与那覇けい子さん詩集:老人
琉球・沖縄通信
小雨降る中
老人が行く
固い地面に
小さな背を折り曲げて
行く
黒い大きな傘の下
丸めた体を
ぐらりぐらりと左右に揺らして
一歩、一歩
見つめているのは
踏みしめる足下
切り取られた視界に
ひたすら向き合って
今日を歩く
若かりし頃
まっすぐに立って見上げた
その視線は水平線のかなた
明日を見つめて歩いた
今は
遠いあこがれよりも
この現実が 近しい
今は
見上げる空の青さよりも
見つめる足もとの地の確かさが
いとおしい
揺れる肩を濡らしながら
かすかにけぶる雨の中
少しずつ 少しずつ
老人は
遠くなっていった
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与那覇恵子
独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。2019年に名桜大学(語学教育専攻)を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」(評論集)井上摩耶詩集「Small World」(英訳本)など。「沖縄から見えるもの」(詩集)で第33回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。