朝鮮半島の血塗られた歴史
国際1988年以降の韓国の、安定した民主社会と活気ある経済のおかげで、そこに至る40年の歴史を事実だと認める必要性は握りつぶされてしまったようだ。その時代なら、北朝鮮の独裁政治はソウルの軍政に対抗するために必要だったと主張するのは、道理にかなったことだったかもしれない。
北朝鮮が、よく言えば歩く時代錯誤、悪く言えば卑劣な専制政治のように見られるのは、現在の文脈においてだけである。この25年間、世界は北朝鮮の核兵器について不安を煽られ続けてきたが、1958年に朝鮮半島へ核兵器を持ち込んだのは米国だったということを指摘する人はほとんどいない。
ジョージ・H・W・ブッシュ(父ブッシュ)政権下で戦術核兵器の引き揚げが世界的に起きるまで、何百発もの核兵器が韓国に保管されていた。だが、1991年以来すべての米政権は北朝鮮を挑発してきた。核兵器搭載可能な爆撃機を韓国領空で頻繁に飛行させ、いつでもオハイオ級原子力潜水艦が北朝鮮を数時間で破壊できる。
現在、2万8000人の米軍が韓国に駐留し、核武装能力を持った北朝鮮との勝者なき膠着状態を長期化させている。実際に占領は「かなりの長期間」となったが、80年目に入る壮大な戦略的失敗の結果でもある。評論家の常套句では、米政府は北朝鮮を真面目に受け取ることができないが、北朝鮮は一度ならず手段を講じてきた。そしてアメリカはどう対処して良いのかを知らない。
トランプと彼の国家安全保障チームに言わせれば、現在の危機が生じたのは、北朝鮮でアメリカの中心地を攻撃できる大陸間弾道ミサイルの完成が目前に迫っているからだ。専門家の多くは、ミサイルが使用可能になるまであと4〜5年かかると考えているが、だからといって大した違いがあるのだろうか?
北朝鮮は1998年に最初の長距離ロケットを実験し、朝鮮民主主義人民共和国の建国50周年記念日を祝った。最初の中距離ミサイル実験は1992年のことで、射程に沿って数百キロ飛行し目標に的中した。北朝鮮が現在保有する固体燃料を使ったさらに高度な移動式中距離ミサイルは、発見されにくく発射しやすい。
朝鮮半島と日本に住む約2億人がこのミサイルの射程内に入る。言うまでもなく、中国の数億人と、米国外で唯一恒久的に駐留している沖縄の米国海兵隊師団も、この射程に入る。北朝鮮のミサイルに実際に核弾頭を装着できるかどうかは定かでないが、それが実現し、怒りにまかせて発射ボタンに手をかけたなら、即座に北朝鮮はコリン・パウエルが印象深く「練炭」と呼んだものに成り果てるだろう。
だが、パウエル元帥が重々承知していたように、既にアメリカは北朝鮮を練炭に変えていたのだ。映画監督のクリス・マルケルが北朝鮮を訪れたのは1957年のことで、米国の絨毯爆撃が終わってから4年が経過していた。
「皆殺しがこの大地を蹂躙した。家々もろとも灰になったものを誰が数えられよう?…国が人為的な境界線で2つに引き裂かれ、両側で相容れないプロパガンダが繰り広げられるとき、この戦争の原因はどこにあるかを問うのは無邪気というものだ。境界線こそが戦争なのだ」と彼は書いた。
(境界線を引いたのがアメリカだとはいえ)アメリカの言い分とは異質な、あの戦争の基本的な真実を認識した彼は、次のように述べた。
「北朝鮮人がアメリカ人に対して一般的に持つ考えは奇妙なものかもしれないが、朝鮮戦争の終盤にアメリカに住んでいた身としては、当時流布されていた戦闘描写の愚かさと残酷趣味に肩を並べるものは他にないと、私は言わざるを得ない。『アカの火あぶり、こんがりカリカリ』(The Reds burn, roast and toast.)」。
そもそも最初から、アメリカの政策は朝鮮民主主義人民共和国に苦難を与えて支配する選択肢を順繰りに実行してきた。1950年以来実施している制裁措置で、好ましい結果が得られたという証拠はない。1948年以来実施している不承認も、好ましい結果は伴っていない。
1950年の終わりに米軍が北朝鮮に侵攻したとき試みた政権転覆は、中国との戦争につながっただけだった。そして、効果を上げた唯一の方法である直接対話は、北朝鮮の全てのプルトニウム関連施設を1994年から2002年まで8年にわたり凍結することに成功し、ミサイルの廃棄を実現する一歩手前まで行っていた。5月1日に、ドナルド・トランプはブルームバーグ・ニュースに次のように語った。
「私が[金正恩(キム・ジョンウン)と]会談するのが適切であれば、絶対にそうします。喜んでそうします。」これが真剣なコメントだったかどうかは分からないし、トランプがまたニュースのネタになろうとして言っただけかもしれない。だがいずれにせよ、彼は疑いなく異端者だ。米国の政府中心部に借りを作っていない大統領は、1945年以来では初めてだ。彼は金正恩氏と席を並べ、地球を救うことができるかもしれない」。
(以上)
★5月26日、イタリアでの日米首脳会談において北朝鮮について「対話ではなく圧力をとの認識で一致」と日本メディアは一斉に報道していますが、報道を見ていて、わざわざ「対話ではなく」なんていうかな、と思いました。
そこでホワイトハウスの発表(下記1)を見てみたら、案の定、「圧力を強める」とは言っていますが「対話でなく」などと言っていません。トランプ大統領は5月1日に、金正恩委員長とは適切な状況でなら会うことは光栄だと言ったばかりです。日本のメディアの情報源はこの外務省の発表でしょう。
「両首脳は,北朝鮮問題に関して政策のすりあわせを行い,今は対話ではなく圧力をかけていくことが必要であること,中国の役割が重要であることを改めて確認した」と言っています。
「すりあわせ」という言葉は、意見の不一致を示唆します。おそらく「対話ではなく」というのは安倍首相の意見だったのでしょう。ホワイトハウスの発表をみるかぎりこの点において「一致」していたとは思えません。
1)The White House Office of the Press Secretary For Immediate ReleaseMay 26, 2017
Readout of President Donald J. Trump’s Meeting with Prime Minister Shinzo Abe of Japan
President Donald J. Trump met today with Prime Minister Shinzo Abe of Japan in Taormina, Italy, before the start of the G7 Summit. In the wake of the horrific terrorist attack at the Manchester Arena in the United Kingdom, the two leaders reaffirmed their shared resolve to cooperate to the fullest extent possible to counter terrorist threats.
The President said the United States will work with Japan and the Republic of Korea, as well as our other allies and partners around the world, to increase pressure on North Korea and demonstrate that North Korea’s current path is not sustainable.
President Trump and Prime Minister Abe agreed their teams would cooperate to enhance sanctions on North Korea, including by identifying and sanctioning entities that support North Korea’s ballistic missile and nuclear programs.
They also agreed to further strengthen the alliance between the United States and Japan, to further each country’s capability to deter and defend against threats from North Korea.
※この記事はカナダ・バンクーバー在住のジャーナリスト・乗松聡子さんが運営するPeace
Philosophy Centreの翻訳記事(https://peacephilosophy.blogspot.com/2017/05/bruce-cumings-murderous-history-of.html)からの転載です。
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米国の歴史学者。シカゴ大学スウィフト冠講座教授。専門は、政治学、朝鮮半島を中心とする東アジア政治 。