宇宙軍拡競争に巻き込まれた日本 「航空宇宙自衛隊」誕生へ/悪ふざけのような航空自衛隊公式サイト。「宇宙作戦」に1兆円の予算を見込む
社会・経済国際「航空宇宙自衛隊」改称の背景
航空自衛隊が、2027年度までに「航空宇宙自衛隊」に改称される。防衛省は昨年、宇宙領域での活動を強化するとして部署を新たに設置、改称までに編成を重ね、「航空作戦」と並ぶ主要任務「宇宙作戦」を作る方針だ。
防衛省によると、この強化策で、人工衛星に近づくスペースデブリ(宇宙ゴミ)などの物体を把握するSSA(宇宙状況把握システム)や、人工衛星への電磁妨害を検知する装置、宇宙領域を把握するSDA衛星などを運用予定だという。
表向き「防衛」が主な任務でも、実際には宇宙での戦闘に対応した兵器導入を見据え、防衛装備庁は専門機関を設けることも計画している。昨年12月に閣議決定された予算案では、これらに5年間で約1兆円の計上を見込む。
宇宙事業というと、これから拡大する新たな市場としてベンチャー企業が多数生まれ、人工衛星による地球観測や通信関連、天体探査、民間宇宙船など、“夢のある世界”として子どもにも関心を持たせている。
しかし、政府主導の宇宙事業は「戦争準備」が主となりつつある。民間企業が多数参入していても、その需要のほとんどが政府による研究開発投資などの「官需」でしかなく、実際に売上高の9割を占めている。
政府が宇宙を軍事として見るようになれば、当然ながら、その特需=軍需を見据えた流れが生まれている。その背景には、中国が宇宙領域を利用した戦闘能力の強化を目指していることから、アメリカ政府の強い要求で「宇宙空間での攻撃も日米安全保障条約の適用になる」との認識を日本政府も提示。歩調を合わさなければならなくなったことがある。
領土のない宇宙はいま、米中がその支配圏を広げようと競い合っている。アメリカは2020年6月に出した「国防宇宙戦略」で、「宇宙は明確な戦闘領域だ」とし、「中国やロシアが深刻に差し迫った脅威」と“敵国認定”した。
事実として、中国は将来の宇宙軍事を見据え、衛星システムを利用した航空機や艦船の航法、ミサイル誘導も開発中。ロシアもシリアでの軍事作戦に宇宙能力を利用している。ほか、インドは104機の衛星を1基のロケットで打ち上げるなど、高い技術力を披露。韓国も、日本と同じくアメリカに追従する形で、朝鮮半島上空の宇宙監視能力を確保するため、すでに「空軍宇宙作戦隊」を設置している。
とはいえ世界のほとんどの国は、そうした流れを不気味に思いつつ静観中なのだが、このたび日本もアメポチとして、宇宙軍拡競争に“参戦”することになってしまったわけだ。
UFO騒動と政治
一党独裁の中国はさておき、民主主義国のアメリカで宇宙軍事が積極推進されているのは、国民の根強い支持があるからだ。
といってもそれは、ポピュリズムのなせる業で、トランプ前大統領が2019年に発足させたのが「アメリカ宇宙軍」。70年以上もなかった独立軍の創設で、国防総省の予算140兆円の一部に組み込んだ。「宇宙は新たな戦闘領域になった! 重大な脅威がアメリカに迫っている。我が国が宇宙で優位性を保たなければ死活問題になる!」トランプ氏はこんな演説で、軍事利用を隠しもせずに拍手喝采を得た。しかし、その実態は戦闘部隊を宇宙に配置する単純な話ではなく、軍部が宇宙事業を主導する組織改革の色が濃い。
そもそも国民の不安を煽って成り立つのが軍事予算であるとしても、その関心の集め方には、かなり奇妙な面もある。2023年5月、ラスベガスで「UFOの目撃情報」が相次いだ。続いて、「自宅の庭で身長3メートルの宇宙人を見た」と、男性が警察に通報する騒動があった。公開された動画に宇宙人は映っていないものの、大きな衝撃音や、裏庭にUFOの着陸跡とされるミステリーサークルが発見され大騒ぎとなっている。
地元警察が男性の家族を保護して現場に監視カメラを設置。NASA(アメリカ航空宇宙局)までもが調査に乗り出し、男性の通報直前に、警官のボディ・カメラが空から落下する緑色の光を捉えていたと発表。
結局、UFOは隕石だったとの見解を出したものの、世間ではUFO騒動が過熱した。米議会は過去にUFOを目撃したという元軍人3名を招致し、公聴会を開催。出席した共和党議員からは「UFOが存在しないなら、なぜ政府は記録をすべて公開しないのか」との批判が出た。これに与党の民主党議員までが賛同し、機密情報公開の審査委員会が発動。最終的に、このUFO情報の透明化という議論は、国防情報の扱いに移っていく。
一方で、宇宙人目撃情報そのものは、防犯カメラ映像が3カ月も前のものだったことや、サークル状の跡も半年以上前からあったとの指摘を受け、フェイク認定された。地元警察も根拠がなかったと捜査を終了している。
こういう現象は、アメリカ各所で定期的に起きている。そのたびに増すのが「宇宙関連予算を増やせ」という声で、果てに「数年以内に中国の宇宙軍が攻めてくる」といった極端な見方もネット上で散見される。NASAのUFO研究会は「多くの目撃情報は説明がつくものだ」として、アメリカで相次ぐ無数の目撃談は、航空機や研究用気球、気象現象などであり、「地球外生命体との関連を明確に示す情報はこれまでにひとつもない」と今のところは冷静だ。国防総省の全領域異常対策室でも、軍用機など800件超の目撃情報を精査した結果「本当に特異といえるのは2~5%ほど」として、「UFOの目撃情報はなぜか多くが球形の白色もしくは銀色の物体で、大きさは1~4メートルばかり。我々が容易に監視できる民間機の高度3千~9千メートルに集中している」と述べていた。
UFOの存在を完全に否定すれば、「情報を隠蔽している」と非難される可能性が高い。それゆえ政府側は、強い否定に消極的な面もあるようだ。
それでもUFO騒動を無視できないのは、政治への影響である。政治家が支持を期待して煽ることが、定期的に続いているからだ。
この種の国民煽動は、アメリカ得意の手法だ。存在しない大量破壊兵器をでっち上げてイラクを侵略したことは、もはや周知の事実。日本に至っては、事実がバレた現在も、外務省が「大量破壊兵器が存在しないことを証明する情報はなかった」などと、苦しい弁明で取り繕っている。
そんな日本でも、「宇宙」を政治・軍事のネタにする動きが始まっている。メキシコで「宇宙人の遺体発見」昨年、アメリカがUFO関連の情報を公開するウェブサイトを立ち上げたことを受け、日本のUFO政策について質問された松野博一官房長官は、「米国の取り組みに関心を持って注目をしています」と距離を置く姿勢にとどめた。また2020年9月、河野太郎防衛大臣(当時)が「未確認飛行物体を目撃した場合の報告」を指示したことについても「公表すべき特異な事案はない」と述べた。
アメリカ国民の熱心さと比べれば、日本人のUFOに対する関心度は、いまだ低い。米ジャーナリストのエイドリアン・ゲイル氏は言う。
「アメリカでは6割以上の人々が、宇宙人の乗った飛行物体の存在を信じるという世論調査の結果があります。宇宙人に関しても、半数近くが信じると答えています。これに対して、日本では半数が『わからない』と回答。信じる・信じない以前に、関心度があまり高くないのが実情です」
しかし、この種の世論は「情報工作で簡単に操作できる」と話すのは、UFOについてフェイスブックなどで8万人ものコミュニティを持つ米国人研究家のリサ・マリー氏だ。世界各地の目撃情報を分析した結果、「UFO目撃地には偏りがあって、過去の主要30万件以上の目撃情報を見ると、北米や西欧などで多く、人口が多い中国やロシア、東南アジア、アフリカなどでは少ない」と話す。
そんな中、アジアで突出して多いのが日本だという。
「お隣の韓国では、それほど多くありません。これはメディアが一因です。UFOや宇宙人を特集したテレビ番組などが多い国や地域ほど、信じる人が増え、目撃談も多い。私は宇宙人の存在を信じていますが、多くの目撃談はメディアなどの影響を受けた心理的な作用のもとにあります」(同前)
実際、日本における目撃情報を時期別で見ると、オカルトブームのあった1980年~90年代に集中していた。このブームは2000年代には、江原啓之、細木数子らによる「オーラ」や「霊感」といった、スピリチュアルブームに移行した。同時にUFOの目撃情報は減少していく。
撮影技術が向上するほど目撃数が減るというのも、先の心理作用を裏付けているのだろう。裏を返せば、UFOブームを人為的に作り出すことも可能、というのが、マリー氏の指摘である。
さて、世界に話を戻すと、9月には、また新たな騒動が起きた。メキシコの公聴会で、宇宙人のものとされる「謎の遺体」が披露されたのである。
それを公開したのは、かねてからUFOに関する情報を多数発信してきたジャーナリストのハイメ・マウサン氏。5年前にペルーの地下で発見されたという2体の小柄な「遺体」は、メキシコ国立自治大学による分析では「約1千年前のもの」とされた。さらに医師らのMRI解析では、「遺体は単一の骨格から成り、組み立てられたものではない」との結果が出たという。
世界中のUFO研究家や愛好家たちが「宇宙人が存在する証拠」と盛り上がると同時に、政治家たちの便乗も始まった。先のマリー氏のもとにも、無数の目撃談や怪情報が寄せられたという。
「メキシコの遺体写真に似たものが、数えきれないぐらい届きます。最近では画像加工の技術が進歩して、信憑性を判別するのが難しくなりました」
マウサン氏提供の遺体は、細長い頭部に両手の指は3本。通称「グレイ」のような、古典的な宇宙人のイメージに近い。ただし、マリー氏によると、「残念ながらマウサン氏は、数年前に皮を剥いだ猿の遺体とか、コウモリや木材などで作ったニセ遺体を公開して批判を受けています。宇宙人の子どもだと公開された遺体が、実際には人間の子どもだったこともありました」とのことだ。
マウサン氏について見逃せないのは、米政治家の出資する企業からの資金提供疑惑を指摘されていたことだ。今回の遺体も、政治的理由から依頼された可能性が否定できないという。生物学者や調査関係者からは「人と動物の骨で作られたニセモノ」との反論が出ている。
それでも、一部政治家が「調査予算を組むべき」との声を上げれば拍手を受ける。ビジネスにもなることから、事態を煽る専門家や業者は後を絶たず、急に目撃談を持ち出して観光誘致する自治体も現れたほどだ。
メキシコ議会に参加していた維新議員
ここで注目したいのが、このメキシコ議会に、日本の国会議員も出席していたことだ。日本維新の会の浅川義治衆院議員(比例・南関東)である。彼は、遺体については懐疑的なコメントをした一方で、日本政府が持つUFOに関する情報の公開を求めている。
UFO愛好家とはいうものの、その主張はオカルトとは趣の異なるものだ。遺体騒動を報じたワイドショーに対し、「真面目な議論はスルーされている」と批判しながら彼が持ち出したのが、“宇宙での軍事的脅威”だった。ロシア・ウクライナ情勢では「我が国の安全保障について、改めて考えざるを得なくなりました」と述べていた。
そんな浅川議員はUFOについて、「宇宙人の乗り物という前提ではありません」としたうえで、「最新の軍事兵器である可能性もあり、安全保障上決して軽視することはできません。米国政府との情報共有を図り対応できるようにしなければなりません」と述べている。つまるところ、アメリカの攻撃型宇宙事業に日本も追従すべき、という主張なのだ。宇宙人の遺体をわざわざ現地で確認したのも、UFOへの興味より、宇宙軍事の政策に繋げられると見たからだろう。「航空宇宙自衛隊」の誕生に至る昨今、彼の狙いは夢物語ではない。
一方で筆者は、ある事業を請け負ったインターネット業者から、防衛省を通じた機密メールの一部を見せてもらうことができた。情報源秘匿のため時期は伏せるが、最近、政府関係者から複数の人々に届いたものである。以下に抜粋する。
「軍事衛星について安全保障が本来の目的でも、通信、偵察、気象予報などの目的で運用されておるので人々がどうこう言うことはなく、通信の暗号化や偵察情報の収集などの用途で使用されて実績もあるので防衛で進めて問題ない。宇宙兵器の開発自体は地上兵器と同じで特に言及せずとも叩かれることはない。宇宙軍というと宇宙における軍事活動と直結するが日本の場合、UFOの持出よりも中露の脅威の方が早い。対衛星兵器も敵の衛星を先に攻撃する目的を隠し切れないから導入すれば反発が予想される、いまから必要性の流布がいる。中露が我々のGPSを破壊する用意があるという話、イラクの大量破壊兵器みたいなウワサで覆いたい。宇宙軍縮という言葉を広げないようにしたい。野党は宇宙関連の話に弱いから、世論重視と考える」(原文ママ)
要するに、中国・ロシアの脅威を煽って宇宙兵器や宇宙軍を創設、予算を獲得すべし、ということだ。
発信者は防衛方面にかなり顔の利く高齢の政界関係者。送り先はネット世論の形成を工作する下請け事業者だ。自民党の工作アカウント「Dappi」で知られ、10月16日に東京地裁で断罪された「ワンズクエスト」のように、SNSなどで人々を誘導し、関心を操作するのが仕事である。情報提供者は「仕事だからやっていますが、こんなことをしていたら世の中がどんどんおかしくなる」と憂い、筆者にメールを提供してくれた。
アメリカは、すでに軍事宇宙ステーションの建設に堂々着手。そこに司令部を置けば、地球全体を見渡しながら軍事指揮がとれるというもの。すでに「宇宙からの危機に備える」という防衛目的を超えている。関連資料には「宇宙を新たな開拓地とし、惑星を植民地化し、地球から移民を送り込む」といった未来図が、大真面目に書かれているのだ。日本がその実情をきちんと認識しないまま米軍に従い続ければ、大国の野望に巻き込まれることになる。
前出のゲイル氏が警告する。
「日本の領土を守るなんて話は日本人が信じているだけで、アメリカ人は中露との宇宙戦争を想定している。よく深読みした方がいい」
アメリカ人ほどUFOに夢中ではない日本人だからこそ、冷静に事態を注視すべきだ。同時に、国民への反中・反ロ感情の刷り込みが、すでに“軍事利用”される段階にきていることも、認識すべきだろう。
(月刊「紙の爆弾」2023年12月号より)
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米商社マン、スポーツ紙記者を経てジャーナリストに。K‐1に出た元格闘家でもあり、マレーシアにも活動拠点を持つ。野良猫の保護活動も行う。