【解説(木村朗)】秋嶋亮 (著)『スマホに召集令状が届く日―ようこそ!戦争と独裁の未来へ』(白馬社、2024/7/29)解説 秋嶋亮氏と一連の作品群について
映画・書籍の紹介・批評著者の秋嶋亮(あきしまりょう、響堂雪乃より改名)氏は、ブログ・マガジン「独りファシズムVer.0.3」 http://alisonn.blog106.fc2.com/ を主宰し、グローバリゼーションを主なテーマに貴重な情報発信を精力的に続けている社会学作家である。システムインテグレーターとしての海外勤務の経験と全国紙系列の広告代理店で編集長を務めた異色の経歴を持ち、各種媒体でコラムだけでなく音楽評論なども執筆してきたミュージシャンでもある。
2012年にネットで話題騒然となっていた自身のブログを書籍化した『独りファシズム』で「新言論のカリスマ」として論壇に登場して以来、第二作『略奪者のロジック』(2013年)をはじめ、それに続く『滅び行くニホン』シリーズ4冊など一連のベストセラー作品を次々と世に送り出してきている。
これら秋嶋亮氏の作品群は、いずれも世界の権力構造の本質をカネ(金融と投資)と情報の流れを中心に読み解き、「ショック・ドクトリン(惨事便乗型政治)」(ナオミ・クライン)に見られるようにカネがカネを産み富める者がますます富む弱肉強食の資本主義世界の闇の構造を浮き彫りにする。
一見難解に思われる深い思想的背景を持つ選び抜かれた言葉(社会学の専門用語)をクールに駆使しながらも日本が直面するさまざまな深刻な危機・脅威を論理的に分かりやすい語り口で熱く読者に問いかけて考えさせる。評者もそうであったように、その一作品でも目を通してみれば強烈な知的衝撃を受けることになる。
本書は、まさにそうしたコラージスト(言葉と情報と思想を紡ぐ創作家)としての秋嶋氏の現時点での集大成ともいえる作品であり、「沈黙の暴力の時代」における、「反抗の文藝であり、捨身の告発書」(本書「まえがき」より)である。
本書のタイトル『スマホに召集令状が届く日―ようこそ!戦争と独裁の未来へ―』が示しているように、著者の問題意識は常に鋭くかつ鮮明である。
2001年の9・11事件や2011年の福島原発事故以降、G・オーウェルの『1984年』で暗示された「狂気の倒錯した世界」が出現し、それが加速して今や「グローバル・ファシズムの時代」が到来している、という見方に評者もまったく同感である。
これまでの作品群において、私たちが直面する「重層化する危機」とは何なのか?、もはやニホンという国の消滅は避けられないのか?、といった根源的な問題を設定する。
日本が直面しているのは、原発事故を契機に席巻する官僚統制主義、果てしなく広がる巨大薬禍、急速に後退する言論の自由、ファシズムへの回帰を目論む憲法改正、国民を裏切る政党談合、外国資本の傀儡と化した政府、種子法の廃止による伝統農業の破壊、消費税率の引き上げによる不況の固定化、外資のための水道の民営化、生存権すら無効にする壮絶な搾取、正常な思考を奪う報道機関、人間性の一切を破壊する学校教育、永遠に収束することのない原発事故、貿易協定に偽装した植民地主義、戦争国家のもたらす全体主義、といった重層的な危機である。
その中で日本人は宗主国アメリカや多国籍企業・国際金融資本によって搾取され奴隷化されており、日本はいまや「多重絶滅のプロセス」にあって消滅寸前なのだ、という驚愕の真実を提示してきた。
そして、このニホンという滅び行く国に生まれた国民、特に若者たちに、主流メディアに翻弄されて思考停止となった洗脳状態から一刻も早く覚醒して現実の脅威を直視して自分なりに対峙していくこと、そして最後まで諦めずに時代の濁流に対して抗い続けることの大切さを訴えてきた。
主流メディアと国家権力によってこれまで自明であるとされてきた常識やタブーとなっているテーマ・問題にも積極的にメスを入れて大胆な仮説の集積を提起する著者の手法は、人によっては「陰謀論」という受け止め方をされる場合もあるかもしれない。しかし、著者はあくまでも客観的な膨大なデータと論理的な思考によってこれまで隠されてきた不都合な真実に真摯に迫ろうとする。
具体的には、9・11同時多発テロ、新型コロナワクチンによる史上最大規模の「薬害」、福島第一原発の放射能汚染水放出、NATOの公共事業としてのウクライナ戦争、統一教会問題と憲法改正(自民党改憲草案は統一教会草案のコピー)、などがそうである。
本書の中でも最初の項目「カタストロフィの政治」で、年明け早々に起きた能登半島地震と飛行機衝突事件という複合的状況を利用して政府が民間との連携で改憲を進めようとしていること(あたかも事前に周到に仕組まれたものであるように…)、つまり為政者が恐怖や不安に晒されると盲目的に政府やマスコミに服従する国民の心理状況に付け込む実例を示している。
また改憲が宗主国(アメリカ)を支配する金融軍産複合体(ネオコン)の命令であり、日本を再軍国化させて周辺国との緊張を高めて「制限戦争」に持ち込んで米国製武器を大量に購入させる狙いであること、野党・マスコミが沈黙する中で改憲論(特に危険な緊急事態条項)が席巻する今の日本は授権法を制定した当時のドイツや同時多発テロ直後に準独裁国家(セミファシズム)化した米国と瓜二つの状況であることを明らかにしている。
さらに次の「言論を標的にする国家のテロリズム」の項目では、能登半島地震で起きた輪島市の火災はハワイのマウイ島と同じく、指向性エネルギー兵器(DEW)が使われた可能性について言及している。この兵器(DEW)はすでに実用化されており今や兵器産業の目玉であること、マウイ島の大火災は先住民が多く住む一等地でスマートシティ(情報管理都市)の建設構想がぶち上げられ立ち退きが難航していた矢先の出来事であったこと(石川県中能登町でもスマートシティ構想はあった:評者)、木々やアスファルトに(延焼の痕跡となる)焼け焦げはなく、富裕層の邸宅は無傷であるのに対し、地上げの対象と思しき家々はピンポイントで狙われたかのように焼失していること、などを挙げて、「やはり一連の出来事は日本の体制変化(レジーム・チェンジ)を目的化している、としか思えないフシがある」と指摘している。
もちろん著者は「錯誤相関」(関連のないバラバラの出来事に関連があると思い込む心理バイアス)や単純な「二項対立型思考」の落とし穴を自戒しており、その仮説を「客観的事実」として断定することは慎重に避けている。
そして、仮にそのような企図がなかったとしても続発する事故や災害は絶対に政治利用されると述べて、「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の改正を取り上げている。この改正によって政府がSNSを常時監視しプラットフォーム企業に「偽・誤情報」の削除を義務付けられる、政府に不都合な情報を「偽・誤情報」として扱うことで自由な言論を封殺し事実上の言論弾圧を行うことが可能になる、物事は時間で濾さなければ虚偽か事実か分からないからこそ真偽の裁定に権力を介入させてはならない、と指摘している。
この弾圧法は表現の自由を保障した憲法第21条2項に触れる違憲行為であり、「それが嘘であるという告発」を無効化させる政府の戦略、つまり「言論を標的にする国家のテロリズム」であると強調している。
以上、本書の冒頭部分の概要のみを紹介したが、本書全体を貫く著者の立論の仕方と論理的展開に特に異論はなく、またそうして導かれた現時点での結論(仮説の集積)にも概ね同意できる。
特に、「あらゆる可能性に開かれていることが科学的態度」であり、こんな危機的状況だからこそ「帰納的理性(事件の現場から考察する態度)と、演繹的理性(論理や原則から出発する態度)」の両サイドに照らして考えなくてはならない、との著者の姿勢には大いなる共感と敬意を表したい。
本書を通じて著者が提示した世界権力の闇の構造を踏まえた上で、ニホンという国の消滅はもはや本当に避けられないのか?、私たちは絶望的な時代状況の中で今後どのように生きていくべきなのか?、という残された重い課題に評者を含む読者一人一人が向き合うことが求められている。いうまでもなく、そこに安易な答えはない。
いまの世界は、私たちが想像している以上に過酷で狂っているのではないか。まさに故ジョン・レノンが叫んだように、「世界は狂人によって支配されている」「右も左も狂人によって支配されている」のが現実である。権力と資本の走狗であるマスコミ(テレビ・新聞)は、「報道しない自由」、すなわち不都合な真実を封印することで、政府や企業の広報機関としての役割を忠実に果たしている。
また日本の検察は、「在日米軍直属の組織」であり、マスコミや裁判所も加担して「反米勢力の台頭を阻止するための装置」として機能している。
そのため日本人の多くは、未だに世界の真実に気づくことなく既存の腐敗・堕落した統治システムと「象徴的現実」に盲目的に従う奴隷のような生き方を強いられている。このニホンという国は、カルト連合が支配する中ですでに三権分立は機能せず民主主義は破壊され、宗主国アメリカと国際金融資本に従属しながら、官民一体の「憲政クーデター」によってファシズム(官僚統制主義)・戦争国家へと再び移行しつつある。
本書は、情報操作を見破るメディア・リテラシー(情報を主体的批判的に読み取る能力)を身に付ける最高のテキストである。改憲と新たな戦争・プランデミックが差し迫る中で本書を手にすることができた読者は幸運である。
いまのニホンは得体のしれない同調圧力が強まり、メディアや野党も沈黙し、おかしいことをおかしいと言えない、きわめて異常な言論状況下にある。
その中でも日米合同委員会やワクチン強制に抗議する最近の動きなど、幸いにも「国民国家の回復運動」につながる変化の兆しはある。
絶望的な時代状況の中でも人間らしさを失わずにあくまでも抗い続けること。
「躾られた犬」ではなく、「例外者(風潮に流されず理性的に思考する人間)」たれ!
(ISF独立言論フォ―ラム編集長https://isfweb.org/、鹿児島大学元教員)
※原文は、白馬社のHPをご参照下さい⇒ http://hakubasha.co.jp/
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独立言論フォーラム・代表理事、ISF編集長。1954年北九州市小倉生まれ。元鹿児島大学教員、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表。九州大学博士課程在学中に旧ユーゴスラヴィアのベオグラード大学に留学。主な著作は、共著『誰がこの国を動かしているのか』『核の戦後史』『もう一つの日米戦後史』、共編著『20人の識者がみた「小沢事件」の真実』『昭和・平成 戦後政治の謀略史」『沖縄自立と東アジア共同体』『終わらない占領』『終わらない占領との決別』他。