権力者たちのバトルロイヤル西本頑司 第55回 北朝鮮「竹島侵攻作戦」

西本頑司

シミュレーション

2024年、アジア情勢はどうなるのか? 実は、台湾有事以上に日米軍当局が警戒しているのが「北朝鮮」の動きだ、という話がある。
もちろん、恒例となった日本近海へのミサイルの発射ではない。
驚くことに北朝鮮による「竹島侵攻」の可能性を日米軍当局が真剣に検討しているというのだ。

そこで今回は、北朝鮮による「竹島侵攻作戦」とはいかなるものか、シミュレーションを試みたい。

いま現在、北朝鮮はロシアによるウクライナ侵攻で最も利益を得た国のひとつである。
2011年、金正日の急死で引き継いだ金正恩国務委員長の権力が、ようやく盤石になってきた。
ここが重要な点なのだ。

事実、国家指導者になりながら、正恩王朝は常に不安定な状況が続いていた。
2013年にナンバー2の張成沢元国防副委員を粛正、2017年の異母兄・金正男暗殺も、権力基盤の脆弱さが原因だったといわれている。

しかも同年、米朝首相会談の失敗で国際的な恥をかかされたドナルド・トランプ米大統領(当時)は、その報復としてワームビア法と呼ばれる厳しい経済制裁に加え、米軍には「斬首作戦」を命じていた。
そのため正恩体制は崩壊の危機を迎え、自身も表舞台から一度姿を消す。
厳しい経済制裁とコロナ禍のダブルパンチで北朝鮮経済は壊滅、オリンピックやサッカーW杯といった国際スポーツイベントに選手団を送り込めなくなるほどだった。
食糧不足とエネルギー不足で、いつクーデターが起きても不思議ではなくなっていたのだ。

それが2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻するや、北朝鮮を取り巻く情勢は一変した。
ロシア軍で兵員や武器弾薬が不足すると、ウラジーミル・プーチン大統領は、同じくアメリカと西側から厳しい経済制裁を受けている北朝鮮に、武器弾薬の供給と北朝鮮兵の「参戦」をオファー。
これを受諾したことによって、ロシアから経済制裁でだぶついていたエネルギー資源(石炭・重油)と穀物などを大量に獲得。
ロシア向けの軍需産業はフル生産となり、いまや北朝鮮は「ウクライナバブル」の様相を呈しているほど。

この「バブル景気」で常に不安定だった正恩体制は、ようやく安定してきたといわれている。
2022年以降、景気よくミサイルの発射を繰り返し、機嫌のいい姿を見せているのも「余裕」が出てきた証拠であろう。

そう、日米の当局は、この「余裕」を危険視している。
2024年以降、「偉大な国家指導者を世界に見せつける」とばかりに大胆な軍事行動を起こすのではないか、と。
そんな北朝鮮の軍事行動予測のなかで「最悪の軍事オプション」。
それが、今回とり上げる「竹島侵攻作戦」だったのである。

北朝鮮の「独島」

周知の通り、「竹島」(島根県)は日本がポツダム宣言の受諾後、旧日本軍が武装解除となった軍事空白期、独立した韓国軍が軍事占拠し、現在に至るまで韓国名「独島」と呼んで実効支配を続け、日韓最大の懸案事項のひとつとなってきた。

この竹島領有問題だが、実は北朝鮮も領有を宣言している。
韓国の支配領域は、すべて北朝鮮の領土と考えているためだ。

そこで先の竹島侵攻作戦である。
「韓国が不法占拠している我が領土を取り戻す」と、竹島に向けて潜水艇で精鋭部隊を送り込んで制圧しようという軍事プランだ。

北朝鮮は小型の潜水艇を使い、コマンド部隊を敵地に送り込む軍事作戦を得意としている。
しかも竹島は韓国警察の部隊が管理している。
たいした装備はなく、潜水艇による上陸を想定した防衛施設は存在しない。
日本の自衛隊は軍事行動ができないために、その程度で十分とされていたのだ。

そこに北朝鮮軍の特殊作戦に従事する精鋭中の精鋭部隊が乗り込んでくれば、当然、簡単に制圧される。
しかも配備部隊を人質にして「北朝鮮の領有を認めなければ人質返還には応じない」と、上陸部隊がそのまま竹島に「立てこもる」と予測されているのだ。

島嶼(離島)が一時的に敵勢力に占拠されたとして、通常の「領土」ならば軍の特殊部隊を送り込めば解決する。
自衛隊と韓国軍は、島嶼用の特殊部隊を保有している。
本来ならば北朝鮮部隊が島を一時占拠したところで軍事的な脅威はない。

問題は「竹島」という点にあるのだ。
事実、北朝鮮部隊によって韓国警察部隊に死傷者が出て、多くの人質を抱えたまま島に立てこもった場合でも、韓国軍の特殊部隊を送り込むことはできない。
日本政府が竹島の領有を主張している以上、竹島で韓国軍の軍事行動を“容認”した場合、国際法上、日本は竹島の主権を放棄したと見なされる。
韓国軍の軍事行動を認めるわけにはいかないのだ。
竹島を実効支配しているのが韓国警察なのもそれが理由だ。
逆に自衛隊を送り込むことも、韓国政府の反対によってできないだろう。

さらに「やっかい」なのは、日韓両国と軍事同盟を結んだ米軍すら「動けない」という点なのだ。もちろん世界最強の呼び声の高い米海兵隊「シールズ」(特殊作戦部隊)で北朝鮮部隊の制圧は可能だろう。
しかし、そうして島を奪還したあと、日本と韓国、どちらに「返還」するのか、という「やっかい」な問題が生じてくる。
係争地として国際司法裁判所の判断に委ねようにも、もともと韓国政府は「国際司法裁判所に委ねよう」という日本からの打診を断り続けている以上、受け入れることはあるまい。
日・米・韓3カ国が「3すくみ」となって対処不能となりかねないことが理解できよう。
結果、北朝鮮部隊の不法占拠状態が長期化していくと、分析されているわけだ。

米日韓の破綻

現在の韓国・尹錫悦政権は、親米路線へと転換している。
前の文在寅政権で悪化した日韓関係も改善。
安倍晋三政権時代、韓国を狙い撃ちにしてきた“輸出規制”も解除となり、多くの韓国人旅行者で賑わうようになった。
この10年来では、両国の関係は最も良好といっていい。

同様にアメリカとの関係も良くなっている。
これまで韓国は生産拠点や貿易相手などで中国への依存度が高く、親中路線をとっていた。しかし、バイデン政権が対中規制を強化するなか、尹政権は、これ以上の親中路線は「西側から排除される」と判断、ロシアによるウクライナ侵攻後は、日米韓3カ国の軍事関係強化にも応じてきた。
そんな3カ国の関係が、北朝鮮の「竹島侵攻作戦」で破綻しかねないのだ。

実際、韓国にとって「独島」は、単なる離島ではない。
この70年以上、独立と愛国のシンボルとなってきた。
豊かな漁業資源を誇る価値あるEEZ(排他的経済水域)と見なしており、国民が「竹島を誰かに奪われる」ことを絶対に許しはすまい。

先のシミュレーション通り、韓国警察部隊を人質にとり、日米韓の3カ国が奪還に動けず長期化した場合、間違いなく韓国世論が沸騰する。日本との関係が悪化しようが、かまわず韓国軍を送り込んで解決するよう政府に強く求めることだろう。しかし日本と韓国、これに台湾を加えて中国と極東ロシアを「封じ込める」というアジア戦略を展開してきたアメリカは、韓国と日本(自衛隊)の連携を壊しかねない暴走を容認はすまい。

そうなれば韓国世論は、再び反米へと振り切れても不思議ではなくなる。軍を派遣しない尹大統領の弾劾へと動きかねず、それを恐れた尹政権が、竹島占拠の解決を求めて中国とロシアに接近する可能性も出てくる。

なにより「やっかい」なのは、竹島侵攻作戦の可能性が指摘されたところで、現状、防ぐ手立てがないという点であろう。
小型潜水艇による侵攻作戦は、「世界一の対潜哨戒能力」を持っている自衛隊ならば上陸前にキャッチして防ぐことは十分可能といっていい。
しかし、竹島を実行支配している韓国は、竹島近海に自衛隊機や護衛艦の接近を認めていない。
2018年には自衛隊のP1対潜哨戒機に韓国の軍艦が火器管制レーダーを照射、ロックオンする事件を起こしているよう、この海域で自衛隊が警戒任務につくわけにいかないのだ。

米軍にせよ、アジアにおける担当エリアは、ハワイ・グアムを結ぶ太平洋からマラッカ海峡、インド洋方面と広大なために日本海まで手が回らず、自衛隊へと割り振っている。

しかも韓国軍の対潜哨戒能力は、世界第5位という軍事力とは思えないほど「低い」。
もともと日米という対潜哨戒能力のトップ2が周辺海域をカバーしていることもあり、北朝鮮の潜水艇や武装工作船は「韓国国内に上陸してから対処する」という方針で、北朝鮮本土から竹島まで、ぽっかりと哨戒網が途切れているのだ。作戦の成功率は極めて高い、そう言わざるをえまい。

金正恩の「力」

金正恩にすれば、この竹島侵攻作戦は、軍事作戦としての難易度とコストは低く、しかも成功率はすこぶる高いのである。
それでいて世界にインパクトを与え、連携を強める日米韓の3カ国の関係まで破壊できる。
韓国が反米や反日に舵を切り、中国へと接近すれば、極東アジア情勢は、中国やロシアへと傾く。
そうなれば台湾の人々も、独立よりも統一へと揺らごう。
日本・韓国・台湾・ベトナムという親米国家で中国を封じ込めるアメリカの国家戦略までガタガタにするという極めて大きな「戦果」が期待できるのだ。

実際、占拠された状態で軍を上陸することなく解決しようとすれば、「長距離ミサイルで人質ごと爆破する」しか手段はない。
「命を捧げる」ことを求められている軍人ならまだしも、警察官にそれを要求できないし、当然、それを命じれば尹政権は国内外から猛烈な批判を浴びる。
その報復に金正恩が韓国領土にミサイルを撃ち込む懸念も出てくるだろう。

考えてみれば父・金正日は、祖父の金日成に嫌われながら数多くの「軍事作戦」で自身の権力を盤石にしてきた。
日本人拉致を計画遂行し、全斗煥大統領(当時)を襲撃したラングーン事件(1983年)、さらに世界中に衝撃を与えた大韓航空機爆破事件(1987年)といった一連のテロ活動すら平然と行ない、軍部と官僚、党の幹部を力で従えてきた。
独裁権力は力をともなわなければ維持できないことを証明してきたのだ。

金正恩の「力」は、これまで身内の粛正へと向かっていた。
食糧やエネルギー資源を確保したとはいえ、自らの力で勝ち得たものではない。
権力を盤石にするには、大きな「戦果」が必要なのは、金正恩自身、強く感じていることだろう。「北朝鮮なら(どんなことでも)やりかねない」。
そう思わせることが、実父・金正日が生み出した北朝鮮の生き残り国家戦略「瀬戸際外交」。
それを真の意味で継承するには世界が驚く大胆な軍事行動を成功させる必要があり、その点で「竹島侵攻作戦」は打ってつけの軍事オプション。
決して絵空事ではないことが理解できよう。

もし、この作戦が決行された場合、繰り返すが、極東アジア情勢は大きくゆらぎかねない。
とくに2024年は米大統領選が11月まで続く。
世論調査でドナルド・トランプ優勢が伝えられているが、トランプは極端なまでに戦争を忌避してきた例外的な米大統領といっていい。
またバイデン2期目となった場合でも、ウクライナに続き、イスラエルが戦争状態となっている以上、北朝鮮まで相手にする余裕はない。
そして中国やロシアにすれば、反対する理由はないだけに静観しよう。

作戦決行のXデーは、米大統領選が佳境となる夏から秋と予想されている。
今回は「噂」を元に分析してみたが、調べれば調べるほど「本当にやりかねない」「やった場合、最悪の状況になりかねない」のである。

(月刊「紙の爆弾」2024年1月号より。最新号の情報はこちら→https://kaminobakudan.com/

 

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

ISF主催公開シンポジウム:鳩山政権の誕生と崩壊 ~政権交代で何を目指したのか~

ISF主催トーク茶話会:斎藤貴男さんを囲んでのトーク茶話会のご案内

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」

 

西本頑司 西本頑司

1968年、広島県出身。フリージャーナリスト。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ