【特集】終わらない占領との決別

「アジアでは日本に従え」──対米従属という国体護持のために(前)

猿田佐世

・弱腰バイデンは困る

しかし、20年11月、バイデン氏がトランプ氏を破って大統領に当選すると、選挙直後から日本の政界やメディアからはバイデン政権の対中姿勢を心配する声が上がることになる。

トランプ政権は、中国からの輸入に高関税をかけたり、経済のデカップリングを掲げたりするなど対中強硬姿勢を鮮明にした。コロナウィルスを「チャイナウィルス」と呼び,在米中国領事館を閉鎖し、台湾に武器輸出を積極的に行い、政府高官を台湾に派遣するなど、その対立姿勢は日に日に強硬さを増し、米中対立は激化していった。

その流れの中でのバイデン氏への交代に、日本の安保関係者は「トランプ氏に比して、バイデン氏の対中姿勢は弱腰なのではないか」との懸念の大合唱となったのである。

この日本からの大合唱には、メディアや政権与党ばかりでなく野党政治家も加わっていた。当時、筆者は、在ワシントンの米知日派から「日本から伝わる声が、米国に対中強硬姿勢を求める声ばかりである。米中対立を緩和しなければならない時に、日本が煽るこの状況はどうしたことか」と言われた程であった。

その懸念の大合唱の甲斐もあり、その後、バイデン氏は「唯一の競争相手」として中国を名指しし、トランプ政権の対中経済政策も変更せず、台湾にもさらに注力していった。

大統領就任から3か月たった21年4月、日米首脳会談で発表された共同声明に台湾に関する記述が半世紀ぶりに入ったとして日本で大きくニュースになった。政府に近い外交・防衛関係者からは「日本は中国に対する認識や立ち位置を明確に示し、日米で一致したメッセージを発信できた。……『ルビコン川を渡った』とも言える(元外務事務次官・竹内行夫氏)」等と評価がなされた。

このころまでには、バイデン氏が弱腰である可能性を懸念していた日本の安保関係者らは新政権の方向性がトランプ氏同様に強硬なものであることに胸をなで下ろしていた。さらに、この日米共同声明により、その米国に寄り添うという日本の立ち位置をも明確にできたことを彼らは「大きな進歩」と捉えている。日米同盟は対中同盟となったのである(岡田充共同通信客員論説委員)。

その後も、バイデン政権は、QUAD(日米豪印4か国連携)、AUKUS(米英豪の安全保障協力枠組み)といった軍事手段を重要視して、強硬姿勢を基調とした対中政策を現在まで維持している。

※「『アジアでは日本に従え』──対米従属という国体護持のために(後)」は5月26日に掲載します。

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猿田佐世 猿田佐世

新外交イニシアティブ(ND)代表、弁護士(日本・米ニューヨーク州)。米議会などで政策提言を行うほか、国会議員等の訪米活動を企画。近著に『米中の狭間を生き抜く─対米従属に縛られないフィリピンの安全保障とは』。

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