友愛外交で東アジアを不戦共同体に
琉球・沖縄通信沖縄復帰50年も日中国交正常化50周年も共に祝う雰囲気が醸成されていない。まさに政治の貧困がなせる業と言わねばなるまい。政治に携わった者として忸怩たる思いを禁じ得ない。
現実は祝うどころではない。ロシアがウクライナに侵攻して、プーチン大統領は核兵器の使用もあり得るかのような発言をしている。広島、長崎の悲劇を経験している我が国は、いかなる国に対しても核の使用を断じて許してはならないし、そもそも戦争は平和をもたらさないとして戦争を禁じている我が国は、あらゆる戦争を非難しないわけにはいかない。
ところが、ロシアのウクライナ侵攻と台湾有事の可能性にかこつけて、政府や好戦的な、というより強がりを言う本当は怖がりの議員の中から、ここぞとばかり核共有や敵基地攻撃能力の保有の議論が出てきていることに唖然とする。本来ならば、こういう時にこそ、プーチン大統領に対して核を使ってはならないと戒め、さらに核廃絶に向けて大きな狼煙を上げるべきなのではないか。
核共有とは米国の核兵器を日本の領土に置いて、自衛隊がその投下等に関わることと思われるが、明らかに非核三原則に反するのみならず、核の使用は両者の同意と言っても結局は米軍の思い通りに使用されることは間違いない。
最も懸念すべきは、INF(中距離核戦力)全廃条約を脱退した米国が、地上発射式中距離ミサイルを多数配備している中国に対抗して、中距離ミサイルを大量に生産し配備しようとしていることである。
対中国となれば第一列島線上に配備することになるが、ASEAN諸国は容易に置かせてくれないと思われるので、最も可能性も有効性も高いのは、沖縄を中心とする南西諸島に分散して配備することである。そして核共有論とも相まって、核弾頭の付いた中距離ミサイルが配備される危険性も否定できない。
これは敵基地攻撃能力の保有の議論とも重なるが、もし、台湾有事であれ尖閣での衝突であれ、日本の領土から中国に向けてミサイルが発射されても、中国の全てのミサイル発射基地を破壊しつくすことは不可能である。
だとすれば、中国は報復として日本に向けてミサイルを発射するに違いない。真っ先に狙われるのは沖縄などの米軍や自衛隊のミサイル基地であろう。しかも、日本には多くの原発が存在している。そのいくつかが攻撃されたら、放射能汚染で日本はあっという間に住めなくなるのである。
この意味でも日本は絶対に戦争や武力による威嚇を行ってはならないのである。即ち、日本は抑止力を強めるのではなく、緊張を緩和する外交努力を高めなければならない。その一つは米軍の中距離ミサイルの日本への配備を認めず、一方で中国を含めた東アジア版INFの創設を提案することである。
さらには、ASEANの東南アジア非核兵器地帯条約と同様に、北東アジア非核兵器地帯の創設を呼びかけることではないか。そしてそのことが日本の核兵器禁止条約への参加の道を開くことになろう。
あと23年で敗戦後百年を迎える。戦後百年経っても他国軍基地の存在する日本であり続けるのか。その異様さに気付くとき、基地のない日本にするための準備を、今こそ進めねばなるまい。
(※なお本稿は、2022年5月18日付の「琉球新報」に掲載された記事です)。
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第93代内閣総理大臣。現在は東アジア共同体研究所理事長。政治家引退後、友愛の思想を広めるため、由紀夫から友紀夫に改名。近著に『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)などがある。