ガザ大虐殺が求める米国像の歴史的検証 ―喫緊の課題としてのジェノサイド再現を許さない国際秩序構築―
国際写真説明:イスラエルによって無残に殺されたガザの子どもたち。その数は現在も増え続けている。
おそらく「正視に耐えない」という表現は、現在のガザで繰り広げられている大虐殺(genocide)の光景ほど当てはまる対象がないだろう。そこではこれまで人類社会に存在する、あるいは存在すべきであると信じられてきた人道や人権、生命の尊重といったもろもろの諸価値がいとも容易に、何の躊躇もなく踏みにじられている。しかも実行者のイスラエルと共犯者の米国に自制を求めるいかなる試みも、可能性は閉ざされたままだ。
そうした光景でも特に耐え難いのは、罪もない子どもたちの無差別殺戮だ。11月7日付のロイターの配信記事では「ハマス支配地区の保健省によると、ガザ地区で少なくとも10,022人が殺害され、その中には子どもたち4,104人が含まれている」(注1)とされ、国連事務総長アントニオ・グテーレスの「ガザは子どもたちの墓場になりつつある。毎日、数百人の少女や少年が殺されたり負傷させられたりしていると伝えられている」との談話と合わせて報じられている。
すでに瓦礫の下敷きになって行方不明になっている子どもたちを含めるとその死者は5,000人を超えている可能性が十分にあり、さらに増大しかねない。仮に生き延びられたとしても、幼い子どもたちが目撃した地獄のような惨状と体験した筆舌に尽くし難い恐怖は、生涯を通じトラウマとなって精神をさいなませることになるだろう。
言うまでもなく、いかなる人倫的、法的基準に照らしても1カ月足らずでこれだけの子どもたちを虐殺するのを正当化するような何かの目的が存在するはずがないし、存在してはならない。だが、気に留めるそぶりすら見せないイスラエルとそれへの全面的軍事援助を惜しまない米国の行為は、もはや軍事や政治では説明がつかない。ただ理性と人間性の崩壊が、彼らの行動を突き動かしているようだ。
そうした崩壊状況の一端は、極右の文化遺産大臣アミチャイ・エリヤフが11月5日に放送されたイスラエルのラジオ番組で、ガザに「原爆を投下するべきか」と質問され、「可能性の一つだ」と回答したことでも示された。これに対し首相のベンジャミン・ネタニヤフは、エリヤフの発言を「現実から乖離している」と批判し、大臣として閣議に出席するのを当面の間ではあるが中止させたという。だが、同時にネタニヤフはこうも述べている。
「イスラエルとイスラエル国防軍は、無関係な人々への危害を防ぐため、最高の国際法の基準に従って行動しており、我々は勝利までそれを継続していく」(注2)
子どもたちや女性を始めとした非戦闘員の無差別殺人だけでは収まらず、病院や救急車、難民キャンプ、さらにはジャーナリストまでも攻撃目標にし、ガザを包囲して食料や水、薬品、燃料を持ち込ませず、電気と通信も遮断しているのがイスラエルだ。どのような精神の持ち主であれば「最高の国際法の基準に従って行動」しているなどと平然と口にすることができるのか。いまさらイスラエルが1950年に批准したはずのジェノサイド禁止条約を持ち出すのも意味は薄いかもしれないが、この発言はイスラエルが米国と同様、戦争犯罪の常習性のみならず「最高の」レベルの偽善も兼ね備えているという事実を証明していよう。
すでに原爆を投下されたに等しい被害状況
だが「原爆投下」が公式に否定されたにせよ、殺戮規模を「原爆投下」がイメージする広島の規模にまでエスカレートしようするイスラエルの衝動が確認できる。数々のスクープで知られる米国のジャーナリストのセイモア・ハーシュが10月18日に発表した記事「バイデンはベンジャミンに何を語ったか」には、次のような記述がある。
「情報アナリストらの評価によれば、ネタニヤフ首相の態度は『ハマスを一掃する』という決意に相当するという。ある知識豊富な当局者は私に、『ガザ市は核兵器が使用されない広島に変わりつつある』と語った」(注3)
また、極右の元イスラエル国会議員モシェ・フィグリンは「ガザの完全な破壊、ドレスデンや広島のように、核兵器を使わず破壊する」のが「問題の唯一の解決策」だと述べている(注4)が、この種の発言はガザの死傷者が増えるのに比例して目立ってきている。
だが現実には、すでにガザは核攻撃を受けたに等しいほど破壊されている。
「軍関係者らは、イスラエルの戦闘機が主に米国が供給した爆弾25,000トンをガザ地区に投下したと推定しており、これは1平方キロメートル当たり70トンの爆発物に相当する」
「軍事専門家らは、広島に投下された核爆弾には1万5000トンの爆発物に匹敵する威力があると述べた。広島の面積は900平方キロメートルだが、ガザ地区全体の面積は360平方キロメートルを超えない。これと比較すると、イスラエルがガザ地区に核爆弾2発に相当するものを投下したことは明らかである」(注5)
事態は、急を告げている。イスラエルは「究極の兵器」とされ、自国が核兵器不拡散条約(NPT)を公然と無視して製造・配備している核兵器を投入しないまでも投入するに等しい、考えられる限りのダメージを逃げ場のないガザの住民に加えようとしているようだ。そして何よりも忘れてならないのは、イスラエルの蛮行は米国の軍事援助によってのみ可能であるという事実だろう。
「イスラエルの残忍さ、野蛮さ、大量虐殺、民族浄化、虐殺、強制的住民移動はすべて、シオニストの米国政権の財政的・政治的圧力によって、国際的な法的機関が沈黙を守っている間に行われている。バイデン政権は、停戦のための3つの国連決議に拒否権を発動した。バイデンは、ガザのパレスチナ人を根絶やしにするために、イスラエルが必要とするもの、あらゆる種類の武器、必要なだけの税金を供給すると約束した」(注6)。
米国は1948年のイスラエル「建国」以降、2,800億ドルに達する支援をイスラエルに注ぎ込んできた。それが同年以降にパレスチナ人が受けている、あらゆる苦悩、悲惨をもたらしている。さらに現在、米国が供与する兵器・爆弾がガザの住民の生命を直接奪っている。特に問題となっているのは、米国がこれまで大量に供与し、今後も数万発が追加供与される155ミリ砲弾だ。
野戦用に米国やNATOがウクライナに優先して供与してきたが、貧困をなくすための活動を展開している国際NGOのオックスファムは、「着弾して死傷者をもたらす範囲の半径は100~300メートルとし、ガザのような超過密地域での使用は「民間人に大きな被害をもたらし、相当数の民間人犠牲者を出す」との理由で、「国際人道法の基本原則に違反する可能性が大きい」(注7)と不使用を求めてきた。だがイスラエルは、過去のガザ攻撃では2008~2009年にかけて8,000発、2014年には34,000発をすでに使用している。今回は、2014年のレベルを上回ることが確実だ。
大虐殺を繰り返している米国の対外政策
さらに、投下型爆弾に精密誘導装置を付けた統合直接攻撃弾(JDAM)を始めとした爆弾も、建物や施設を破壊するために多用されている。パレスチナを中心に人権保護に取り組んでいる国際的団体の「欧州地中海人権モニター」(Euro-Mediterranean Human Rights Monitor)は、「イスラエルが巨大な破壊力を持つ投下型爆弾を使用しており、その中には150キロら1トンに及ぶものがある」とし、「人口密集地域での爆破性の高い爆弾の使用は、現代の武力紛争において民間人にとり最大の脅威となっている」(注8)と、ハーグ規則やジュネーブ条約といった戦時法規に照らしての違法性を指摘している。
だがボーイング社がミズリー州の工場で生産している1,800発ものJDAMの納入を加速しているとされ、しかも国防総省の報道官サブリナ・シンは10月30日、「イスラエルが対ハマス戦争で米国提供の兵器を使用する方法に、米国は制限を設けていない」(注9)と発言。民間死傷者増大への懸念など、米国は考慮外であることを示した。
このようにガザ大虐殺は、イスラエルと米国が完全に一体化して実行されている。しかも重要なのは、これまで目撃されてきた大虐殺の規模と頻度において、米国はイスラエルの比ではないという事実だ。カナダの経済学者のミッシェル・ショフドフスキーが主催するグローバリゼーション研究センターが指摘するように、事実認識として米国は第二次世界大戦終了以降「民間人を殺傷するという長年にわたる軍事戦略」を止めようとせずに、「戦争に次ぐ戦争でこの行為を常態化しようと試みてきた」のは疑いない。そのため、「ガザのパレスチナ人に対するイスラエルの現在の大虐殺は、米国とNATO同盟諸国によって実行された恐ろしい民間人虐殺の後継である」(注10)という事実が存在する。
今こそ米国の間接・直接の大虐殺が何度も繰り返されながら、それを許してきた国際社会の過失が自覚されねばならない。ガザのような大虐殺は、新世紀になって四半世紀が過ぎようとするこの時期に突如発生したのではい。目下急務なのは、もう二度と米国とその同盟国による大虐殺は繰り返させないという国際社会の決意とその可能な限りの広範な共有化だろう。同時に、大虐殺を「常態化」しているものこそ米国の対外軍事・外交政策に他ならず、それはEU米国の属国による不作為と傍観、健忘症によって支えられているという認識も伴わねばならない。
これまで少なからぬ学者や研究者は大虐殺に関し、①米国の建国時期にまでさかのぼる殺戮と虐待の歴史的特殊性に加え、②第二次世界大戦後の米国の直接的な介入・戦争(朝鮮半島、ベトナム・インドシナ、旧ユーゴスラビア、イラク、アフガニスタン、リビア等)と、政権転覆・体制打倒等のための第三国を通じた代理戦争(冷戦期のアフガニスタン、イエメン、ウクライナ等)、及び同じ目的による介入(間接侵略)で生じた当該国の内戦(グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグア、シリア等)に加え(注11)、経済制裁にも焦点をあてて分析を試みている。
「終わりなきホロコースト」が今も続く
この①については、今年6月に出版された大著『終わりなきホロコースト:合衆国の歴史における大量死』(Endless Holocausts: Mass Death in the History of the United States Empire)が最も体系的にかつ精緻に網羅していよう。ヒューストン大学ダウンタウン校やヨーク大学、ブルックリン大学等で教鞭をとった著者のデイビッド・マイケル・スミスによれば、米国は1776年の建国前後から現在まで、自国内外で「責任がある、または責任を共有していると推定できる」「人命の損失」は、実に約3億人に達するという。これには第一次世界大戦、さらに勃発前に米国がナチスとアドルフ・ヒトラーを強力に後押しした第二次世界大戦も含まれる。その数は現在も更新中であり、まさに「終わりなきホロコースト」というタイトルにふさわしい。
スミスは米国が第二次世界大戦終了後に一極支配を確立するまで、ピューリタン入植者らによる北米先住民の殺害が1,300万人、残忍極まるアフリカの奴隷貿易と奴隷制度に伴う死者が4,150万人という数字を挙げている。この建国を前後した時期の蛮行が、現在の軍事・外交政策にまで影響を及ぼしているのは間違いない。さらに以下の歴史的事実は、米国が国内で示されたその行動様式が、すでに早い時期から海外でも発揮されていたことを示している。
「●1869 年から 1897 年の間に、米国は実に5,9800 回も軍艦をラテンアメリカの港に派遣した。
●19世紀半ばから20世紀にかけて、米軍は大陸の西端までのすべての土地と原住民を征服し、メキシコの半分を強奪し、ハワイを併合し、フィリピン、プエルトリコ、キューバを征服した。
●1930年までに、米国は中南米に軍用砲艦を6000回以上派遣し、再びキューバとメキシコに侵攻し、グアテマラ、ホンジュラス、パナマ、コロンビアに侵攻し、ドミニカ共和国、ニカラグア、ハイチで長引く戦争を行った。これらはすべて、米国企業と金融機関の安全を確保するためだった」(注12)
このように米国においては、長年にわたる国内での流血と強奪が支配欲と相まって、軍事・外交政策の根底にある種の「体質」、宿痾として形成されている。おそらく今日も続く米国(及び同盟国)の大虐殺は、2世紀以上前に北米先住民と奴隷に加えられた仕打ちの延長上にあるといっても過言ではない。
北朝鮮の実に3割の人口を殺害した朝鮮戦争時の空爆やベトナム戦争でのダイオキシン(枯葉剤)大量散布、イラク戦争での劣化ウラン弾使用による放射能被害を伴った二度にわたるファルージャ虐殺、リビアの破綻国家化、イスラエルのジェノサイド加担等々が象徴する国際法や諸協定、人権諸基準には何ら拘束されない無数の米国の蛮行は、歴史的に自国内で繰り広げてきたそれの海外での再現という性格が強い。前記の②は、①と遮断されてはいないのだ。
第二次世界大戦以降今日まで、米国が手を染めた大量虐殺の死者数については諸説がある。米国の外交官から著名な歴史家に転じた故ウィリアム・ブルムは2016年に刊行した著書『Killing Hope: Us Military and CIA Interventions Since World War II』の序文で、米国による大量虐殺をやはり「アメリカン・ホロコースト」と呼び、以下のように述べている。
「アメリカン・ホロコーストにより、1940年代の中国やギリシャから1990年代のアフガニスタンやイラク、そして21世紀の現在に至る米国の侵略行為の結果として、数百万人が死亡し、さらに何百万人もが悲惨で苦しい生活に突き落とされた」
無論、正確な死者数の算出はほぼ不可能に近いが、米国の歴史家のジェームス・ルーカスによれば「世界のあらゆる地域が米国の介入の標的となっている。到達した全体的な結論は第二次大戦以降、世界中に拡散された戦争や紛争で、2,000万人から3,000万人の死に米国が責任を負っている可能性が高い」(注13)とし、37カ国がその犠牲になったと結論付けている。
ナチス第三帝国を継承した米国
また、前出のグローバリゼーション研究センターは、第二次世界大戦中のドレスデンを筆頭としたドイツの空爆による死者約60万人と、東京大空襲や広島と長崎への原爆投下による死者約44万2,000人を含め、「米国は第二次世界大戦中及び戦後、多くの国で直接または傀儡政権による代理戦争を通じて、そのほとんどが民間人である4,000万人以上の人々を殺害した」(注14)と算出している。
ここで、「数百万人」であれ「4,000万人以上」であれ、各数字の妥当性を論議する意味は乏しい。いずれの数字も、1945年6月に作成された国連憲章の前文でうたわれている「互いに平和に生活し、国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ、共同の利益の場合を除く外は武力を用いないことを原則の受諾と方法の設定によって確保し」という規定に照らせば、到底容認されるものではないからだ。
だがこの前文の規定こそが、国連常任理事国の座を占め、国連本部の所在地であるのみならず、全世界に800前後の基地を網羅した人類史上最強の軍事力とドルの基軸通貨化による一極支配に浴している、米国という国家によって根底から蹂躙されてきている。しかも米国は何度も大虐殺を繰り返しながらその「国際的評価」が特に傷つくような結果には至らず、他国に「民主主義」や「人権」を何のてらいもなく説いても、格別の反発に気を取られる必要性はない。こうした現実だからこそガザの大虐殺は派生し、ゆえにガザの大虐殺はこの現実を問うている。
国際社会が目の前の現実に盲目となり、大虐殺が起きた後も何事もなかったかのように振る舞ってきたのは、それを生む米国の対外行動が、あたかもアプリオリに何らかの正当性によって裏付けられているかのような印象操作を常としている欧米の主流派メディアの言説支配の成果であるに違いない。そこでは大虐殺という事実が隠しようがなくなっても単なる一政権の「ミス」として扱われる一方で、「共産主義者」や「テロリスト」、「イスラム原理主義者」、さては「ウラジミール・プーチン」といった敵、悪玉が次々と創造され、憎悪を煽って真に問題化されるべき対象から目をそらす演出がなされているが、善玉は常に集団的西側だ。
米国のプロパガンダとして比較的新しい「民主主義対権威主義」という二項対立の図式も、見事なまでに主流派メディアの「報道」に判断基準として貫かれている。それによればイスラエルは「民主主義」であり、イスラエルの圧倒的に巨大な暴力によってあらゆる抑圧と人間性の剥奪を長年強いられているパレスチナ人の抵抗は、「テロ」として区分される。(注15)
現状は、戦後の国際秩序とは何であったかについての根本的な再考を求めている。国連憲章の前文は「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い」と、戦後に向けた希望と意欲を掲げているが、このままでは半永久的に「言語に絶する悲哀」が再現され続けるだろう。ならば第二次大戦終結以降、いったい何が変化したのか。この問題については、北アイルランド出身で、欧州を代表する優れたジャーナリストの一人であるフィニアン・カニングハムが、有益な観点を提供している。
カニングハムによれば、「現在のガザの恐怖は、1943年4月から5月の4週間にワルシャワ・ゲットーに加えられた残虐行為に匹敵する」という。そして1万人のユダヤ人が殺害されたこの「組織的大量殺人」に対し、「ナチのファシスト政権の敗北後、人々は『二度と許されるべきでない』と誓った」はずだが、「信じられないことに世界は再びそれを許している」と嘆く。そして、決して主流派メディアが口にしない以下の真実を語る。
「イスラエル政権が、ナチスによるユダヤ人大量虐殺の倒錯した模倣であることは、世界的に明らかになりつつある。1948年に植民地国家として違法に発足して以来、シオニスト政権は、ナチス・ドイツがユダヤ人に対して犯したファシズム的犯罪を比較的継続している。違いは、新たな犠牲者がパレスチナ人であるということだ」(注16)
課題としての近現代史の根源的見直し
そして大量虐殺に関しては、イスラエルよりも米国が圧倒的に多く手を染めているという事実からしても、カニングハムが別の論考で「米国という国家をナチス・ドイツになぞらえるのは、単なる比喩ではない」と強調しているのは、整合性があるだろう。なぜなら米国は、「ナチス指導部を裁いたニュルンベルク裁判で確立された国際法の原則に間違いなく違反する」行為を戦後イスラエルよりもはるかに多く繰り返し、その「虐殺を伴った破壊は、ナチス第三帝国が手を染めた蛮行と違いはない」からに他ならない。
加えて「第二次世界大戦後、何千人ものナチスの軍や諜報機関の幹部、科学者、エンジニアが国防総省や初期のCIAによってすぐさま採用され」、米国は「ナチス第三帝国の軍事技術や諜報能力を利用」して冷戦を戦ったのは周知の歴史的事実だ。このためカニングハムは、米国をナチス第三帝国の正統な後継者としての「第四帝国」(the Fourth Reich)と命名しているが、「偏見のない人々にとってアメリカ第四帝国がナチスの遺産を継承しているのは明白」であると述べる。
だからこそ戦後も本質的な変化は訪れず、米国及びその同盟諸国によってナチスを想起させる「侵略戦争や大量虐殺、代理戦争、クーデター、暗殺、国民監視、プロパガンダ工作、大規模拷問」(注17)が再現され続けてきたと説くが、おおむね妥当だろう。
ただ戦後の米国をナチスと同列に類型化しても、歴史上の観点からは一面的というそしりを免れまい。ドイツ国家は米国と異なり、先住民の大量虐殺も奴隷制度も経験していないからだ。現在の超大国としての「第四帝国」の悪しき振る舞いには、せいぜい12年程度の命脈を保ったに過ぎないファシズム国家との比較では説明できない底知れぬ根深さが存在する。つまり形式的には第三帝国を継承しながらも、すでにナチス誕生のはるか以前から米国の基本的行動様式は形成されていたのだ。
しかも米国の対外行動にいくつかの例外を除いて随伴するのを常とし、ガザの大虐殺が始まった途端に首脳がイスラエルに赴いて「自衛する権利」や「連帯」を口にしたEUや英国、フランス、ドイツ、イタリア等に代表される欧州勢は、かつて程度の差はあれ現在のグローバルサウスに対して収奪と虐殺をほしいままに重ね、今日においてもその歴史的犯罪性に頬かむりしている15世紀後半から登場した植民地主義の後継者たちだ。
この意味でガザの「正視に耐えない」現状は、近現代史の根本からの見直しも迫っているのかもしれない。そして世界各地での「ホロコースト」を繰り返さない新たな国際秩序の創出は、いかに重い課題であれ、まず人類がよって立つ現状を拘束し、規定している否定的過去の正確な歴史観を確立する作業から始める必要があるだろう。
ここにきて、米国と集団的西側が吹聴する「民主主義対権威主義」という図式は、もはやガザでの惨劇によって説得力を失いつつある。むしろイスラエルへの怒りが高まる世界は、今や「大虐殺を許す側と許さない側」に二分化されつつある感が強い。いかに主流派メディアが無視しようが、ロシアの国連常任代表のワシリー・ネベンジャが11月1日、国連安保理で「イスラエルには自衛の権利があると主張しているが、占領国としてはそのような権利を持っていない」と断じ、即時停戦に関心を示さないことでイスラエルの殺戮を擁護している「米国とその同盟国の偽善」(注18)を舌鋒鋭く告発したのは、その象徴でもあるだろう。
国際社会の前途はカオスと破局の予兆に満ちているにせよ、長い目で見れば中国とロシアがけん引するBRICSの台頭が象徴するように、米国の一極支配を揺るがす巨大な地政学上の地殻変動が始まっている。それは恐らく、インド等で大虐殺の爪痕を残した大英帝国と、アングロサクソン国家としてその継承者でもある「第四帝国」が主導してきた数世紀に及ぶ覇権の揺るぎともなる可能性を秘めている。ならば今日、「絶望」が人類社会の選択肢にはないという認識も、等しく共有されるべきかもしれない。
(注1)November 7, 2023「Gaza death toll tops 10,000; UN calls it a children’s graveyard」
(注2)November 5,.2023 「ISRAELI MINISTER: NUKING GAZA IS AN OPTION」
(注3)「WHAT IS BIDEN TELLING BIBI? The US president goes to Israel as Gaza City is razed to the ground」
(注4)October 30,2023「Israel-Palestine war: Will the West choose genocide or peace?」
(注5)November 3, 2023「Gaza… Hiroshima」
(注6)(注5 )と同
(注7)October 2023「ARTILLERY SHELLS TRANSFER: Oxfam Policy Brief」
(注8))November 2, 202311 2「Israel commits widespread war crimes in Gaza, humanitarian catastrophe is imminent」
(注9))November 3, 2023「What to Know About U.S. Military Support for Israel’s Gaza Offensive」
(注10)November 4, 2023「“Worldwide Genocide”? History of U.S. Mass Killings of Civilians: The Monstrous Plan to Kill Palestinians Is Fully Endorsed by Washington」
(注11)シリアの場合、米国やNATO諸国、湾岸諸国、トルコの総がかりの介入と、それに対抗するロシアの支援があり、必ずしも内戦という定義が当てはまらないが、ここでは便宜上内戦のカテゴリーに含める。
(注12)April 20, 2013「UN Silent on US – CIA – NATO Crimes : Long History of War, Coups, Color Revolutions and Genocide」
(注13)November 27, 2015「The U.S. Has Killed More Than 20 Million People in 37 “Victim Nations” Since World War II」
(注14)(注12)と同。
(注15)ある「護憲派」として知られる憲法学者が最近、フェイスブックの投稿でハマスを「テロリスト」などと呼んでいる。我が国の「リベラル」や「左派」が、ウクライナ戦争と同様に集団的西側の言説支配から自由ではない現状を示していよう。
(注16)October 31, 2023「Israelis May Ask Who the Real Hostage-Takers Are: Hamas or Netanyahu Regime?」
(注17)September 27, 2017「Why The United States Is the Fourth Reich」
(注18)November 2, 2023 「Israel has no right for self-defense in current conflict — Russian UN envoy」
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1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。