【連載】紙の爆弾

沖縄県警に抗議しないキシャクラブの闇 米兵性犯罪”隠蔽”事件の全貌◉浅野健一(紙の爆弾2024年11月号掲載)

浅野健一

#16歳少女を襲った米兵性犯罪事件 #沖縄県警記者クラブ #米国への謝罪要求なし #日米合同委員会 #「不同意性交罪」刑法改正 #記者クラブに権力監視機能はない #なぜ隠蔽したか #玉城知事以降 、米軍の対応に変化 #中国・深圳事件

 日本に約800あるとされるキシャクラブは組織暴力団より悪質で得体の知れない団体だと言ってきたが、その証拠となるような事案が沖縄県であった。
第二次世界大戦後、79年にわたり駐留する外国軍隊の25歳の兵士に、16歳未満の少女が誘拐・強姦されて捜査当局に立件されるも、半年間も隠され、人民にまったく知らされなかった。

兵士を派遣した国と、被害少女が住む国の行政機関の責任者は誰一人、少女に謝罪の言葉を発せず、兵士の国に謝罪の要求もしない。そんな理不尽なことが「『人間の尊厳』を守る世界を実現するべく、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化する」(首相官邸ホームページ)と謳う日本国で起こったのだ。

事件は昨年12月24日夜に起きた。クリスマスイブの日だ。在沖米軍嘉手納基地所属の空軍兵長が面識のない少女を車で自宅へ連れ去り性的暴行を加えたとして、不同意性交などの罪に問われ、7月から刑事裁判が那覇地裁(佐藤哲郎裁判長)で3回開かれた。

国家総動員体制の1942年に今の形になった「記者クラブ」について、日本のメディア関係者のほとんどは海外にもあると言うが、海外ではpressclubとの混同を避けkishaclub(kishakurabu)と英訳されている。私は原則として「キシャクラブ」と表記する。

なぜ沖縄県警は事件を半年間隠蔽したか

 この事件で沖縄県警察本部(鎌谷陽之本部長)は、米軍が兵長の身柄を確保していたため逮捕できなかったものの、3月11日に那覇地検に書類送検し、地検が同27日に在宅起訴。日米地位協定に従って、米軍が起訴後に兵長の身柄を日本側に引き渡した。

県警は事件発生と被疑者送検について、県警庁舎内にある記者室を占有使用する県警記者クラブに広報(「公表」ではなくクラブ加盟の企業メディア記者に限定した便宜供与。
広報文はクラブ以外のフリージャーナリストには提供されない)せず、地検の広報官(検察事務官)も司法クラブ(県警記者クラブとメンバーはほぼ同一)へ伝えなかった。

日米両政府は1995年に起きた米兵3人による小学生強姦事件を受け、1997年の日米合同委員会で、米軍が公共の安全に影響を及ぼす可能性がある事件・事故を起こした場合、日本の外務・防衛当局を通じて関係自治体に通報する仕組みを決めている。これが完全に空文化した。

沖縄だけでなく全国の警察・検察は、2023年7月の強姦罪を「不同意性交罪」に変える刑法改正の前後から、地元自治体への通報を怠り、記者クラブでの広報をまったくしなくなった。

私は9月12日から14日まで、5年ぶりに沖縄で取材した。主な目的は、地元メディアが捜査当局の事件隠蔽に対し、抗議や要請をしているかを調べることだ。
9日に県警広報相談課広報係長へ質問書を送った。沖縄県警は、都道府県警察では珍しく電子メールでの書面のやりとりができる。

また、県警記者クラブに質問書を送りたいと思ったが、現在の幹事社がわからない。
県警クラブにはHPはおろか連絡先も事務局もない。
反社団体と同じだ。県警の代表電話に電話しても記者クラブには繋いでくれず、仲介もしない。
14日に県警庁舎内にある県警記者クラブ宛の質問書を30分の交渉の末、広報係長に託すも回答はない。
キシャクラブは無関係の民間団体と県警はいうが、そんな団体が官庁・行政機関の記者室を独占しているのは違法だ。
結局、3日間の滞在中、那覇市内の事件担当の企業メディアの記者に会えなかった。

私の取材力がないといえばそれまでだ。しかし過去、私の講演会を何度も企画した元労組幹部が多数いる。22年5月から今年6月まで琉球新報の社長を務めた普久原均氏は80年代、社内で事件報道の匿名報道主義への転換を強く求めた同志だった。
ほかにもメディアの幹部になっている友人がいるが、返信がなかった。
主要メディアに質問したが無視された。非常に残念だ。

それでも米空軍兵長の被疑事件は、地元の琉球朝日放送(QAB)の若い事件担当記者がたまたま那覇地裁の事件簿を見て米兵が被告人になった事件があるのを見つけ疑問に思い、報道部の金城正洋デスク(7月に退社、日本ジャーナリスト会議=JCJ沖縄・世話人)に報告。
捜査関係先などに取材し、独自に報じたものだ。その直後、林芳正官房長官らが事件を認め、県にも連絡したと述べた。玉城デニー県知事もQABの報道で初めて事件を知った。

6月28日には、新たに女性を強姦しようとして負傷させた海兵隊員が5月26日に逮捕され、6月17日に起訴されていたことが琉球新報の報道でわかった。
また、林官房長官が7月3日の会見で、23年以降、この2件のほかにも同様の広報していない事案が3件あり、計5件のうち3件が不起訴処分になっていると明かした。この2年で計5件の隠蔽だ。

これについて外務省の小林麻紀外務報道官(7月1日に内閣広報官に就任)は、6月26日の会見で「個別具体的な事案の内容に応じて適切に判断して対応している。
特に本件のように被害者のプライバシーに関わるような事案では、慎重な対応が求められる。
常に関係各所にもれなく通報することが必要だとは考えていない」と述べた。

国民の人権が蹂躙されているのに、米軍と日本警察の隠蔽を正当化する小林氏の認識は異常で、日本が今も米国の植民地であることを象徴している。
地元の捜査当局と中央政府が「情報不開示」(隠蔽)と決めると、世の中に一切知られないという構造だ。戦前の報道統制が復活している。

キシャクラブメディアは権力監視どころか事件が起きたことすらキャッチできない。
高田昌幸東京都市大学教授(元北海道新聞記者、道警裏金問題を調査報道)らメディア御用学者は「記者クラブがあるから警察を監視できる」と主張しているが、そんな機能など存在しないことも浮き彫りになった。

県警から通報を受けた外務省は県に報告せず

 3月の起訴の段階で捜査当局から事件を知らされたという外務省の岡野正紀事務次官が、ほか2件も含めエマニュエル駐日米大使に抗議した。ところが、外務省は沖縄県や防衛省に事件情報を通報していなかった。

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浅野健一 浅野健一

1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。

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