【連載】紙の爆弾

民進党勝利で改めて問う 米国仕込みの虚構の台湾有事

木村三浩

文◉木村三浩

台湾の民意は「両岸繁栄」

1月13日に投開票された台湾総統選で、中国と距離を置く民進党の頼清徳副総統が520万票を集めて勝利した。
日本のメディアは“親米派”の勝利と伝えた。
しかし、破れた対中融和路線の中国国民党・侯友宜新北市長と、中間路線の台湾民衆党の柯文哲前台北市長はそれぞれ429万と338万票を獲得しており、合計すれば頼氏を300万票上回る。

日本の国会議員にあたる立法委員選挙では民進党が過半数割れした。
多くの台湾人の本音は興亜親和の姿勢にあり、現実を理解しているのだ。
頼氏は「台湾独立」を政治信条にしてきた対中強硬派と評されるが、それでも5月の新総統就任式では、それほど極端な反中姿勢を示すことはないのではないか。
秋に大統領選を控え、ゆらぐ米国の内情を、冷静な視点で観察しているようだ。

頼氏は日本への造詣が深く、親日的ともいわれる。
投開票翌日には、訪台していた超党派議員連盟「日華議員懇談会」会長の古屋圭司衆院議員(元国家公安委員長)らと面会。
「私も台日協力に深い思いを持っている」と述べた。
一方、米国は今後も台湾を中国にぶつけるかのごとく、煽動と挑発を繰り返すだろう。
そもそも「台湾有事」とは、米国、特にCIAによって作り上げられたものだ。

近年、その柱となってきたのが、「2027年までに中国が台湾に対して軍事行動を起こす」との流布である。
これは2021年3月、米インド太平洋軍フィリップ・デービッドソン司令官が上院軍事委員会の公聴会で証言、「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と口にしたのが始まりだ。
翌年9月には、CIAのデービッド・コーエン副長官が、中国の習近平国家主席が「台湾を2027年までに奪取するのに十分な軍事力を中国軍が備えるよう指示した」と、さらに具体化して言ってみせた。

昨年1月には、デービッドソン氏が来日して自民党の国防部会・安全保障調査会・外交部会で講演、「2027年までに、中国が台湾を侵攻する可能性がある」と繰り返した。
しかし、筑波大学の遠藤誉名誉教授によれば、この「2027年説」の根拠は実に薄弱で、2020年10月に北京で開催された第19回党大会の5中全会(第5回中央委員会全体会議)の最終日、中国共産党網で発布された広報に、「建軍100年に向けて頑張ろう!」と書いてあったことだという。

中国人民解放軍の100周年記念が「2027年」であり、そのことに習氏が触れたのは、この時が最初だった。
そして、前述の2021年3月から「2027年説」が世界中を飛び回るようになったというのだ。
同時に、2022年8月のナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問をはじめ、アジア各国に米国の政治家が訪れては危機を煽り、南シナ海に偵察機を飛ばしている。
習政権の方も、それに対応しなければならない国内事情を抱えている。
しかし、「武力統一」が中国にとってメリットゼロであることは、多くの識者が指摘するとおりだ。現在の中vs台+米の軍事力を考えれば、少なくとも緒戦では、台米側が有利だ。
そこで敗れれば習体制のアイデンティティは揺らぐことになる。

さらに先の遠藤名誉教授は、「武力攻撃などして万一にも半導体産業が破壊されたら、統一後に中国が非常に大きな損をする」ことを挙げる。
2022年11月のAPEC(アジア太平洋経済協力)で、台湾代表として参加した世界最大の半導体メーカーTSMC創設者・張忠謀(モリス・チャン)のもとに、習氏が自ら行って歓談。
「インドネシアで開催されたG20と、タイで開催されたAPEC全てを通して、習近平が自ら会いに行ったのは、TSMCのモリス・チャン1人である」(遠藤名誉教授)という。
「統一」後の台湾の人々の動向を考えても、中国にとっては平和的手段がマストなのだ。

「1つの中国」と米国

そもそも台中関係、そして「1つの中国」自体、戦前・戦中の我が国はもちろん、米国も深く関わったものである。
1945年の日本の敗戦によって、台湾が中華民国に返還された。
その4年後に勃発した国共内戦に敗北した国民党の蒋介石初代総統が台湾に逃亡し、中国共産党の中華人民共和国と台湾の対立が始まる。
中国がソビエト連邦の支援を受けていたのと同様、米国やイギリスの支援を受けていたのが蒋介石だった。

その後、台湾の中華民国は中華人民共和国(中国)とともに、それぞれ国として国際的な承認を受けていたが、ベトナム戦争の泥沼化に手をこまねいた米国が、北ベトナムとの停戦交渉を進める目的で中国に接近する。
1971年6月にはニクソン政権のキッシンジャー国家安全保障担当補佐官が密かに中国を訪問し、周恩来総理と会談。
翌年2月にはニクソン大統領が北京を電撃訪問し、米中共同宣言を発表する。
その後の9月、日本も田中角栄内閣が日中友好条約を結ぶ。この間の米国との交渉の中で、中国側が要求したのが「1つの中国」原則だった。

こうした状況の変化の中で1971年、中国の友好国であるアルバニア、アルジェリア、ルーマニアなど23カ国の共同提案による「アルバニア決議」をきっかけに、中華民国が国連を脱退した。
国際社会は常任理事国を引き継いだ中華人民共和国を“中国”と認めるようになり、
台湾を「地域」として、“中国の一部”と定義するようになった。
ただし、米国は経済的観点から中国との関係を深めつつも、当然ながら反共・東アジア支配の姿勢を変えるものではなく、台湾が中国に取り込まれることも認めなかった。

1979年にはカーター政権が中国との間で国交を樹立するのと同時に、防衛用の米国製兵器の提供と、台湾を防衛するための軍事行動の判断を米国大統領に認める「台湾関係法」を米国議会が制定した。その意味で「1つの中国」もまた、米国のダブルスタンダートに左右されたものといえる。
トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」のもと米中冷戦が顕在化、バイデン大統領は中国が台湾に侵攻した場合の軍事的関与について明言するなど、台湾有事が煽られていった。

「虚構の台湾有事」で国際情勢を見誤るな

台湾の人々は、中国大陸側との経済的関係強化、すなわち両岸の繁栄を望んでいる。
その民意が示されたのが、今回の選挙だった。
これを受けて頼政権が政治・外交において独自性を発揮するのか、米国の意向に完全に迎合するのかは、今後明らかになっていくだろうが、そこに日本の果たす役割は、決して小さくないのではないかと考える。

本誌でも指摘してきたとおり、第2次世界大戦の敗戦国であるドイツは東西統一でNATO(北大西洋条約機構)に加盟後、ユーゴスラビアやアフガニスタンに実力部隊を出すことで、戦後の負の状態を回復してきた。
日本は現在、台湾有事は日本の有事だ、防衛強化が必要だ、と喧伝を続けている。
これはドイツがNATO参加によって国際的地位を回復したことに倣い、日本は米国の肩代わりをすることで、それを踏襲しようとしているのではないか。
従米改憲国家となることで「普通の国」を目指そうという、あさましい目論見と私は見ている。

しかし、言うまでもなくそれはアジアの安定を遠ざけるものだ。
再びアジアを犠牲にして得られる国際的地位などに意味はないのである。
必要なのは米国に付き従うのではない自主独立外交であり、万邦協和の精神である。
これに基づき行動することができれば、我が国も中国と台湾の間で、本来の役割を果たせるのではないか。

そう考えた時、現状は必ずしも悲観的要素ばかりではない。
1月16日に上川陽子外務大臣がトルコを訪問、エルドアン大統領と会談した。
イスラエルのパレスチナ侵略に対し、トルコはハマスを支持し、イスラエルの蛮行を非難し続けている。
現状、日本政府は米国に付き従いイスラエル寄りでも、トルコとも対話を行なう立場を少なくとも示した。
西側からは批判する見方も出てくることは予想されただろう。
直前の1月7日、能登半島地震で多くの人々が避難生活を強いられる中でウクライナを訪問し、発電機を送ったことは日本国内で顰蹙を買ったが、欧米諸国に対してトルコ訪問とのバランスをとったと考えることもできる。

パレスチナ情勢に対し、今後も腹を据えて日本の立場を示していくべきだ。
そして台中情勢に対しても、日本は万邦協和の精神に立ち、独自の姿勢で構えるべきなのだ。
なにより、中国と米国が衝突すれば、沖縄の米軍基地が拠点となり、攻撃の対象となるのである。
我が国の自主外交は安全保障の観点から見ても合理的だ。

少しずつだが日本国中でも米国覇権の終焉について言及する人々が増えてきた。
ウクライナやイスラエルへの肩入れが経済的疲弊や政策の論理的破綻を露見させ、米国内でも分断が進んで、内戦が起きる可能性まで一部で指摘されている。
それがまた、アジア支配を日本に肩代わりさせたいという米国の意向にもつながっている。
現在、アジア情勢はことごとく米国・CIA仕込みの「台湾有事」があるとの前提で語られている。しかし実際は虚構にすぎない。その虚構から解き放たれた時にこそ、アジアの現実と目指すべき平和が立ち現れてくるものと確信している。

木村三浩(きむらみつひろ)
一水会代表。対米自立を唱える愛国社会活動家。『対米自立』(花伝社)『お手軽愛国主義を斬る』(彩流社)など著書多数。

(月刊「紙の爆弾」2024年3月号より)

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木村三浩 木村三浩

民族派団体・一水会代表。月刊『レコンキスタ』発行人。慶應義塾大学法学部政治学科卒。「対米自立・戦後体制打破」を訴え、「国際的な公正、公平な法秩序は存在しない」と唱えている。著書に『対米自立』(花伝社)など。

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