【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2024.09.11 櫻井春彦 :米国は中国に対する先制攻撃の準備を日本でも着々と進めている

櫻井春彦

 ​昨年11月、アメリカは23億5000万ドルでブロックIVタイプ200発とブロックVタイプ200発、2種類のトマホークを売却することを承認、今年1月にトマホーク購入の契約が成立した。

ここにきて注目されているのはタイフォン・ミサイル・ランチャー。陸上配備の多目的SM-6ミサイルと巡航ミサイルのトマホークを発射できる。今年4月にタイフォンがフィリピンに作戦配備され、9月4日にはアメリカが日本側へ「タイフォン」ミサイルシステムの配備を通知したとクリスティーン・ウォーマス米陸軍長官は述べた。

アメリカでは1992年2月、ネオコンが国防総省のDPG(国防計画指針)草案という形で世界制覇計画を作成した。その時の大統領はジョージ・H・W・ブッシュ、国防長官はディック・チェイニー、国防次官はポール・ウォルフォウィッツ。このウォルフォウィッツが中心になってDPG草案は書き上げられたことからウォルフォウィッツ・ドクトリンとも呼ばれている。

その中でドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、新たなライバルの出現を防ぐと謳われている。日本がアメリカの戦争マシーンに組み込まれたのは1995年だ。

明治維新以降、第2次世界大戦も前も後も、一時期を除き、日本はイギリスやアメリカの傭兵として活動してきた。アル・カイダやネオ・ナチと似たような役回りだ。そうしたことを口にした総理大臣もいた。

イスラエルは米英が中東に作り上げた「不沈空母」だとするならば、日本は彼らは東アジアに作り上げた「不沈空母」であり、米英にとってウクライナがロシアを制圧する拠点だとするならば、日本は中国やロシアを破壊する拠点だ。

1982年11月に内閣総理大臣となった中曽根康弘は翌年の1月にアメリカを訪問、ワシントン・ポスト紙の編集者や記者たちと朝食をとるが、その際に彼はソ連のバックファイア爆撃機の侵入を防ぐため、日本は「不沈空母」になるべきだと言ったと報道された。

中曽根はそれをすぐに否定するが、発言が録音されていたことが判明すると、「不沈空母」ではなく、ロシア機を阻止する「大きな空母」だと主張を変える。このふたつの表現に本質的な差はなく、日本列島がアメリカ軍がロシア軍を攻撃するための軍事拠点だと中曽根は認めたのである。

ニューヨーク・タイムズ紙は今年2月25日、CIAが2022年までの10年間にウクライナのロシアとの国境沿いに12の秘密「前方作戦基地」を設置したと書いている​が、中国で共産党政権が成立する直前、OPC(後にCIAの破壊工作部門の中核になる)の拠点が日本に設置されている。1950年代には沖縄全域を軍事基地化し、中国やソ連に対する先制核攻撃の準備を整えている。

現在、ロシアと中国は共同で極東地域の開発を進めている。ロシアの極東開発と中国東北部の活性化だが、そこへ朝鮮、モンゴル、ASEAN(東南アジア諸国連合)を巻き込もうとしている。現政権はアメリカに従属しているものの、韓国、台湾、フィリピンの国民はこの経済圏へ加わることに魅力を感じているようだ。そうした中、日本は自らが破滅することを厭わずアメリカへ従属しようとしている。

日本の「エリート」はアメリカ信仰の持ち主で、アメリカに従っていれば自分たちも傍若無人な振る舞いが許されると思っているようだが、所詮は手先にすぎいない。「日米同盟」などは戯言。そうした「エリート」は日本の国土と国民を米英の私的権力へ叩き売ることで自分たちの富と地位を手にし、維持しているのだ。

しかし、日本の「エリート」が信奉しているアメリカの私的権力、つまり支配者は衰退している。軍事力だけでなく知的水準も低下、プロパガンダ機関によって描く幻影で人びとをコントロールしているが、その手法も限界がきている。言論統制を強化しているのはそのためだが、そうした行為は支配システムをさらに揺るがすことになる。

こうした状況にあるにもかかわらず、アメリカの支配層は世界を自分たちの所有物だと今でも信じている。彼らの暴力装置である国防総省は準中距離、あるいは中距離弾道ミサイルをロシア、中国、朝鮮の周辺に配備、先制攻撃能力を高め、そうした国々を追い込もうとしている。アメリカがヨーロッパで行っていることと同じだ。

国防総省系シンクタンク​「RANDコーポレーション」は2022年4月、GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画を発表した​。専守防衛の建前と憲法第9条の制約がある日本の場合、ASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力することにし、ASCMを南西諸島に建設しつつある自衛隊の施設に配備する計画が作成されたというが、その後、そうした日本の憲法に対する配慮はなくなった。

RANDが計画を発表する前から準備は進んでいた。2016年には与那国島でミサイル発射施設が建設され、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも自衛隊の軍事施設が完成している。今後、南西諸島周辺へアメリカ軍とその装備を移動させる可能性があるという。

その間、韓国へも2017年4月にTHAAD(終末高高度地域防衛)ミサイル・システムの機器が強引に持ち込まれている。2013年2月から韓国の大統領を務めた朴槿恵は中国との関係を重要視、THAADの配備に難色を示していたが、朴大統領がスキャンダルで身動きできなくなっていた時期に搬入された。その後、朴槿恵は失脚している。

2022年10月に「日本政府が、米国製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入を米政府に打診している」とする報道があった​。亜音速で飛行する巡航ミサイルを日本政府は購入する意向で、アメリカ政府も応じる姿勢を示しているというのだ。

トマホークは核弾頭を搭載でる亜音速ミサイルで、地上を攻撃する場合の射程距離は1300キロメートルから2500キロメートルという。中国の内陸部にある軍事基地や生産拠点への先制攻撃が可能。「専守防衛」は日本の国内に向けた宣伝文句にすぎず、アメリカは先制攻撃を想定している。

そして2023年2月、浜田靖一防衛大臣は亜音速巡航ミサイル「トマホーク」を一括購入する契約を締結する方針だと語ったが、10月になると木原稔防衛相(当時)はアメリカ国防総省でロイド・オースチン国防長官と会談した際、「トマホーク」の購入時期を1年前倒しすることを決めたという。

そしてトマホーク購入の契約成立。アメリカは2010年代に作成した中露に対する攻撃計画を状況が大きく変化した現在も変えずに実行しようとしている。

※本稿は、櫻井ジャーナルhttps://plaza.rakuten.co.jp/condor33/の下記の記事からの転載であることをお断りします。

「米国は中国に対する先制攻撃の準備を日本でも着々と進めている」
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202409110000/

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