【連載】植草一秀の「知られざる真実」

【連載】知られざる真実/2024年8月30日 (金) 東海道新幹線運休続発への対応

植草一秀

台風10号が襲来して大きな影響が出ている。

台風の進路予想は二転三転。

太平洋高気圧の活動、偏西風の状況、寒冷渦の作用などの微妙な組み合わせで台風の動きに大きな変化が生じる。

当初は日本列島を横断して偏西風に乗り、8月29日には本州から離れるとの予想も示されていた。

ところが、太平洋高気圧が後退して、高気圧のヘリの風の流れが台風に影響しなくなる一方、寒冷渦の影響で台風が九州の南方海域に居座る状況が続き、本土への襲来が遅れた。

九州に上陸後も速度は遅く、台風がゆっくりと日本列島に沿うかたちでの移動を続けている。

台風がもたらす雨は台風から遠く離れた日本列島の太平洋岸地域で強まった。

神奈川、静岡、愛知、三重県などの太平洋岸で激しい降雨が続いた。

この影響で東海道新幹線の運行に大きな支障が生じた。

すでに、8月16日には台風7号の影響で東海道新幹線の東京-名古屋間が終日運休になった。

台風10号の影響では8月29日の夕刻以降、東京-名古屋間の運転がすべて取りやめとなったのに加え、8月30日も終日運転取りやめになった。

日本の鉄道網のなかの最大の大動脈が東海道新幹線。

新幹線の全面運休は極めて大きな影響をもたらす。

東海道新幹線運休の影響で北陸新幹線は大変な混雑になった。

 

東京-名古屋、東京-大阪の鉄道幹線のバイパスをいかに確保するのかは大きな課題である。

実は、北陸新幹線には東海道新幹線のバイパスという機能がある。

東海道新幹線が不通になった際、そのバイパスとして北陸新幹線を活用することが考えられる。

逆に北陸新幹線が不通になる場合には、東海道新幹線がそのバイパスとして機能することが考えられる。

本来の東海道新幹線の利用者が東海道新幹線運休の影響で北陸新幹線利用に切り替えた。

北陸新幹線は金沢以西が福井県敦賀まで延伸されたが、敦賀以西はルートもまだ確定していない。

新幹線利用者は敦賀まで京都から、あるいは米原から在来線を利用して敦賀に移動。

敦賀で北陸新幹線に乗り継いで関東まで移動した。

北陸新幹線の敦賀以西をつなぐ意味は極めて大きい。

敦賀以西は敦賀から小浜を経由して京都、大阪までつなぐ延伸計画があるが、京都の通過経路が確定していない。

京都地方では市街地大深度を新幹線が通過する計画が保持されているが、既存市街地大深度の利用には大きなリスクが付随する。

道路建設では東京都調布市の外環道建設で住宅地域に巨大な地盤崩落事故が発生した。

同様の重大事故が発生するリスクが存在する。

 

また大深度工事によって地下水の流路に変化が生じ、地上の水資源活用に重大な影響をもたらすことも懸念されている。

敦賀から京都、大阪へ新規に新幹線を建設するには巨額の費用が発生し、また工期も極めて長くなる。

小浜・京都案では京都を通過する方式に三つのルートが提示されているが、事業費は3.7兆円から5.2兆円、工期は20年から28年が見込まれている。

しかし、工期の見積もりは時間の経過とともに延長されるケースが多く、現在想定されている以上の時間を要する可能性が高い。

これに対して敦賀から米原までを新幹線でつなぐ案が存在する。

米原ルートは2016年時点での試算では建設費用が5900億円、建設に係る期間は10年程度とされた。

米原から新大阪までは東海道新幹線との共用になる。

問題はJR東海が米原-新大阪間の共用を認めない可能性が高いこと。

しかし、JR東海とJR他社との軋轢は、この問題に限ったことではない。

国鉄民営化は国民の利益増大を目的に実施されたものである。

ところが、民営化されたJR各社が企業エゴに走るのは本末転倒。

JR東海を長期間支配し続けた葛西敬之氏がJR東海の企業エゴをもたらした張本人であると考えられる。

東海道新幹線のバイパスを早期に安価な費用で確保するには敦賀-米原延伸に匹敵する他案は存在しない。
しかし、国会議員は地元への利益誘導を優先して費用と工期がけた違いに大きい小浜・京都ルートを推進している。

巨額の工費はそのカネが周辺企業に落ちることを意味する。

これこそ、日本政治の劣化を象徴する事象だ。

東海道新幹線の休業連発の事態を踏まえて、北陸新幹線の敦賀-米原延伸を国民本位の視点で早急に確定する必要がある。

 

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植草一秀 植草一秀

植草一秀(うえくさ かずひで) 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。 経済金融情勢分析情報誌刊行業務の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」を発行。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門1位。『現代日本経済政策論』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『日本の独立』(飛鳥新社)、『アベノリスク』(講談社)、『国家はいつも嘘をつく』(祥伝社新書)、『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)、『低金利時代、低迷経済を打破する最強資金運用術』(コスミック出版)、『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)、『日本経済の黒い霧』(ビジネス社)、『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社、2023年1月刊)など著書多数。 スリーネーションズリサーチ株式会社 http://www.uekusa-tri.co.jp/index.html メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」 http://foomii.com/00050

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