく小見出しは、こう書かれている――「ハッキング行為は“根深く”“執拗(しつよう)”であり、米軍基地を抱える東アジアの同盟国を危険にさらしていると評されている。」

 

つまり“共産中国”人民解放軍によると思(おぼ)しき日本の機密軍事ネットワークへのハッキングは、安倍政権の時代から密(ひそ)かに続いており、菅義偉政権のときに米国NSAが“発見”して日本政府に警告したが、岸田政権になっても対策が遅々として進んでいなかったわけで、「日米軍事同盟」を結ぶ米国からみれば、同盟相手の日本の政府は、仮想敵国に軍事上を垂れ流すサボタージュを続けていたわけだ。

日本列島は「不沈空母」どころか、米国にとっては「盗聴器がついた小部屋」みたいなもので、こんなところに軍事基地を置いておくわけにはいかない。自民党政府は、究極の「反米・反基地闘争」をトボケ面(づら)で続けていた……ということにもなる。

この軍事サボタージュの主は、岸信介の孫で、安倍晋太郎の息子で、安倍晋三の実弟である、岸信夫だったわけだ。安倍晋三が総理を辞めたのち、岸信夫は、後継の菅義偉内閣と岸文雄内閣で防衛大臣を務め、安倍が暗殺された翌月には「国家安全保障」担当の首相補佐官に就(つ)いたが、今年2月に「体調不良」を理由に議員を辞めて、息子の信千代(のぶちよ)が“アベい選挙”に出て当選した。岸信夫が防衛関係の政府高官で居続ければ、米国政府からこのサボタージュの責任を問われるのは時間の問題であっただろう。それは場合によっては“粛清”という形をとる可能性もあった。

中南米での“反共”秘密戦争への
統一教会の関与と、その“傷跡”

8月12日付の『ブラジル日報』に「南米麻薬密売組織が違法滑走路=パラグアイの旧統一教会“楽園”に」と題する記事が出た。南米パラグアイの北部のチャコ地域は、麻薬密売を行う国際的犯罪組織“コカイン・カルテル”による支配が拡大しつつあり、統一教会の麻薬密売への関与が疑われている。それというのも、1990年代初めに文鮮明がこの地域に目をつけて「地上の楽園」を作るという名目で2000年に約60万ヘクタールの土地を2200万ドルで買い占めて“パラグアイ最大の地主”の一人になっていたのだが、この大森林地域は近年ではコカ葉栽培が「合法化」されているアンデス地域から、欧州市場に麻薬を密輸する犯罪者たちの主要な物流拠点となっており、昨年7月6日に地元警察の麻薬取締り部隊がチャコ地域に踏み込んで「麻薬輸送に関与する」と見られる滑走路5本を破壊する作戦を実施して、その位置を再確認したところ、そのうちの4本の滑走路が統一教会の所有地内にあったことが判明したからである。現地の統一教会は当然、麻薬ビジネス関与疑惑を否定して「捜査に協力」しているというが、真相究明が求められる。

2023年8月12日付け『ブラジル日報』の、ネタ元となった8月10日付け『CNNブラジル』の記事。 大見出しは、「ムーン尊師のパラグアイの“楽園”を支配しているコカイン・カルテル」。 その下の小見出しは。「同国北部のチャコは近年、アンデス諸国から、ヨーロッパで成長し続ける麻薬市場にコカインを密輸する犯罪者たちの主要な物流拠点のひとつに変貌した」と記されている。

 

ところで米国、とくに西部のカリフォルニア州のロサンジェルスでは、《マラ・サルバトルチャ(MaraSalvatrucha)》と名乗る大規模なギャング集団が、社会問題になっている。これは台湾(中華民国)の軍と政府当局が軍事訓練を施し、統一教会が金銭・物資やイデオロギー(反共の神学)を提供することで反共ゲリラのテロリズム戦争が残虐を極めた「エルサルバドル内戦」をって米国に流入したエルサルバドル難民や、政情不安のグアテマラから逃(のが)れてきた難民の末裔(まつえい)の、若者たちが中心のギャング集団なのだが、元々は、移民先での他の“民族”との暴力的抗争から「自衛」する目的で組織され、発展してきた「自警団」の成れの果てである。今では麻薬密輸・闇市場(ブラックマーケット)での銃の不法販売・不法入国・殺人の請負・窃盗など、“ギャングの犯罪的な生業(なりわい)”のすべてを組織的に行なうだけでなく、警察や行政当局を暴力的に挑発して「戦闘」も構(かま)え、その組織も米国やエルサルバドルだけでなく、メキシコ・ホンジュラス・グアテマラ・ベリーズ・パナマや、さらにスペインなどにまで及んでいる。トランプ大統領は「マラ・サルバトルチャの米国流入を阻止する」ことを、「メキシコ国境の壁」を建(た)てる理由として言挙(ことあ)げしていた。このギャング集団もまた、統一教会が中南米に政情不安を持ち込んだことで、期せずして“産婆(さんば)役”を担って、生まれたわけである。

「縁起」すなわち「因縁生起」は仏教の根本思想であるが、現代風にいえば「開放系のシステム思考」である。ある方向に行為(アクション)を起こせば、予想もしない波及効果が、予想外の場所に生じる。“冷戦時代の遺物”である統一教会が、いまや日米関係やニッポン国家の根本を殺(あや)めかねない“病毒(ウイルス)”になっている。この“病毒”に縋(すが)り続ければ、予期せぬ惨害が日本に降りかかるのは、必然なのである。

【参考文献】
1『インサイド・ザ・リーグ:世界をおおうテロ・ネットワーク』(ジョン・リー・アンダーソン&スコット・アンダーソン著、山川暁夫監修・近藤和子訳、社会思想社、1987年)、
2『INSIDE THE LEAGUE:The Dhocking Expose of How Terrorists,NAZIS,and Latin American Death Squads Have Infiltrated The World Anti-Communist League』
(1の原著:Scott Anderson & Jon Lee Anderson, Dodd Mead & Company,Inc.(NY),1986)

(月刊「紙の爆弾」2023年10月号より)

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佐藤雅彦 佐藤雅彦

筑波大学で喧嘩を学び、新聞記者や雑誌編集者を経て翻訳・ジャーナリズムに携わる。著書『もうひとつの憲法読本―新たな自由民権のために』等多数。

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