与那覇けい子さん詩集:大きな声
琉球・沖縄通信私は 小さく笑ったのだった
マイクなど要らない 大きすぎる彼らの声を
手を上げた男性は質した
「状況などわかっている。聞きたいのは
では、どうすれば良いのかだ!」
危機感と焦燥感で 体を震わせて・・
その場に放たれた矢だった
立ち上がった女性は言った
「厳しい状況だけど、でも、いろいろ学べて良かった!」
大げさなジェスチャーで 顔中を笑顔にして・・
その場を救った明るさだった
私は 気づいたのだった
彼等の声の大きさの 何故に
受付にあった団体名簿
そう、彼らは米軍基地爆音訴訟団のメンバーだった
頭上にとどろき渡る轟音に晒され続けながら
朝に挨拶をし、昼に笑い合い、晩に食卓を囲み
爆音のなかで 生きてきた人たちだった
この人は50年、あの人は60年
頭をなぐりつける暴力音が
かつての戦争と 迫り来る戦争の恐怖を
たたき込んでいく
爆音が溶け込んだ日々は
攻撃的な鋭さになり 大げさな笑いになり
そして 誰もが
大きな声になってしまっていた
「せめて爆音の無い夜を」
けれど
大きくなってしまった声も
鋭い糾弾も それでも笑う声も
遠い日本には届かないのだった
小さく笑った後の 大きな悲しみは
大きな声の悲しみは
行き場を失ったまま
心の奥底に
静かに
ゆっくりと 重く
沈んでいった
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独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。2019年に名桜大学(語学教育専攻)を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」(評論集)井上摩耶詩集「Small World」(英訳本)など。「沖縄から見えるもの」(詩集)で第33回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。