日本もパレスチナ国家承認に反対 ガザ停戦阻む米欧大国と日本の「論理」◉広岡裕児(紙の爆弾2024年8・9月号掲載)
国際政治#ガザ #イスラエル #パレスチナ国家承認と国連加盟 #国連 #ネタニヤフ #イスラエル極右 #反ユダヤ主義 #日本 #1947年国連決議
アメリカ停戦提案の裏で進む虐殺
アメリカのバイデン大統領が5月31日、ガザ停戦提案をした。まず6週間戦闘休止してイスラエル軍はガザの人口密集地から撤退し、100人ほどのパレスチナ人囚人を解放、ハマスは女性や高齢者・負傷者などの人質を解放し、死亡した人質の遺体を引き渡す。この間に両陣営が交渉し、イスラエル軍はガザから撤退して、残りの人質は解放され、「恒久的な停戦」をする、というものだ。
6月10日には、国連の安全保障理事会でこの停戦案をイスラエルとハマスの双方に合意し実行するよう求める決議が採択された。
バイデン大統領は、この提案はイスラエル側から出されたと言う。だが、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は「戦争を終わらせるための条件は変わっていない。
すなわち、ハマスの軍事機構と統治能力の破壊、人質の解放、そしてガザ地区がもはやイスラエルに脅威を与えないという保証である」と断言し恒久的停戦を拒否する。
エジプトでこの提案についての交渉が行なわれている間にも、イスラエルは、ガザの住民たちの逃げ場となっているラファへの攻撃を粛々と進めている。
ナチス・ドイツのように強制による移送はせず、パレスチナ難民たちに指定した「安全な場所」への移動を勧告している。
それを聞かない人が残って死んでも、それは自由意思によるものであるから、イスラエルの責任ではないということだ。
そうこうするうちにハマスから人質4人を解放したと大宣伝である。
この作戦でパレスチナ人はその50倍の犠牲を出したが、イスラエルの現政権を批判すると反ユダヤ主義のレッテルを貼られてしまうフランスなどのメディアでは、パレスチナ人の犠牲についてはほとんど触れられていない。ネタニヤフ首相は免責特権がなくなると汚職裁判が待っているから、絶対に政権を手放すことはできない。
政権は、パレスチナ人がこの世に存在すること自体を否定する極右との連立で保たれている。
だから、戦争を続けるしかない。極右が離反しても中道が連立にのってくるという説もあるが、与党のリクードも極右に傾斜していることを忘れている。
国家承認と国連加盟
このバイデン提案の10日前、5月22日。スペイン・アイルランド・ノルウェーはパレスチナを国家として承認すると発表。「パレスチナが自決権、自治、領土保全、安全を含む主権国家のすべての権利を保持し、主張できるべきであるという我々の見解の表明である」とアイルランドのサイモン・ハリス首相は説明した。
アイルランドは、バイデン大統領の母方の祖先をはじめ、大量移民した人々が受けた貧困と差別、英国との厳しい独立戦争の過去を持つ。パレスチナ人の情況を肌で感じる立場だ。
スペインのペドロ・サンチェス首相は、「今こそ言葉から行動に移り、苦しんでいる何百万人もの無辜のパレスチナ人に、我々は彼らと共にあり希望があることを伝える時だ」と述べた。
ノルウェーは、EU(欧州連合)加盟はしていないが、シェンゲン協定(欧州諸国間での出入国審査の廃止協定)には加盟しており、EUとも緊密な関係を持っている。ヨーナス=ガール・ストーレ首相は、「パレスチナ国家は中東和平を達成するための前提条件だ」とした。
続いて6月4日、新たにEU加盟国のスロベニアがパレスチナ承認をした。「この承認が、イスラエルとパレスチナ双方の穏健派勢力を強化し、パレスチナ自治政府の改革を促すことで、中東和平交渉に新たな弾みをつけることを願っている」と、ロベルト・ゴロブ首相は述べる。
国会では、党首がイスラエルのネタニヤフ首相と親しい保守系野党スロベニア民主党が反対、同党が投票をボイコットするなか、全議席数90中52票の賛成で採択された。
これで、パレスチナ国家を承認した国は国連加盟国146とバチカンの計147カ国となる。
このさらに1月ほど前の4月18日、国連安保理でパレスチナ国家の国連加盟が討議されたが、アメリカの拒否権行使で否決された。現在、安保理には非常任理事国として日本、韓国も入っているが、これには両国とも賛成していた。英国とスイスが棄権で、反対したのはアメリカだけだった。
フランスのレゼコー紙(2024年4月19日付)は「パレスチナ人の夢は中断した」と言う。イスラエルが嫌悪するこの提案を潰すことによってアメリカは「ガザでの戦争の真っ只中に、国連に正式加盟するという希望を断ち切った」のだ。
パレスチナ自治政府は直ちに、投票の結果は、アラブ地域を「奈落の底の瀬戸際」に追いやる「あからさまな侵略だ。この間にもパレスチナの無辜の人々は、イスラエルの行動の代償、正義、自由、平和の遅れの代償を、自分たちの命と子どもたちの命で払い続けることになることを忘れてはならない」と声明を発表した。
5月10日の国連総会では、全加盟国の4分の3にあたる143カ国がパレスチナの国連加盟を支持する決議に賛成した。だが、安保理の承認がなければまったく効力はない。
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フランス在住ジャーナリストでシンクタンクメンバー。著書に『皇族』(中公文庫)、『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文春新書)他。