【特集】参議院選挙と改憲問題を問う

国民民主党、露骨な与党すり寄りの背景

山田厚俊

・国民民主賛成で予算案スピード成立

3月22日、参院予算委員会、参院本会議で2022年度当初予算案が可決された。新型コロナウイルス対策をはじめ、看護や介護の現場で働く人の賃金引上げに必要な費用なども盛り込まれ、一般会計は過去最大の107兆5964億円となった。採決には衆院と同じく自民・公明の与党とともに、野党の国民民主党が賛成に回った。

「『対決より解決』を訴えてきたわが党は、昨秋の衆院選ではトリガー条項の凍結解除を公約に掲げ、実現に玉木雄一郎代表を先頭にして国会に臨んできた。その公約が実現に向け進んだことから、予算案に賛成した」。

国民民主の幹部はこう語った。

トリガー条項とは、租税特別措置法第89条のことで、ガソリン税(1リットルあたり53.8円)のうち上乗せ分(同25.1円)の課税を停止し、消費者の負担を抑える仕組みのこと。ガソリンの平均小売価格が3カ月連続で一リットルあたり160円を超えたら「トリガー(引き金)」を引くように発動し、3カ月連続で130円を下回ったら元に戻るというものだ。2010年度税制改正で導入されたが、東日本大震災の復興財源確保のため2011年に凍結されていた。

Costs related to fuel in Japan. Translation: gasoline. Light oil. Body price. Consumption tax. Gasoline tax. Diesel oil transaction tax. Petroleum tax.

 

昨年来、ガソリン価格が急騰し、国民民主は経済回復とクルマ依存度の高い地方の生活を守るために、凍結されていた同条項を解除する、との公約を掲げていた。

大塚耕平政調会長は同日、「与党と国民民主の間で『原油価格高騰・トリガー条項についての検討チーム』を設置することに合意したことから、今次予算案には参議院でも賛成し、日本経済と国民生活に資する具体策の妥結および実施を模索することが適切と判断しました」とし、さらに「現役世代や次世代が納得し、安心できる『給料が上がる経済』の実現のために努力します」との談話を発表した。

しかし、2月22日に衆院本会議で予算案に賛成したことで、他の野党からは「一線を超えた行為」(立憲民主党幹部)といった批判が集中していた。

例年、通常国会の年度末最大の攻防は、この予算案の成否にあった。しかし、今回の参院での国民民主の賛成で、予算案はすんなり可決した。戦後4番目のスピード成立となったのである。

「個別の法案と予算案は質が違う。予算は政府の運営の骨格をなすもので、それを認めたということ。政権与党に入りたいと捉えられても仕方ないのではないか」(日本維新の会幹部)。

野党どころか、“ゆ党”の維新にまでそっぽを向かれた国民民主といえるだろう。関係者は語る。

「従来のやり方をしていても、何も変わらない。予算案でいえば、他の野党とともに反対しても『立憲民主党をはじめとした野党は』と報じられる。立憲・維新より議席数の少ないわが党は、埋没していくだけです。ならば、これまでにない手法で存在感を示していくしかない」。

それが、公約実現と引き換えに予算案賛成へと舵を切る行動になったというわけだ。そのウラには、7月の参院選が影響している。

国民民主の改選議員は、小林正夫・浜口誠・矢田わか子・川合孝典・足立信也・舟山康江・伊藤孝恵氏の7人。うち、比例区の議員は、小林・浜口・矢田・川合氏の4人。いわゆる連合の組織内候補だ。元東京電力労組副委員長の小林氏は電力総連をバックにしているが、すでに引退を決めており、後継には同じ東電労組出身の竹詰仁氏が公認されている。

国民民主は3月25日時点で、比例区で5人、選挙区で8人の公認候補を発表している。とくに組織内候補の4人は「絶対、落とせない候補者。一人でも落選したら党勢が萎む可能性がある」(政治ジャーナリスト)。なぜなら、連合の支援が弱まるからだ。

とはいえ、政党支持率は低迷したまま。たとえば、NHKが3月11~13日に実施した世論調査では国民民主は1.0%で、共産党の2.3%にも及ばなかった。このままの政党支持率では、比例区で2人当選がやっととの見方が強い。だからこそ、存在感を示すために躍起になっているというのである。

国民民主の支持基盤は連合とともに、いわゆる保守層だ。「中道保守」を標ぼうしており、保守層の中で“非自民”の受け皿を担おうとしている。しかし、認知度が低く、政党支持率がこのままではジリ貧に終わる危機感があるのだろう。

「保守支持層の中では“非自民”の票は維新に流れる傾向が強くなっている。維新と協力して国会対策をしているだけでは、選挙で維新に呑まれてしまう可能性がある」(前出・国民民主関係者)。

このような危機感が、トリガー条項凍結解除と引き換えに予算案賛成に舵を切ったというわけである。

 

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山田厚俊 山田厚俊

黒田ジャーナル、大谷昭宏事務所を経てフリー記者に。週刊誌をはじめ、ビジネス誌、月刊誌で執筆活動中。

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