【連載】ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 メールマガジン
ノーモア沖縄戦

メールマガジン第151号:民衆の唄声ー反戦・反基地の力に

ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会

♪「ひと坪たりとも渡~すまい~」。自衛隊のミサイル配備が目前の沖縄県うるま市、陸自分屯地ゲート前で和やかな唄声が響いた。愛媛の「ノーモア沖縄戦・愛媛の会」を迎えた現地視察の場だった。

基地内には建設中の、大幅増員される自衛隊宿舎がそびえている。年度内には地対艦ミサイルが配備され、それはやがて中国にも届く射程1000キロ超の「敵機基地攻撃ミサイル」に切り替わる。周辺には小中高校、保育園やコンビニ、公民館、住宅が密集する。「戦時になればここがミサイルの標的になる」。ミサイル配備に反対するうるま市民の会の宮城英和事務局協長の、重く深刻な報告に続いて、宮城事務局長が朗らかに唄いだした。その場にいる市民の会のメンバーが和やかに唱和した。雰囲気が明るくほぐれた。

一坪たりとも渡すまい
『一坪たりとも渡すまい』は、1960年代後半、うるま市の前原高校生だった佐々木末子さんが作詞したそうだ。「高校生が反戦歌を!」。隔世の感に打たれた。筆者(新垣)は復帰の年、1972年の高校(コザ高校)入学だが、佐々木さんが歌にした「反基地反戦」の雰囲気は微塵もなかった。アメリカナイズされ、ロックバンドに熱中したのが高校時代だ。その少し前、山城博治さんや佐々木さんの世代は、60年代後半の激動期に高校時代をすごし、基地問題を生身で感じ取っていた。無理もない。1970年、前原高校の女子生徒が米兵にナイフで刺され、ひん死の重傷を追う事件が起きた。嘉手納基地にB52が墜落、大爆発し炎上。コザ暴動も起きた。うるま市にはメースB 、ハーキュリーズ核ミサイルが配備されていた。基地問題はまぎれもなく「現実問題」だったのだ。

そのような時代を過ごしたうるま市民の会のみなさんは、今も辺野古の現場に通い、地元では陸自ミサイル配備反対の声を上げ、街頭に立ち続けている。新聞記者上がりで偉そうなことを書くしか能のない筆者にとっては、宮城さん、共同代表の照屋寛之さんらのエネルギーが謎だった。
その一つが、明るい歌声だ。宮城さんは行く先々で唄っている。辺野古でも県庁前でも聴いた。すると周りが一緒に歌いだす。「一坪たりとも渡すまい~♪」。高校生が作った反戦歌はいまも歌い継がれているのだ。「固き土を破りて~♪」、「月桃ゆれて~ふるさとの夏♪」。不朽の反戦歌、名曲の数々が、「きょうも頑張ろう」という励ましになっている。

勝利の唄
それから基地撤去の成功体験がある。宮城事務局長の現場報告にもあったが、住民は1960年代の米軍による基地建設計画を不屈の闘志で撤回させた成功体験がある。それは地名にちなんで「昆布闘争」と語り継がれている。親たちの世代が強大な米軍に立ち向かった歴史の誇りでもあり、なにくそ、という元気の源でもある。それと何より、同級生が米兵に刺された、という忘れがたい現実体験。いたいけな児童が犠牲になった宮森小学校ジェット機墜落事件、女子児童が犠牲になった「由美子ちゃん事件」。忘れようにも忘れられない米軍、米兵事件の数々の記憶の継承が、「きょうも明日も」と市民を不屈の闘いに駆り立てているのだ。そうではないかと想像する。

そのようにあれこれ考えあわせる中でも、やはり現場で心を一つにする「歌の力」は大きいのでは、と想像する。沖縄の夏は暑い。ともすればくじけそうになりかけたとき、「海の青さと空の青~♪」、「ざわわ、ざわわ、ざわわ~♪」の歌声は、一服の清涼剤にもなり、あの戦争を忘れまじ、という新たな誓い、奮い立たせる活力になるのではないだろうか。

うるま市の自衛隊分屯地から米軍ホワイトビーチを「ノーモア沖縄戦・愛媛の会」のみなさんと視察したその晩。市内での交流会の席には、しっかりとカラオケセットがしつらえられていた。自己紹介と乾杯の音頭もそこそこに(失礼)、最初にマイクを握ったのは、やはり宮城英和事務局長。歌は藤山一郎「ニコライの鐘」。正直、なんの歌なのか、なぜこの歌なのかは、分からない。ともあれ歌好きなうるま市民は、遠慮がちな愛媛の方々を尻目に(失礼)、次々とマイクを握り、盛り上がった。そしてマイクを渡された私(筆者)は、満を持して、世界平和を願い、ジョン・レノンの「イマジン」を熱唱した。

アジア民衆の連帯へ
もちろんカラオケ三昧だったわけではない。愛媛の阿部悦子さんは、辺野古埋め立てに日本本土の土砂を使うことに反対する「全国土砂協」の取り組みを報告した。由来を知らなかった私は、そうだったのかと感動した。高井浩之さんは、沖縄に各国から集う「アジア民衆集会」を提案した。米軍の世界戦略によるアジア各地の軍事基地が次の戦争につながる諸悪の根源であり、アジア各国の民衆が集い声を上げて連帯し、日米が企てる「台湾有事」「朝鮮半島有事」の危機を阻もうというのである。私は、高井さんらしい構想の大きさに戸惑い、「実現できれば素晴らしいですね」と返すのが精一杯だった。

日米政府の力は大きい。まして韓国もフィリピンも米国寄りの保守政権である。日米政府のみならず、韓国、フィリピン、そして台湾政府も、米国の手のひらに乗っているようにすら見える。戦争に傾斜する流れを断ち切るには、犠牲になるアジア民衆が心を一つに「戦争反対」を訴えるしかないのか、とも思う。

争うよりも愛し合おう
そこで愚考するのだが、「アジア民衆集会」が実現するのであれば、「歌の力」が大いに役立つのではないだろうか。例えば喜納昌吉さんの『花』。平和を唄いアジアで大人気、各国語で歌われている。それぞれの国に平和を願う歌がある。今年の「慰霊の日」に沖縄では佐渡山豊さんらが「慰霊の日コンサート」を開いた。キロロやモンパチ、ビギン、HYも、ひょっとしたら安室奈美恵さんも賛同してくれるのではないか。沖縄で反戦運動の「全県組織化」をめざして連続開催している「平和集会」のテーマソング『争うよりも愛しなさい』もある。「歌の力」は平和を願う思いを強くし、言葉の壁を超えた連帯を生み出せると想像する。

その暁に私が歌いたいのはゴダイゴの『ビューティフルネーム』。それから『一人の手』。「ひとりの小さな手 何もできないけど それでもみんなの手と手を合わせれば 何かできる なにかできる♪」。「何かできる」と信じて、うるま市民のみなさまと一緒に唄い、活動し続けたい。

新垣邦雄(当会発起人)

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