【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2024.10.25/櫻井春彦 :イスラエルが米国を動かしているのではなく米国がイスラエルを動かしている

櫻井春彦

イスラエルのベザレル・スモトリッチ財務大臣はエルサレムをダマスカスまで拡大すると公言している。パレスチナ人を虐殺し、殺されたくないならパレスチナから出て行くように強制しているのだが、彼だけがそう考えているわけではない。これは民族浄化であり、イスラエル政府は1948年5月の「建国」以来、大イスラエル構想を捨てていないのだ。

 しかし、忘れてならないのはイギリスがイスラエルを作る礎を築いたということである。パレスチナに「ユダヤ人の国」を作ろうという運動、シオニズムはエリザベス1世が統治するイギリスで生まれたのだ。

 アメリカの外交安全保障政策を動かしているネオコンはシオニストの一派で、1991年12月にソ連が消滅した直後、アメリカが世界を制覇するプロジェクトを国防総省のDPG草案という形で作成、2001年9月にそのプロジェクトを本格的に開始した。

 欧州連合軍のウェズリー・クラーク元最高司令官によると、DPG草案が作成される前からネオコンの中心的なグループに属していたポール・ウォルフォウィッツ国防次官はイラク、シリア、イランを殲滅すると口にしていた。そして2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された後、クラークは国防長官の周辺で攻撃予定国のリストが作成されていたことを知る。そのリストに載っていた国はイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランだ。(​ココ​や​ココ​)

https://www.democracynow.org/2007/3/2/gen_wesley_clark_weighs_presidential_bid

https://www.youtube.com/watch?v=TY2DKzastu8

 2003年にはイラクを先制攻撃で破壊、スーダンの西部、ダルフールでは資源をめぐる戦闘が激化している。当初、欧米の国々は南スーダンの石油利権に集中、ダルフールの殺戮を無視していたが、ネオコンはダルフールへ積極的に介入、その資源に目をつけた隣国チャドの政府が反スーダン政府のJEM(正義と平等運動)へ武器を供給して戦闘を激化させる。リビアのムアンマル・アル・カダフィは生前、チャドの背後にはイスラエルが存在していると主張していた。2011年にはシリアやリビアに対する軍事作戦を開始、アメリカ軍はエチオピア軍と共同でソマリアを軍事攻撃する。そして今、アメリカをはじめとする欧米諸国の支援を受けたイスラエルはレバノンを破壊しつつあり、次にイランを攻撃し始めている。

 蛮行を働くイスラエルを無批判に擁護しているアメリカだが、1960年代までは違った。例えば、ジョン・F・ケネディ大統領はイスラエルの核兵器開発には厳しい姿勢で臨んでい流。ダビッド・ベングリオン首相と後任のレビ・エシュコル首相に対し、半年ごとの査察を要求する手紙を送りつけているのだ。核兵器開発疑惑が解消されない場合、アメリカ政府のイスラエル支援は危機的な状況になると警告していた。(John J. Mearsheimer & Stephen M. Walt, “The Israel Lobby”, Farrar, Straus And Giroux, 2007)

 こうした姿勢が劇的に変化したのはケネディ大統領が暗殺された後にリンドン・ジョンソンが副大統領から大統領に昇格してからだ。ジョンソンのスポンサーはシオニストの富豪、アブラハム・フェインバーグ。この人物はハリー・トルーマンのスポンサーでもあった。

 ジョンソンがイスラエルに対するアメリカ政府の姿勢を変えたことを示す象徴的な出来事が1967年6月に勃発した第3次中東戦争にほかならない。

 戦争が勃発した4日後にアメリカは情報収集船の「リバティ」を地中海の東部、イスラエルの沖へ派遣したのだが、イスラエル軍はその船がアメリカの情報収集船だということを確認した上でロケット弾、ナパーム弾、魚雷などを使って攻撃、撃沈させようとしている。

 最初の攻撃でリバティの通信設備を破壊したのだが、船の通信兵は寄せ集めの装置とアンテナでアメリカ海軍の第6艦隊へ遭難信号を発信することに成功、それに気づいたイスラエル軍はジャミングで通信を妨害している。

 空母サラトガの甲板にはすぐ離陸できる4機のA1スカイホークがあったことから艦長は船首を風上に向けさせて戦闘機を離陸させ、艦隊の司令官に連絡、司令官は戦闘機の派遣を承認。その事実はジョンソン大統領へすぐに報告されたが、ロバート・マクナマラ国防長官は第6艦隊に対して戦闘機をすぐに引き返させるようにと叫んでいる。自国の艦船を見殺しにしろと言っているに等しい。リバティはからくも沈没を免れたものの、乗組員9名が死亡、25名が行方不明、171名が負傷している。(Alan Hart, “Zionism Volume Three”, World Focus Publishing, 2005)

 アメリカ政府は真相を隠す工作をすぐに開始、その責任者に選ばれたのがアメリカ海軍太平洋艦隊の司令官だったジョン・マケイン・ジュニア、つまりジョン・マケイン3世上院議員の父親だった。リバティの交信記録や近くにいたアメリカ海軍の潜水艦が集めていた情報を廃棄されている。

 この出来事の背後にはアメリカ政府の「サイアナイド作戦」が存在していると言われている。ジョンソン政権では「303委員会」が秘密工作を統括、1967年4月に「フロントレット615」という計画が説明されたという。リバティを潜水艦と一緒に地中海の東岸、イスラエル沖へ派遣するというもので、実際、後にリバティや潜水艦は派遣された。

 それだけでなく、この計画には「サイアナイド作戦」なるものが含まれていた。リバティを沈没させ、その責任をエジプト、あるいはソ連に押しつけて戦争を始めようとしたと推測されている。この話が事実ならば、トンキン湾事件の再現を狙ったジョンソン政権がリバティ撃沈をイスラエルの要請したということになるだろうが、リバティは沈没を免れた。

 リバティに対する攻撃の後、アメリカ政府は関係者に箝口令を敷き、重要な情報を公開していない。イスラエルの法律では攻撃に関する資料が2017年に公開されるはずだったが、10年7月にベンヤミン・ネタニヤフ首相は情報公開の時期を20年間遅らせることを決めた。アメリカもイスラエルもこの攻撃に関する情報を隠し続けようとしている。

 こうした推測が正しいなら、イスラエルはアメリカの弱みを握ったことになるが、そもそもジョンソンは親イスラエルの政治家である。
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