犠牲者はだれだ? ナクバを不問にする欧米「国際社会」、繰り返すイスラエル(下)
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そもそもイルグンのキング・デイヴィッド・ホテル爆破事件(1946 年 7 月 22 日)か ら続くナクバのように、シオニズムは当初から人種主義とテロリズムを武器としながら、 1967 年の第三次中東戦争「六日戦争」で一挙に植民国家イスラエルを拡大した。1972 年には、日本人も関与したテルアビブ空港リッダ闘争があり、4 か月後ミュンヘン・オ リンピックのイスラエル選手村人質事件が起きた。これを機に、イスラエル・シオニス トは逆手を取ってあらゆる反占領抵抗運動をテロリズムと名指しするようになった。さ らに、1982 年のサブラー・シャティーラの虐殺で民衆蜂起が燃え盛り、第一次インテ ィファーダがひろく展開するなかで、1987 年全パレスチナの解放をめざすハマスが誕 生するのである。ついに 9・11 で、アメリカ・イスラエルの国家テロリズムが「対テロ 戦争」と定式化された。
対テロ戦の渦中、今回もイスラエルは国家の「威信」を賭けて反撃「報復」するであ ろう。抵抗権であろうと、テロに対しては国家の「自衛権」が認められているからだ。 国家の「威信」は、アメリカも日本もどの国も、人の命に勝る。だから、イスラエルは 「やりたい放題」をやってきた。ハマスをテロ組織と名指して何万人の人間を殺害する ことは許されない。ところが、ハマスをテロ組織と指定(2006)することによってこそ、「国家の威信」は全パレスチナの抵抗運動を弾圧する口実に出来るのである。
こうしたイスラエルの膨張主義を駆動する宗教的欲動、あるいは世俗的な人種差別と 民族浄化のすべてを回収・正当化して突き進むナショナリズムの問題を、国連と国際社 会はどのように「解決」するのであろうか。これまでの歴史のように際限のない軍事的 パワーゲームでは見通しがない。軍事同盟を背景とした「戦争」あるいは「代理戦争」 に至らないよう、あらかじめ人権理事会の是正勧告に強制力をもたせたり普遍的な是正 措置を編み出さなければならない。2014 年のマイダーン・クーデターから始まるドン バス攻撃に端を発するロシア侵攻のウクライナ戦争も(これは、はじめから「米代理戦 争」の様相だが)、もはや安保理を中心に軍事同盟の駆け引きで解決できる問題ではな い。各国内部と国際間に、どうしたら正義と公正を貫くことが出来るか、人類は崖っぷ ちに立たされている。国家の病をどうするか?
千歳アイヌに中本むつ子さん(1928~2011)というアイヌ伝承者がいた。アイヌ語 教室も始めていた彼女の晩年亡くなる 3 年前の 2008 年に、ナクバを彷彿とさせる話を ご自宅で偶然聴かせてもらった。パレスチナのナクバのことなど知らない彼女が、「む かしね、この千歳川から石狩川まで何十軒ものチセ(アイヌの家)がいっせいに焼かれ たの…。」おそらくこれは彼女自身が直接見たのではなく、時代的に圧縮された情景を 伝承として古老から聴いたものであろう。しかし、「滅びゆく民」「旧土人」と貶めたア イヌ民族へのジェノサイドその後の同化政策から今日に至る偏見差別をいまだに日本 人と日本国は謝罪をしない。
日清戦争開戦前の甲午農民戦争からはじまるコリアン・ジェノサイドは、1919 年の 三一独立運動で、さらに 1923 年、100 年前の関東大震災で朝鮮人虐殺が猖獗を極めた。 この明白な国家犯罪と民衆犯罪を、いまだに日本国家は謝罪も調査もせず政権も知らん ふりだ。そして在日朝鮮人の学校を差別して平然としている。
ポツダム宣言受諾で命拾いした天皇ヒロヒトは、1947 年にマッカーサーに「沖縄無 期限貸与」を具申した。なによりも中国革命を恐れていたようだ。米軍基地で悲鳴をあ げているその沖縄はいま、辺野古基地はいらないという県民の願いを最高裁が却下し、 米国の尻馬に乗って「台湾有事は日米有事」(安部元首相 2021)という自公政権の南西 諸島ミサイル基地化を着々と進めている。日本国によってさんざん犠牲になった沖縄の 「命どう宝」を無視するヤマトンチューによって、ふたたび戦争の前線に立たされそう としている。いや、ふたたび戦争の犠牲者に晒されそうだ。
7 世紀ヤマト政権以来の植民地主義・軍国主義・人種主義は、神社・天皇などという 「誤魔化し」の象徴とともに、つねに「歴史を誤魔化す」日本人の夜郎自大な根性に深 く根付いて、いまや「さもしい」政治が上から下までいたるところに蔓延っている。
このように、人間の尊厳と人権、正義と公正の課題は、各国家固有の宿題を抱えてい る。「あきらめた」大勢の人々はカナリヤの悲鳴を聴こうとしない。「あきらめた」人々 は、抵抗する人々を理解できないし共感しようとしない。だから現実は、「あきらめ」 に抵抗する人々は犠牲者のまま打ち捨てられる。黙って殺されるか闘って死ぬか、どち らかしかないパレスチナ人…。「戦争が人類を終わらせるか、人類が戦争を終わらせる か」(アスカ・パーク)
イスラエルは恒常的なホロコーストを 75 年間実践してきた。もはや絶え間のない好 戦的な暴力に生きるイスラエルが自らの変革を望めない以上、そして欧米側と世界メデ ィアのイスラエル支援が変わらない以上、パレスチナ問題に立ち戻るとコーヘンの提案 が思い浮かぶ。ホロコースト・サバイバーであるピーター・コーヘンは、ユダヤ系オラ ンダ人で元アムステルダム大学社会学教授である。彼は次のような分析をしたあと、パ レスチナ問題の「出口」戦略を提言する。
「パレスチナで起きているのは、いうまでもなく、古典的な欧米植民地主義なのであ り、それは優越した軍事的・経済的手段と占領の強制とによってのみ維持されるのであ る。…今やありのまま歯に衣着せず語るべきときだ。つまり、植民地としてのイスラエ ルは暴力と紛争の恒常的な源泉である。それは中東のなかで欧米の軍事占領下にある一 地域だ。…イスラエルの政策はつねに既成事実を創造し続けてきた。すなわち露骨な征 服であり、それはヨーロッパと北米の「欧米」を構成する諸国からの持続的援助により 強化されてきた。」
「植民地イスラエルは存在を続けることができないし、そこで、もう一つのパレスチ ナと存在の持続を「分かち合う」こともできない、のである。パレスチナ人は植民地主 義の占領者から完全に解放される権利をもつべきである。「パレスチナ人解放」の斬新 で非暴力的な思考が、きわめて重要不可欠だ。」
「もし世界が、これまでと異なる戦略、つまりパレスチナ人の放逐と軍事的服属化と を終わらせる戦略を採用するようになるなら、これは、第二次世界大戦後の欧米政治が それだけでもう取り返しのつかぬほど致命的な過ちを犯した非をはっきりと認めて、そ れを取り消す方向で踏み出す、善き第一歩となるであろう。」このあとイスラエル解体 の「出口」戦略を是非、Peter Cohen『終わることのないパレスチナ紛争の根因:それ をどう正すか』(Huffington Post 2014、板垣雄三訳)で読んでいただきたい。(了)
●イスラエル国家の廃止を呼びかけるP・コーヘン提案をどう読むか
https://www.huffingtonpost.jp/yuzo-itagaki/peter-cohen_b_6139436.html
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パレスチナ連帯・札幌