【連載】今週の寺島メソッド翻訳NEWS

☆寺島メソッド翻訳NEWS(2024年10月23日):トランプは、大統領職を失う可能性のある過ちを犯している

寺島隆吉

※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。

共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ元米大統領。 © ケビン・ディーチ/ゲッティイメージズ

ウクライナの指導者ウラジーミル・ゼレンスキーが最近、ドナルド・トランプの隣に立って対ロシア支持を求めたとき、ゼレンスキーはまるで校長に叱り飛ばされた児童のように見えた。この元米国大統領は、ゼレンスキーに「タンゴを踊るには2人が必要だ」と念を押した。しかし、イスラエルのことになるとどういうわけかトランプは、ソロダンサーのような動きを見せ、自分のことだけに気を配り、まわりから怒りを買っているようだ。しかもトランプは、イスラエルのことについて沈黙を保つことさえできないようだ。

そのようなトランプの振る舞いは、彼の支持層が認めたものではない。

2023年10月7日、ガザのハマス戦闘員が、長年にわたる反パレスチナ弾圧の後、ガザに隣接するイスラエル領内での音楽祭においてイスラエルの民間人を攻撃した事件からちょうど1年経った日に何を話すかについては、トランプにはさまざまな選択肢があったはずだ。彼の支持基盤は、イスラエルのことに干渉せず、米国民の日常生活に影響を与える問題に焦点を当てて欲しいと期待している。というのもすべての米国民がイスラエルに住んでいるわけではないからだ。この当たり前のことが、なぜかそうは思われないところはあるのだが。

トランプは、ウクライナに対する和平調停者を自負しており、その紛争を一瞬で解決できると言っている。しかし彼は中東に対しては、どうやらそのような野心を持っていないようだ。それどころか、彼はユダヤ教の帽子ヤルムルクを身につけ、ヘブライ語の碑文が刻まれた巨大な石板のそばに立ち、もし11月に当選したら「ユダヤ人憎悪者を排除する」方法、そして「米国とイスラエルの間の絆は強く、永続的である」こと、そしてそれが「かつてないほど近づく」ことを確実にするだろうと語った。


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トランプはイスラエルにイランの核施設を爆撃するよう呼びかけた。「そこはイスラエルが攻撃すべき箇所ではないだろうか? イランの核兵器は我が国が抱えている最大の危険なのだから」とトランプは最近の集会で述べた。まるで彼は気づいていないかのようだ。核兵器ということばは、周りから敬意に満ちた行動を引き起こすことができる魔法のことばだ、ということに。それはトランプが大好きな憲法修正第2条(国民の銃の保持を認める条項)が米国で見せる効果と同じだ。

この発言だけでも、トランプは、イスラエルがイランの核施設を攻撃することに明確に反対しているバイデン政権よりも、より親イスラエルで戦争を支持する立場にあることが分かる。彼はまた、民主党の対立候補であるカマラ・ハリス副大統領よりも積極的に親イスラエルである。ハリスのほうはイスラエルの爆撃を踏まえて、パレスチナの民間人を保護する必要性について折に触れて少なくとも口先だけの耳あたりのいいことばを発したり、イスラエルが同盟国であるかどうかを尋ねられたときでさえ、その質問をあからさまにかわすなどしている。

トランプは一体誰に訴えかけようとしているのだろう? 支配者層? 何をいまさら?彼はとっくに他のあらゆることに対する支配者層からの支持を失っており、この件で支配者層がトランプ支持にまわることはないだろう。共和党内のネオコン派に対しての訴えかけなのだろうか? いや、それも同じ理由でありえない。

トランプの「MAGA(米国を再び超大国に)」の支持基盤は、非干渉主義者であり、地球の反対側の国々の間でおこっている対立など無視しようとしていることは確かだ。だからこそトランプが10月7日に見せたイスラエルに対する擦り寄りに気づき、ソーシャルメディア上で「わかった。俺はトランプ支持からおりる」などという書き込みが散見されたのだ。

もしかしたら、トランプが引きつけようとしていたのは、より一般の米国民だったのだろうか。今月発表された米国のシンクタンクであるピュー研究所の新たな調査では、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を信頼している米国民はわずか31%で、75%が米軍が何らかの形で混戦に引きずり込まれることを懸念していることがわかった。英国の政策調査機関YouGovの世論調査では、ガザ紛争でパレスチナ人よりもイスラエルに同情している米国民はわずか33%だった。3月の米国ギャラップ社の世論調査でも、米の有権者の大多数がガザにおけるイスラエルの行動に反対していることが分かった。しかもこの結果は、イスラエルがシリアやレバノンに対する同様の攻撃や、市街地付近で発生した「ヒズボラのポケットベル」爆発を開始する前に取られたデータである。

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トランプは、本心では、米国の有権者がもっと気にしている問題は何だと考えているのだろうか? 有権者が目にしているのは、自分たちの血税が外国の戦争に垂れ流されている現状だ。その戦争に対して、今まさにトランプはボクシングのリングの隅にいるトレーナーさながらにボクサーを盛りあげているような口振りで話している。そうしない人は「反ユダヤ主義」であるかのように。しかし実は、いまの米国民が問題視しているのは、反ムスリム差別のほうであることは、4月のピュー研究所の世論調査で明らかになっている。それでもトランプは、もし当選したら「ユダヤ人憎悪者を排除する」つもりだと続けた。ユダヤ人憎悪者とは、誰のことを指しているのか? イスラエルの自国問題は自国で解決すべきことで、全世界を第三次世界大戦に引きずり込むべきではない、という立場を取っている人でさえ、憎悪者と見なされるのだろうか?

トランプのこの姿勢の最大の問題は、彼の反戦姿勢の支持者が、イスラエルのことになると彼に何が起こっているのか、本当に理解できないという点にある。イスラエルのことは例外にした反戦主義者などありえないのだ。トランプ支持者は、イスラエルに対するトランプの情熱がハリスの見せているより中立的な態度と非常に対照的であることを見抜いている。トランプ支持者が心配しているのは、トランプのこの姿勢のせいで、一部の共和党支持層や支持政党のない有権者、特にトランプのこの動機に懐疑的な人々をトランプから引き離せるくさびをハリス側に渡してしまうことにならないか、という点だ。ハリスは、米国政府の典型的な支配者層の立場に立っているだけだが、それだけでも十分よくない。対照的に、トランプは、イスラエルの戦争について、不可解なほど入れ込んでいるように見える。

おそらく、最も合理的な説明は、トランプの選挙運動の資金源を見ることで見つけることができるだろう。大御所のシェルドン・アデルソンは、2021年にポリティコ誌によって「共和党の親イスラエル勢力を引き受けた巨大資金源」と評された。同年、彼の未亡人、イスラエル生まれのミリアムは、「当時の国務長官コンドリーザ・ライスがイスラエル・パレスチナ和平交渉を再開しようと努力したことについて、ジョージ・W・ブッシュ大統領に悲しみを表明した」という。米国大使館をテルアビブからエルサレムに移すことで、トランプはアデルソンが長い間望んでいたことを実現した。当時は、その裏には不必要な筋書きがたくさんあるように見えた。そして、トランプの大統領復帰を見越して、すでにどれだけの資金が投入され、準備万端積み込まれているのか、疑問に思わざるをえない。

NBCニュースは「アデルソン予備選」、すなわち、共和党の予備選挙の候補者がこの大御所と会って彼の支持と彼の現金を勝ち取るために会う伝統的な手続きについて報じた。ニューヨーク・タイムズ紙は今年初め、政治活動委員会への寄付を通じて、彼の未亡人が「トランプを選出するための1億ドルの計画」を奉じたことを呼び起こした。トランプ大統領は2018年に彼女に大統領自由勲章を授与した。確かに、それは2016年の彼の選挙運動への2000万ドルの寄付とは何の関係もなかったにちがいない。投票の数ヶ月前から彼を支持し始めたという報道があったとはいえ。

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夏の選挙運動の催しで、トランプはミリアム・アデルソンを紹介し、彼が彼女に授与した賞に言及し、負傷した兵士のための議会名誉勲章と同等であることを示唆した。そしてちがっているのは、「彼女は健康で美しい女性であり」、「何度も銃弾に当たって身体を壊していたり、死んだりした」兵士ではない点である、と語った。最近では、何百万ドルもの選挙運動の寄付で何が手に入るのか正確にはわからないが、おそらくそこには、1ドルショップで販売されているグリーティング・カードにさえ入らなかったような、お世辞以上の何かがあることは確実だ。

イスラエルの報道機関「i24ニュース」によると、トランプはアデルソンの未亡人から十分な現金を受け取っていないと感じたため、夏中ずっとブチギレていた、という。

これらすべての状況は、トランプが選挙戦の終盤にアデルソンが唯一主張している問題に対する比重を増やした理由を説明するのに役立つことは確かだ。そしてこの時期というのは、トランプが初めて勝った選挙の際にアデルソンから現金を得たのと同じ時期だ。その資金のおかげでトランプは勝てたのだ。

いずれにせよ、見た目がよくない。何かが明らかにおかしいように感じられ、背後に何があるのかについての透明性が不足している。ハリスのような既成の政治家が、トランプがいつも非難している軍産複合体に迎合していることは周知の事実だ。しかし、トランプ支持者は、トランプがイスラエルに迎合している背後には、規制の政治家がもっているものよりもさらに怪しい何かが潜んでいる可能性を感じ取っている。そして、トランプが親イスラエルに固執することが、有権権者が投票に行かず家から出ないか、悪魔であると分かっている候補に投票するかを決する材料になっている。

※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2024年10月23日)「トランプは、大統領職を失う可能性のある過ちを犯している」http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-2760.html
空の転載であることをお断りします。
また英文原稿はこちらです⇒Trump is making a mistake that could cost him the presidency
共和党選出のこの大統領候補は反戦で反介入主義者であるはずなのに、イスラエルに対しては明らかに例外的な立場を取り続けている
筆者:レイチェル・マースデン(Rachel Marsden)
コラムニスト、政治戦略家、フランス語と英語で制作された独立系メディアのトークショーの司会者
出典:RT 2024年10月9日
https://www.rt.com/news/605472-trump-mistake-could-cost-presidency/

寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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