〝アメリカの戦争〞への協力体制確立 合意された「米日韓軍事同盟」

足立昌勝

日米韓首脳会議での合意事項

8月18日、アメリカ大統領の保養地であるキャンプ・デービッドで、バイデン大統領が、日本の岸田文雄首相と韓国の尹錫悦大統領と会談した。これは、アメリカの強力なイニシアティブの下で開催され、今後の極東アジアにおける安全保障の在り方を決定するものだった。

会談では、次のような3つの文書が確認された。「キャンプ・デービッド原則」「日米韓首脳共同声明『キャンプ・デービッドの精神』」「日本、米国及び韓国間の協議するとのコミットメント(仮訳)」がそれである。これらの文書を取りまとめた「ファクトシート:キャンプ・デービッドにおける日米韓首脳会談」で、首脳らは、3カ国の新たな時代の幕開けと表現したうえで、会談がインド太平洋地域や世界の安全と繁栄の促進に有用であることを確認し、今後は首脳間のみではなく、外務・防衛・商業産業・財務官僚や国家安全保障担当補佐官の間でも開催することにしたという。これまで以上に様々な分野で、日韓両国の行先にアメリカの意向が反映されるようになるであろう。

それは決して喜ばしいことではない。日韓が完全にアメリカの尖兵になってしまえば、極東アジアの平和や安全は米国と他国の対立の中で考えざるを得なくなる。もはや「アジアの平和」を求めることは不可能となるだろう。

今回の首脳会議では、4つの事項で合意がなされた。以下、それぞれについて見ていく。

1 安全保障協力の強化
3カ国による防衛訓練の拡大、情報共有の向上、北朝鮮のミサイル脅威への対抗を含む弾道ミサイル防衛協力の拡大などを通じて、3カ国の安全保障協力体制をさらに強化する。具体的には、①複数年にわたる3カ国訓練計画②弾道ミサイル防衛協力の強化③北朝鮮のサイバー活動に関する3カ国ワーキンググループ④外部からの情報操作への対抗、などを行なう。

2 インド太平洋での協力拡大
3カ国は、自らをインド太平洋国家と位置づけ、その地域での平和と安全を守る行動を行なう。
具体的には ①3カ国による開発金融協力 ②海洋安全保障協力に関する3カ国枠組みの立ち上げ ③開発・人道支援政策についての対話などである。

3 経済・技術協力の深化
アジア太平洋経済協力フォーラムやインド太平洋経済枠組み交渉における共通のリーダーシップを基礎とした経済安全保障の推進、持続可能な強じんで包括的な経済成長の促進、インド太平洋と世界における繁栄の拡大を基礎とした3カ国間協力を強化する。具体的には①女性の活躍の推進②サプライチェーン早期警戒システム(EWS)の試験的運用③優先度の高い重要技術分野や新興技術分野における共同計画を促進するための3カ国の研究所間の協力④破壊的な技術の利用を防ぐためのネットワークの構築⑤技術標準化における協力などである。

4 グローバルヘルスと草の根協力の推進
共同研究とデータ共有による国民の健康保護、インド太平洋における世界健康安全保障の推進に尽力し、世界的課題に対処できる能力を育成するための草の根交流を強化する。具体的には①がん撲滅ムーンショットにおける協力②グローバル・リーダーシップ・ユース・サミットの開催③技術分野のトレーニングプログラムの実施など。

このような4つの合意事項には、経済分野も含まれているものの、その基本は3カ国にとっての安全保障であり、どのようにして強力な仮想敵国包囲網を作り上げるのかに焦点が当てられている。アメリカから見れば、日韓を極東アジアにおける防衛の尖兵にすることで、自国の安全を強固にできるうえ、その地域での自国の防衛力の節約にも寄与することとなる。

日本や韓国にはどのようなメリットがあるのだろうか。この合意は、極東アジアやインド太平洋地域における分断を助長するもので、平和構築とは全く無関係である。地域の平和は地域で考えられるものであり、遠く離れた大国が関与すべきことではない。

日本の首相や韓国の大統領は、どのような立場からこのような合意を決断したのか。それについて、岸田首相が記者会見で述べたのは、相も変わらず法の支配に基づく国際秩序の危機、ウクライナ情勢、東シナ海・南シナ海における力による一方的な現状変更の試み、北朝鮮による核・ミサイルの脅威を前提としたものだ。

今回の合意は、「3カ国の戦略的連携の潜在性を開花させることは、我々にとっての必然であり、また時代の要請でも」あるという。この発言の中には、極東アジアの在り方、平和についての言及はなく、対話の姿勢も皆無だ。これでは中国・朝鮮問題を解決することはおろか、国際平和を志向するものとはとうてい言えない。

アジア各国内の反応

自民党は、8月22日付の機関紙『自由民主』の中で「日米韓戦略的連携の一層強化へ」と、合意を高く評価した。これに対し、日本共産党は8月20日付のしんぶん赤旗で「日米韓首脳会談危険な軍事協力強化を許すな」と題する主張を掲げた。「平和共存の道こそ」を求め、「今、必要なのは、インド太平洋地域を分断し、軍事対軍事、核対核の危険な悪循環をつくりだす米国中心の軍事的枠組みづくりではありません。あらゆる紛争を話し合いで解決し、平和的に共存する道を追求する外交努力に徹することです」と結論付けている。

次にマスコミの反応である。朝日新聞は8月19日付の「時々刻々」で「日米韓、『前例ないレベル』で安保協力へ前のめりの米国、日韓は?」と題した解説記事を掲載した。その中で、3カ国首脳は安全保障の連携強化に向けた新たな一歩を踏み出したものの、実効性をどこまで高められるかは今後の取り組み次第だと書き、条約が締結されていない日韓同盟関係の下で、核戦略・サイバー防衛・対話の推進に合意したものの、どこまでできるのかは不透明だと疑念を表明した。

東京新聞は8月22日付で「日米韓首脳会談軍事に偏重してないか」と題する社説を掲げ、共同声明が安全保障での協力強化を打ち出したことについて、中国に対抗するための軍事的協力の拡大であり、軍事ブロックの形成は緊張を高める「安全保障のジレンマ」に陥る危険性がある、あらゆるレベルでの対話が期待されると書いた。

中国の反応について、フランス系の『クーリエ・ジャポン』が8月21日、「日米韓首脳会談は『新・3国軍事同盟』? 中国を苛立たせる『ミニNATO』?」という記事の中で、中国が会談を「ミニNATO」「アジア版NATO」の構築だと批判を強めていると解説し、元復旦大学国際問題研究院教授で米国問題の専門家・瀋丁立氏がニューヨーク・タイムズに寄せたコメントを紹介。瀋氏は日米韓の新たな連携が防衛を目的とするならば、なおさら中国を過度に刺激すべきではないとして、次のように語った。

「私たちは、日本と韓国は大局を理解しており、1緒になって中国に向かってくることはないと信じています。彼らは自分たちが中国を倒すことはできないと知っています。彼らは賢明ですから、中国は心配する必要はないのです」

また新華社通信は、会談が「故意に『中国脅威論』というデマを拡散させた」と非難。「アメリカの主導のもと、3カ国は封鎖的で排他的な『小さなグループ』をつくり、対立を激化させて地域の戦略的安全を損ない、アジア太平洋地域の平和と安定、そして繁栄を脅かしている」としたうえで、最終的な被害者は日韓両国であり、アメリカに同調しないように主張したという。8月19日付の環球時報も社説で、日韓が米国追随を続ければ「巨大な代償を払うことになる」と警告した。

こうした中国の批判は、極東アジアの平和を考えるならばもっともなものといえる。日本のメディアは、頭をカラにしてこの主張に耳を傾け、「極東アジアの平和」とはどのような状態を指すかを今一度考え直すべきではないか。

しかし、憲法9条を無視し、公然と安保必要論を公言するマスコミの連中には、この警告は無意味かもしれない。それでも、9条を掲げ、平和の理念を主張することは、これこそが「道理」である以上、決して無意味なことではない。

 

強力な戦闘機・武器の供与と有事協議

日米韓の首脳会談を受け、すでに「有事協議」が初開催されている。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、9月13日にロシアのプーチン大統領と朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の金正恩総書記が武器取引や軍事協力に関する首脳会談を行なったのを受け、翌14日、日本の秋葉剛男国家安全保障局長、韓国の趙太庸国家安保室長と電話で、朝鮮からロシアへの兵器供与計画への対応などを協議したと明らかにした。

サリバン氏は「ウクライナ人を殺害するための兵器供与の協議が引き続き進展しているという見方は露朝首脳会談前後で変わっていない。ロシアが(北朝鮮との武器売買を禁じた)国連安全保障理事会の制裁決議の基本的な責任に従って行動するのかどうか非常に懸念している」とし、「露朝の協力がどういうものになっても、日米韓3カ国は緊密に対応していく」と強調した。

この「有事協議」は、冒頭に採り上げた合意文書の1つを形成するものだ。文書は「日米韓3カ国の首脳は、我々の共通の利益及び安全保障に影響を及ぼす地域の挑戦・挑発及び脅威に対する3カ国の対応を連携させるため、3カ国の政府が相互に迅速な形で協議することにコミットする。こうした協議を通じ、我々は情報共有を行ない、対外的なメッセージングを整合させ、対応を連携させる意図を有する」としたうえで、「安全保障上の利益又は主権を堅持するため、全ての適切な行動をとる自由を保持する」と確認した。

この文書は、日本のマスコミで公開されることはなかった。筆者も今回、アメリカで「有事協議」が開催されたとの報道があったために、この合意文書の中身に行き着いた。

よく読んでみると、非常に重要な内容が含まれていることに気づかされる。すなわち、参加国の安全保障に影響を及ぼす地域の挑戦・挑発及び脅威については対応を協議し、「安全保障上の利益や主権を堅持するため、すべての適切な行動をとる自由」を保有するという。必要に応じて、軍事行動も辞さないことを示している。

憲法9条を有する日本が、この種の軍事行動をとることは合憲なのであろうか。条約で定められたのであれば、国会での承認手続きが必要であり、厳しく追及されることは間違いない。しかし、単なる合意文書の確認であれば、国会承認は必要ではなく、そのまま実行されてしまう。

岸田政権は誕生以降、世論に対して「聞く耳」を持たず、憲法違反の政策を推し進めている。「法の支配」を声高に主張するのと全く矛盾しているのである。まず岸田政権がすべきは、自らが「法の支配」に従うことであり、憲法に合致した政策を推し進めるべきだ。

この「有事協議」と同時期に、アメリカでは、韓国に最新鋭ステルス戦闘機F35を最大25機売却することが承認されたという。その中には、エンジン、電子戦装備、軍需・技術支援などが含まれている。アメリカ国防安全保障協力局は、この売却決定が、「インド太平洋地域の政治的な安定や経済発展を後押しする主要同盟の安全保障を向上させ、米国の外交政策目標や安保目的を支援する」と述べた。

日米韓の3カ国首脳は、軍事同盟に近い形での安全保障の協力について合意した。すでに「有事協議」が開催され、その事実が事後報告されたように、今回の合意の具体的実現は、これからも次から次へと進められてくるだろう。米国から韓国への戦闘機の売却や「有事協議」は、3カ国による同盟の新たな地平を形成するものであり、進展について今後、注意深く監視する必要がある。特に、「有事協議」については、諸外国の実例を探りつつ、その実態に迫る活動が必要とされるだろう。

(月刊「紙の爆弾」2023年11月号より)

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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