【連載】紙の爆弾

シリーズ日本の冤罪50 北方事件 たった1人の支援者が明かす「連続殺人事件」の深層 取材・文◉片岡健(紙の爆弾2024年6月号掲載)

片岡健

#佐賀女性7人連続殺人事件 #未解決事件 #佐賀県警 #違法捜査 #冤罪 #取調べ報告書改ざんを警部補が証言

 1980年代に佐賀県で起きた「北方(きたがた)事件」は、3人の女性を殺害した嫌疑をかけられた男性が裁判で検察に死刑を求刑されながら、無罪が確定した重大な冤罪事件だ。
公判では、警察のとんでもない違法捜査も判明している。

だが、重大性のわりに、冤罪事件としてはあまり有名ではなく、「犯人が捕まっていない未解決事件」として語られることが多い。
無罪が確定した男性が公の場で冤罪被害の経験をほとんど語ってこなかったためだ。
この特異な冤罪事件について、
「警察は面子のため、無実の人を死刑台に送ろうとしたのです。本当に恐ろしいことです」
と証言する人がいる。
事件の舞台となった北方町(現・武雄市)で町議を7期務めた田崎以公夫さん(92歳)だ。
田崎さんは男性の「たった1人の支援者」として奔走し、男性を冤罪から救った人で、事件の一部始終を知る人でもある。

今回は田崎さんの証言に基づき、「北方事件」の顛末を紹介したい。この事件の深層を知れば、世の中には、まだ知られていない酷い冤罪があることを改めて実感していただけると思う。

時効成立直前の「劇的な逮捕」だったが……

 佐賀県の中央部に位置する旧北方町は、人口が1万人に満たない小さな町だった。
ここであっと驚く大事件が起きたのは35年ほど前に遡る。
「林に白い服を来た女性の死体が捨てられているのですが……」
1989年1月27日夕方、そんな110番通報をしたのは佐賀県内の夫婦だった。
夫婦は、JR佐世保線北方駅から2キロ余りの山道脇で仏壇に供える花を摘んでいた際、北方町内の雑木林に横たわる女性の遺体を見つけたのだった。

所轄の佐賀県警大町署(現・白石署)の捜査員たちが現地に臨場すると、事案は想像よりはるかに重大だった。雑木林から女性の遺体が、ほかにも2体見つかったのだ。
連続殺人事件とみた佐賀県警は、ただちに大町署に150人態勢の捜査本部を設置した。
そして翌々日までに3人の被害者は全員、失踪していた近隣の女性だと判明したが、ある奇妙な共通点があった。

①藤瀬澄子さん 武雄町(現・武雄市)の料亭従業員。87年7月8日(水)の夜に同僚との外食後に失踪。
失踪時48歳。
②中島清美さん 北方町の主婦。88年12月7日(水)夜にミニバレーの練習に出かけ失踪。失踪時50歳。
③吉野タツ代さん 北方町の会社員。89年1月25日(水)夜に自宅から外出後に失

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片岡健 片岡健

ジャーナリスト、出版社リミアンドテッド代表。主な著書に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ』(鹿砦社)など。

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