なぜアフガニスタンが大事なのか:参戦した英国少佐の提言
社会・経済2024年3月22日
(WAJ: この提言は1年以上前に発表されたものであるが、日本でガイ・リッチー監督の映画『約束の救出』が公開されたのに併せて紹介する。本サイト「<視点> 約束の救出 ~映画『コヴェナント/約束の救出』を観て~」(準備中)と併せてお読みいただければ、なぜアフガニスタン問題がいまでも大事なのか、アフガニスタンに世界はいかなる「借り」があるのか、そしてそれをどのようにして返さなければならないのか、考える参考にしていただけるのではないだろうか。)
Britain promised to move heaven and earth for all who helped us in Afghanistan. It wasn’t true.
英国は、アフガニスタンで我々を助けてくれたすべての人のために全力を尽くすと約束した。しかしそれは真実ではなかった。
英国は責任を回避しており、あの不安定な国への関心を失うことで、私たちを再び危険にさらしている。
Dan Jarvis
ダン・ジャービス
2023年3月9日
なぜアフガニスタンが重要なのか? 私にとってはそこで戦ったからだ。そこで友人を失った。遠くヘルマンドにある基地で軍務についていた。最初は共に戦うアフガン人に皆殺しにされるかもしれないと不安だった。しかし、やがて命を委ねることを学んだ。遠い昔のことのように感じるが、いまでも毎日そのことを考えている。
18か月前、ターリバーンの勝利により、アフガニスタンでの私たちの戦いのすべてが終わった。かの地での失敗のトラウマを忘れたいと願っている政策立案者たちすべてに、ウクライナは完璧な言い訳を提供した。ウクライナは非常に重要だ。しかし、ロシアの侵攻が1年も続き、私たちはいまアフガニスタンを忘れている。その忘却は私たちを危険にさらす。
第1の理由は単純な道徳だ。私たちには、アフガニスタンで苦しんでいる人々、特に私たちのためにすべてを危険にさらしてくれた人々に対して責任がある。
第2に、277億ポンドと457人の命を投資した以上、私たちはこれまでの成果を今後も最大限キープすべきだ。全てが無駄に終わった中で、過去20年間で乳児死亡率は半減し、教育とインフラは大幅に改善されたからだ。しかし、私たちが最高に心血を注いで交わす議論は自国の利益についてばかりだ。
リスクは大きい。アフガニスタンはすでにより大きな不安定の原因となっており、国際的な過激主義にとって新規の安全な避難場所となっている。その中にはパキスタンのターリバーンも含まれている。兄弟組織のアフガン・ターリバーンが、アフガニスタンを占領したのと同じように、今度は核武装国家の乗っ取りを狙っている。
私たちの政策はこの点をあまりにも過小評価している。長期にわたり取り組むと公言し、最も危険にさらされている人々のために全力を尽くすとの約束はまだ生きている。しかし実際には、アフガニスタンは絨毯の下に掃き隠されつつある。それは、必要性が急増しているにもかかわらず、アフガニスタン援助予算を削減するという報道に最も顕著に表れている。
<参考記事>
https://www.independent.co.uk/news/uk/afghanistan-government-bond-taliban-ngos-b2341001.html
個人レベルでは、2つの計画が頓挫した。それは国外退避できなかった合わせて数千人を救い出そうとしたアフガン市民定住計画(ACRS)とアフガン移住支援政策(ARAP)である。どちらも、イギリス国民と有資格アフガン人向けの英雄的な退避作戦(訳注:「穿孔作戦」と呼ばれ、2021年4月に開始された)から漏れた者を対象としていた。しかし条件が整わなかったり、官僚主義、遅れなどの理由によって妨げられ、事実上機能不全に陥っている。
その結果は忌まわしいものだ。まずはACRS。英国政府のために働いていた、またはそれと関係していた高リスクの個人のためにACRSは首尾よく第3ルート(訳注:第1ルートが適用されるのは「穿孔作戦」の対象者、第2ルートはUNHCR認定の難民、第3ルートは英議会との契約者など)を準備しているのだが、そのルートを経てアフガニスタンを出国した者は18か月が経過した今もってなお、ひとりもいない。たったひとりもいないのだ!ついでARAP。 1万2000人を避難させたというが、その半数以上は英国の最終撤退前に逃げ出しているのだから実質半分以下だ。またこの数字を、ロシアの侵略からわずか数か月でウクライナ人に発給された英国ビザ22万件と比較してみるべきだ。
<参考サイト:ACRS> リンクはこちら
<ARAP> リンクはこちら
私とともに軍務につき犠牲を払ったアフガニスタン人は絶望している。負傷した英国将校を救出した兵士はその入国を許す決断を1年以上も待たされ、家族7人を処刑された指揮官に至っては完全に拒否された。
どちらの施策も、絶望的な人々の目の前に手に入らない賞品をぶら下げているように益々感じられる。しかし、たとえ行動したくても、私たちに出来ることは限られている。
第1に、私たちは一緒に働いた人々に慎重かつ迅速に避難所を与えることができる。それは直接の繋がりが絶たれた外国との関係においてすら、差し迫った危険に直面している多くの人々に対して私たちが保証すべき公正な分け前である。
第2に、閣僚は我が国の援助外交を維持しなければならない。私たちは援助がターリバーンを利することがないよう考慮する必要があるが、それはややもすると難しい選択を意味するかもしれない。しかし、我々はそこから逃避してはならず、信頼できる大物政策リーダーに委嘱すべきである。たとえばデビッド・ミリバンド(訳注:元労働党の国会議員で、人道支援のためのNGO「国際救済委員会」の代表)とかローリー・スチュワート(訳注:外交官、保守党の国会議員を経て今はイエール大学の教授、著書に「戦禍のアフガニスタンを犬と歩く」)が上げられよう。
第3に、我々は米国だけでなく、中国、パキスタンなどの関連大国と連携すべきである。ターリバーンが言うことを聞くかどうかは疑わしいが、私たちは紛争を引き起こす対立を避け、安定が全員の利益になるという合意を築く必要がある。
最後に、私たちはアフガニスタン人と関わるべきだ。そう、ターリバーンも含めて – 厳しい制限があるけれども。彼らが現時点で有意義な妥協をすることができないように見えるのは厳しい現実だ。私たちは常にドアを開いたままにしておくべきだ。とは言え、彼らが頑なな姿勢を変えるまでは特に注意深く接し、決して安易に彼らを承認するべきではない。
こう考えると、重要な点が見えてくる。あらゆる激変の中でも、我が国の戦略上の権益は基本的に変わらない。つまりそれは、長期的な外国の駐留がなければ、アフガニスタンという国は不安定も国際テロも生み出さなかったという事実に依拠する。
そこに永続的な国家を樹立するには国民を統合した政府が必要で、大規模な窃盗政治や人権侵害はお呼びでない。この2つが2001年以降の紛争と崩壊の主要な(ただし、それだけではない)推進要因であった。民主的な権力共有、正義、そして権利。この3点セットの基本水準を高めることは決して理想主義ではない。これらを真剣に第1課題としなかったことが、私たちの失敗した最大の理由だった。
このことは、私たちがなすべきことを教えてくれる。つまりバラバラになっているアフガニスタンの市民社会と政治主体を今一度呼び集め、可能な限りその能力を高め、制度を刷新し、民主的多元主義への最終的な移行の基礎を築いて、再び機会が訪れるのを待つ。
このような考えは希望的なものだと思えるだろう。確かに、長期的な視野が必要になるだろう。しかし、ターリバーンは、彼らが打倒した敵の排他的で抑圧的な過ちの多くを繰り返している。彼らはすでに国内紛争と域内関係の悪化に直面している。また、多くの人が想定しているほど一枚岩ではない。私たちは紛争を煽るべきではないが、現状がそのまま続く、あるいは妥協は決して不可能だと諦めるべきではない。
何よりも、私たちがまず自ら過ちを繰り返すのをやめるべきだ。1992年以降の放置(訳注:国際社会はムジャヒディーンの支配に目をつむった)と、2001年以降(訳注:米英などによるターリバーン政権の打倒と、その後の民主国家樹立の試み)の悲惨なその場しのぎと見当違いの目標の両方だ。今はかつてよりもはるかに困難になっているかもしれないが、正しい道は同じだ。今こそ、その道を行く時だ。
アフガニスタンのことわざに「ブラダール・バ・ブラダール、エソベシュ・バラバール」という。ざっくり訳すと、「友人間の貸し借りは友人として清算すべきだ」という意味だ。
私たちはアフガニスタン人に対してだけでなく、私たち自身に対してもまだ借金を負っている。それを忘れてはいけない。
(原注:ダン・ジャーヴィス MBEはバーンズリー中部の労働党議員であり、パラシュート連隊の元少佐である。)
https://www.theguardian.com/commentisfree/2023/mar/09/britain-promised-afghanistan-losing-focus-risk
※なお、この記事は、ウエッブ・アフガン[Web Afghan in JAPAN] (WAJ)ウエッブ・アフガン – アフガニスタンと世界の平和、進歩、人権のために (webafghan.jp)のメニュー<視点>からの転載です。
■ なぜアフガニスタンが大事なのか:参戦した英国少佐の提言
⇒ https://webafghan.jp/dan-jervis/