【特集】新型コロナ&ワクチン問題の真実と背景

國部克彦・神戸大学教授の講演「ワクチンをめぐる倫理」を聴講して ―哲学・倫理学の英知を焦眉の現実問題の分析に生かす(上)

嶋崎史崇(市民記者・MLA+研究所研究員)

 

0.はじめに

ご存じの通り、ISFは結成以来、新型コロナとmRNAワクチンの問題の解明に力を入れています。2023年11月には、WHOのパンデミック条約と国際保健規則改定問題についてのシンポジウムを開催しました (注1)。それに加えて、莫大な数と種類の副反応疑いの有害事象が報告される中、福島県南相馬市をはじめとする各地でのmRNAワクチン工場建設や、新型の「レプリコンワクチン」の世界に先駆けての国内承認等(注2) 、コロナワクチンを巡る懸念はまだまだ尽きません。

こうした状況の中、さる12月17日、大阪市内で國部克彦・神戸大学教授による講演会「ワクチンをめぐる倫理」が開催され、私自身、現地で聴講しました。主催は「日本ホリスティック医学協会関西支部」です(注3) 。コロナワクチン薬害を巡っては、文系、特に哲学・倫理等思想系の研究者からの批判的な発言が、生命倫理・医療倫理のような正真正銘の専門家集団も含めてかなり少ないことについて、私は検証したことがあります (注4)。こうした状況の中、経営倫理学者で、神戸大学副学長も務めたベテラン研究者である國部氏の著書『ワクチンの境界 権力と倫理の力学』(アメージング出版、2022年10月初版発行)は、大変貴重な研究成果であり、國部氏の発言は、メディアでも一定の注目を集めています(注5)。ISFでは既にこの著作についての詳細な書評が掲載されましたが(注6) 、刊行の約1年後に、別の視点も交えて行われた今回の講演会について、私のコメントや補足も加えながら、要点を報告します(以下の節番号は、本稿筆者=嶋崎による便宜的なものであり、講演会の配布資料に由来するものではありません)。

1 新型コロナワクチンをめぐる4つの「神話」

國部氏は、世間で常識として信じられている4種類の「神話」を問い直すところから、議論を説き起こします。

①「健康が人間にとって最高の価値である」という命題は、「健康は暴政の脅しである」と覆されます。國部氏は、現代イタリアの哲学者、ジョルジョ・アガンベン(1942年生まれ)の議論を援用します(『私たちはどこにいるのか? 政治としてのエピデミック』、高桑和巳訳、青土社、2021年2月)。日本よりもはるかに多くのコロナによる被害を受けたイタリアですが、アガンベンは大胆にも、延命以外に価値を持たない社会に意味はない、と断言します。「生命を失うかもしれないという恐怖を基礎として創設されうるのは暴政だけ」とも。人間には精神的な側面もありますが、身体的側面だけが強調されると、それはもはや人間にふさわしくない、ということです。権利・手段・条件であったはずの健康が、絶対的な義務へと転倒し、ロックダウンをはじめとする強硬な政策が正当化されてきました。

②「新型コロナワクチンのことを専門家に任せるべき」という命題は、國部氏によって、「専門家は信用できない」と覆されます。國部氏が引き合いに出すのは、スペインの哲学者オルテガ・イ・ガセット(1983~1955年)です。その主著『大衆の反逆』によると、いわゆる専門家は、自分が携わる狭い領域についてはよく知っているが、それ以外については必ずしもそうではなく、往々にして無知である、ということです。にもかかわらず、自分が知らない領域についても、専門分野におけるような傲慢な振る舞いを見せる傾向がある、とも。こうした傾向については、これまでテレビ等で繰り返し見られてきた場面が、思い当たるでしょう。國部氏は、専門家は確かに専門的な立場からデータを提供してくれるが、判断は結果を引き受ける責任を持つ我々しかできない、と論じます。

③「因果関係は科学的に解明される」という命題に対しては、因果関係は科学的な視点だけでは特定できない、と反論されます。18世紀英国の哲学者デヴィッド・ヒューム『人性論』の因果関係は元をたどれば心理的な印象である、といった所説に基づき、因果関係は科学的に完全に論証できず、事前に定義されたものを検証している場合が大半、とされます。

④「社会のために尽くすことが利他」という命題に対して、國部氏は「利己を貫くことが利他」と切り返します。引き合いに出されるのは西田幾多郎(1870~1945年)の『善の研究』で、「個人の善ということは最も大切なるもので、凡て他の善の基礎となる」「余は自己の本分を忘れ徒に他のために奔走した人よりも、能く自分の本色を発揮した人が偉大であると思う」という言葉が引用されます。その上で國部氏は、利他の強要は、最も自分勝手な行為で、自分を大切にすることが他人、社会を大切にすることにつながる、と説きます。道元の「自利利他同事」という言葉も紹介されます。

この問題に関しての私の補足ですが、ワクチン接種開始時に、「思いやりワクチン」と称した一大接種キャンペーンが展開されたことが、想起されます(注7) 。思いやりは一見美徳ではありますが、ワクチンの安全性に懸念を抱いて接種を拒否した人が、思いやりのない自己中心的な人間として非難されかねない、という危険な側面もあったのではないでしょうか。また、この議論全体の前提は、コロナワクチン接種を受ければ、他者への感染伝播を阻止できる、というものであるように思われます。けれども実際には、欧州議会でファイザーの幹部が、自分達はワクチン接種が感染伝播を防ぐかどうかの実験を、市場投入前にそもそもしていなかった、と2022年秋に正式に証言しています(注8) 。当初盛んにメディアで喧伝されたファイザーワクチンの感染予防効果「95%」も、「100人中95人に有効」という意味では全くなく、想定よりもはるかに低いことが、当該のファイザー研究者らの論文に内在する分析により、判明しています(注9)。

<注釈>

(注1)ISF主催公開シンポジウム:WHOパンデミック条約の狙いと背景〜差し迫る人類的危機〜・第1部(岡田元治ISF代表理事、川田龍平・参議院議員、池田利恵・日野市議)、第3部まである。https://isfweb.org/post-30764/

(注2)レプリコンワクチンのリスクについては、免疫学者の荒川央博士が、「自己増殖型のワクチン」として名指しし、「事実上の簡易型人工ウイルス」、「大規模人体実験場」としての日本、といった刺激的な表現を用いて、警鐘を鳴らしています。荒川央、note:「日本におけるレプリコンワクチンの世界初の承認」、2023年12月9日。https://note.com/hiroshi_arakawa/n/na616d625c09d

(注3)ホリスティック医学は、「人間を『体・心・気・霊性』等の有機的統合体ととらえ」、「自然治癒力を癒しの原点」におき、「西洋医学の利点を生かしながら中国医学やインド医学など各国の伝統医学、心理療法、自然療法、栄養療法、手技療法、運動療法などの各種代替療法」も生かし、「病の深い意味に気づき自己実現をめざす」と説明されています。本稿の主要視座である哲学・倫理学とも関係が深い医療の方向性であると思われます。
日本ホリスティック医学協会:「ホリスティック医学の定義」
https://www.holistic-medicine.or.jp/learn/definitions/
(注4)いわゆる「マスメディアの沈黙」と並ぶ「専門家の沈黙」とも名指しうるこうした傾向については、拙著『ウクライナ・コロナワクチン報道にみるメディア危機』(本の泉社、2023年6月)第3章第4節「思想としてのコロナワクチン禍試論」で指摘しましたが、その後も抜本的な変化はないように思われます。本稿で後に言及する2020年11月の『現代思想』のワクチン特集号は、コロナワクチン投入に先駆けて重要な批判的論考を複数掲載していますが、実際に膨大な有害事象が報告されてから、そうした特集が組まれることは残念ながらありませんでした。

(注5)『産経新聞』:「異論許さぬ空気感に潜むもの 神戸大大学院教授・國部克彦氏」、2023年2月2日配信。
https://www.sankei.com/article/20230202-TJRJQBZWAVPIREOBFW6ZUPD4OI/

(注6)島崎隆「書評:倫理学からのコロナワクチン後遺症への詳細で説得的な考察―國部克彦『ワクチンの境界 権力と倫理の力学』」、2023年7月21日。
https://isfweb.org/post-24415/

(注7)「#思いやりワクチン『親孝行』篇 15秒」
記事はこちら
他に、親子編、カップル編、友達編等があり、当時の接種推進キャンペーンの充実ぶりがうかがえます。人間関係の大部分が、思いやりという一見美しく反対し難い言葉に、絡め取られた印象があります。

(注8)Medica Life: Pfizer Confirms mRNA Vaccine Never Tested for Preventing COVID Transmission. October 12, 2022.
https://medika.life/pfizer-confirms-mrna-vaccine-never-tested-for-preventing-covid-transmission/

(注9)荒川央、note:「嘘と統計:数字のトリック」、2021年6月14日。
https://note.com/hiroshi_arakawa/n/nddb8a5dbb72a
同「ワクチン有効率95%は本当か?: マサチューセッツ工科大学 (MIT) の総説論文から」、2021年7月13日。
モデルナワクチンについてもファイザーワクチンと同様のトリックがあることが明らかになっています。岡山商科大学所属の村岡潔医師は、メディアが問題にしていた相対的リスク減少は94.1%だが、絶対的リスク減少(「真の防御率」)は1.2%であることを、厚労省資料に基づいて算出しました。「大数による新型コロナウイルス感染症等の統計学的検討」、『医学史研究』、第103・104合併号、2022年、7-20頁

 

國部克彦・神戸大学教授の講演「ワクチンをめぐる倫理」を聴講して ―哲学・倫理学の英知を焦眉の現実問題の分析に生かす(下)に続く

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嶋崎史崇(市民記者・MLA+研究所研究員) 嶋崎史崇(市民記者・MLA+研究所研究員)

しまざき・ふみたか 1984年生まれ。MLA+研究所研究員。東京大学文学部卒、同大学院人文社会系研究科修士課程(哲学専門分野)修了。著書に『ウクライナ・ コロナワクチン報道にみるメディア危機』(本の泉社、2023年6月)。記事内容は全て私個人の見解。主な論文に「思想としてのコロナワクチン危機―医産複合体論、ハイデガーの技術論、アーレントの全体主義論を手掛かりに」(名古屋哲学研究会編『哲学と現代』第39号、2024年)。論文は以下で読めます。 https://researchmap.jp/fshimazaki 記事へのご意見、ご感想は、以下までお寄せください。 elpis_eleutheria@yahoo.co.jp

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