原子力防災訓練監視行動報告 2023-11-24 |北野進の活動報告
社会・経済11月23日、志賀町で震度6強の地震が発生し、志賀原発2号機は全面緊急事態に至り、放射性物質が放出されたとの想定の下、石川県原子力防災訓練が実施された。
原告団は石川県平和運動センター・原水禁石川県民会議、社民党石川県連合、さよなら!志賀原発ネットワークとともに、監視行動、住民アンケートに取り組み、抗議声明を発表した。
監視行動は原告団・社民党議員団が中心となって行っており、ここでは私の行動範囲を中心に報告する。なお、住民アンケートは平和運動センター・原水禁・原告団が取り組んでおり、後日集計結果を報告書にまとめ、公表する予定である(昨年度の住民アンケート報告書はこちら)。
朝7時、震度6強の地震発生。
毎回同じ想定で事故が起こり訓練が始まる。
馳知事は訓練視察中、マスコミのインタビューに答え、「酷暑や雪、雨など考えうることを想定して訓練する必要がある」と述べたそうだ(11.24北國新聞)。昨年も、氷見総合運動公園での訓練視察時のインタビューで季節や天候、時間帯など、様々な条件を想定した訓練の必要性を語っている。かねてから私たちが主張してきたことだが、知事発言には重みがある。腰の重かった担当課が、今年は初めて避難退域時検査訓練の夜間実施を訓練項目に盛り込んだ(後で報告)。
それはともかく、事故発生時の時刻や天候等の条件だけでなく、事故想定自体も変えてみた方がいい。
原発事故はいつも地震によって起こる(地震でしか事故は起こらない)と住民や防災関係者に勘違いさせかなない。スリーマイル島事故やチェルノブイリ事故も、国内の敦賀原発の放射能漏れ(1981年)以降繰り返されてきた多くの事故、故障も、福島原発事故を除けば地震以外の原因で起こっている。
一方、「震度6強の地震発生」についても真剣にむきあったことはない。発電所以外の被害発生は1か所の道路損壊だけ。こちらも毎回ほぼ同様の繰り返しである。震度6強の地震被害はこの程度という誤解を生んでいやしないか。これについては末尾に掲載した抗議声明でも触れているが、震度6強を記録した2007年の能登半島地震や今年5月の珠洲地震の被害はこのようなものではない。さらに火災発生や津波被害もありうる。全壊・半壊家屋が多数ある中、屋内退避はしようにもできない。実は今回の訓練含め、この間、一度として震度6強の地震との複合災害をまともに想定してはいないのである。
私は今回、オフサイトセンターの立ち上げ訓練を確認し、7時45分には施設を出たのでその後の運営状況を直接確認してはいないが、毎回緊張感の感じられない訓練が繰り返されてきた。今回も同様である。具体的に一点だけ指摘する。
オフサイトセンターでは石川県の現地災害対策本部が置かれるだけでなく、政府も交えた合同対策会議など重要な会議が行われ、節目ごとにプレス発表も行われる。
9時25分発表のプレス発表資料の一部を紹介する。
「能登金剛遊覧船有限会社、海上保安部の船舶が福浦港から富漁港まで住民搬送中。福浦港に9:10頃到着し、富来漁港に9:50頃到着の見込み。」
11:05発表資料でも同様に「・・・福浦港から富来漁港へ、住民を移送(23日9:10~9:40)」とある。
しかし、実際は今朝の北陸中日新聞にも書かれている通り、「強風のため、孤立住民の船舶での避難を中止」しているのである。
プレス発表資料は会議後、時間を置かず提供される。シナリオ通りの内容で事前に用意しているのだろう。それ自体問題だが、せめて計画通り進行しているかどうかくらいはチェックして発表すべきだろう。話にならない。
会議での志賀町からの報告内容は確認できていないが、もしこのプレス発表通り、事実と違う報告しているようなら、なおさら大問題だ。
その後、私は住民アンケート班の出発時の打ち合わせに参加し、そして志賀町の総合武道館へ。
志賀町議会の視察団も来ている。議員同士のひそひそ話は原子力防災ではなく来月に控えた町長選挙のよう。
またまた話がそれてしまった。
この施設は放射線防護対策が施された部屋もあり、在宅の要支援者と「ケアほーむ楓の家」の入所者の屋内退避・避難訓練の会場となっている。要支援者のための施設だが、部屋は1階だけでなく2階にも。階段の高さは2階というより3階に近い。エレベーターなしの3階はきつい。施設の問題点これまでも指摘されてきた。今回は別の問題点について。
どの部屋も定員いっぱいほどの人がいる。地域の高齢化が進み、要支援者とサポートする人もいるからこんな感じかと思ってみていたが、その後の情報ではバス避難の住民まで来ていたようだ。
志賀原発の南側、原発に最も近い赤住の一時集合場所を見に行った仲間からの報告では、なんとバス避難の一時集合場所であるはずの赤住公民館に地区住民の姿はなく、志賀町役場に確認すると、訓練に参加された皆さんは武道館へ行ったとのこと。赤住だけでなく、他の5km圏の地区も同様だったのではないか。道理で武道館には多くの人がいるわけである。
赤住は最も原発に近い地区でもあり、毎回避難対象地区として避難訓練が行われており、今回の実施要領をみても5km圏内は「住民を地区の集会所(一時集合場所)等に誘導し、バスにより避難計画要綱に定める避難所へ避難させる」とある。
赤住から武道館までは約4km。こんな遠い一時集合場所では意味をなさない。勝手な推測だが、各地区の参加人数が少なかったため、地区ごとにバスを派遣するのをやめ、武道館に集合させたのではないかと勘繰りたくなる。手抜き訓練の真相は今後解明していかなければならない。
続いて原発の北側、福浦地区の旧福浦小学校へ。ここは地震で道路が損壊し住民が孤立したとの想定。
船での避難は中止となったが、航空自衛隊のヘリは「孤立住民」4人を乗せて飛び立ち、田鶴浜多目的グラウンドへ。
ちなみにヘリでの避難では荷物は最小限にしなければならない。スーツケースや手提げのバックなどはダメ。せいぜい背中にリュックを担ぐくらいにしなければならない。ヘリのプロペラの風圧は想像以上に強く、私は50m程度離れたところから見ていたが、離陸時は帽子は飛ばされ、砂ぼこりで目も開けてはいられないほど。避難住民の搭乗時も荷物が飛ばされ機体にぶつからないよう細心の注意が必要となる。もちろんペット同行避難もヘリではできない。
次は複合災害の訓練会場である巌門クリフパーク。
倒木や土砂崩れなどで通行止めとなった道路が復旧し、自衛隊の特殊車両とバスを乗り継ぎ、住民は能登町へという設定も最近続いている。
今回は森林組合の作業員が倒木を伐採し撤去。道路を通行可能にしたところで、予定時間より遅れて馳知事が到着。
原発から5km圏、まだ放射能は放出されていないが外部電源喪失、炉心への注水機能も喪失したという設定である。
「全面緊急事態という状況下、危機感と緊張感を持て」と言いたいところだが、せめてそういう事態を想定した訓練の現場だという認識を持って訓練を視察してほしい。
訓練に参加した作業員は誰一人防護服の着用どころかポケット線量計も持っていない。
避難する住民も、ここに限らず、雨合羽などを着用している人はごくわずか。持ち物も小さなリュックか手提げのバックを持っていればいい方。ほとんど人はスマホと小銭入れをポケットに入れている程度と思われる。長期避難は全く想定していない。
谷本前知事も何度となく防災訓練視察した。馳知事は昨年から訓練を視察している。
「これで本当に県民の命と暮らしを守れるのか」という視点で、もっと真剣に視察してほしいなあと思うのは私だけか。
県が発行する「原子力防災のしおり」には非常用の持ち出し品が記載されていがそれすら持っていない。長期避難となり無人となった地域は泥棒が暗躍できる場所でもある。被ばくを覚悟すれば取りたい放題。これも福島の教訓である。避難するときには盗まれたくないものはすべて持っていく、それくらいの心構えが普段から必要だ。
この後、邑知中学校に立ち寄り、ヨウ素剤配布訓練を見る予定にしていたが、巌門への知事の到着が遅れ、それに合わせて訓練も遅らせたため、間に合わなくなってしまった。
監視行動の仲間が現場を見ているので報告する。
実施要領によれば昨年に続きドライブスルー形式で配布をするとのこと(昨年の訓練は予定時間より早く終了してしまったため、監視行動のメンバーは誰も作業状況を確認できなかった)。
住民15人が参加し、まず校内の放射線防護施設を見学し、DVDを視聴し学習。帰りに配布訓練とのこと。
配布場所は邑知中学校の前庭。
私はドライブスルー形式と聞いて、ファストフード店などのドライブスルーを想像していた。被ばくを少しでも減らすため、配布担当者は屋内にいて、車両が来たら窓を開けて手を伸ばしてドライバーに安定ヨウ素剤を渡すものと思い込んでいた。ところが配布場所は完全に屋外。ドライバーは車から降りないのでドライブスルー形式に間違いはないが・・・
配布作業は、まず中能登保健福祉センターの職員が説明を行う。「タイベックスーツ着用」というゼッケンをつけているが、実際は着ていない。ドライバーに甲状腺がんのリスク低減のためという目的を説明し、ヨウ素アレルギーがないかを確認。乗車人数を聞き、県から指示があったら服用するよう伝える。そして羽咋市職員がヨウ素剤に見立てたチラシを渡して終了。1台当たり約30秒とのこと。
この程度の説明ならば、PAZ圏住民と同様、UPZ圏の住民に対しても説明会を実施し事前配布すればいいのではないかと思うが、県は国が示すマニュアル(「安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって」原子力規制庁)に沿って、避難・一時移転時の配布方法の検討を重ねてきた。そして昨年からドライブスルー形式での配布訓練を実施しているが、課題は多い。
ドライブスルー形式の問題点については末尾の抗議声明で指摘している。
私は避難退域時検査場所の高松SAと県立看護大へ。
避難計画の最大のネックは避難待機時検査である。30km圏から避難してくる全車両、そして乗車している全住民の汚染や被ばくの県検査をすると検査場所は大渋滞・大混乱必至である。
国は昨年、検査の大幅な簡略化に向けてマニュアルの全面改定を行った(「原子力災害時における避難退域時検査及び簡易除染マニュアル」内閣府(原子力防災担当)・原子力規制庁)。
石川県はこのマニュアルを先取りし、1昨年の訓練から検査の簡略化(手抜き)に切り替えている。
簡単に言えば、車両の汚染が確認されなければ、乗車している人も持ち物の汚染なしとする。車両が汚染している場合、乗車している代表者を検査し、汚染がなければ他の全員も持ち物も汚染なしとする。車両の汚染+代表者が汚染の場合のみ全員の検査、そして荷物も検査するという方式である。
まず高松SAの車両検査場所へ行ったが、すでに6台が通過し、あと2台来て終わりとのこと。昨年、おそらく避難台数を増やしたためだと思うが渋滞を来たし、志賀町議会から渋滞対策を求める声が上がったと聞く。そこで今回は県立看護大の駐車場と旧押水放牧場に避難車両を分散させたようだ。もちろんこれは訓練のための渋滞回避策でしかなく、実際には大渋滞確実である。
車両が検査場所に到着すると、まず横に倒したゲートモニターの間を通る。タイヤの汚染の測定で、タイヤ側面のホイールだけでなくタイヤの接地面の溝の汚染まで測定できるとのこと。ただ、車体底部までは測定できない。次に電力社員がシンチレーションサーベイメーターでワイパーやバンパー、車体の側面などを調べる。この北陸鉄道のバスの場合、汚染が確認され、詳細な検査をし、汚染個所を確認し、ウエスでふき取り、再検査で除染効果を確認する(ただし手の届かない車体上部や車体の底部は汚染されていてもそのまま避難先施設へ向かうことになる)。ウエスで拭くだけでは除染できなかった場合、代車を用意しなければならないが、そういう設定はしていない。
並行して代表者のスクリーニングをし、汚染が確認された場合に看護大での住民汚染検査へと向かうが、車の到着から出発までに約16分を要している。ここは1レーンだけなので汚染されたバスが4台来ただけで1時間以上の時間を要することになる。乗用車の場合はもう少し早いが、車両検査だけで約5分、汚染が確認された場合は10分を要している。
今回はほぼ北北西からの風向きで志賀町南部と羽咋市、宝達志水町、そしてかほく市の一部が避難対象。対象地区の住民は約46、000人(県資料より)。2割がバス避難で一台に40人が乗車、8割が自家用車避難で4人乗車と仮定してもバスは230台、自家用車9200台が金沢方向へ向かうことになる。今回は高松SAと看護大駐車場、旧押水放牧場の3か所の計4レーン(看護大は2レーン)で対応しているが、全車両が車両検査だけで汚染なし(約5分で通過)だとしても1レーンあたり196時間を要することになる。これだけでも大渋滞、大混乱の発生で計画の破綻は明らかだが、事故の規模や天候によっては今回訓練対象になっていない七尾市(中島地区を除く)と中能登町の住民も一緒に避難してくる可能性もある。人口は計約12万2千人に膨らみ、パニック必至である。
検査場所のこれ以上の拡充は適切な場所がなく困難。しいて言えば高松SAで1レーン増やせるだけで、抜本的な解決にはつながらない。となると残る渋滞解消策対策は2つ。できるだけ住民を避難させないこと(通過車両を減らす)、もう一つは検査の簡略化(一台あたりの通過時間を減らす)である。そしてその代償は住民の被ばくリスクの増大である。
続いて看護大体育館の住民の検査場所へ。
すでに検査開始から時間がたっており、検査待ちの住民は少ないかと思ったが、かなりの混雑。県の担当者によれば、今回は車両汚染の比率、さらに代表者汚染の比率を上げ、検査対象の住民を増やしたとのこと。訓練なので多くの住民にスクリーニングを経験してもらうのはいいことだ。
最初の検査は6班で対応。汚染が確認され、簡易除染、再検査を行うのは4班で対応。最初の汚染の有無の確認検査は1分30秒程度だが、汚染が確認された場合は再検査終了まで4分以上を要している。
実際の事故時に汚染者がどの程度いるかわからないが、検査対象となる住民が多くて対応できない場合は、現在の40000cpmの基準値をさらに引き上げる対応をするのは間違いないだろう。
被ばく対策がどんどん簡易(手抜き)になってきているが、さすがに行き過ぎはこの足元。かつては新聞の社会面を飾ったタイベックスーツ姿での汚染検査は今では見られなくなり、昨年の氷見総合運動公園の検査会場では頭のキャップすらなくなっていた。この会場では全員キャプをかぶり、おそらく回収されるであろう薄手のジャンパーを全員が着ている。しかし下は、おそらくは自宅から着用してきて、自宅にそのまま帰るであろうズボンのままである。このあたりもこれでいいのかと思うが、さらに問題なのは全員シューズカバーなしということ。昨年も指摘したが、靴の裏の放射線の測定をしながら測定してしている人の靴は養生なしというのは考えられない。会場にいた放射線の専門家(アドバイザー?)の人に聞いたところ、さすがにこれはダメで、むしろ避難してくる人もバスに乗る段階で靴を覆っていないとバスの中が汚染される可能性があると指摘。当然だ。
検査を終えた住民が持参する検査用紙を見ると、最終的な測定数値は「BG」とされる。バックグラウンドの数値のことだが、そんなはずはない。汚染の測定の基準値は40000cpmとされ、この数値を下回れば検査はパスできる。しかし40000cpmを下回っただけであり、被ばくはゼロではない。40000cpmという基準自体、高すぎるという指摘もある。本人に測定数値は知らせるべきだろう。
特に子どもについては甲状腺がんのリスクもあり、40000cpm以下なら大丈夫とは決してならない。子どもは元々全員甲状腺の検査対象となるので、ここでの数値は関係ないと専門家の方から説明を受けたが、ここは議論のあるところだろう。
バックグラウンドの数値が上昇した場合、測定値の正確性や測定員、そして行列をつくる避難住民の被ばく問題もあり、避難方向でかつもっと遠いところに代替の検査場所を検討しておくよう内閣府作成のマニュアルは求めている。石川県は代替の場所の検討は進んでいない。金沢方向も奥能登方向も適当な場所がないのだ。
もう一つ、避難退域時検査場所の難問を指摘しておく。
ペットも家族同然との認識はすでに定着していると思うが、今回の訓練ではペットの同行避難の受け入れ訓練が初めて行われた。といってもペット同行避難者の受付を設けただけ。今回避難先となった金沢市の高岡中ではペットを連れてきた人はいなかったとにこと。このような訓練は一般災害の防災訓練で実施すればいい。
原子力災害におけるペット避難の特殊性は、ペットが被ばく・汚染している可能性があるということだ。屋外を走り回るペットならなおさら心配だ。避難退域時検査場所では持ち物と同様の扱いで検査することになってはいるが、どんなペットでも対象とするのか。犬、猫以外にもいろんなペットがいる。他の人への危害の恐れも考えれば、基本はゲージに入れることとなると思うが、となると大型犬はダメということか。猫も、猫アレルギーを持つ人もおり難しさがある。高い放射線量が測定された場合にどうするのかという問題もある。
今年の原告団総会で記念講演をしていただいた福島県浪江町津島からの避難者・菅野みずえさんのインタビュー本(「菅野みずえさんのお話」発行アジェンダ・プロジェクト)を読むと最後に飼い犬が避難後に亡くなったことは記されている。死因は正確にはわからないが、血小板減少症の症状があり、被ばくとの関係が疑われるとのこと。早期の検査・除染で救える命があることも間違いないだろう。
原発事故からペットを守れるのか、これも難しい問題である。
さて、今回の監視行動の最後は夜間の避難退域時検査会場(看護大駐車場)。
停電も想定し、自家発電の照明器具があちこちに配置されている。レンタルとのこと。
検査の流れ自体は昼と同じだが、暗いと検査員が測定器の数値を読めなくなる。車の移動も、案内表示が見えなくなり、誘導が課題となる。照明器具の配置場所を訓練の途中でも移動させながら、課題を確認していく。やってみて見えてくることが諸々あるのは間違いない。
夜間訓練の前提となる課題について一点指摘しておく。
今回は昼の避難行動が夜間にずれ込んだとの想定で夜間訓練を入れたが、そもそも夜間でも緊急に避難しなければいけない事態も当然想定される。OIL1(500mSv/h)の空間線量が確認されれば数時間以内に避難となるのが現行の避難計画である。夕方、OIL1が観測されたらどうする。OIL2(20mSv/h)でも1週間以内に一時移転である。24時間フル稼働でも1週間以内に避難を完了することは困難だ。夜間でしかも停電ともなれば避難行動には事故の危険が伴うから基本的には避けるというのが担当課の考えのようだが、放射能が拡散した環境下、住民により深刻な被ばくを強いることにはならないか。
難問が次々と浮上する。
この他、今回は緊急時モニタリングの監視行動も初めて実施することができた。福島の事故を教訓に大きく見直された分野である。従来からモニタリングカーが回っていること、可搬式のモニタリングポストを設置していることは知っていたが、何台の車がどこを回っているのか、どういう作業を行っているのかといったことすら私たちは把握できていなかった。OILの判断根拠となる空間線量の測定に関わる重要な作業も含まれており、この間、対応できていなかったことは私たちにとっては反省点である。
今回、30km圏は本番同様14台のモニタリングカーが回っていること(30km圏外はなし)、可搬式モニタリングポストの設置場所や設置手順、土壌や水、空気の採取の具体的作業も確認することができた。今後、積雪時や道路の寸断など様々な状況にどのように対応するのかなど、モニタリング計画、実施計画も確認していかなければならない。
以上、今回の監視行動でも訓練内容の問題点や残された課題が数多くあることが確認できたかと思う。
志賀原発の避難計画は現在、内閣府の志賀地域原子力防災協議会で具体化に向けた議論が重ねられている段階で、実効性の有無でいうなら「無」と言っていい。
ではこの計画に実行性があればいいのか。
決してそうではない。計画自体が住民の被ばくを前提としており、受け入れ難いものだ。住民を守れる避難計画など作れないことを改めて確認しておきたい。
今回の原子力防災訓練に対して原告団ら5団体が発表した抗議声明は下記の通り。
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抗議声明
本日午前7時から志賀原発の重大事故を想定した石川県原子力防災訓練が実施された。東京電力福島第一原発事故で原発の安全神話が崩壊し、大量の放射性物質が放出される重大事故もありうると国も認める中、「原子力災害の対応体制を検証する」ことが訓練の目的とされる。私たちは毎回監視行動に取り組み、抗議声明を通じて訓練の課題や問題点を指摘してきたが、今回も事故の影響を過小評価し、最悪の事態、不都合な事態を避けるシナリオでの訓練が繰り返された。重大事故が起こっても、あたかも住民が皆安全に避難できるかのような、まやかしの訓練に対して強く抗議し、以下、問題点を指摘する。
1. 被ばく前提の避難計画
県の避難計画要綱や関係市町の避難計画の「目的」は「住民等の被ばくをできるだけ低減するため」と記しており、「被ばく回避」の文言はない。避難計画の根拠となっている原子力災害対策指針自体「被ばくをゼロにすることを意図しているものではない」と政府は国会審議の中で明言している。原子力規制委員会は「事前対策のめやす」として、福島原発事故の100分の1の規模となるセシウム放出100TBqに相当する事故に備え、「めやす線量」は、実効線量で100mSvの水準としている。本日の訓練で実施された屋内退避や避難、一時移転によって住民の被ばくは100mSvを下回ったとしても、決して被ばくを回避し、避難できたわけではない。
県や関係市町は避難計画が住民の被ばくを前提としていることを周知しているのか。住民はそれを納得しているのか。そもそも放射線審議会は公衆の被ばく線量限度を1mSv/年とし、原子炉等規制法も原発の設置許可の条件として公衆被ばく限度1mSv/年以下を求めていることを忘れてはならない。災害時を例外とするのは安全規制の骨抜きに他ならない。
2.「震度6強の地震想定」は言葉だけ
2007年の能登半島地震に続き、今年5月には珠洲市でも震度6強の地震が発生している。北陸電力は原子力規制委員会の審査会合で、志賀原発の周辺でいくつもの巨大な活断層が存在することを明らかにしており、「震度6強の地震発生」は決して過大な想定ではない。しかし訓練では志賀原発敷地外への影響は1か所の道路の寸断のみであり、明らかに地震被害を過小評価している。実際には多くの家屋が倒壊し、下敷きになった住民もいるかもしれない。死傷者も複数発生し、火災発生もありうる。道路の損壊も広範囲に、複数個所に及ぶ。津波被害も発生しているかもしれない。県や志賀町、あるいは周辺市町は地震の災害対策本部を設置しているはずである。消防や警察はこうした事態への対応で奔走している。こうした中での複合災害発生である。原子力災害への対応がどこまで可能か、真剣に検証すべきである。
3. 服用のタイミングを逸するドライブスルー形式の安定ヨウ素剤配布
UPZ圏内の住民へ安定ヨウ素剤配布は容易ではなく、事前配布をするしかないのではないかと私たちは指摘してきた。こうした中、昨年度からドライブスルー形式での配布訓練が実施されているが、3つの問題点を指摘する。1つは服用のタイミングを逸する懸念である。安定ヨウ素剤の服用のタイミングは、放射性ヨウ素を吸入する24時間前から吸入後2時間とされる。ドライブスルー形式は、屋内退避していた住民がOILに基づいた避難指示を受け、避難行動の途上で安定ヨウ素剤を受け取ることとなる。住民は屋内退避の段階ですでに被ばくしており、吸入後2時間内の服用は困難ではないか。2点目は配布場所周辺での渋滞発生の懸念である。特にOIL1の場合は空間線量が500mSv/hを超えており、住民が殺到すると思われる。避難行動は遅れ、無用の被ばくに晒される。3点目は配布作業にあたる防災業務従事者の被ばく問題である。屋内からの手渡しでも被ばくは回避できないが、本日の訓練では、配布作業は屋外で実施されている。防護服を着用していても長時間被ばくのリスクに晒される。
4. 形だけの要支援者避難
今回の訓練では、在宅の避難行動要支援者や高齢者施設に加え、障害者就労支援施設や病院でも避難訓練が実施される。きめ細かい災害対応に向けての努力は評価するが、全入所者、全入院患者の避難に向けた課題は多く残されている。原子力災害の特殊性を踏まえた、一人ひとりの個別避難計画を作成し、介護度や障がいの種類、病状に応じた受け入れ先と輸送手段を確保しなければならない。受け入れ先の施設も、原発事故に備えあらかじめベッドを用意し、人員を確保しているわけではない。複数の受け入れ候補施設を確保しておかなければならない。民間団体に輸送の協力を求める場合は、防護基準も明記した協定の締結が必要となる。模擬避難者による避難手順の確認より、個別避難計画の策定状況や見通しこそ明らかにすべきである。
5. 軽視される原子力災害の特殊性
私たちは県や周辺各市町と原子力防災について意見交換を重ねている。この中で明らかになった問題点として、行政の防災担当者は概して他の災害との共通点に着目し、原子力災害の特殊性は切り捨てる傾向があることを指摘したい。一例として今回初めて実施されるペット同行避難の受入訓練を取り上げる。避難所でのペットの受入は他の災害でも共通する課題である。しかし原子力災害ではペットの被ばく・汚染、長時間かつ遠距離の避難行動という特殊性がある。避難退域時検査場所での検査こそ実施すべきである。避難バスでの同行も問題が多く、自家用車避難を原則としなければならない。事故発生の通報があった段階で極力屋内に留め、被ばくを回避することも大切である。飼い主に事前に周知すべき事が数多くあるが置き去りにされている。
6. 最後に ――― 原子力防災は住民も地域も守らない
一企業の、電気を生み出す一手段に過ぎない志賀原発のために多くの県民が命や暮らしを脅かされ、財産を奪われ、ふるさとを追われる危険に晒され続けている。このような異常な事態を覆い隠すかのように「重大事故でも無事避難」という防災訓練が繰り返されている。もっとも確実な原子力防災は原発廃炉である。北陸電力は1年前、2026年1月の再稼働想定を公表したが論外である。原子力防災は住民を被ばくから守れない。地域を汚染から守ることもできない。私たちは志賀原発の一日も早い廃炉実現に向けて、引き続き全力で取り組む決意をここに表明する。
2023年11月23日
志賀原発を廃炉に!訴訟原告団
さよなら!志賀原発ネットワーク
石川県平和運動センター
原水爆禁止石川県民会議
社会民主党石川県連合
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –
☆ISF主催公開シンポジウム:日米合同委員会の存在と対米従属 からの脱却を問う
☆ISF主催トーク茶話会:安部芳裕さんを囲んでのトーク茶話会のご案内
☆ISF主催トーク茶話会:浜田和幸さんを囲んでのトーク茶話会のご案内
★ISF(独立言論フォーラム)「市民記者」募集のお知らせ:来たれ!真実探究&戦争廃絶の志のある仲間たち
※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
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珠洲原発反対運動に関わり31歳から石川県議を3期務める。その後、石川県平和運動センター事務局で平和運動に携わり、2011年から2期珠洲市議を務める。現在「志賀原発を廃炉に!訴訟原告団」団長。