欧州・ロシア・中国からの直接言論インタビュー
国際今年に入り、コロナも緩和され、又招待も受けて、多くの国に直接行く機会を持った。
つい昨日、中国の2週間訪問から帰ってきた。
ひとつは一帯一路、もう一つは、日中平和友好条約45周年、さらには中国で現在デジタルで収集している、第2次世界大戦での日本軍の中国における数々の蛮行の博物館が、北京、天津、南京に作られている。それらを見ることによって人々が平和を考える礎になるとよい。くしくも中国にいる間に、ハマスの攻撃と、イスラエルのそれに対する北部ガザ地区の絶滅戦争ともいうべき膨大な報復が始まった。戦争はアジアから止めなければならない。
二〇二二年八月には、ポーランドのポズナンで国際歴史学会があった。その時ポーランドはロシア研究者にビザを出さず、ロシア人は一人も来られなかった。他方、ウクライナの女性たちが街に溢れていたが、彼らの多くはウクライナに戻りたいと嘆いていた。
今年は一月にアメリカの国連本部でウクライナ問題を議論。二月にはタイで世界二七大学によるEUのインド太平洋戦略についての議論。続いてインドでの平和会議に招聘されて基調講演をおこない、カナダ・モントリオールでのISA(世界国際関係学会)の国際会議に参加した。
六月にはハンガリーでウクライナ停戦を要求する平和会議、七月にタイで世界のアジア研究者が集合したユーラシア会議があり、八月には早稲田大学に米欧・アジア・ラテンアメリカなど世界中から研究者が集まった。そこでは六〇〇人の報告者が「アジアの平和と発展の役割」を掲げて報告し、数十カ国の人たちと平和と繁栄について歓談した。
ポーランドの会議と異なり、東京大会ではロシア人にも中国人にも積極的にビザ発行を支援し、多くのロシア人、ウクライナ人、中国人が自由に参加することができ相互に交流した。いま世界が二極に分かれつつあるとき、アカデミーとしてはこのような多面的客観的分析こそ必要なのだろうと確信する。
八月には、改めてニューヨークの国連に赴いたが、二月に比べて国連は後退した印象を持った。二月には“ロシアとウクライナ双方に問題があり、ファクツ(事実)を検討している”と言っていたが、八月には“アメリカが戦争継続と言っている以上停戦はない”と、近年の市民の要請とは逆の発言をされたことに絶望した。
その後、韓国ソウルで東アジア共同体会議がおこなわれ、私は名誉なことに基調講演を韓国の東アジア共同体財団の会長と共におこなった。報告は大変評価されて、改めて韓国に十一月、十二月にも招聘されることとなった。
九月中旬は、四日間で実に三二時間に及ぶロシア知識人の率直な意見と質疑を行った。
興味深かったのは、ロシア知識人が、きわめて冷静でリーズナブルな分析をしていたこと、経済統計学者が、二千二十三年のロシア経済は上向き順調に回復しつつあると述べたことだ。ロシア知識人の水準の高さを改めて敬服させられた。
元NHK、日経、毎日新聞などの大手メディアのOBノ方々のご尽力と、日本トップレベルのロシア研究者たち、ロシア知識人の身を賭しての率直な意見交換に感謝する。
さらに、一〇月には、中国の共産党対外局と日中平和友好条約四五周年での講演を行った。中国の一帯一路の会合には、150カ国の加盟、140カ国の参加、30関係団体の参加、と、空前の参加者たちが北京に立ち寄り、中国の影響力の大きさを見せつけた。
一一月には釜山での共同歴史教科書の会合、および一二月には改めて今一度韓国ソウルでの東アジア会合に招聘されている。
実にのべ一〇カ国、アメリカとタイ、韓国には三度、中国には二度、早稲田の国際会議での交流を合わせるとおそらく数十カ国の人々と話したことになる。
とりわけ中国での抗日戦線のデジタル博物館には強く印象付けられた。当時の日本軍の蛮行の生々しい記述が、デジタルとインターネットを通じて、広くおそらく全国に届けられ、日本のモナ・リザの美術館さながら、大量の人たちが押し合いしながら日本人の蛮行をデジタルで記憶していくのを見るのは残酷であり、日本の一員として恥ずかしかった。
また、国内では、ありがたいことに、メディアが一斉にロシア批判・中国批判をする中、沖縄をはじめ横浜、神奈川、石川、福岡、四国など、全国の平和団体や自治体、大学に招かれて、市民や地域の研究者と、戦争の停止平和の維持、産業の羽って、で交流することができた。
国内ではこの一年間、安保三文書改定、2+2(日米安全保障協議員会)、日米首脳会談の中で、防衛費二倍化、ミサイル・戦闘機の購入と沖縄をはじめ日本全国へのミサイル配備、さらに自衛隊基地に地下司令部までつくる計画が急ピッチで進みつつある。
何のために急いで軍事化を進めるのか?
背景には、中国の急速な経済成長がある。
今回、中国に出かけて、さまざまな経済シンクタンクの予想通り、いや予想以上に、アメリカが中国に急速に追い抜かされることが現実味を増してきている。
あらゆる領域におけるデジタル、スマホ決済と現金不要、若者たちの著しい勉学要求、などがいずれも、日本との差日本の遅れを痛切に感じている。
日本のものづくりが、次々と韓国に抜かされ、中国に抜かされるなか、とりわけ著しいのが日本の若者の無気力と、社会保障の大幅な衰退だ。
こうした中、アメリカと日本は、あらゆる手段を使って中国への圧力を強め、中国の「資本主義的成功」を押しとどめようとしている。
そのなかで日本は、ミサイル数百基を中国に向けて配備しようとしている。
ミサイル配備と地下司令塔建設が、県民の反対によって行き詰っている中、沖縄では「沖縄を平和のハブに!」の動きが広がっている。同様に各県の平和団体からは、つぎつぎと講演の依頼が来ている。
丁度中国にいるときに、ハマスの攻撃とイスラエル軍による一斉反撃が始まった。
これら国内外での直接交流のなかで明らかになりつつある重要なポイントについてのべておきたい。
これら多くの人たちとの話し合いにおいて思うことは、学者は「ミネルヴァのフクロウ」ではなく、世界と歴史の大きなうねりを先取り・予見しているということだ。それはほとんどの場合、その国の政府と異なった見解である。だからこそ政府とマスコミに疎んじられる。しかし、私たちが訴えてきた即時停戦の動きもそうだが、一、二年後の現実は、透徹した視点を持つ学者たちの発言の通りになる。故にそれを伝えることは極めて意義があると思っている。
そこから抽出した重要な事実として、三つの点について説明したい。
一つは、米欧の力は「資本主義」と「民主主義」という米欧秩序の根幹において衰退しつつあることだ。そしてそれは、「新国際秩序」にとってかわられつつある。そのアクターの主人公は「グローバルサウス」と呼ばれる二〇世紀の貧しかった国々、アジア・アフリカ・ラテンアメリカの第三世界、冷戦期の非同盟の国々である。
いまやアメリカは、経済においても、政治においても、最強ではない。
だからこそ、今唯一世界最強である軍事力と情報収集力(諜報活動)になりふり構わず頼ろうとしている。
しかし、そうすればするほど、アメリカ国民そのものが、政府に不信を持って離れていっていることも事実だ。トランプは嫌いだが、不思議なことに彼が逮捕され起訴されるたびに人気が高まる。はめられた動きであると国民が政府を疑り始めている。バイデンは二期目の大統領選に勝利するかはわからない。勝利しても長くは持たないのではないだろうか。だが、中国を追い落とすことでアメリカの覇権を維持することはできない。むしろそのように衰退するアメリカの威信を無理矢理維持しようと焦る姿を世界に見せつけているように見える。
二つ目は、グローバルサウスの興隆だ。アメリカに代わって登場してきた新興国の中国・インドは、当初は独自の価値を持たなかった。むしろアメリカとともに成長することを望んでいた。
しかしロシア・ウクライナ戦争が始まり、反ロシアのプロパガンダが一年半にわたって行われ、調停しようとする中国を無視するばかりか、敵国として排除し続ける動きのなかで、中国もインドもアメリカと欧州を自国の利害に即さないと見限りつつあるように思える。
彼らはいまやはっきりと「平和、経済力、周辺国との地域協力」という「新国際秩序」を、アメリカを反面教師として、みずから形作りつつある。そしてアメリカが作った国連の多数決をまやかしと感じ、今回のようにバイデンとゼレンスキーだけが主役を務め、「長く大きな」拍手(『朝日新聞』)を求める国連総会には欠席することを選びつつある。
一九世紀、二〇世紀においてアジア・アフリカ・ラテンアメリカを植民地として富を収奪した欧米が、ふたたび露骨に自分たちだけの利害を追求し、新興国の独自の利害を尊重せず、かれらを国連の投票マシーンとしてのみ利用しようとするなか、アメリカが作った国連(それもニューヨーク)に集うことが「国際社会」とは考えられず、これらの国々は、BRICS、G⒛、「グローバルサウス」として独自の動きをし始めている。
アメリカがウクライナ戦争に加担して、武器と資金の供与をし続け、ロシアと中国排除を求め続ける限り、アジア・アフリカ・ラテンアメリカはアメリカから離れていくであろう。ロシアや中国がエネルギー、資金、開発分野での協力に力を入れるなかで米欧は何をしてくれたのだろうか、植民地化しただけではないか、今でもこれらの国々を対等な国、対等な人々とみなしていないのではないか、と。
三つ目は、戦争である。それはひたひたと、そしてはっきりと東アジアに差し迫ってきている。
米英はウクライナへの武器供与を続け、とりわけ東ウクライナのロシア占領地域を攻撃するために、劣化ウラン弾とクラスター爆弾の双方を供与し、ウクライナ政府がこれを使用している。
劣化ウラン弾、クラスター爆弾は、いずれも国際的に使用が禁じられている化学毒物兵器であり、戦争後もその地域の住民と環境に大きな被害を及ぼすと指摘されている。ウクライナ政府が積極的にウクライナ東部に向けて使用していること自体、「東ウクライナの住民を助けるため」ではないことが明らかだ。
さらに、ウクライナ東部のロシア占領地やクリミア、およびウクライナ国境を越えたロシア領内にミサイルを次々に打ち込むことで、ロシア軍に、ウクライナとその周辺で核兵器を使うように挑発している。
二〇二二年二月、「ロシア軍が侵攻する、侵攻する」と挑発して最終的に侵攻が実現したのと同様に、「ロシアが核兵器を使う、使う」と言いつつ、自分たちが劣化ウラン弾やクラスター爆弾、さらにミサイル攻撃で挑発することは、ロシアに「核を使って反撃しろ」と呼び掛けているに等しい。しかし一旦ロシアが核を使えば、一斉にNATOからもロシアに向けて戦術核が発射されることは目に見えている。
核兵器挑発ゲームが現実になりつつあることである。戦争が怖いのは、ふとした拍子に飛び火し、そして始まったら止められなくなることだ。
ロシアの知識人の多くもこの戦争は長期戦にならざるを得ないこと、ロシアの勝利に至らなければ核戦争が始まることを憂う知識人が多かった。
今うねりのように、日中韓の相互不信が国民の間で高まっている。福島原発の汚染水放出問題は、日本国民のほとんども疑問に思い心配していることであるのに、中国の海産物輸入禁止に至ると「挑発だ」と中国批判を一挙に高めている。
米中対立が日中戦争に至ることを何としても避けなければならない。アメリカはみずから中国とは戦争しようとしていない。ロシアとも同様だ。自国の軍隊の代わりに、欧州ではウクライナ政府と軍隊に、アジアでは、台湾・沖縄・日本政府と自衛隊に、中国との戦争を担わせようとしている。
アメリカは二〇世紀における二つの世界大戦で、戦争の当事者になっていない。なろうとしなかった。戦争の主役にならず、戦後の「新国際秩序」を提案し、第一次世界大戦後は国際連盟、第二次世界大戦後は国際連合を創設することで、平和秩序の構築国として、世界の指導国になった。
戦争は常に欧州と東アジアで起こされた。それを繰り返そうとしている。アメリカは、第三次世界大戦を、より小さな規模で構想し、欧州ではウクライナとロシア、東アジアでは、うまくいけば台湾・沖縄と中国、さらにうまくいけば日本列島と中国・北朝鮮・ロシアという、東アジア・極東で戦争の火種が燃え上がることを期待している。
アメリカの代理戦争として、沖縄・九州や台湾が中国にミサイルで対峙することを止めるためには、非常に難しいことではあるが、まずは可能な限り早期に、一刻も早くウクライナ戦争を止めなければならない。
ウクライナ戦争が続く限り、東アジアという大きな薪の下の火種がくすぶり続け、燃え盛り始め、なにか小さな事件が勃発すると、そこに飛び火してあっという間に沖縄から日本全国が戦争下に入る準備が着々と進んでいるからだ。
これに気づいていながら反対が言えないのは、戦争に反対し、停戦を訴えるような人々を排除するシステムが機能しているからだ。それはとても恐ろしいことだ。
平和を望む知識人、市民の一人として、平和と停戦を訴える人々を排除し攻撃する「リベラル」を含む人たちには、何が真実なのかを見極め、中国やロシア、あるいはASEAN、あるいは国内の沖縄の人たちでもよいから、できるだけ政府や大手メディアと違う意見の人たちの声にも耳を傾けることを望みたい。
まとめ
最後に重要な点として、次のことをもう一度強調しておきたい。
一、米欧の支配する時代はゆっくりと衰退に向かっている。新国際秩序はおそらく、米欧の軍事力によってではなく、平和、経済発展、それぞれの国の利害に基づき、地域の協力関係と対話の継続によってつくられていく。
二、それには経済的新興国、「グローバルサウス」が大きな役割を果たすであろう。グローバルサウスは、元防衛大臣森本氏がのべたような「馬鹿にした軽蔑的用語」ではなく、むしろ米欧の既成の秩序を超えた、よりSDGsに近い「誰も取り残さない」という理念に基づいた成長を考えているということ。
三、自分の地域で戦争を起こさないためにも、世界中で起こっている戦争の火種を可能な限り消していくこと、停戦を望み和平を作っていくこと、そして戦争景気や武器販売、封じ込めや経済封鎖で自国だけの経済回復を求めて新興国に打撃を与えるのではなく、世界の貧しい国々、飢餓やコロナに苦しむ国々を包摂した平和と発展を求めていくべきであるということ。それを多くの人々との対話の中で理解した。
今や、戦争状況及び著しい緊張関係が、ロシア・ウクライナ、パレスチナ・イスラエルで始まっている。
私たちは、世界の人々と、対話に基づいた交流と知見を共有することで、世界の多くの国々において、憎しみではなく対話により戦争を止め、平和を作る努力がなされていることを伝えていきたいと思う。
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博士(国際関係学)、青山学院大学名誉教授、神奈川大学教授、世界国際関係学会アジア太平洋会長、グローバル国際関係研究所 所長、世界国際関係学会 元副会長(2016-17)。