【連載】ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 メールマガジン
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メールマガジン第156号:麻生氏「戦う覚悟」発言 日本は中国と戦うのか

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「台湾防衛のため防衛力を使う」
麻生太郎自民党副総裁が台湾で講演し、「日米、台湾は戦う覚悟を」と発言しました。一政治家の軽率な発言で済まされない重大な問題と考え、問題点を整理し提起します。

まず第一に、麻生氏は岸田政権を支える自民党の副総裁、ナンバー2であり、政権中枢の要職にあり、その発言は国政、中国、国際社会に多大な影響を及ぼしかねないことです。

麻生氏は中国抑止を名目に「戦う覚悟」を宣明しました。特にその中でも「いざとなったら台湾防衛のために防衛力を使う」(産経新聞)の発言は重大です。自衛隊が中国軍と戦う、つまり「抑止」から「対処」に踏み込んだからです。中国も事実上の「宣戦布告」と受け止めてもおかしくありません。
この発言で、中国側の日米との戦争に備える軍備が格段に強化されることが危惧されます。日米が琉球列島をミサイル要塞化する中で、対抗する中国の軍備が強化され、「偶発的な衝突」の危険性が高まるのは確実です。これまで以上に「戦争の危機」を一段と高めることになるでしょう。

第二に「台湾を守るために戦う」と明言したことです。言うまでもありませんが、「台湾」は日本ではありません。「台湾を守る」ために「中国と戦う」ことは中国の内政問題に介入することであり、「専守防衛」に明らかに反します。憲法違反であるこの発言に、多くの日本国民が強い違和感を覚え、反対すると思います。

一線越える挑発
布施祐仁氏(ジャーナリスト)は今回の発言に対して琉球新報に寄せたコメントで、麻生発言は「一線を越える中国への挑発」と批判しました。そのポイントは2点です。一つは、麻生氏の無責任な過剰発言が、中国の過剰反応を引き出し、戦争の危機が「現実の戦争」に陥る危険性を高めたこと。もう一つは、国内的には「専守防衛」の憲法解釈を逸脱し、「台湾を守るために中国と戦う」ことが、国民的合意を得ていないことです。

昨年末の安保3文書には「力による現状変更(中国による台湾の武力統一)を日本、同盟国の米国、同志国が協力して抑止し対処する」とは記されてますが、「いざとなれば台湾を守るために中国と戦う」ことについて、岸田首相、浜田防衛大臣ほか閣僚、政治家は何らきちんと国民に説明していません。

国民の納得いく説明や合意もないまま、「台湾を守る」「そのために自衛隊が中国と戦う」という麻生発言は、国民のコンセンサスなきままに国家、国民を中国との戦争に扇動する無責任極まりない暴言と言わざるを得ません。再度指摘しますが岸田政権の中枢要人の発言として、看過せず、発言の撤回を要求しなければなりません。

日中宣言・平和条約に反する
麻生氏発言は中国や国際社会の信任を得られるでしょうか。前記した琉球新報のコメントで布施祐仁氏は「1972年日中共同声明に反する」と指摘しました。弁護士の内田雅敏氏も麻生発言が、日中共同声明、日中平和条約ほかさまざまな日中間の条約、声明に反すると指摘しています。

日中共同声明、平和条約には「一つの中国」の了解、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部」、「中華人民共和国が中国の唯一の合法政府」(共同声明)、日中両国が「主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉」(平和条約)が約され、両国が「相互の関係において。すべての紛争を平和的手段により解決し、武力及び武力による威嚇に訴えないこと」(共同声明)とあります。米中間でも同様のコミュニケ、条約が交わされていることです。

列島線への中国にも届く敵基地攻撃可能な長射程ミサイルを配備する現状はそもそも「武力による威嚇」にあたらないでしょうか。「一つの中国」を日米中の了解事項としながら、中国と台湾の主権と領土に関する「内政」問題に、武力を用いて「抑止」すると言い、動きがあれば「対処する」、日米、台湾の「戦う覚悟」を宣明し、「いざとなったら台湾防衛のために防衛力を使う」ことは、「内政に対する干渉、軍事介入」にほかならず、「すべての紛争を平和的手段により解決する」という日中声明、条約に違反するのではないのでしょうか。

台湾の退場と中国の承認
かつて中華民国(台湾)が国連から退場し、中国(中華人民共和国)が承認されてから歴史は長い。国際社会は「一つの中国」を承認しているのではないか。現に日本、米国ともに台湾との正式な国交はない。

国連憲章は「各国の主権」尊重、「国際紛争の平和的手段による解決」、「国際関係において、武力による威嚇、行使を、いかなる国の領土保全または政治的独立に対するものも、国際連合の目的と両立しないいかなる方法も慎まなければならない」と宣言している。
国連、国際社会の協議や承認もなく、日米が勝手に中台の内政問題に武力介入して構わない、という風には私には読めない。

「反撃能力行使」の正当性
このような国際社会の構図と約束の中で、中国と台湾の対立、武力衝突が仮にあったとして、自衛隊や米軍が「台湾を守る」ために「中国と戦う」ことに対して、国際社会はその正当性を承認するでしょうか。かえって「内政に対する軍事介入」のそしりを免れないのではないでしょうか。日本政府は敵基地攻撃を正当な「反撃能力」と言いくるめていますが、中国は逆に「中国の内政に対する不当な軍事介入」として、自国の「反撃能力行使」の正当性を主張することにもつながりかねません。

筆者は日中、米中関係、国際法の専門家ではないが、素人ながらに「日中条約」「声明」を読むと、上記のような疑問を抱かざるを得ません。

ロシアが独立した主権国家のウクライナに侵攻したことは国際社会の非難を浴びていますが、それと同次元の問題ではない。日米、国際社会が「一つの中国」を承認しているとすれば、中台問題に日米が干渉し、まして軍事介入するような事態は、相当に慎重であるべきだと素人ながらに思えてなりません。

「沖縄戦の図」 ― 台湾の次は沖縄
麻生氏は「戦う覚悟」を国民に要求します。戦場となるのはミサイル配備が進む沖縄です。国民に向けて、それ以上に沖縄県民に、沖縄が「戦場となる覚悟」、「戦う覚悟」を突き付けるものです。それは「死ぬ覚悟」と同義です。「抑止する」と言い、同時に「戦う覚悟をせよ」と言う。「抑止」が破綻し、「戦争」となる事態を麻生氏は見据えています。県民に「戦え」と言い放つ麻生氏の脳裏には、「沖縄戦の図」がありありと描かれ、そこで死んでいく沖縄県民の姿もはっきりと浮かんでいることでしょう。

台湾を巡る麻生氏の問題発言は初めてではありません。2年前の2021年7月には、中国政府の香港統治や台湾問題に言及する中で、「台湾の次は沖縄」と発言した。まるで中国が、台湾に続いて沖縄に攻め込んでくると言わんばかりでした。琉球新報によると「沖縄選出の自民党国会議員の選挙資金パーティーでの講演」での発言でした。「台湾有事は日本有事、沖縄有事」の無責任な世論誘導を先駆けた「沖縄選出自民党議員の選挙資金パーティー」においてである。当時も麻生氏は菅政権の副総理の立場にあり、軽率だけでは片づけられません。そのパーティーの主役だったかはわかりをみていたかわかりませんが、沖縄選出の国場幸之助衆院議員が昨年6月、唐突に自民党国防部会長に抜擢されました。安保3文書の大転換、沖縄へのミサイル配備、敵基地攻撃保有へ、国民にも県民に向けても「沖縄選出議員が納得し、先頭に立っている」ことをアピールする狙いであったのでしょう。

存立危機事態への言及
問題発言のあったパーティーで麻生氏は「台湾有事を念頭に、日本にとって存立危機事態に関係しているといってもおかしくない」とも発言していました。米軍と自衛隊が一体となる集団的自衛権発動を視野におく重大な発言です。
今回の麻生氏訪台に同行した鈴木馨自民党政調副会長は、麻生氏の「戦う覚悟」発言に関し、「政府内部を含め、調整した結果だ」と述べています。そうであれば今回の発言は麻生氏個人にとどまらない岸田政権の「中国と戦う」意志表明とみなさざるを得ません。

国民、県民に「戦う覚悟」を強いる今回の麻生氏の暴言を聞き流すわけにはいきません。看過することは、戦争への道を確実に開くことになります。発言の撤回だけでなく岸田首相の認識と責任も問われなければなりません。

新垣邦雄(当会発起人)

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