与那覇けい子さん詩集:島

与那覇恵子

 

風は 止まっていた
時は 張付いていた
人は 部屋の奥に縮こまっていた

きしむ板戸を開けると
高齢の伯母は
入ってきた眩しさに
目を細めた

時を刻む針は
柱時計のなかで固まったまま
それでも
うす暗い部屋で
日々の営みは
刻まれていた

壊れた小屋に 馬はすでに いない
駆け回る子供達の歓声は もう 聞こえない
井戸の上の石は 重い蓋となり
水は よどむしかなかった
廃墟の崩れは 風景になって 空は青い
小型バスの集積所で
島の若者が 人待ち顔で立っていた

空港は 広く明るく
笑い声が 響いている
近くの 大型スーパーマーケットでは
部屋の奥から出てきた人々が
日々の生活のあれこれを
忙しく かき集めている

肩寄せ合った田舎臭い飲み屋街は 消えた
センスアップされて居並ぶ おしゃれな飲食店街
出現した「リトル東京」に
訛りのない流暢な日本語に
観光客が 島人が 吸い込まれていく

そこから 少し遠い場所で
きびきびと 動き回る人達がいた
潮の満ち引きと島人が繰りかえす日々
飛び散る陽光とちゅら海に群がる観光客の歓声
すべてを きっぱり切り離し
まったくの 無関係さで
口を固く結び
海を越えた 仮想敵国をにらみつけ
盛り土の弾薬庫を守り
遠く伸びたミサイル発射装置を
磨いている

ニライカナイの神は
海の向こうから
やって来るのだろうか

わたしたちの刻む日々に
確かな伝統文化は
その力を脈々と 蓄え続けているのだろうか

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与那覇恵子 与那覇恵子

独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。2019年に名桜大学(語学教育専攻)を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」(評論集)井上摩耶詩集「Small World」(英訳本)など。「沖縄から見えるもの」(詩集)で第33回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。

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