静岡県知事選で「リニア問題」は本当に問われたのか 取材・文◉横田一(紙の爆弾7月号掲載)
社会・経済政治#リニア中央新幹線 #JR東海 「透水係数」の詐術 #川勝平太 #泉房穂 #安倍晋三 #岐阜県水位低下 #鈴木康友
川勝平太前知事の辞職に伴う静岡県知事選(5月9日告示・26日投開票)は、JR東海が県内でトンネル工事を始めようとしているリニア問題が最大の争点だった。
3年前は「大井川の水と南アルプスの環境を守る」と訴えた川勝氏が自民支援の岩井茂樹・元参院議員に約30万票の差をつけて圧勝、3選を果たした後もJR東海や国交省と対峙し、トンネル工事を認めてこなかった。
しかし4月3日に突然辞意を表明したことで、新知事が川勝路線を引き継ぐのか否かが注目されることになった。
与野党激突の構図にもなった県知事選挙の結果は立憲民主と国民民主が推薦する鈴木康友・前浜松市長が、自民党が推薦する元副知事の大村慎一氏を破って初当選。岸田政権にさらなる打撃を与えることになったのだ。
取り返しがつかないのは失言ではなくトンネル工事による「水枯れ」
川勝知事の辞意表明は、メディアの“言葉狩り”が発端だった。
新人職員への訓示で「県庁というのは別の言葉で言うとシンクタンクです。
毎日野菜を売ったり、牛の世話をしたり物を作ったりとかと違って、基本的に皆さんは頭脳・知性の高い方たち」と述べた部分だけを切り取り、「職業差別とも捉えられかねない」と報じたことが引き金だったからだ。
一週間後の4月10日に辞職届を提出した川勝知事は、同日の定例会見でこう反論した。「職業差別というのは悪なのです。人を弾劾することができる言葉です」
「区別と差別とは違う。ジャーナリストの仕事と私の仕事は違います。どちらが上か下かというのはない。
『そういう意味で申し上げた』といっても『職業差別だと捉えられかねない』というふうに報道されたとたん、『職業差別』という言葉をもって、特に第一次産業に対する差別だと広がった。
しかも農水大臣までが強い憤りを感じられるということで本当に驚いた」
そこで会見終了後、川勝知事を追いかけて「デッチ上げ報道に屈するのか」と声かけ質問をしたが、エレベーターに乗り込んだ川勝知事は無言のままだった。
メディアによる川勝知事への集中砲火に対応すべく、「リニア新幹線を考える静岡県民ネットワーク」共同代表の林克氏は昨年7月から「川勝平太がんばれキャンペーン」を始めており、今回の辞職をこう残念がっていた。
「川勝さんは本当に、地場の農業の振興に奮闘してきた方だと思う。ただ非常にサービス精神が旺盛で、目の前の人を持ち上げるために、いろいろな比喩を使ったのかというふうに思う」
「農家の水不足、トンネル工事で大量の水が出てしまうおそれを川勝知事はちゃんとわかっている。
かつて丹那盆地は非常に豊かな水田だった。
丹那トンネル(後述)を掘ったら水が抜けてしまって、そこで田んぼが出来なくなってしまった経緯があった」
目の前にいる新人職員へのリップサービスで川勝知事は誤解を招く失言をしたものの、大井川流域の農家のために奮闘してきた姿こそ実態に違いない。
静岡県で再出馬を求める署名活動が行なわれたのは、このためだ。
そんな川勝知事と共通点を持つのが、子ども関連予算を2倍以上にして10年連続人口増を達成した前明石市長の泉房穂氏だ。両者とも、失言はするものの住民のた
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1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。