評論:オリヴァー・ストーン監督作品『JFK/新証言 知られざる陰謀』鑑賞の勧め 「回転ドア人事」と「部屋の中のゾウ」現象に注目

嶋崎史崇(市民記者・MLA+研究所研究員)

※作品の内容に触れているところがありますので、未見の方はご注意ください。本作についての情報は、日本語版公式パンフレットで確認しています。

オリヴァー・ストーン氏は、いわずと知れた現代の米国を代表する監督の一人です。自身が従軍したベトナム戦争を扱った『プラトーン』(1986年)、米諜報機関の巨大なスキャンダルを描いた『スノーデン』(2016年)、プーチン大統領への本格的取材を敢行した『プーチン・インタビュー』(17年)等、様々な切り口で米国の在り方を批判的に見つめてきました。今回ご紹介するのは、米国では21年に、日本では23年11月に公開された『JFK/新証言』(原題:”JFK Revisited through the looking glass”)です。実在の検事の著書を基にした劇映画『JFK』(91年)の問題意識を継承し、1994年の「暗殺記録再評価委員会」以来、順次公開された資料や新しい証言を踏まえつつ、ドキュメンタリー作品として制作したものです。上映館はミニシアター系が多く、日本の一般メディアもそれほど大きく取り上げているとはいえないため、そもそも上映されていること自体に気付いていない方も、多いのではないでしょうか。

63年11月のジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件から60年がたちました。同じく暗殺された弟のロバート・F・ケネディ元司法長官の息子であるR・F・K・ジュニア氏は、2024年大統領選に独立系候補として出馬を表明し、二大政党の候補者の勝敗に影響を与えうる支持率を獲得しつつあります。ジュニア氏は本作の末尾に出演し、父がCIAを疑っていた、と証言しています。

日本メディアで特に多くの注目が集まっているとはいいがたい状況の中、連載で取り上げたのが『東京新聞』です。
『銃撃の残響 ケネディ暗殺事件60年』、ウェブでは2023年11月19日からの3回連載。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/290919

この連載によると、あくまで正しいのはリー・H・オズワルド単独犯説という63年のウォーレン委員会の“公式見解”であり、他に狙撃者がいたという見方は、新しい資料を吟味した上でも、無根拠な「陰謀説」にすぎない、とのことです。こうした見方を、公文書の読解と緻密な論理構成によって根底から覆し、公式見解に対する非常に強い疑義を突き付けるのが本作である、といっていいでしょう。

まずはケネディの体を貫き同行していたテキサス州知事の手首に命中し、何と7カ所もの傷をつけたとされる「魔法の弾丸」。物理的にみてほとんどありえないことであり、狙撃された知事自身も、1発の弾丸の貫通説を疑っていました。

公式見解によれば、ケネディは後方から狙撃されたことになっていますが、解剖した医師は前方からだった、と証言していました。ところが圧力により、後にその証言を覆します。しかも検視現場でとられたメモが破棄されるなど、証拠隠滅が画策されました。

しかもオズワルドが射撃をしたとされるダレスの教科書ビルにいた証言者の女性は、彼を見ていないと述べており、そもそも彼が現場にいたのかも、疑わしくなっています―このことは、再評価委員会により明らかになった事実だとされます。凶器とされた銃を巡っても、彼のものだと立証しているとされた写真に、根本的疑義が呈されています。

無罪を主張していたのに、正式に証言する前に殺害されたオズワルドが、過去にソ連に亡命したことがあるのは、よく知られているでしょう。ただソ連亡命者が米国に戻ることは容易ではないはずなのに簡単に帰国を許され、しかも彼の名前はCIAの諜報員リストに載っていました。FBIが彼を、暗殺事件の直前に危険人物リストから除外したことも、大変不可解です。

オズワルドとCIA、そして彼の厚木基地時代については、次の記事も参考になります。
The Intercept: Lee Harvey Oswald, the CIA, and LSD: New Clues in Newly Declassified Documents. 2022年12月19日。
https://theintercept.com/2022/12/19/lee-harvey-oswald-cia-lsd-jfk/

ストーン監督はかねてケネディ暗殺事件はCIAの仕業、という持論を展開してきました。実はケネディは、キューバを巡る1961年のピッグス湾侵攻事件や、コンゴ独立、ベトナム戦争からの撤退、ソ連との和解政策等を巡り、CIAと対立しており、アレン・ダレス長官ら幹部3人を解任する等、激しい攻防がありました。もちろんこうした事情がCIA関与説を決定的に立証するわけではありませんが、動機と能力、状況証拠を踏まえると有力であろう、という見方だと思います。

私がウォーレン委員会について最も気になるのは、以上の事情から容疑者の筆頭格であることがわかるダレスが名前を連ね、「陰謀は存在しない」という結論を主導したことです。レイセオン・テクノロジーズという大手軍事企業の取締役だったロイド・オースティン氏が国防長官を務め、ワクチンを含む医薬品の認可に関わるFDA長官だったスコット・ゴットリープ氏が退任後にファイザー取締役に転じたこともありました。ダレスによるウォーレン委員会の支配は、違法ではなくても、公正ではありえない回転ドア人事の最たるものではないでしょうか。誰が真犯人かを最終的に確定するのは容易でなくても、こうした委員会の結論=主張を鵜呑みにすることは極めて危ういことは、認めざるを得ないでしょう。76年の下院調査委員会が、オズワルド以外の射撃者が暗殺に関わった陰謀の可能性を正式に認めているという事実も、今日の日本では忘れられているのではないでしょうか。

オースティン氏の経歴:
https://www.defense.gov/About/Biographies/Biography/Article/2522687/lloyd-j-austin-iii/

ゴットリープ氏の経歴:
https://www.pfizer.com/people/leadership/board_of_directors/scott_gottlieb-md
JFK Assassination Records(下院委員会の資料):
https://www.archives.gov/research/jfk/select-committee-report/summary.html

ダレスとウォーレン委員会についてのプリンストン大学の資料:Allen Dulles and the Warren Commission.2013年11月24日公開。
https://universityarchives.princeton.edu/2013/11/allen-dulles-and-the-warren-commission/

本稿冒頭で言及した連載記事のように、あくまでウォーレン委員会の公式見解が正しい、と報道=主張するのは、もちろん自由です。けれども、この時期にあえてそうした方向性の議論を展開するならば、ストーン監督の新作に出ているような見方を考慮に入れ、徹底的に反論することは、本来必須であるはずです。けれどもこの連載では、旧作にのみ一言言及するのみにとどまっています。しかもストーン監督が勝手に独りで壮大な妄想を繰り広げているわけでは、決してありません。米国はもちろん、日本でもベテラン研究者である土田宏氏の『アメリカの陰謀 ケネディ暗殺と「ウォーレン報告書」』(彩流社、2023年11月)のように、学問の世界から呼応する動きがあることも、無視してはならないでしょう。

他方で、『産経新聞』のように、ストーン監督に直接取材し、「このドキュメンタリー映画は利益のために作ったのではなく、米国の記憶のため、世界の記憶のため、人類の記憶のために作ったと言っても過言ではない」という貴重な証言を取ってきたメディアもあることを、知っておきたいです―ただしあくまで単なる映画の紹介という扱いで、自ら事件を主体的に検証しているわけではありません。
「真相解明は歴史の責務 JFK新証言をドキュメンタリーに オリバー・ストーン監督」、2023年11月11日。
https://www.sankei.com/article/20231111-CF3LDLGWDJOIVH3OYPJ4S6GWHQ/

“公式見解”に反する膨大な数の事実や疑惑が存在し、少なからぬ有識者が指摘しているのに、多くのメディアがあえて伝えないことで、一方的な見方のみが自明とみなされ、拡散される構図。ストーン監督が『ウクライナ・オン・ファイヤー』(2016年)、『リヴィーリング・ウクライナ』(仮邦題『乗っ取られたウクライナ』、19年)で緻密に考証した米国によるウクライナへの「クーデター支援」や、ISFが重視してきた9・11事件、コロナワクチン薬害問題とも共通する「部屋の中のゾウ」現象の原点の一つが、JFK暗殺事件ではないでしょうか。
二つのウクライナ作品については、以下の拙論をご覧ください。「映画に学ぶウクライナ侵攻の前史―特に『ウクライナ・オン・ファイヤー』と『リヴィーリング・ウクライナ』を巡って」(全3回の連載)、2023年5月11日~。
https://isfweb.org/post-20024/

私は当然ながら、ストーン監督の結論を、唯一絶対正しいものとして押し付けるつもりはありません。反論も可能でしょう。東京のシモキタ-エキマエ-シネマK2やkino cinema立川高島屋S.C.館をはじめ、1月から上映を開始する映画館もありますので、ご自分で鑑賞して、判断していただきたいです。

なおケネディ暗殺事件については、ISF主要寄稿者の浜田和幸氏も動画で解説していますので、ご著書『政治力と戦略で読み解く武器としての超現代史』(学研、2016年)第4章「ケネディ暗殺―通貨ドルとベトナム戦争の関係」と併せてご覧ください。この著作で言及されるケネディによる(日銀と同じく一民間銀行にすぎない)FRBから財務省への通貨発行権委譲計画、核兵器全廃宣言にも注目していただきたいです。
「ケネディ暗殺の再検証(浜田和幸・元参議院議員、木村朗ISF独立言論フォーラム編集長)」、2022年12月1日。
https://isfweb.org/post-11024/

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嶋崎史崇(市民記者・MLA+研究所研究員) 嶋崎史崇(市民記者・MLA+研究所研究員)

しまざき・ふみたか 1984年生まれ。MLA+研究所研究員。東京大学文学部卒、同大学院人文社会系研究科修士課程(哲学専門分野)修了。著書に『ウクライナ・ コロナワクチン報道にみるメディア危機』(本の泉社、2023年6月)。記事内容は全て私個人の見解。主な論文に「思想としてのコロナワクチン危機―医産複合体論、ハイデガーの技術論、アーレントの全体主義論を手掛かりに」(名古屋哲学研究会編『哲学と現代』第39号、2024年)。論文は以下で読めます。 https://researchmap.jp/fshimazaki 記事へのご意見、ご感想は、以下までお寄せください。 elpis_eleutheria@yahoo.co.jp

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