☆戦争の危険はどこから来るのか?(緊張が高まる南中国海情勢の背景についての 学習レポート) 2024年7月4日 山橋宏和日中友好ネット

日中友好ネット

ストックホルム国際平和研究所が今年の4月22日に発表した「2023年の世界の軍事費」は、前年比で6.8%増加し、総額で2兆4430億ドル(約388兆円、1ドル159円換算)だった。
アメリカは1位で9160億ドル(約146兆円)、一国で世界全体の37.5%を占める。これにNATO や日本、韓国などアメリカと同盟関係にある国を加えると52%になる。

そのアメリカが「中国は脅威だ」と喧伝している。なるほど中国の軍事費はアメリカにつぐ世界2位の2964億ドルだ。全世界の12.1%を占める。しかし中国の人口は14億人、世界人口の17.1%だ。
一方、アメリカの人口は3.3億人、世界人口の4%だ。

国民一人が支出する軍事費の世界平均を1とすると、中国人は0.7にすぎず、アメリカ人は9.3になる。
アメリカ人は中国人より13倍以上の軍事費を支出している。ちなみに日本の軍事費の支出は全世界の2.1%で10位、国民一人当たりの支出は世界平均の1.4倍、中国人の2倍になる。

軍事費の性質についても考えてみよう。
中国の周囲には2万2147キロという世界一長い陸の国境線があり(ロシアの約2万キロより長い)14ヶ国と接し、海を隔てては6か国と相対する。密輸や密入国、海賊などを取締まる国境警備にかかる費用は莫大である。

それに比べてアメリカは、東は大西洋、西は太平洋で、陸で接する国は北にカナダと南にメキシコの2か国だけだ。日本も周囲が海で、陸で接する国は一つもない。
戦車部隊が押し寄せてくることも無ければ、ジャングルの中からミサイルを撃ち込まれる心配もない。
日本を攻めようと思えば、海と空からしかなく、どちらにしても高額な武器が大量に必要だ。
アメリカも日本も国境警備と言う意味では非常に守りやすい国なのに、何でそんなに軍事費が必要なのか?

軍事関係の指標としては他に「軍事力ランキング」や「武器輸出ランキング」などがあるが、いずれもアメリカがダントツの一位だ。
アメリカは単独で一位、同盟国を入れると世界の半分以上の軍事力を維持している。
アメリカにとって何が脅威なのだろう。
アメリカにとっては、同盟国以外の国が全部結束してアメリカに対抗してきたとしても、それ以上の軍事力を持っているのである。別に軍事的な脅威はほとんど感じないはずだ。

集団的安全保障という考え方がある。国連などのような多国間の安全保障体制参加国の、いずれかの国家が行う侵略に対して、他の参加国が協力してその侵略に対抗することを約束し、国家の安全を相互に保障しようというものだ。

しかし国連において集団的安全保障の仕組みは機能していないのが現実だ。なぜか?それはアメリカが、その他の参加国が結束しても対抗できないほど大きな軍事力を持ち、しかもそのアメリカが単独でも侵略戦争を行うような覇権国家だからだ。

朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争、すべてアメリカが地球の裏側から出てきて行った侵略戦争だ。
もし軍事力で2位、3位の国が侵略を行ったとしても、それは集団で対抗できるし事前に抑制できるだろう。
この単純な力学からして、今の世界において戦争の脅威はアメリカから来る。アメリカの軍事力は世界覇権を維持するための軍事力だ。全ての国を圧倒し、支配下に置くための軍事力である。

この状況下ではアメリカ以外の国にとっては二つの選択肢しかない。アメリカの軍門に下って「同盟国」になるか、それとも自国の主権を守るために防衛を固めるかである。
日本では政府もメディアも「中国の脅威」を大合唱しているが、東中国海でも南中国海でも、一番軍事力を展開しているのはアメリカとその「同盟国」だ。日本で喧伝されている「中国の脅威」や「北朝鮮の脅威」は、実は「アメリカという巨大な脅威」に対して中国や朝鮮が「防衛のために軍事力を展開している」にすぎない。

以下、日本ではあまり報道されてない現状を、歴史もふり返りながら見てみたい。

1 バリカタン2024
自衛隊が他国との共同訓練を激増させている。自衛隊が公表した多国間共同訓練は、2012年頃までは年に2~10回くらいで推移していたが、13年に20回を超え、16年に30回になり、22年度は46回、23年度は56回になった。演習の内容も、当初はPKOが中心だったが、23年度は「戦術・戦闘」訓練が64%を占めた。23年の訓練56回のうち、約6割が海で行われた。
高い練度が必要となる潜水艦を探知する訓練も12回あり、訓練場所は東中国海や日本海など日本周辺が18回、東南アジアが10回、南中国海が4回だった。共同訓練の相手国にはほとんどの場合アメリカが含まれる。

2024年4月22日から5月10日までの19日間、アメリカとフイリピンは両軍から1万6000人、フランスとオーストラリアからは合わせて250人が参加して、米比合同軍事演習「バリカタン2024インドネシア、ベトナム、タイ、シンガポールの 13か国がオブザー バー参加した。
自衛隊は演習中、来年から正式参加することを表明した。

以下、「包囲網を強化した米比バリカタン演習」(樋 口 譲 次)から引用すると、この演習の目的は、「フィリピンの防衛態勢の範囲を仁愛礁(セカンド・トーマス礁)や黄岩島(スカボロー礁)など南中国海の島々を含む排他的経済水域(EEZ)、そしてルソン海峡などの最外縁領域に拡大する ことを目的とした、フィリピンの「包括的列島沿岸防衛構想(Comprehensive Archipelagic Coastal Defense Concept)」と称する新戦略に基づいて行われた。」

この演習では、「ルソン島の最北部のバタネス州のルソン海峡正面にあるバタネス島は、マニラよりも台北に近い。そのバタネス州全域に展開して、米陸軍・海兵隊及びフィリピン海兵隊は共同作戦能力の強化に向けた訓練を行った。
台湾からわずか 138マイル(約 500キロ)離れたフィリピン海軍前哨基地のある無人島マブリスには、海洋領域認識(maritime domain awareness)センサーを備えた米第3海兵沿岸連隊(MLR)の部隊が展開した。同島への米海兵隊の展開は初めてという。…(中略)

米陸軍の第 1 マルチドメイン任務部隊(MDTF、米ワシントン州)は、ルソン島北部の港と飛行場に高機動ロケット砲システム(HIMARS)を展開する急速浸透訓練を行った。また、本演習には、MDTF の中距離ミサイル能力(MRC)システムが初めて持ち込まれた。
同システムは、(略)射程約 1800 キロあり、中国大陸の戦略要点を十分に攻撃する能力があることも注目点である。(マニラから広州市までの距離は約 1250キロ)

これらは、中台両岸関係の緊張の高まりを受けた訓練であることに間違いない。台湾有事には、米比両軍が共同してルソン島北部を防衛するとともに、ルソン海峡、ひいてはバシー海峡を封鎖する訓練の一環と見られ、台湾とフィリピン間の間隙を塞ぎ、防衛を連結して中国海空軍の太平洋への進出を阻止する上で、極めて重要な戦略的目的の訓練であったと見ることができよう。」

「南シナ海正面における初の対艦ミサイル実射訓練
バリカタン 2024のクライマックスとなったのは、フィリピン海軍等が 5 月 7日朝、海上攻撃訓練として、南シナ海で目標船舶を対艦巡航ミサイル等で撃沈した実射訓練である。
目標には、退役したタンカー「レイク・カリラヤ号」(中国製タンカー)が使われた。実射に当たっては、米海軍の P-8 ポセイドン哨戒機や海兵隊の TPS-80 地上/航空任務指向レーダーセンサー、オーストラリア空軍の E-7A ウエッジテール早期警戒管制機など、空地のさまざまなプラットフォームから得られたデータ(目標情報)が統合調整センターで集約され、それが直ちに艦艇や航空機に送られて目標を射撃する統合射撃ネットワークが構成された。」(引用ここまで)

バリカタン演習の目的を「フィリピンの防衛態勢の範囲の拡大」としているが、これは「演習」に名を借りてフィリピンが実効支配領域を拡大しようとしている野望を実際に軍事的に支援するものだ。
フィリピンは仁愛礁に意図的に揚陸艦を座礁させ、そこへの物資の補給等を通してこの地域の占有を謀っている。
6月に入っても16日と17日の2日間、アメリカ、カナダ、日本、フィリピンは、この海域で合同軍事演習を強行した。中国とフィリピンの船が衝突している映像はよく流れているし、いつも中国が悪者にされているが、裏でアメリカがフィリピンにけしかけているという構図は日本の報道からは伝わってこない。

日本・フィリピン両政府は7月8日に外務・防衛閣僚協議(2プラス2)をマニラで開催し、自衛隊とフィリピン軍の相互往来を容易にする「円滑化協定(RAA)」に署名する見通しという。自衛隊がフイリピン軍とともに台湾から南中国海の海域に対して軍事的関与を強めるための一環の動きである。

フィリピン政府と在フィリピン日本大使館は5月17日、日本がフィリピンに対し大型巡視船5隻を供与することで合意した。供与される巡視船は全長約97メートル級。フィリピン沿岸警備隊の強化を目指す円借款プロジェクトの一環で、総額643億円に上る。
2013年に44メートル級10隻、16年にも97メートル級2隻を供与しており、巡視船の供与は今回が3回目となる。

2023年2月にマルコス大統領が来日した時、岸田首相は2024年3月までに官民でフィリピンのインフラ整備などへ6000億円の支援を表明した。また、友好国の軍へ資機材を無償供与する枠組みをフイリピンに初めて適用することでも合意した。
2022年にフイリピンが受け取ったODAは約324億ドル(約4兆8500億円)、国別では日本が全体の約3割に相当する100億ドル(1兆5000億円)で最多だった。鉄道や道路網などのインフラ整備、イスラム地域での雇用促進など多岐にわたる。

一方、アメリカは昨年よりフイリピンで米軍が使用できる拠点を4カ所増やして9カ所とした。そのうちの一つは南沙諸島に近いフイリピン最南端のバラバク島、後の3か所はルソン島の北部で、海の向こうは台湾という地域だ。いずれも今回のバリカタン演習の舞台になった。
アメリカと日本が経済と軍事の面で、巨額の資金と最新鋭の武器でフィリピンの軍事化を全面的に支援していることに注目する必要がある。

2、国際仲裁裁判所の裁定の性質について
フイリピンは南沙諸島の領有権を主張するにあたっては、国連海洋法条約に基づいて設立された仲裁裁判所が2016年7月12日に出した裁定を根拠とする。

仲裁廷の裁定は、中国の南中国海における領土主権や海洋権益を完全に否定するものであった。しかし中国は以前より、常設仲裁裁判所にはこの提訴を扱う権限がないと主張し、参加を拒否してきた。

この国連海洋法条約の条文には次のように書かれている。国連海洋法条約に基づいて設立される仲裁廷の管轄権は「この条約の解釈又は適用に関する紛争」にのみ及ぶということ(288条1項)、したがって同条約が規律しない主権・領有権の問題については仲裁廷は管轄権を持たないとの解釈が一般的であり、フィリピンと中国もこの立場を前提としている。また、「歴史的湾もしくは歴史的権原 (historic bays or titles)」という主権に関わる紛争については、条約当事国は選択的に仲裁管轄から除外することが可能であり(298条)、中国は2006年にその旨「宣言」している。(世界30か国以上がこの「除外の宣言」をしている。)そのため、南中国海の島嶼や海域に対する中国の主権や権原の当否について、仲裁廷はそもそも判断できない仕組みになっている。
歴史的に形成されてきた領域について、後になってできた国際法が判断すれば、新たな紛争の火種を蒔くことになる。

裁定のあと王毅外相が即座に発表した声明は、 ①「裁定」は法律の上着を着た政治的茶番、②中国は仲裁を受け入れず、参加せず、国際法治と地域規則を法によって擁護している、③中国の南シナ海における領土主権と海洋権益は堅固な歴史と法律の根拠を持っており、いわゆる仲裁裁判の影響を受けない、④中国は交渉を通じた紛争の平和的解決に努力し続け、本地域の平和と安定を擁護していくであろう。(新華社 2016年 7月 12 日)。

中国外交部は7月13日に声明を発表し、「裁定は無効であり、拘束力を持たず、中国は受け入れず、認めないことを厳粛に声明する」「南海における中国の領土主権と海洋権益はいかなる状況下でも裁定の影響を受けず、中国は裁定に基づくいかなる主張と行動にも反対し、受け入れないものである」と宣言した。

仲裁裁判の裁定に対する中国政府の白書も公表した。中国政府白書は、①中国は東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙群島を含む南海諸島に対して主権を有する、②中国の南海諸島は内水、領海、接続水域を有する、③中国の南海諸島は排他的経済水域と大陸棚を有する、④中国は南海において歴史的権利を有する、⑤中国の上述の立場は関係の国際法と国際慣行に合致している、と述べて、裁定に真っ向から反対している。

中国が「この仲裁裁判の裁定は無効」との主張は、中国が国際海洋法条約を無視しているわけではなく、この国際海洋法条約が定めているルールに基づく正当な主張であることを理解しておく必要がある。

今回「裁定」を出した 5 名の裁判官のうち、紛争当事国はそれぞれ 1名を指名でき、残りの 3名は国際海洋法裁判所の指名となる。しかし中国は仲裁裁判自体を拒絶しており、裁判官を指名しなかったため、残り4名全員を国際海洋法裁判所が指名した。このとき国際海洋法裁判所長は柳井俊二氏だった。
柳井氏は元外務省事務次官で元駐米大使、安倍内閣の時には安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の座長を務め、集団的自衛権に関する憲法解釈の見直しを主導した。

今回の仲裁裁判所の裁定は、「中国の全面的な敗訴」と報じられているが、実は正しくない。裁定では「南中国海には島はない。岩礁や浅瀬しかない、したがってどの国の排他的経済水域も認められない」というものだ。

その中でも奇異なのは台湾が実効支配する太平島は面積49万㎡の南中国海で一番大きな島だが、これまで「岩」としたことだ。太平島は人工島ではなく、淡水も湧き、ウミガメが産卵にやってくる自然に形成された島だ。電気水道も整備して永続的に生活が可能な島だ。「島」としての要件はすべて整っている。

なぜ裁定は太平島を無理やり「岩」にしたのか?もし太平島を島だと認めると、太平島を基点として領海12海里と200海里の排他的経済水域が認められる。この島は現在台湾が実効支配しているが、国連はじめ日本もアメリカも「台湾は中華人民共和国の不可分の一部」という原則を認めており、太平島を島と認めると、ほぼ中国の現在の「9段線」の主張を認めざるをえなくなるからだ。
「太平島を岩」だとするのは国際海洋法上の「新解釈」であり、国際的にすべての「島」と「岩」の法的地位が影響を受けることになる。おそらく色々な所で新たな紛争を惹起するだろう。

一方、この海域で一部または全部の領有を主張するすべての関係国にとっては、自国が実効支配する島嶼も否定されているという不都合な問題が含まれており、いくら中国の主張が否定されたとしてもこの裁定にそのまま従うことはできない。
要するにこの裁定は事実上空文化しているのである。
この空文化している裁定を日本では国内向けに喧伝しているわけだ。
これはメディアによる大いなるフェイクである。

この裁定で一番利益を得るのは、もともとこの地域で領有権を主張できない国、アメリカや日本であり、アメリカの「自由航行作戦」「アメリカとその同盟国の軍艦がこの海域を自由に航行し軍事演習を行う権利」はしっかり保障されることになる。
フィリピンも南中国海の東側の一部に排他的経済水域が認められるので悪くはない。

柳井俊二氏の思惑、すなわちアメリカや日本の思惑がしっかり反映された裁定だということがわかる。

これは余談だが、日本政府は、「沖ノ鳥島」を「島」と主張し、ここを基点とする半径200カイリ42万平方キロの排他的経済水域を主張しているが、中国や韓国は「島」と認めていない。
太平島のような大きな自然島まで「岩」とするこの裁定を支持するのであれば、満潮時には水没する岩礁をコンクリでかさ上げして「島」と言う主張は、当然取り下げるべきである。

3、南中国海の領有をめぐる中国の主張
南中国海の全部または一部について領有を主張している国は、中国とフィリピンのほかにベトナム、インドネシア、マレーシア、ブルネイがある。

しかしこの論考では、フィリピンの根拠のない領有権の主張に、アメリカや日本などが軍事力まで使って介入していることを明らかにすることが目的なので、中国とフィリピンの主張のみにフォーカスする。

中国は南海(南中国海についての中国の呼称)について、最初に領土版図に組み入れた国であると主張する。この地域の島嶼についての記載は約2千年前に記された「漢書地理誌」にすでに登場する。明の時代(1368年〜1644年)の「廣東通志」によると、中国は南海諸島海域で海賊の被害が続出したため、水軍を派遣し、海防巡視に当たったとの記録がある。
このころ、鄭和(1371年〜1434年)によって7次にわたる大航海が行われている。
「明史」によると全長137メートルに及ぶ大型船を60数隻連ね、総勢2万7000人余の大船団で南海からマラッカ海峡を経て、セイロン、西インド、ペルシャ湾、アフリカ東部にまで到達しているが、その記録には西沙群島を武力占有したと書かれ、西沙では漁民が家を建て、田を耕し農業生産に従事していたと書かれている。

清朝の乾隆32年(1767年)に出版された政府発行の地図「大清万年一統天下図」には「万里長沙」「万里石塘」(南中国海諸島の旧称)が版図に組み入れられている。
1933年、フランスが南沙群島の9つの島嶼に侵攻すると、1935年中華民国は「中国南海島嶼図」で南海群島の主権を宣言した。

日本も南沙諸島を占有した時期がある。台湾を植民地にしていた時期、太平島などを台湾の高雄市に編入し軍事拠点として使用した。「台湾は日本だから南沙群島も日本の領土」という理屈である。

1945年日本がポツダム宣言を受諾して台湾など中国の領土を放棄すると(このとき返還先は明示されなかった)、1946年中華民国広東省政府は東沙、西沙、南沙群島を接収し、12月までに一時日本が占有していた南海諸島は接収された。
1947年1月中華民国内政部は、東沙群島、西沙群島、中沙群島、および南沙群島の4つからなる南海諸島の名称を公表することで南海諸島に対する主権を行使し「南海諸島の最南端は曽母灘である」ことを確認した。

1949年6月新中国(中華人民共和国)は南海諸島を海南特別行政区に編入した。1951年8月、サンフランシスコ講和会議を翌月にひかえて周恩来外交部長は「西沙群島、南威島のある南沙群島及び中沙群島、東沙群島はすべて中国領土である」と表明した。

4、フィリピンの領有権主張
フイリピンは日本軍が撤退した後の空白期、1948年南沙群島の太平島に元軍人が上陸し、政府はその後移民計画を認めた。
フイリピン政府は「先占の法理」を主張したが、これまでたくさんの人間が居住してきた島に「先占の法理」が成立しないことは明らかだ。1956年6月、台湾は太平島に軍を派遣して実効支配した。
それは現在に続いている。

1968年から69年にかけて、国連が南中国海の海底資源の探査を行ない、エネルギー資源の存在可能性の期待が高まった。域内に一つ島を領有していればそこを基点に半径200カイリ(約370キロメートル)の海底資源の保有が認められることから、島嶼の領有権の主張が過熱した。

ベトナム戦争の混乱に乗じてフイリピンのマルコス大統領(現在のマルコス大統領の父)は1971年7月10日、南沙諸島の領有を主張し、10月にはパグアサ島など6島嶼に軍を送って強行占領した。今度は「歴史的領土」と言い換えたが、そのような歴史的事実は存在しない。

歴史上フィリピンの領域が明文化された形で登場するのはアメリカとスペインの戦争でアメリカが勝利した後のパリ講和条約の条文である。

フィリピンは16世紀後半以降スペインの植民地支配のもとに置かれていた。19世紀後半に独立革命運動が沸き起こった。アメリカはフィリピン独立革命の指導者エミリオ・アギナルドに、勝利の暁には独立させると約束して背後からスペイン軍を襲わせた。
1898年5月1日にアメリカ・スペイン戦争の戦闘の1つであるマニラ湾海戦でスペイン軍が敗北した。この時アメリカはスペインとこっそりパリ講和条約を結び、フィリピンをスペインから2千万ドルで購入していた。アメリカはフィリピン独立の約束を反故にして、アギナルド率いる独立軍1万8千人の掃討を始めた。
アメリカは60万人のフイリピン人を虐殺し、独立を鎮圧した。

この時、アメリカとスペインが結んだパリ条約に記入されているフィリピンの領域は、ちょうど現在中華人民共和国が主張する9段線の東側に相当する。この時、アメリカもスペインも南沙諸島は清国の版図に入ることを認知していた。
アメリカも日本も、目を閉じて歴史をふり返れば、南中国海にフィリピンの島など存在しないことは百も承知なのだ。

5、南中国海の領土問題解決への道
1990年1月に第1回南中国海紛争管理ワークショップがインドネシア主催で開かれ、1991年には中国、台湾、ベトナム、ラオスが参加した。

1992年7月、マニラ開催の第25回ASEAN外相会議で、ラモス・フィリピン大統領は開会演説で「南中国海問題についての各国の主張が今後懸念される問題となってきた。速やかな解決はできないとしてもこれは延ばすことはできない」とのべた。
会議で「南中国海に関する宣言」を採択した。宣言の要旨は次の通り
南海の領有権問題は武力ではなく平和的手段で解決。
最終的な解決に向けて当事国に自制を要請。

南海に直接利害を持つ諸国が、主権および領有権にとらわれることなく、同海域での航行・通信の安全、海洋環境の汚染防止、海難救助協力、海賊・麻薬・密輸摘発などの協力の可能性を追求。
7月22日、この宣言が発出された同じ日に中国は、「同宣言に言及されている基本原則は中国の立場と一致あるいは共通したものである」と表明した。さらに「中国は領有権の棚上げと共同開発を提案しているが、それは条件が合った時、関係国が交渉を行うべきで、これは暫く時間をおいて関係国の友好関係に影響させないためのものである」と言及した。

2002年11月にASEANと中国は「南中国海における関係国の行動宣言(DOC)」を発表した。
当事国は、意見の相違を平和的に解決し、自制することを約束した。

宣言の第五項では「当事国は、相互に、現在人が居住していない島、暗礁、岩礁、及びその他のものには人が居住しない行動をすることを含めて、紛争を起こしたり、激化させたり、また平和と安定に影響を及ぼすところの行為の処理を自制し、かつ建設的手段で対立を処理することを了解する。究極的で司法的な紛争の平和的解決に先立ち、相互間の信頼醸成の努力を強化する。

a、防衛・軍事官吏官の対話と意見交換
b、紛争にかかわるすべての者に対する人道的扱いを確保
c、自発的に合同軍事演習に関して通告
d、自発的に関係情報を交換

宣言の第六項では「紛争の完全かつ永久的な解決に先立ち、関係当事国は、協力的活動を推進し又は了解する。このことには、以下を含む。
e、海洋環境の保護
f、海洋科学調査
g、海洋での航海・通信の安全
h、捜査・救援協力
i 、 海上での不法麻薬、海賊行為、及び軍事行動、及び武器の不法輸送を認めないことを含む、国家を超えた犯罪との闘い。

このDOCで示された紛争解決の展望は、現在も堅持されている。

ドゥテルテ大統領と中国の習近平国家主席の2019年8月29日の首脳会談において、習近平主席は、仲裁裁判所の判決を無視することを条件に、(フィリピンも中国も領有を主張する)リード礁周辺の海域におけるガス田共同開発を進める提案を行った。
中国側は採掘に必要な経費を全て負担した上で、利益の60%をフィリピンに譲渡するというものだ。両国は共同運営委員会を立ち上げた。ただ大統領が変わってからこの案件が進んでいるのかどうかは確認できていない。

「領土問題を棚上げして共同開発しよう」という提案は、かつて鄧小平氏が尖閣(釣魚島)の問題で日本に提案した内容でもある。領土問題の最終的な解決は棚上げにしたうえで、相互に信頼醸成のための共同行動を積み上げるというのは、画期的な和平提案だと思う。お互いに家族のような親密な関係になれば、将来のいつの日にか、国と国の境界線などどうでもよくなる時が来るのではないか?

しかし帝国主義的な野心を隠さないアメリカのような国がまだ力を持っている現在、その餌食にならないためにも、それぞれの国がしっかりと領有権、独立自主の権利を守らねばならない。
帝国主義的な干渉は排除しつつ、当事者間で問題を解決していくしかない。

いまだにアメリカから独立を回復していない日本は、恥知らずにもアメリカの鉄砲玉になって南中国海の問題にまで干渉し、来年は南中国海での軍事演習に参加するつもりだ。
アメリカはアジア人同士を戦わせ、消耗させ、中国の発展を阻害し、自分は武器を売って儲けようと考えている。

日本政府のこうした間違った軍拡路線をやめさせるとともに、日中の民間の友好交流を大いに盛り上げ、戦争屋ドモの盾に風穴を開けていこう。

本記事は日中友好ネット記事からの転載になります。

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