「知られざる地政学」連載(21) :「ゴキブリ政治家」を退治せよ:日本も「感情的二極化」に向かうかどうかの分水嶺(下)
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政治倫理違反
つぎに、裏金問題について論じてみよう。ここでの関心は政治倫理違反である。もちろん、法的にどう裏金づくりにかかわった政治家を罰するかは重大な問題だが、ここでの関心はもっと根本的な問題、すなわち、政治家の内的義務にかかわる政治倫理を守らないという行為にある。倫理(モラル)のない「ゴキブリ政治家」がはびこることになる。
1989年5月23日付の自民党・政治改革大綱には、「政治改革の内容」の第一番目に「政治倫理の確立」があげられている。そして、つぎのように書かれている。
「国民の信託によって国政をまかされる政治家は、国民全体の代表としての立場をつねに自覚し、かりそめにも国民の信頼にもとることのないようつとめなければならない。かつてわれわれは、衆参両院において「政治倫理綱領」を定めたが、政治家が保つべき政治姿勢の指針はまさにここに言いつくされている。したがってわれわれは、政治倫理綱領の遵守を政治家としての資格の第一義とし、自らにきびしくこれを課す決意をあらたにする。」
ここでいう「政治倫理綱領」とは、1985年の国会法の改正に伴って、衆議院と参議院でそれぞれ議決されたものだ。この綱領をもとに、国会議員が遵守すべき具体的な準則として「行為規範」が制定されている。衆議院の政治倫理綱領では、「政治倫理の確立は、議会政治の根幹である。われわれは、主権者たる国民から国政に関する権能を信託された代表であることを自覚し、政治家の良心と責任感をもつて政治活動を行い、いやしくも国民の信頼にもとることがないよう努めなければならない」としたうえで、その4項目に、「われわれは、政治倫理に反する事実があるとの疑惑をもたれた場合にはみずから真摯な態度をもつて疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう努めなければならない」と記されている。
いま、この建前を抽象的に書いた文書を読んで、多くの国民はどう感じるだろうか。政治資金収支報告書への記載を怠った議員は全員政治倫理綱領に明らかに違反している。「ゴキブリ政治家」のオンパレードなのだ。
「ストップ、絶対アカン・ゴキブリ野郎!」(Stop, absolutely not. Cockroaches!)
そこで、提案がある。最優先の提案は、「ストップ、絶対アカン・ゴキブリ野郎!」(Stop, absolutely not. Cockroaches!)をスローガンにして、検察から事情聴取を受けた安倍派の7人を対象に、次期国政選で必ず落選させる国民運動を展開することだ。その7人は、下村博文・元文部科学相、松野博一・前官房長官、西村康稔・前経済産業相、高木毅・前党国会対策委員長、塩谷立・元文部科学相、世耕弘成・前党参院幹事長、萩生田光一・前党政調会長である。法的起訴は免れたとはいえ、彼らの政治倫理違反を看過することはできない。ステッカーやプラカードをつくって、彼らの選挙区でデモ行進を繰り返すことを提案したい。
裏金づくりの張本人でありながら、いまさら「知らなかった」と嘘をつく人たちには、倫理観そのものが欠如しているといわざるをえない。自分さえよければ、法律違反さえしなければ、どんな「悪」にも手を染めかねない連中が国民の代理人たる議員になることは許されない。
他の自民党員については、自民党が2024年1月からはじまる通常国会で、政治資金規正法を改正し、会計責任者と政治家本人との連座制の導入、収支報告書への不記載・虚実記載への厳罰化、政治資金の流れのデータファイル化といった改正を実現しなければ、同じ政党に属しながら、多数の「ゴキブリ政治家」を看過してきた責任をとらせるために次期国政選挙において、同じようにお灸をすえる必要があるだろう。
「感情的二極化」(affective polarization)の危機
この文章を書いていて、自分自身が感情的になっていることに気づく。「ストップ、絶対アカン・ゴキブリ野郎!」というスローガンがそれを象徴している。だが、いま、こうした明確な「悪」を叩き潰しておかなければ、アメリカのような「感情的二極化」(affective polarization)が日本でも生じてしまうのではないか、と危惧される。同時に、怒りという感情が「ストップ、絶対アカン・ゴキブリ野郎!」と叫ばせている。
2019年に公表された論文「米国における感情的二極化の起源と結果」には、「一般のアメリカ人は、他党の議員をますます嫌い、不信感を募らせている」とか、「民主党も共和党も、相手党の党員は偽善的で利己的で閉鎖的だと言い、党派を越えてつき合おうとしないし、他のさまざまな活動で相手党と組むことさえ嫌がる」と指摘している。こうした当事者間の反感の現象が「感情的二極化」と呼ばれる現象だ。
おそらく「ゴキブリ政治家」を退治できない政党は、他党からゴキブリ並みに嫌悪の目でみられることになるだろう。さらに、「ゴキブリ政治家」を議員にする選挙区の住民に対しても、偽善的で利己的で閉鎖的だという目が注がれることになるだろう。そして、感情的二極化がより深まるだろう。だからこそ、大多数が嫌う「ゴキブリ政治家」を一掃しなければならないのだ。「ゴキブリ政治家」だらけの国会を正常化・清浄化することが最低限の必須事項なのである。そうしない政党、つまり、「ゴキブリ政治家」を飼いつづける政党はもはや感覚的に嫌われる「ゴキブリ政党」となるだろう。自民党が「ゴキブリ政党」のままであれば、感情的二極化はアメリカ並みに深刻化するに違いない。
「ゴキブリ政治家」の範囲
もちろん、「ゴキブリ政治家」は自民党以外にもいる。「政治家の良心と責任感をもつて政治活動を行い、いやしくも国民の信頼にもとることがないよう努めなければならない」という記述に反する政治家がたくさんいると指摘せざるをえないからである。とくに、不祥事が頻発する維新の会には、「ゴキブリ政治家」がうじゃうじゃ物陰に隠れていると書いておこう。「ゴキブリ政治家」が逃げ出す先として国民民主党があるかもしれない。あるいは、日本保守党というよくわからない政党もある。
「ゴキブリ政治家」の周辺には、国会に帰属する自民党議員もいれば、他党の議員もいる。いわば、同じ国会という組織に属すことで、残念ながら「甘えの構造」を享受している。本来、衆参両院には、「政治倫理審査会」(政倫審)がある。しかし、今回の裏金問題をめぐっては、政倫審は2024年1月22日現在、開催されていない。
2023年12月21日、立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党の野党4党は参院国会対策委員長らが会談し、参院政倫審を開催するよう申し入れることで合意、会談後、与党側に伝えた。政倫審は、議員が著しく法令違反を疑われる場合、委員の3分の1以上の申し立てにより、出席委員の過半数の議決を経て、審査が開かれる。現在の政倫審の委員15人のうち、野党4党を合わせると3分に1にあたる5人となる。野党4党は、自民党の安倍派から1000万円を超える裏金の還流を受けたとの疑惑が報じられた世耕弘成・前参院幹事長らの説明を求めたいとしている。
だが、この政倫審での審査は「茶番」にすぎない。そもそも、政倫審は「甘えの構造」のなかで生まれた倫理性の脆弱な日本の「産物」にすぎない。「ゴキブリ政治家」は国会という内部にあって、議員に「甘い」政倫審をかたちばかりつくっているにすぎない。そう、本当は国会議員のなかに「ゴキブリ政治家」並みの政治倫理しかもたない人物がたくさんいる。その結果として、政治倫理を遵守させる制度さえまともに制定できないできたのである。
本当は、政倫審のメンバーに外部者を入れ、同時に、その外部者の資格について法的素養を不要とすることが最低限求められている。さらに、倫理違反の申立てを議員以外にも認める必要がある。英国は、国民にも申立てを認めている。こうすれば、政治倫理違反の絶えない政治家も緊張感をもって仕事をするようになるだろう。多くの「ゴキブリ政治家」だけに倫理性の有無を委ねても、「甘い」判断しかできない。しかも、「ゴキブリ政治家」の繁殖率はきわめて高い。
「ゴキブリ政治家よ、去れ!」
残念ながら、日本独特の「甘えの構造」のなかで、「ゴキブリ政治家」は100%生き残るだろう。「ゴキブリ政治家」の徘徊に慣れきってしまった国民の声はまだまだ小さい。マスメディアの追及も緩い。その意味で、「ゴキブリマスコミ」だらけの状況が広がっている。「ゴキブリマスコミ」が「ゴキブリ政治家」と共生しているようにみえる。
「甘えの構造」は日本国民全体の問題だから、「ゴキブリ政治家」を議員に選んできた国民そのものが変わる必要がある。ただ、ここで指摘したような構造的問題点を意識できれば、一歩ずつでも日本の「ゴキブリ政治家」の退治を前に進めることができると信じたい。
ここでの問題提起は、見かけただけで嫌われるゴキブリと同じように、その存在そのものが唾棄の対象となる「ゴキブリ政治家」について語っているだけだ。ゆえに、冷静な気持ちを取り戻しつつ、もう一度、「ストップ、絶対アカン・ゴキブリ野郎!」と書いておこう。そして、「ゴキブリ政治家よ、去れ!」とダメ押ししておこう。
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1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。 著書:(2024年6月に社会評論社から『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』を刊行) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。