【高橋清隆の文書館】2024年11月5日IHR「国内法の改正必要ない」、留保・拒否の可能性否定せず 福岡厚労相

高橋清隆

 5月に開かれた世界保健機関(WHO)総会で採択された国際保健規則(IHR)改定案の2025年9月発効に向けた国内法の整備について福岡資麿(たかまろ)・厚生労働大臣は5日の記者会見で、「国内法の改正は必要ない」との考えを明らかにした。

 改定IHRに日本政府として留保・拒否する可能性については、「どうやって対応していくかも含めて今後、しっかりと調整してまいりたい」と述べ、完全には否定しなかった。

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記者会見に臨む福岡大臣(2024.11.5、厚労省会見室で筆者撮影)

 IHR改定案は総会最終日の6月1日夜に詐欺的手法で採択された。IHR第55条で義務付けられている総会4カ月前までの提案提示を守らなかった上、委員会と本会議ともに定足数を数えなかった。

 内容としては、WHOからの勧告(recommendation)について当初案で「拘束力のない」の語句が削除された上、「個人の尊厳、人権、基本的自由を十分尊重する」の語句も消えていたことから、国家と個人の主権制限が心配された。これら文言は最終的に復活したが、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC・フェイク)」をWHO事務局長の一存で決定できることや、「デジタル形式の健康証明書」、「誤・偽情報への対処」などの項目が残る。

 厚生労働省のホームページにあるIHR改定の検討状況の内容が、10月10日に更新されていた。同改定案が6月1日に「コンセンサス」で採択されたことを報告した後、「今回の改正内容は、今後各国において検討され、その実施に向けた国内調整が行われます」と記されている。この「国内調整」とは何を指すのか? 筆者は会見で大臣にただした。

 福岡大臣は、「パンデミックの予防、備え、対応に一層寄与するものとなった」と評価した上で、「現時点で国内法の改正は必要ないと考えているが、それに関係するいろいろな対応、何が必要かということについては、引き続き精査してまいりたい」と答えた。

 採択された最終のIHR改定案では、第4条に「締約国は必要に応じて、国内の立法および/または行政上の取り決めを調整すること」との条文がある。これは当初、付属書10に「法律面での支援について」と題し、「ⅱ公衆衛生上の対応を支援するために法的・行政的処置を採用する」とあったものを引き継いだと思われる。

 すでに決まった地方自治法改定や、インフルエンザ等対策政府行動計画(行動計画)改定は、IHR改定と連動したものではないのか? 筆者は追加質問した。

 福岡氏は「国内法の改正は必要ない」と重ねた上で、「具体的にどういう対応が必要かについては今後、内部で調整していきたい」と述べるにとどめた。

 しかし、改定地方自治法や改定「行動計画」の内容は、改正IHRの規定を受けているように映る。

 改定地方自治法は、大規模な災害や感染症のまん延など国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における特例を定めたもの。国は地方公共団体に対し、国民の生命等の保護を的確かつ迅速に実施するため講ずべき措置に関し、必要な指示ができることとしている。対処方針検討等のため、資料の提出を求めることもできる内容。一方、改定IHRは、各締約国に国内における保健対策の一元的な実施と情報の集約を義務付けている。

 改定「行動計画」には、パンデミック対応製品の供給体制の整備やワクチンパスポート、公共交通機関内での乗客の隔離、偽・誤情報への対処を含むリスクコミュニケーションなどの項目がある。これらは改定IHRにもあり、文言も酷似している。

 上川陽子・前外務大臣は6月4日の記者会見でIWJの濵本信貴記者にIHR改定について尋ねられた際、「所管の厚生労働省を中心にIHR改正を踏まえた国内施策に関するパブリックコメント(意見募集、パブコメ)の実施について検討していく方針」を示し、「国会においては質問があれば、丁寧にお答えしたい」と補足している。

 しかし、この時点で「行動計画」改定案はパブコメを終了していた。19万件超の意見が寄せられながら、7月2日に成立している。地方自治法改定案の審議で上川氏は「丁寧にお答え」したのかもしれないが、その後、6月19日に成立した。上川氏の言う「パブリックコメントの実施」とは、何を指すのか? 福岡氏の「国内法の改正は必要ない」との表明は、本当だろうか? まだ、政省令はあるということか?

 会見で筆者はもう1つ尋ねた。改定IHRに日本政府として留保・拒否する余地はあるかについてだ。厚労省ホームページには、改定IHRの発効が25年9月19日で、留保・拒否の意思表明期限が25年7月19日であると記されている。拒否または留保を表明した国を除く全ての加盟国宛ての通報が、24年9月19日付けであったためとしている。

 筆者が「もし国内の世論が多数が反対になったら、拒否するお考えはあるか」とただした。福岡氏は、「仮定の話については、お答えすることは差し控えさせていただきたい」としながらも、「そういった期限に対してどうやって対応していくかも含めて今後、しっかりと調整してまいりたいと考えている」と答弁。保留・拒否の可能性を完全には否定しなかった。

 上川氏はIHR改定案の採択について、6月4日の記者会見で「歓迎する」と表明している。武見敬三・前厚労相は6月28日、「締約国が守らなければならない義務を課した規則になっている」と安堵(あんど)の表情を示しながらも、「残念ながら、その法的な強制措置というのは効力として持っておりません」と述べ、パンデミック条約により強制措置を盛り込むことに意欲を見せたほどだ。

 一方、福岡新大臣は今後方針転換する可能性に一応の余地を残した。感染症対策に名を借りた国家主権・私権の制限に対しては5月31日、東京・日比谷公園で2万人が反対の意思表示をしている。政府方針を翻せるかは、反対運動の盛り上がり次第のようだ。

👆9:36より筆者の質問(『藤江チャンネル』より拝借)

■参考情報

※なお、この記事は「高橋清隆の文書館」2024年11月5日のブログ記事http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/archives/2064520.htmlからの転載であることをお断りします。

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高橋清隆 高橋清隆

反ジャーナリスト。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。元ローカル新聞記者。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&K プレス)、『山本太郎がほえる~野良犬の闘いが始まった』(Amazon O.D.)など。翻訳にデーヴィッド・アイク『答え』第1巻[コロナ詐欺編](ヒカルランド)。2022年3月、メディア廃棄運動を開始。 ブログ『高橋清隆の文書館』http://blog.livedoor.jp/donnjinngannbohnn/

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