自民党の政治資金パーティー“裏金事件”の本質と背景を考える(上)
政治
はじめに
昨年から世間の注目を集めている自民党の「裏金」問題では、今年1月末に特捜部の追及がなぜかひと段落したように思われた後に、「派閥」解消や15年ぶりに開催される政治倫理審査会開催の問題に論議が絞られてきている。
しかし、この裏金問題はこれまで長年自民党政権下で問題視されてきた「政治とカネ」の問題がまたしても浮上したものであり、かなり根深い問題であると言わざるを得ない。そこで、この自民党の「裏金」問題の本質と背景を歴史的経緯も含めて考察したい。
1. 裏金(パーティー券、キャッシュバック、中抜き)問題の本質とは何か
今回の自民党のパーティー券裏金問題が浮上したのは、日本共党の「しんぶん赤旗日曜版」(昨年11月6日号)のスクープし、神戸学院大学の上脇博之教授が政治資金規正法違反の疑いで刑事告発したことが発端となった。この自民党派閥の政治資金パーティーの不正疑惑をいち早く報道した「しんぶん赤旗」日曜版を今年1月9日夜のBS―TBSの番組「報道1930」が「赤旗のスクープから始まった『裏金問題』」「日曜版の舞台裏」とテロップ付きで、特集した。その中で、山本豊彦日曜版編集長が「パーティーで昔は飲食が出たが、コロナになってなくなった。同じ2万円という対価性から考えてあり得ないと取材をしていった」と語っている。
また日本共産党の小池晃書記局長は 「有権者である国民が個人でパーティー券を買うのは参政権の一つとして認められるべきだ。しかし、企業・団体がパーティー券を買うのは事実上の企業献金であり、本質的には賄賂だ」と指摘、1994年の「政治改革」で政党が国民の税金を山分けする政党助成金制度を導入したが、企業・団体が政党、政党支部に献金することがパーティー券購入という「抜け穴」として事実上許されてきたと主張している。
そこでまず政治資金とは何か、政治家と政治資金との関係はどうなのかを考えてみる。
政治家(国会議員)は政治資金を国から支払われる給料の他、個人や企業から集める寄付金(献金)と政党(政治団体のうち、所属する国会議員(衆議院議員又は参議院議員)を5人以上有するものであるか、近い国政選挙で全国を通して2%以上の得票を得たもの)に対して税金をもとに支払われる「政党交付金(助成金)」(直近の2022年度で総額約310億円、国民1人250円負担の公金)で調達している。
この政党交付金(助成金)は、企業・労働組合・団体などから政党・政治団体への政治献金を制限する代償として、1990年代の政治改革論議において浮上し、1994年に政党助成法を含む政治改革四法が成立し導入されたものである。つまり政治家の政治資金の一部は国民が負担する税金で賄われており、その使途の公明性が問われるのは当然である。
またこの寄付金については、寄付者(個人・団体)に不当な見返り(寄付者に有利な政策・法律や疑惑追及の封じ込めなど)を与える汚職につながる恐れがあるため、いまでは、(1)5万円を越える寄付は「政治資金収支報告書」に寄付をした人の名前や住所などを記載して公表する、(2)企業や政治団体などからの政治家個人への寄付はできない という規制が「政治資金規正法」(政治資金による政治腐敗の防止を図るために1948年に議員立法によって成立、1999年に「政治家本人に対する企業・団体献金の禁止」を追加するなど一部改正)によってかけられている。この政治資金規正法では、すべての政治団体に収支報告書の提出を義務付けている。政治資金収支報告書は国民に公開することが前提なので、事実に即した記載が要求されている。
しかし、こうした規制には抜け道が多く残されているというのが実態だ。具体的には、議員個人への企業・団体献金は禁止である一方で、議員が代表を務める政党支部には献金可能となっている。今回の場合はその中でも特に悪質なやり方が行われていたことが明らかになっている。というのは派閥が主催するパーティーで集めたお金の一部を政治資金規正報告書に記載せずに議員に戻したり(キックバック)、議員が派閥に収めず自分の懐にしまっていたり(中抜き)していた可能性が高いことが明らかになっているからだ。
議員からすれば、政治資金規正報告書に金額や寄付者の名前、使用目的などを記載する必要のない「裏金」を手にしたことになる。現に派閥の事務局から政治資金規正報告書に記載する必要はないとの指示が出されていたからである。そのことを安倍派の宮沢博行・前防衛副大臣は「派閥から記載しなくていいと指示があった」と語り、問題発覚後には「しゃべるな」と言われたことを認めている。
こうした悪質なやり方は違法行為(=犯罪)であること明白であり、それによって得られた「裏金」は「個人所得(雑収入)」として徴税対象になることは言うまでもない。 つまり、政治資金規正法では書類への不記載や虚偽記載がほとんどの場合で禁止されており、今回明るみに出た一連のパーティー券収入の一部が収支報告書に記載されていなかったという事実は、まぎれもない「犯罪行為」なのだ。
自分の裏金にしたら、その人の収入となり税務申告しなければならないが、申告していなければ脱税行為に他ならない。政治資金報告書の「訂正」だけで政治家の裏金を問題なしとして許容する総務省の不作為は到底受け入れられるものではない。
今回明るみに出た政治資金収支報告書の不記載額は、20年前からこうしたことが行われていたとの指摘もある中で、自民党安倍派だけで過去5年間で6億7654万円に上る。また自民党全議員の裏金(不記載額)を全額「雑所得(個人所得)」とした場合、各議員の追徴課税は、不記載額が3526万円と最も多かった二階俊博元幹事長の場合、追徴税額は約1078万円。不記載額が2954万円の三ツ林裕巳衆院議員は約897万円、次いで追徴税額が多い順に橋本聖子参院議員が約767万円、萩生田光一前政調会長は約755万円、山谷えり子参院議員は約621万円、堀井学衆院議員は約602万円といった具合で、裏金議員85人への課税額は合計1億3533万円になる(自民党が2月13日に発表した全議員調査に基づき、全国商工団体連合会が計算したもの)。
検察(東京特捜部)や国税当局による徹底した調査・真相解明と厳正な処罰が行われなくてはならない。この裏金(汚職・脱税)事件について、岸田自民党総裁は、派閥パーティーの自粛や派閥の解消を呼びかけが、問題の根深さを考えれば、このような小手先のやり方ではまったく不十分だ。政治家のモラル低下は目を覆うばかりである。
いま問われているのは、政治家が遵法精神を持っているかどうかである。このままでは国民の政治不信は深まるばかりであり、厳しい経済状況と貧困状態で生活苦にあえぐ一般国民の納税意欲や遵法精神も損なわれることになりかねない。
経団連の十倉雅和会長が、自民党への政治献金について「企業がそれを負担するのは社会貢献だ」「何が問題なのか」と語ったとの報道があったがとんでもない勘違いである。現在は「財界の企業団体献金は見返りを求めない、贈収賄ではない献金」という前提自体に、深い疑念が生じているのである。
また現在国会でもめている政治倫理審査会には完全公開と議事録の全面公開を求めます。そればかりでなく、衆議院の予算員会に疑惑を持たれた議員全員(90名以上!?)を証人喚問して責任の所在を明らかにする必要がある。いまの自民党には自浄能力がまったく欠けており、今回の宇荒金問題で疑惑が浮上している議員はもちろん一度すべての議員が辞職するほどの解党的改革を行うだけの覚悟が必要である。
2,司直の追及はなぜ中途半端に終わったのか
この自民党の裏金問題の捜査に着手した東京地検特捜部は、
《衆院議員の池田佳隆容疑者(57)=比例東海、自民党を除名=と政策秘書を同法違反(虚偽記入)の罪で起訴した。一連の捜査は現職国会議員3人を含む10人を起訴・略式起訴し終結した。派閥の政治資金パーティーを巡る裏金づくりの真相究明の舞台は法廷に移る。
特捜部は同日、安倍派(清和政策研究会)の収支報告書に池田議員側への還流分を記載しなかったとして刑事告発された安倍派幹部7人と元同派会長の森喜朗元首相は不起訴(嫌疑なし)とした。
幹部7人は塩谷立元文部科学相、下村博文元文科相、松野博一前官房長官、西村康稔前経済産業相、高木毅前国会対策委員長、世耕弘成前参院幹事長、萩生田光一前政調会長。
起訴された池田議員と大野泰正参院議員(64)=岐阜、自民党を離党=は刑事裁判で争うとみられる。規正法違反罪で罰金刑以上が確定すれば公民権が停止され議員は失職する。略式起訴された谷川弥一元衆院議員(82)は24日に議員辞職した。》
(「日本経済新聞」20924年1月24日付き)と伝えられている。
そして、このように中途半端なかたちで捜査を終了した検察の及び腰に対しては、批判の声が高まっている。
《安倍派5人衆 立件見送りって?? 会計責任者が独断で裏金作る訳ないでしょ!》《検察仕事しろ!! 検察忖度するな!検察全員逮捕しろ!!》《東京地検特捜部って、もう存在価値なくない? 弱い者は捕まえて、強い者には忖度して捕まえない》《検察特捜部ほんといらんわ。税金無駄遣いしてるだけで結果的には自民党と同じ。もう解散して》《デキレースだったのか?! 期待が大きかっただけに失望です》《民間なら脱税。金額が10万円だったとしても、報告なしは許されない。この違いは何なのか》《「捜査が終わっても国民が納得しない。キックバックを受けていた議員を記憶しておき、次の選挙で投票しないようにする》
上脇博之・神戸学院大教授は「誰かさんがたまたま犯した罪ではなく、みんなで一緒に赤信号を渡ろうとした事件。キックバックが少なかった議員がいても、全体で計算すると億単位だ。金額で線引きするのはおかしい」 「一般市民は安い商品を万引しただけで、窃盗罪で起訴される。検察は本当に中立・公正なのか疑問が残る結果だ」と強調している。
東京地検特捜部はこれまでの捜査で安倍派幹部を含む多くの議員らを任意聴取し、還流を含めた資金の出入りを調べた上で立件の可否を判断した。検察内には「処理すべきものはした」との見方が強く、新たな告発を受理しても、不起訴にする公算が大きいと云われる。
それはなぜ検察(東京特捜部)はなぜこのような中途半端な形で捜査を終了させることになったのだろうか。
まず今回立件されたのが、4,000万円以上の裏金を受け取ったとされる議員にだけという線引きを行ったことである。またこれまでも政治とカネをめぐる事件で秘書や会計責任者が責任を負うばかりで、政治家本人が自身の責任追及を免れた例には枚挙にいとまがない。1988年に発覚したリクルート事件では、竹下登元首相の金庫番だった秘書が自殺。竹下氏は立件されなかった。2014年に判明した小渕優子元経済産業相の資金管理団体を巡る事件は、会計責任者の秘書らが在宅起訴されたが、小渕氏は不起訴に。安倍晋三元首相の後援会が「桜を見る会」前日に主催した夕食会の費用を補填(ほてん)した問題では、20年に公設第1秘書が略式起訴されたが、安倍氏は不起訴。今回も虚偽記入で立件されたのは、派閥の会計責任者で、幹部議員は共謀が認められなかった。
議員本人の責任や会計責任者・秘書(あるいは派閥の事務総長)らとの共謀を立証できないのは、現在の政治資金規正法では「議員の指示でやったとしても会計責任者や秘書が『自分の一存』と捜査機関に説明すれば、それ以上は議員を追及できない。そのために秘書がいるというのがかつての常識だった」政治評論家の有馬晴海氏)、「長年続いてきた派閥の虚偽記入の最後の1年分について、あらためて共謀があったと認定するのは難しい」(元特捜検事の郷原信郎弁護士)との指摘がある。
しかしその一方で、郷原弁護士は「政治資金規正法が禁じる政治家個人への寄付行為として立件できなかったのか」と検察の捜査の進め方に疑問を呈している。そして、「検察は裏金の額の大きさで虚偽記入を対象としたのだろう。その結果、国民の期待と現実にギャップが生じた」と指摘している。
また捜査の最前線に立つ東京地検特捜部に対して検察上層部や官邸、あるいは外部からの大きな圧力があった可能性も排除できない。
これに対して、もし検察が不起訴にした場合、上脇教授ら市民の側はこれを不服として検察審査会(検審:選挙権を有する国民の中からくじで選ばれた11人の検察審査員が,検察官が事件を不起訴処分の当否を判断・審査する)に申し立てる方針である。「会計責任者にとどまらず議員本人が処罰されないと意味がなく、納得がいかない」市民団体「検察庁法改正に反対する会」の岩田薫共同代表)からである。
この検審で、「起訴相当(起訴すべきだ)」との議決が2回出れば、強制起訴されることになる。上脇教授も「政治資金収支報告書に書くべき金額を書かないという判断を、会計責任者や事務方だけでできるとは思えない。検察は本当に捜査を尽くしたのか」と疑問を投げかけている。
今回の事件で立件されなかった自民党議員の中には、還流額が2728万円と説明した萩生田光一前政調会長、2000万円超とした橋本聖子元五輪相、約2000万円とした堀井学衆院議員らを筆頭に、略式起訴された岸田派元会計責任者(約3000万円)と不記載額が近い議員もいる。「不記載分は個人所得に当たる」と市民側から訴えられた議員らについて検審がどう判断するか今後の焦点になる。
※なお、本稿はデーター・マックス社NETIB-NEWS(https://www.data-max.co.jp/)の下記の記事からの転載です。
・自民党の政治資金パーティー“裏金事件”の本質と背景を考える(1)
https://www.data-max.co.jp/article/69800
・自民党の政治資金パーティー“裏金事件”の本質と背景を考える(2)
https://www.data-max.co.jp/article/69830
自民党の政治資金パーティー“裏金事件”の本質と背景を考える(下)に続く
★ISF(独立言論フォーラム)「市民記者」募集のお知らせ:来たれ!真実探究&戦争廃絶の志のある仲間たち
ISF主催トーク茶話会:天野統康さんを囲んでのトーク茶話会のご案内
ISF主催トーク茶話会:原一男監督を囲んでのトーク茶話会のご案内
※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内
独立言論フォーラム・代表理事、ISF編集長。1954年北九州市小倉生まれ。元鹿児島大学教員、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表。九州大学博士課程在学中に旧ユーゴスラヴィアのベオグラード大学に留学。主な著作は、共著『誰がこの国を動かしているのか』『核の戦後史』『もう一つの日米戦後史』、共編著『20人の識者がみた「小沢事件」の真実』『昭和・平成 戦後政治の謀略史」『沖縄自立と東アジア共同体』『終わらない占領』『終わらない占領との決別』他。