〝NGリスト〞は本質ではない ジャニーズ問題の背後にある芸能界の〝闇〞

紙の爆弾編集部

被害者ヅラする大手メディア

創業者・ジャニー喜多川氏による性加害の被害者への補償に特化する会社として、ジャニーズ事務所は10月2日の記者会見で「SMILE-UP.(スマイルアップ)」の新社名を発表した。すると、その会見で発覚した“NGリスト”が、社名変更以上の大騒ぎとなった。

しかし、これがジャニー氏の性加害問題の論点をずらす事実に気づいているメディアは皆無だ。ジャニーズの姿勢を批判したはずが、かえって思うつぼにハマっているのである。

NGリストが事務所の閉鎖的な体質を示すものだとしても、それは周知のことで、問題の一部でしかない。検証すべきは“大手メディアの沈黙”、すなわちメディア側の報道姿勢であるはずだ。リストの“NG”が芸能畑の門外漢ばかりであるのに対し、“OK”に芸能記者や大手メディア社員が選ばれているのがその証左である。

そして実際のところ、誰がNGとされようが、問題の根幹にいる被害者には関係ない。その間にも「ジャニーズ性加害問題当事者の会」は分裂し、被害を偽装する元ジュニアまで出現。事態の主導権は、すでに事務所に移ってしまった。

メディアの的外れぶりは、白波瀬傑・前副社長の追及に、より顕著だ。たしかに彼は、広報担当として報道に圧力をかけてきたにもかかわらず、記者会見を欠席。“極秘退職”で逃亡した。しかし、彼はジャニーズの“女帝”と呼ばれた故・メリー喜多川氏(副社長)や、その娘・藤島ジュリー景子前社長の命令に従ったにすぎない。

芸能ジャーナリストの本多圭氏は白波瀬氏から「あまり悪口を書かないでよ」と釘を刺されたと語るが、拒絶して、取材結果を公表。1997年に、性加害問題や当時の児童福祉法違反の疑いを『ジャニーズ帝国崩壊』(鹿砦社)にまとめている。白波瀬氏に圧力をかけられたというメディアの人間も、断ればいいだけの話なのだ。

なぜ大手メディアが白波瀬氏に逆らうことができなかったのか、こそが問題だろう。圧力と闘いもせず、「会社の方針」とかでお茶を濁して逃げてきた連中が、今になって彼を非難するとは呆れてしまう。ジャニーズの強権ぶりをクローズアップすることで、メディアが被害者のようにふるまうのは卑怯千万ではないか。

追及すべきは一広報担当ではなく、ジャニーズというモンスター事務所の背景にある、メディアやスポンサー企業も絡んだ芸能界の権力構造である。その点では、キムタクこと木村拓哉の独立問題を報じた週刊文春(10月12日号)が、木村の妻・工藤静香と“芸能界のドン”の関係に言及したのは、的を射ているだろう。

NHKと芸能界の癒着

さて、性加害問題が各方面に与える影響を考えるうえで、目下注目されているのが、年末恒例、NHKの「紅白歌合戦」だ。昨年の第73回では、司会の嵐・櫻井翔に始まり、デビュー25周年のKinKi Kidsなど、白組22枠中6組をジャニーズグループが占めていた。

その事実自体が、NHKとジャニーズの深い関係を物語るが、ことはそれにとどまらないと、大手プロ役員はこう語る。

「毎年、事前に紅白出場者の内定情報が流れますが、これはスタッフが小出しにリークしているから。そういう中に、視聴者が『なんでこの人が?』と疑問に思う内定者がいるのは、NHKが芸能界の重鎮やレコード会社と癒着しているためです。そうであるならば、NHKは旧ジャニーズ事務所との関係もさることながら、紅白の人選も検証すべきです」

昭和の時代には、紅白担当者がレコード会社や芸能プロからもらった賄賂で家を1軒建てたという噂まで上ったほど、紅白担当はおいしいポジションだった。その実情を、元レコード会社宣伝マンが解説する。

「バブル期には、演歌歌手なら紅白に出て、全国的に名前が売れると地方営業1パッケージ(歌手・前歌・司会・バンド込み)200万円が、1気に500万円以上に跳ね上がり、土日のスケジュールが埋まる。だから、紅白に出場するためなら金は惜しまなかったんです。バブルが弾けて以降、演歌歌手の地方営業は激減したものの、それでも紅白はステータス。スタッフに対する接待攻勢はやみません」

2004年には磯野克巳プロデューサーが番組制作費を詐取したとして、詐欺罪で逮捕。懲役5年の実刑判決を受けている。
「磯野さんがやっていたのは、制作費の詐取だけではありませんでした。音楽番組やドラマにも影響力を持ち、1回キャステイングするたびに企画料の名目で、50万円が振り込まれています。また、彼の恩恵に浴していた局員も何人もいました。それでもNHKは調査していません。磯野氏をスケープゴートにして、真相をうやむやにしてしまったわけです」
こう話すのは、ベテラン芸能ライター。先の元レコード会社宣伝マンも、「紅白にはほかにも、磯野氏に匹敵するような人がいましたよ」と言って、こう続けた。

「AV女優と温泉に行きたいと言う担当者までいました。言われるままにAV事務所に依頼し、5人を集めて高速道路のパーキングエリアで面通しして、うち3人は事務所関係者が連れて帰り、残った2人を紅白担当者が群馬の伊香保温泉に連れて行きました。その時の費用はレコード会社と歌手の事務所の折半でしたよ」

このように磯野氏の一件は氷山の一角にすぎないのだが、NHKが自局の問題として内部調査することはなかった。そのため、以後も芸能プロやレコード会社による紅白担当者の接待攻勢は続いている。

「東京・新橋にある1人7万円もする日本料理店や、渋谷の高級フランス料理店、赤坂の高級ふぐ店が接待の定番でした。NHKの給料は、民放と比べれば低い。高級店に接待されれば、要望を聞くしかありません。こうして、紅白担当者と芸能プロなど業界の癒着は、現在も連綿と続いています」(前出の元レコード会社宣伝マン)

2023年は旧ジャニーズに加え、23年連続出場していた演歌歌手・氷川きよしの活動休止などで、白組枠が大幅に余る。紅白に影響力を持つ芸能界の権力者たちにとっては格好の出番といえるだろう。性加害問題が紛糾を始めた夏頃には、すでに、ある芸能プロが、若手演歌歌手2人の紅白出場の後押しを重鎮に依頼、その1人は内定した、という噂まで流れている。

ジャニーズ問題を皮切りに、こうしたNHKと芸能界の関係も、取り沙汰される可能性はある。その検証に、NHKは耐えられるのか。

ジャニーズタレントたちの行方

さらに、現役で活動中の、元ジャニーズタレントたちの動向にも、目を向けておきたい。彼らも被害を告白した元所属タレントと同様、守られるべき立場にあることに違いはない。

会見のあった10月2日に、さっそく事務所の稼ぎ頭の1人、元V6の岡田准一が退所を発表。10月24日には、嵐の二宮和也が独立を発表した。二宮に至っては、ファンクラブの会員サイトで「1回目の事務所の会見以降、自分の活動にも多くの影響が起き始めて、正直な話、僕も怖くなったし不安な気持ちにも凄くなって、これからどうしていこうかなと考え始めました」と、性加害問題の影響に直接的に言及している。

二宮は俳優業を中心として、高い評価を得てきたタレントだ。近年でも、2018年にTBS系の日曜劇場枠で放送された主演ドラマ「ブラックペアン」が全話平均視聴率14.3%を記録。2022年の同枠「マイファミリー」でも主演し、16.4%をマークした。今夏出演した「VIVANT」も、主演ではないものの最終回が19.6%を記録。TBSでは「ブラックペアン」の続編が検討されていたという。

「しかし、ハードルとなったのが、日曜劇場枠のスポンサーです。日本生命などが性加害問題で、旧ジャニーズ事務所のタレントを起用しない方針を打ち出しています。まさに、ジャニーズ問題が、芸能プロやメディアだけでなく、スポンサー企業の問題でもある、ということでしょう。二宮が退所にあたって語った“不安”には、このあたりの事情も含まれているはずです。『嵐が再結成されたら参加する』と語っているのがその証左ではないでしょうか」(前出の芸能ライター)
だとすれば、二宮の退所はテレビ局も望むところなのだろう。

滝沢秀明のTOBEは受け皿となるのか

こうして二宮が率直に旧ジャニーズ所属の弊害を吐露したことで、タレントの事務所離れが加速するのは確実とみられる。
「社名変更したジャニーズはエージェントシステムの新会社を設立しましたが、退所した岡田は、キムタクと並んでエージェント契約の目玉と言われていた存在。新会社の先行きに、はやくも分厚い暗雲が立ち込めています」(前出のスポーツ紙記者)

岡田や二宮に続き“流出”するタレントたちの受け皿と目されていたのが、タッキーこと滝沢秀明氏の新事務所「TOBE」だった。滝沢氏はジャニーズ事務所の副社長まで上り詰めるも、ジュリー氏との確執が原因で退社している。

TOBEには元V6の三宅健や、元Kis-My-Ft2の北山宏光が所属。元King&Princeの平野紫耀・神宮寺勇太・岸優太は「Number_i」のグループ名での活動再開を発表した。今年4月には公式ユーチューブチャンネルでオーディションの様子を公開。2024年春にも東京ドームでお披露目イベントを開催するのでは、との見立てもある。
それでも週刊誌デスクは、「ことはそう簡単ではありません」と、こう話す。

「元スタッフも多数、移籍しており、タッキーの動向は、いまでも注目されています。しかし、彼自身も被害を受けた可能性が高いとはいえ、今回の問題では沈黙。元幹部だけに、いつ火の粉が降りかかるかわからない状態です。加えて、元SMAPリーダーの中居正広が“滝沢批判”を始めたことで、状況は混沌としています」

中居は8月11日に放送されたTBS系「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」で、ゲスト出演した井ノ原快彦(ジャニーズアイランド社長)・長野博・坂本昌行の元V6メンバーに対し、「滝沢の(件)はどう思ってんの? 三宅がTOBEに行ったわけでしょ。『何やってんだよ』と思わないわけ?」と挑発。3人が「知らなかった」と答えたことに、「自分の人生さえ良ければって思っていると、エンタテインメントって、どこかで濁ってしまうのかな」と三宅を批判した。

「北山に対しても、中居は自身のラジオ番組で皮肉ってみせた。キスマイは中居が初プロデュースしたグループで、相談もなくタッキーの元に行ったことが許せなかったんでしょう」(前出のスポーツ紙記者)

井ノ原は、エージェントシステムでタレントを管理する新会社の副社長に就任し、育成に力を入れていくという。それをサポートすると見られているのが中居だ。

「井ノ原はSMAPのバックダンサー時代から中居に可愛がられてきました。その中居が、『困っている後輩たちのためにプロデュースをやりたい』と言っています。単に井ノ原をサポートするだけではなく、元ジャニタレのTOBE入りを阻止する狙いもあるのでしょう。中居が井ノ原についたことで、TOBEの立場は苦しくなります」(同前)

社名をファンに丸投げしたエージェント会社は、まもなく本格始動する予定とされる。しかし、被害者の補償問題が遅々として進まない中、東山紀之社長までの過去のセクハラ・パワハラが問題視されている。ジャニーズ問題の解決は、いまだに不透明。一からの検証が求められる。

(月刊「紙の爆弾」2023年12月号より)

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