まやかしの原子力防災訓練の繰り返し、今年も抗議!2022-11-24 | 北野進の活動報告

北野進

昨日(2022年11月23日)実施された石川県・富山県原子力防災訓練に対して、原告団ら5団体は監視行動と住民アンケート調査を実施した(アンケート調査についてはあらためて報告)。
私は朝5時前に自宅を出発。「6時30分の地震発生」前に志賀町の志賀町のオフサイトセンターに到着。
その後、志賀町役場前の住民アンケート調査斑の集合場所(調査員への説明)経由、志賀町総合体育館・陸上競技場の訓練視察、そして氷見運動公園に向かった。

6時30分、地震直後のオフサイトセンターはまだ無人で暗い。
当然だが、以前の訓練は参加者全員揃って地震発生を待ち構えていた。
志賀町に常駐する原子力規制庁の原子力防災専門官が電灯をつけ、パソコンを立ち上げる。

その後、県職員(おそらく中能登事務所の職員)や志賀町職員、輪島市職員らが続々到着。
持ち場に分かれていく。

当時の志賀町の環境放射線は0.052μSv/h。
現在の防災計画では、5~30Km圏の住民は全面緊急事態で「まずは屋内退避」を求められ、この数値が400倍になってようやく「1週間以内に一時移転」、1万倍に上がって「数時間以内に避難」の指示が出る。
この指示に従わないと大渋滞、大混乱でかえって危険に陥るというのが国の考え。
屋内退避による被ばくを覚悟するか、自治体の指示に従わず、渋滞・混乱覚悟で独自避難を開始するか、そんな決断を迫るのが避難計画だ。

オフサイトセンターでは8年前の訓練からブラインド訓練が導入されているが、毎回ほぼ同じシナリオ。
突発的なトラブル発生もない。
ブラインド訓練の意味がある?最後に紹介するが、馳知事はいろんな想定での訓練の必要性を語っている。
来年こそ変わる?

志賀町総合体育館。
在宅要支援者の放射線防護施設への屋内退避、避難訓練の会場だが、地震による道路寸断で孤立した住民の避難訓練も行われる。
全面緊急事態(5km圏のこの辺は即時避難)の中だが、受付の町職員は防災服だけ。
避難住民の皆さんも、この時期だからジャンパーなどを着てはいるが、氷見市のようなレインコートもなし。
長期避難の可能性もあるが、ほとんどの人は手ぶら。
ポケットに小銭入れとスマホくらいの持ち物だ。

震度6強の地震発生(警戒事態)で準備に入るとはいえ、その数時間後かもしれない「即時避難」という事態に応えられるバス会社は果たしてどれだけあるのか。
果たして何台配車可能か。最後の抗議声明で触れている。
写真は能登町の恋路観光バス。
実際には5km圏の住民避難でやってくることはないだろう。

道路寸断で孤立した集落からの避難を想定。
陸自のUH-1 。この後、空自のヘリもやってくる。
海や空、いろんな手段を確保しておく必要性は認めるが、強風ならば空も海もダメ。
さらにヘリ避難の場合、荷物の持ち込みも難しいそうだ。
リュックやウエストポシェット程度なら大丈夫だろうけど、長期避難に備えてのキャリーバックや手持ちのバッグなどは、搭乗時、プロペラの風圧で飛ばされて機体が損傷するリスクがあるのでお断り。
基本は荷物んしを要請するとのこと。
身一つで長期避難に入る覚悟をしてもらわなければならない。

氷見運動公園へ。
今回ははじめて石川県側から富山県氷見市方向への避難訓練が実施される。
石川・富山両県初の連携訓練である。
氷見運動公園は、志賀原発から30kmを少し超えた場所にあり、避難退域時検査の会場となる。
30km圏から避難する住民や車両が汚染されていれば、住民の被ばくや汚染の拡大につながるので、ここで検査し、必要な場合は除染作業も行い、汚染なしが確認されれば通過証を受け取り、避難施設に向かってもらうという大事な場所だ。
以前、一度下見に行ったことはあるが、進入路は狭くてわかりにくい。
今回の訓練やいざという時には誘導員がいるだろうけど、渋滞含め大変そう。

車両検査会場は野球場の駐車場。
乗用車用3コース、大型バス用1コースに分け、進行方向も大きな矢印が道路に張ってありわかりやすくはなっている。

ちなみにこの場所はぬかるみがひどく駐車場としての使用にも支障をきたしていたらしいが、「原子力災害時避難円滑化モデル実証事業」とやらの国の補助金を活用してかさ上げや舗装をやったらしい。

予定より30分近く早く避難車両がやってくる。雨になる予報だったので急いだ?
それはいいとして、去年までの訓練とは違うところが随所にある。

通過する車の汚染をチェックするゲートモニターが横たわってる。
訓練開始の時には立てるのかなと思っていたらこの設置方法で実施するとのこと。
車両の上部や側面ではなく、タイヤの汚染を検査するためとのこと。
その前に検査要員がGMサーベメーターも使ってワイパーや車体側面も検査するが、いずれも手の届く範囲だけ。
その範囲の汚染を確認し、汚染が確認されたら拭き取るということになる。
それで基準値以下と確認されたらOKとなる。

プルームが流れてきて、空間線量が上昇し、避難となるが、昨日のように雨が降ってれば当然車体上部も汚染されている可能性があると思うが、手の届かないところは対象外。

検査をし、汚染が確認され、汚染箇所を特定する検査をし、簡易除染で拭き取り、再検査でOKとなるまで、最初に到着した車で10分程度。
昨日は氷見市内の避難対象地区からバス1台、自家用車80台が参加したそうだが、十数台来ただけで車が列をなしている。
実際は氷見市内だけでもこの氷見運動公園には3600台が来ると想定されてる。
端から端まで約400mある広い運動公園だが、敷地を超えて延々と渋滞が続くことが容易に想像できる。

バスを先導してきたパトカー。
上記の写真であえて出さなかったわけではない。
実はここで、この日初めてタイベックスイーツ(不織布の防護服)姿の参加者を見る。
数年前までは避難退域時検査場所といえばずらりとタイベックスーツ姿の作業員が並び、物々しい雰囲気で、マスコミ的には防災訓練の象徴的な場所だった。
国はマニュアルを改定するたびに簡素化を進めている。
避難退域時検査場所が、避難行動最大のボトルネックとなる場所なので、できるだけ簡素にスムーズに流れるよう苦心しているが、いいかえれば手抜き検査が加速している。

手抜き検査の加速は、車両検査に続く避難住民の検査会場でも随所でみられる。

テント内の導線はわかりやすく表示されてるが、問題はその中身。

指定箇所検査では頭や手、そして靴の裏の汚染をチェックする。
当然、プルームが流れてきて、地面も汚染されている可能性があるから調べるわけだが、この検査会場の地面はビニールシートなどで養生されているわけでもないし、作業にあたる人はシューズカバーすら付けていない。

検査を受けているのは視察に訪れた馳浩石川県知事。
この大きな靴の裏(サイズはもちろん関係ありません)が汚染されていたとしたらと、誰も考えないのだろうかと不思議である。
検査はすることになってるけど、誰も汚染されてることを想定していない。

もう一つ訓練の滑稽さを指摘したい。
汚染が確認され、簡易除染したり着替えをしても基準値を下回らなかった場合、富山県立中央病院など専門の設備がある病院へ搬送されることになる。

ここでこの日2例目のタイベックスーツ姿にお目にかかることになる。
汚染がひどいと確認され、救急車で搬送される段階まで、入り口のコロナチェックや受付など搬送される人に対応する人は(直接触れることは避けてはいるが)は、これまでの写真で紹介したようにタイベックスーツを着用していない。
せいぜいが手袋とキャップ程度、それすらもしていない人もいる。

避難退域時検査場所をできるだけスムーズに通過さるための検査や除染の簡素化が進んでいるが、作業にあたる人の被ばくのリスクを高めるようなやり方は誤りだ。

訓練の視察に訪れた新田八朗富山県知事と馳浩石川県知事。
今回の訓練の一番の目玉はこのツーショットである。
「原子力防災でも石川・富山連携!」である。

両県の報道関係者からの質問に対し、「今後も連携を深めていきたい」という一般論の回答には異論はないが、原子力防災に関係して、今後両県の一番の焦点となるのが安全協定である。
富山県・氷見市はかねてから再稼働拒否権を含む立地自治体と同等の内容の協定締結を北電に求めてきた。
これに対して谷本前知事は同等の権利拡大には極めて消極的な立場を表明してきた。
馳知事は富山県や氷見市の拒否権獲でも連携していくのか。
どの報道機関からも安全協定に関する質問がなかったのは残念。

馳知事は夜間や様々な季節、さらには北朝鮮からのミサイルも含め、いろんな設定での訓練を行うことが大事だとも発言。
この間、私たちが主張してきたことだ。
毎度、毎度、11年間も同じ想定の訓練を繰り返してきた危機対策課など関係部署はどう対応する?
まさか夜中に10人ほど担当者が集まって図上訓練やってお仕舞いというわけにもいかないだろう。

最後に昨日、原告団など5団体が発した声明を紹介する。

抗議声明

本日午前6時30分から志賀原発の事故を想定した石川県原子力防災訓練が実施された。
東京電力福島第一原発事故後では11回目の訓練となるが、私たちは毎回監視行動に取り組み、抗議声明を通じて訓練の課題や問題点を指摘してきた。
残念ながら今回も志賀原発の再稼働を前提とし、その一方で事故の影響を過小評価し、最悪の事態、不都合な事態を避けるシナリオでの訓練が繰り返された。重大事故が起こっても、あたかも住民が皆安全に避難できるかのような、まやかしの訓練に対して強く抗議し、以下、問題点を指摘する。

1. PAZ圏内住民の即時避難は可能か
全面緊急事態で原則即時避難とされているが、サイト内情報が迅速、正確に通報されることが前提である。
私たちが懸念するのは、北陸電力の事故隠しや通報の遅れである。
臨界事故隠しなど、数多くの前例がある。福島原発事故のように中央制御室で原子炉内の様子が把握できない事態も想定される。
このような場合でも敷地周辺のモニタリングポストで異常は検知可能とされるが、志賀原発は他のサイトと異なり、赤住までは400m 福浦も1km余りと、周辺集落との距離が近い。
後述するように避難バスが直ちに来る保証もない。
放射性物質放出前に常に避難を開始できるかのような訓練が繰り返されているが、前提条件に危うさがある。

2. UPZ圏内住民は「まずは屋内退避」の方針を受け入れていない
規制委は「UPZ 圏内では、内部被ばくのリスクをできる限り低く抑え、避難行動による危険を避けるため、屋内退避を基本とすべき」との方針を示し、本日の訓練もその考え方に基づき実施されている。
しかし、私たちが訓練と並行して行った住民アンケート調査では、屋内退避方針自体知らない、あるいは従わず避難するという住民が少なからずいることが確認されている(後日、詳細に報告予定)。
規制委は「内部被ばくは、木造家屋においては4分の1程度」に抑えられるとするが、それは1993年以降に建てられた住宅であり、1980年以前に建てらえた住宅では低減効果は半分以下の44%とされている。
放射性プルームからのガンマ線の外部被ばく遮蔽効果も木造家屋ではほとんど期待できない。
「渋滞による大混乱は危険、その危険を避けるために屋内退避で被ばくする」という避難計画の根本的矛盾を多くの住民は見抜いている。

3.バスによる迅速な避難は幻想
県は今年3月、石川県バス協会との間で「災害等におけるバスによる人員等の輸送に関する協定書」を締結し、さらに原子力災害時の業務内容などを運用細則で定めた。
しかしバス業界の実態をみると、緊急時のバスの配車は容易ではない。
昨今の深刻な運転手不足に加え、コロナ禍による業績悪化、そして今は人流回復による繁忙段階へと入り、各事業者は常に余裕のない運行体制を敷いている。
PAZ圏内の集合場所は22カ所あるが、全面緊急事態に至る数時間内に必要台数を確保することはほぼ不可能。「全面緊急事態で直ちに避難」は幻想である。
UPZ圏全体で考えても、住民の1割がバス避難と仮定すると約1万5千人。
県バス協会加盟事業者が保有する大型の貸し切りバスの253台(うちUPZ圏内事業者は52台)に加え、UPZ内の路線バスもすべて避難用に回すという非現実的想定をしても大幅に不足する。
加えてOIL1(500μSv/h超)の場合は、運転手の被ばく問題(線量限度1mSv)もあり、さらに配車は困難となる。

4. 様々な複合災害をなぜ想定しない
今回も複合災害訓練は盛り込まれているが、地震により道路が一か所寸断し、応急復旧で通過可能となるという想定のみである。
原子力災害の甚大さを考慮するならば、本来は異常気象による様々な巨大災害との複合災害を想定し、原子力防災が機能するのか真剣に検証すべきだ。
最低限志賀町など周辺自治体が作成する土砂災害や洪水のハザードマップ、あるいは交通に重大な影響を及ぼす雪害との複合災害をも想定し、訓練を実施すべきではないか。
志賀町の米町川や七尾市の御祓川、二宮川、熊木川などは近年も洪水の実績があり決して絵空事ではない。
迅速かつ遠距離の避難が求められる原子力防災にどのような影響を及ぼすのか、課題は何か、なぜ訓練で検証しようとしないのか。
最悪の事態、不都合な事態を避けるシナリオだと言わざるを得ない。

5. 石川・富山合同の手抜き訓練
石川・富山両県合同の避難退域時検査訓練が氷見運動公園で初めて実施された。
今年9月に全面改訂された内閣府および原子力規制庁の「避難退域時検査及び簡易除染マニュアル」に基づく訓練である。
マニュアル自体、改定の都度、「避難の円滑化」との理由から簡略化(手抜き)が進んでいるが、そのマニュアルをさらに簡略化した訓練内容であった。
簡易除染でも基準値を下回らなかった車両は想定せず、持ち物の検査なし。
検査場所を通過せず避難所へ向かう住民も想定していない。
さらに設営の前提となる石川県側からの検査予想台数・人数も明らかにされていない。
今回の訓練で、氷見経由の避難がスムーズにできたとの総括は到底許されない。

6. 長期避難のリスクを隠す訓練
県や各市町の防災計画では「長期避難への対応」の項目がある。
各市町では福島を参考に数年から10年の避難を想定しているとのこと。
ところが本日の訓練に参加する避難者の持ち物を見れば、長期避難の可能性も意識している住民は一人もいない。
防災リュックすら見かけない。避難退域時検査場所でも持ち物の汚染検査は想定されていない。
ペットが飼う家庭は当然同行避難を考えるが、その対応も見られない。
事故を過小評価し、長期避難のリスクを隠す訓練である。

7. 最後に ――― 原子力防災は住民も地域も守らない
一企業の、電気を生み出す一手段に過ぎない志賀原発のために多くの県民の命や暮らしが脅かされ、財産を奪われ、ふるさとを追われる危険に晒され続けている。
このような異常な事態を放置し、さらには覆い隠すかのように「重大事故でも無事避難」という防災訓練が繰り返されている。
もっとも確実な原子力防災は原発廃炉である。原子力防災は住民を被ばくから守れない。
地域を汚染から守ることもできない。
私たちは、志賀原発の一日も早い廃炉実現に向けて、引き続き全力で取り組む決意をここに表明する。

2022年11月23日
志賀原発を廃炉に!訴訟原告団
さよなら!志賀原発ネットワーク
石川県平和運動センター
原水爆禁止石川県民会議
社会民主党石川県連合
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北野進 北野進

珠洲原発反対運動に関わり31歳から石川県議を3期務める。その後、石川県平和運動センター事務局で平和運動に携わり、2011年から2期珠洲市議を務める。現在「志賀原発を廃炉に!訴訟原告団」団長。

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