【連載】ウエッブ・アフガン [Web Afghan in JAPAN] (WAJ)の視点

<視点:093> 空から爆弾とパンが降ってきた~史上最大最悪の偽善~

ウエッブ・アフガン編集部

(2024年3月15日)

空から爆弾とパンが降ってきた~史上最大最悪の偽善~

イスラエルの猛爆によって廃墟にされつつあるガザ。住民230万人のうち3万人以上が殺害されその倍以上が負傷している。がれきの下敷きになってもまだ生きている人びとや遺体は数知れない。インフラは破壊され病院も機能不全に陥っている。呑み水や食料が尽き、飢え死にする人々も出ている。これまでガザは「天井のない牢獄」と言われていたがいまや爆弾と銃弾が降り注ぐ文字通りの「地獄」となった。

 

パラシュートで食糧投下

日本ではひな祭りの前日、ガザでの非人道的な状況を見かねて、アメリカは空からパラシュートで食料を投下した。昨年10月7日に衝突が始まって以来、初めての行動だ。アメリカ中央軍とバイデン政権高官によれば、アメリカ軍はヨルダン軍と共同で2日、C130輸送機を使って食料を詰めた貨物をガザ地区の地中海沿いに投下した。アメリカ軍の投下分は3万8000食分。空からだけでなく、海からの搬入も検討しているという。(2024年3月3日 NHK)。しかしその実現までには港の建設が必要で数週間かかるという。

その3日のNHK報道によれば、バイデン大統領は、投下作戦前、「罪のない人々がひどい戦争に巻き込まれ、家族を養うこともできず、絶望している」と述べている。

バイデン大統領は、食糧投下がなされたあと、9日にはパレスチナ自治区ガザで続く戦闘について、避難民が集結する最南部ラファへの侵攻は、イスラエルが「越えてはならない一線だ」としながらも、「イスラエルを決して見捨てない。防衛は重要だ」と、同国の自衛権を支持する姿勢を堅持した。(2024年03月10日 共同通信)。イスラエルの軍事行動は自衛権に基づく戦争ではなく、パレスチナ人の土地を収奪する侵略戦争であり、自衛権を発動しているのはパレスチナの側なのだ。

共同通信の記事によれば食糧投下に関して「国連によると、ガザでは50万人を超える人々が飢餓に直面しており、物資投下で危機が緩和できるかどうかは不透明だ」としている。不透明どころか投下された食糧は飢餓に直面している住民十人にひとりの1食分にも満たない量だ。焼け石に水どころか、大海の一滴ほどのものだろう。

何たる偽善!! 今次イスラエルの侵攻によって死亡したパレスチナ人は3月初旬現在3万1000人。うち女性と子供が72%(ガザ保健当局発表ロイター)。イスラエルの猛爆のきっかけになったハマースの急襲によるイスラエル側の人質は203人(うち死者は数十人)、兵士・住民らの死者の正確な数字は発表されていないが1000人を超える程度と思われる。ガザ地区のインフラの破壊を考慮すれば、人的物的損害のインバランスは報復の域をはるかに超えて天と地ほどの格差がある。イスラエルが「建国」、その実、パレスチナの地への侵略にすぎない軍事攻撃によってディアスポラ(離散民)とされたパレスチナ人は数百万人にのぼる。

一方、アメリカがイスラエルに与えている軍事支援は膨大だ。年間の軍事援助額は約38億ドル(約5690億円)に上る。しかも「ガザ地区をいま空爆しているイスラエルの戦闘機は、アメリカ製だ。イスラエルがいま使っている、精密誘導兵器のほとんども同様だ。イスラエルの防空システム『アイアンドーム』が使う迎撃ミサイルの一部も、やはりアメリカ製だ。・・・。バイデン氏は(2023年10月)20日には連邦議会に対して、イスラエルとウクライナなどに約1050億ドルの追加支援予算を充てるよう求めた。そのうちイスラエルへの追加軍事援助は約140億ドルを占める。」(BBC、2023年10月25日

 

これを偽善と言わずしてなんと言うべきか。

僕らがベトナム反戦運動をおこなっていたころ、「ふたつのアメリカ」という言葉がはやった。ベトナムに50万人以上の兵力をおくりこみ、北ベトナムに絨毯爆撃を加えるアメリカ。一方、世界の反戦運動の先頭に立ち、激しく闘う若者やアーチストたち。ボクシングの世界チャンピオンだったモハメド・アリ(旧名カシアス・クレイ)は、「俺はベトコンと戦う気はない。やつらに黒ん坊呼ばわりされたことなど一度もない」と兵役を拒否。禁固5年、罰金1万ドルの判決を下されチャンピオン・ベルトも剥奪された。しかし裁判闘争をつづけ無罪を勝ち取る。平和運動と黒人の公民権闘争のシンボルとなった。

他方、世界最大の経済力を誇るアメリカは、海外に進出した米系企業だけで「もうひとつのアメリカ」と呼べるほどの経済力を誇っていた。

現在のアメリカは、当時とは比べ物にならないほどのグローバル経済の名主であり、世界中に利潤の源泉を張り巡らせている。そのアメリカが、ウクライナでは「ロシアの侵略には反対」といいながら、イスラエルでは侵略者を「決して見捨てない」と宣言し、パレスチナ人に激烈なる爆弾と1食分にも満たない食糧の投下を行う。このような偽善的な姿勢と言動を世界は見ている。とくに、英米仏独伊日などかつての帝国主義・植民地主義国の言動をグローバルサウスの国々は苦々しく見つめている。ウクライナが力強い支援を得られず苦境に苦しむのは、「西側諸国」の裏表が多くの国によって見抜かれているからではないのか。

★ アメリカ・バイデン政権や英仏独伊日の偽善的な二面政策は通用しない。イスラエルとロシアの侵略政策を厳しく批判し対峙する一貫性をもった政策を実行しない限り、実効性を担保する国際的信頼を勝ち得ることはできないだろう。

【野口壽一】

※なお、この記事は、ウエッブ・アフガン[Web Afghan in JAPAN] (WAJ)ウエッブ・アフガン – アフガニスタンと世界の平和、進歩、人権のために (webafghan.jp)のメニュー<視点>からの転載です。
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