【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2024.10.15/櫻井春彦 : 防空システムが脆弱だということが判明したイスラエルへ米国はTHAADを配備へ

櫻井春彦

​​THAAD(終末高高度防衛)ミサイル砲兵連隊とそれに関連するアメリカ軍人約100名をイスラエルへ配備することをアメリカの国防総省が承認したと発表された​。THAADは成層圏よりも上の高度で目標を迎撃するために開発されシステムだ。ジョー・バイデン大統領は昨年にもアメリカ軍にTHAADバッテリーを中東へ配備するよう指示している。

 イスラエル軍が9月27日に南レバノンを約85発のバンカー・バスター爆弾(地中貫通爆弾)で攻撃した後、10月1日にイラン軍は180機以上の弾道ミサイルを発射、F-35戦闘機を配備するネバティム基地、ハッサン・ナスララをはじめとするヒズボラの指導者を殺害したネツァリム基地、弾道ミサイルのあるテル・ノフ基地、そしてモサドの本部などを攻撃した。

 イスラエル政府は厳しい報道管制を強いているが、目標の周辺にミサイルが着弾していることが確認されている。イスラエルの防空システム、アイアン・ドームは「撃墜率が高い」と宣伝されてきたが、それは御伽話にすぎないことが明確になった。THAAD配備の理由はそこにあるのだろうが、THAADの性能もロシア製の防空システムに比べてかなり低いと見られている。

 シオニストの一派であるネオコンは1980年代からイラクのサダム・フセイン体制を倒し、シリアとイランを分断して弱体化させると主張していた。

 欧州連合軍のウェズリー・クラーク元最高司令官によると、1991年に国防次官だったポール・ウォルフォウィッツはイラク、シリア、イランを殲滅すると口にし、2001年9月11日、ニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された10日ほど後、クラークは統合参謀本部でイラクを攻撃するという話を聞いたという。その後、国防長官の周辺で攻撃予定国のリストが作成されていたことをやはり統合参謀本部で知らされている。そのリストに載っていた国はイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランだ。(​ココ​や​ココ​)

 そのイランをアメリカ政府のネオコンやイスラエル政府は破壊しようと目論んでいる。イランの現大統領は親欧米派のマスード・ペゼシュキアンだが、イスラエルやアメリカがイランを攻撃すれば、イラン政府は報復攻撃せざるをえない。イスラエル/アメリカはイランを混乱させた上でカラー革命を計画している可能性もあるが、イスラエル軍によるパレスチナ人虐殺もあり、難しいだろう。

 ネオコンは1992年2月に国防総省のDPG(国防計画指針)草案として世界制覇プロジェクト(ウォルフォウィッツ・ドクトリン)を作成したが、その中で、中東や南西アジアにおける彼らの目標はこの地域を支配し続けること、欧米諸国によるこの地域の石油へのアクセスを維持することだとし、さらに中東や南西アジア、ヨーロッパ、東アジア、旧ソ連圏で脅威が出現しないようにするともしている。潜在的なライバルを抑え込むということだ。

 本ブログでもすでに書いたことだが、ネオコンの思想的な基盤であるシオニズムは、16世紀後半、エリザベス1世が統治するイギリスで出現したブリティッシュ・イスラエル主義から派生している。自分たちこそがダビデ王の末裔だとする信じる人物がエリート層の中に現れたのだ。例えばスチュワート朝のスコットランド王ジェームズ6世(イングランド王ジェームズ1世)のほか、オリヴァー・クロムウェルの周辺にもそう信じる人がいたという。彼らの信仰によると、自分たちが救済されるためには、パレスチナにユダヤ人を集めなければならない。そこで彼らはユダヤ教徒のエリートとも手を組むことになる。

 イスラエルは1948年5月に建国されるが、大多数のユダヤ教徒はナチスの弾圧後でもパレスチナへ向かわず、オーストラリアやアメリカへ逃げた。そこでイラクなどに住むユダヤ教徒に対するテロを実行、安全な場所はイスラエルだけだと信じさせようとしている。

 そうした経緯もあり、パレスチナへ集まったユダヤ教徒は宗教色が濃くなり、現在ではカルトとしか言えない集団の影響力が強まっている。​イスラエルのベザレル・スモトリッヒ財務大臣はフランス語チャンネル「アルテ」が制作・放映したドキュメンタリー「イスラエル:権力の極右派」の中で、パレスチナ全土だけでなくシリアまで及ぶユダヤ人国家の設立を目指していることを認めた​。ユーフラテス川とナイル川で挟まれた地域、ヨルダン、シリア、レバノン、イラク、エジプトの領土も含む場所は神がユダヤ人に与えたのだと主張する「大イスラエル」構想だが、これは1948年の「建国」時点から消えていない。

 ユーフラテス川とナイル川で挟まれた地域は神がユダヤ人に与えたのだとする主張の根拠とされているのはキリスト教徒が言うところの旧約聖書。ユダヤ教では旧約聖書の初めにある部分を「モーセ5書(トーラー)」と呼ぶ。土地を所有しているのは神であり、ユダヤ教徒はトーラーを守るという条件の下でその土地に住むことを許されたのだが、シオニストは神によってユーフラテス川とナイル川で挟まれた地域はユダヤ人のものになったと主張している。

 ​昨年10月、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はパレスチナ人虐殺を正当化するため、「われわれの聖書(キリスト教における「旧約聖書」と重なる)」を持ち出し、ユダヤ人と敵だと記述されている「アマレク人」とパレスチナ人を重ねて見せた​。彼は「アマレク人があなたたちにしたことを思い出しなさい」(申命記25章17節から19節)という部分を引用、「アマレク人」を家畜と一緒に殺した後、「イスラエルの民」は「天の下からアマレクの記憶を消し去る」ことを神に命じられたとしている。

 また、サムエル記上15章3節には、「アマレクを討ち、アマレクに属するものは一切滅ぼし尽くせ。男も女も、子供も乳飲み子も牛も羊も、らくだもろばも打ち殺せ。容赦してはならない。」と書かれている。パレスチナ人を皆殺しにするだけでなく、彼らが生活していた歴史を消し去るということだろう。その宣言通りのことをイスラエルは行い、アメリカをはじめとする西側諸国はその大量殺戮を支援しているのだ。

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※なお、本稿は櫻井ジャーナルhttps://plaza.rakuten.co.jp/condor33/

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