【特集】ウクライナ危機の本質と背景

真実はどこにあるのか? CIAが米国人の認識を形にはめるやり方

Ted Snider(テッド・スナイダー)

ジョージ・オーウェルの(小説「1984年」に登場する)「真理省」のように、アメリカ政府から流出するプロパガンダがウクライナ戦争についての我々の認識を形成している。プロパガンダはCIAによって作り出され、国務省によって公表され、メディアによってニュースとなる。それは、あらゆるところから出てくるのだ。

英雄と悪役は、当初から型通りに作られていた。メディアは歴史を書き直し、いわゆる「正当な理由がない(unprovoked war) 戦争」という神話を作り出した。あたかも、ロシアが不法な戦争を開始したと言うだけでは、悪役のイメージを一般の人々の頭に焼き付けるには十分でないかのように、メディアは戦争に必要な支持を作りだすため、あらゆるところで「正当な理由がない」 と言う形容詞を付け加えて、超悪役を作り出したのだ。あたかも、 NATO(北大西洋条約機構)はロシアの国境を侵害しないと言う約束を破らなかったかのように、だ。

あたかも、ロシアの安全保障の懸念は無視されてはいなかったかのように。あたかも、ロシアはこれまでずっと軍事基地とミサイルに囲まれていなかったかのように。あたかも、ウクライナは武器で溢れかえっていなかったかのように。あたかも、エリツィンとプーチンは、何年にもわたって抗議もせず、レッドラインも引いていなかったかのように。

英雄たちと悪役たちは、戦争の初期の数日でウクライナから出てきた様々なストーリーによって、さらなる進化をとげ、特徴づけられた。まず戦闘初日に、ロシアの艦船が銃火器を(黒海にあるウクライナ領の)スネーク島(ズミイヌイ島・蛇島)に狙いを定め、ウクライナ軍の降伏を求めた。我々の認識に超悪役と超英雄の役割を定着させながら、ウクライナ側は勇敢にロシア人たちに挑戦し、ロシア側は情け容赦なくウクライナ人たちを殺害し、ウクライナ人の警備兵たちは 「英雄的な死を遂げた」 とゼレンスキー大統領は語って、「彼らはすべて死後にウクライナの英雄の栄誉を与えられるだろう」 と約束していた。

・ロシアを超悪役に仕立てる

しかし警備兵たちは、死後に何らの栄誉も与えられるはずもなかった。彼らは死んではいなかったからだ。彼らは捕虜となって数日後に釈放されたのだが、我々の頭にはすでに「警備兵のキャラクター」 が埋め込まれていた。ウクライナ人たちが実に英雄的に、不法で極悪のロシアの攻撃に対して自分たちの土地を防衛した――では十分でなく、一人の超悪役が必要だった。

西側メディアは、ウクライナのウルトラナショナリストを歴史と物語から消し去った。ドンバスでの彼らの役割から始まって2019年にゼレンスキー大統領に圧力をかけ、ロシアとの平和創出やミンスク合意調印を圧力をかけて止めさせた役割、さらに今日のウルトラナショナリストの役割まで消し去ることにより、つくり話を仕立て上げて英雄と悪役を際立たせ続けている。

次に、米国は完璧な台本と完璧な世間の認識のために、完璧な超悪役を描くのを開始した。つまりロシアが、当初から意図的に一般市民に的を絞っていたとする。しかも悪役のように殺すだけではなく、超悪役のように故意に殺害したとするのだ。

しかし、国防情報局(DIA)の上級分析官が、戦闘の最初の1ヶ月間は 「ほぼすべての長距離攻撃は軍事施設に的を絞っていた」 と『ニューズ・ウィーク』誌にリークしてしまった。「国防総省に助言する、某大手の軍需企業」 と仕事をしていた退役空軍士官は、「ロシア軍はこれまで実際に長距離攻撃においては自制を示してきた」、と『ニューズ・ウィーク』誌に語った。彼は、「もし我々が、ロシアは無差別に爆撃していると単純に思い込んでいるのなら・・・我々は実際の戦闘を目撃していないことになる」 と注意を促した。『ニューズ・ウィーク』誌の記事が指摘しているのは 「ロシアが最初の24日間でウクライナに落としたよりもずっと多くのミサイルを、米国は2003年にイラクに最初の一日で落としていた」 という事実だ。

米国の専門家によれば、「空爆の大部分は戦場で実施され、ロシア空軍機は地上部隊に『近接航空支援』を提供している。残りは20%以下だが、軍の飛行場、兵舎、支援物資の貯蔵施設を狙ったものである」。DIAの分析官は、「これは事実が示していることだ。どう見ても、プーチンは意図的に一般市民を攻撃してはない。・・ニュースがいつもプーチンは民間人を攻撃対象にしていると繰り返しているのは承知しているが、ロシアが意図的にそのようにしている証拠はない」と結論付けた。

・偽情報を流布させるバイデン政権

さらに最近、DIAの上級幹部が「良くないことだ。まあまあだ、などとは言いたくない。だが強調せざるを得ないのは、騒がしい報道の先にあるのは、我々は戦争をはっきりと目撃していないことだ。激しい地上戦や、ウクライナ軍とロシア軍の間で膠着状態となっている場所では、破壊がほぼ全域に及んでいる。しかし、キエフ及び戦闘地域外の他の都市の実際の損害や全体的な市民の死傷者に関しては、事実は、圧倒的に報じられている内容と矛盾している」と『ニューズ・ウィーク』誌に語っている。

米国政府やメディアによれば、ロシアは戦争の当初から民間人を標的にしていたのみならず、化学兵器による攻撃も計画していたようだ。バイデン大統領自身も、プーチン大統領はウクライナで化学兵器の使用を考えていた主張していた。しかし、3月22日にロイター通信が報じた「米軍のある幹部」のリークによれば、「目下のところ、その点に関しては差し迫った兆しはない」と語る。

2週間後には「3人の米国当局者」 が、「ウクライナ近辺に何らかの化学兵器をロシアが搬入した証拠はない」とNBCテレビに語っている。彼らによれば、それは「禁止された武器をロシアが使うのを抑止する」のを意図した偽情報であった。

偽情報作戦は、ホワイトハウスの国家安全保障会議によって統括されている。機密制限を外されて開示された情報は、確実なものではなかったと複数の当局者が語っている。つまり彼らは、「信頼度の低い情報」 を公表していたのだ。それは、ロシアに対する偽情報作戦で用いられたプロパガンダであった。しかし、そのような偽情報が米国の国民に受け入れられ、今回の戦争の現状認識を形成して必要とされる戦争の熱気を作り出している。

米国はまた、「プーチンの頭脳の内部へ入り込む」のを試み、おそらくより重要なのは、ウクライナにおけるロシアの軍事能力に関し、彼の側近たちによってプーチン大統領がミスリードされた事実を発見したという情報を流し、弱くて無能で、支離滅裂なプーチンという欧米の大衆意識を形成しようと試みた。情報は信頼に足るという当局者もいれば、「情報は具体的証拠よりも分析に基づいていて確定的ではない」 という当局者もいる。後にバイデン大統領が質問された際、彼は情報を 「憶測」 と 「未解決の問題」 と定義付けた。

中国に警告を発し、中国についての大衆意識を否定的に形成し、さらにロシアと中国との間に楔を打ち込む試みとして偽情報を開示した事例は、ロシアは中国に武器の供与を依頼したとする一部の米国当局者による主張だった。欧州と米国の当局者は、「NBCテレビにそうした批判は、確実な証拠を欠いており、実際に中国がロシアに武器の供給を考えているという兆候はない」と語った。

 

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Ted Snider(テッド・スナイダー) Ted Snider(テッド・スナイダー)

米国のジャーナリスト、コラムニスト。Antiwar.comやRESPONSIBLE STATECRAFT等のインターネットのオルターナティブメディアを中心に、国際問題を執筆。  

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