【連載】櫻井ジャーナル

【櫻井ジャーナル】2024.11.10/櫻井春彦 : ウクライナでの戦闘を終わらせると公約したトランプだが、その前には大きな障害

櫻井春彦

 アメリカの大統領選挙で勝利したドナルド・トランプは選挙期間中、ウクライナでの戦闘を終わらせると約束していた。この公約を実現できるのかどうかを人びとは注目しているが、トランプも万能ではない。

 ウクライナでの戦闘は1992年2月、アメリカ国防総省のDPG(国防計画指針)草案として世界制覇プロジェクト(ウォルフォウィッツ・ドクトリン)をネオコンが作成したところから始まった。

 この計画に基づいてアメリカはドイツや日本を自分たちの戦争マシーンに組み込む一方、旧ソ連圏を解体しはじめる。まずユーゴスラビアの解体を進め、NATOは99年3月にユーゴスラビアを先制攻撃して破壊している。世界制覇戦争が本格化するのは2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されてからだ。

 アメリカが旧ソ連圏の解体を進め、ウクライナの独立を認める。そこでソ連時代にロシアからウクライナへ割譲された東部や南部の住民はウクライナからの独立や自治権獲得を望むが、これを西側は認めないのだが、それでもウクライナでは西側にもロシアにも与しないという方針を打ち出した。

 しかし、ロシア征服の鍵を握るウクライナを制圧したいアメリカの支配層は中立を認めようとしない。2004年の大統領選挙で中立を掲げるビクトル・ヤヌコビッチが勝利すると、アメリカは2004年から05年にかけて「オレンジ革命」と呼ばれたクーデターを実行、西側の傀儡だったビクトル・ユシチェンコを大統領に据えた。ユシチェンコ政権は新自由主義政策を推進、不公正な政策で貧富の差を拡大させたことからウクライナ人の怒りを買う。

 2009年1月にバラク・オバマが大統領に就任、その翌年にはウクライナでも大統領選挙があった。その選挙で再びヤヌコビッチが勝利。そこでオバマ政権は2013年から14年にかけてネオ・ナチを利用したクーデターを実行、西側資本の属国にした。

 この戦争を主導したのはネオコンで、ホワイトハウスの中では副大統領だったジョー・バイデン、国務次官補だったビクトリア・ヌランド、そして副大統領の国家安全保障担当補佐官を務めていたジェイク・サリバンが中心的な存在だったとされている。

 しかし、ヤヌコビッチの支持基盤だった東部や南部の住民はクーデタを拒否、クリミアはロシアの保護下に入り、ドンバスでは内戦が勃発したのである。こうした経緯を無視してウクライナ情勢を語ることはできない。

 2014年にネオ・ナチを主体とするクーデター政権が成立しているのだが、軍や治安機関の約7割は新体制を拒否、クリミアの場合は9割近い兵士が離脱、一部は東部ドンバス(ドネツクやルガンスク)の反クーデター軍に合流したと伝えられている。そのため、当初、ドンバスでの戦闘は反クーデター軍が優勢だった。

 そこでロシアと戦う態勢を整えるための時間が必要になり、出てきたのがミンスク合意だ。これをアメリカなど西側諸国は時間稼ぎに使い、8年かけて武器弾薬を供与、兵士を育成、訓練、ドンバス周辺に地下要塞をつなぐ要塞線を構築した。

 2021年1月にバイデンが大統領に就任、ロシアのウラジミル・プーチン大統領を人殺し呼ばわりするだけでなく、ロシアに対する軍事的な挑発を始めた。バイデン大統領の下でそうした好戦的な政策を推進していたのは国家安全保障補佐官に就任したサリバン、国務次官になったヌランド、そしてアントニー・ブリンケン国務長官だろう。

 2022年に入るとウクライナのクーデター体制はドンバス周辺に部隊を集め、砲撃を活発化させた。そうした状況を見て、少なからぬ人が大規模な軍事作戦が始まると推測していた。そうした時、ロシアはウクライナに対する攻撃を始めたのだ。

 こうしたアメリカの好戦派は自国の軍事力や生産能力を過大評価、ロシアの軍事力や生産能力を過小評価し、ロシアと戦争しても簡単に勝てると信じていたようだが、その背景には優生思想、あるいは信仰があるのかもしれない。

 アメリカをはじめとする西側諸国はウクライナ人とロシア人を戦わせて「漁夫の利」を得ようとしていた、あるいは共倒れを目論んでいたかもしれないのだが、2022年以降、ロシアの優位は変わらないまま推移し、すでにウクライナ軍は降伏するか全滅するしかない状況だ。

 ここにきて西側の有力メディアは「朝鮮兵話」を流しているが、これは西側の軍隊を入れる布石だとする見方もある。そうしたことをロシア側が認めるとは思えず、アメリカ軍とロシア軍が直接衝突することも考えられる。通常兵力では劣勢のアメリカ軍は核兵器を使うことになる可能性も否定できない。​朝鮮兵の話を持ち出してきたブルース・W・ベネットはアメリカ国防総省系シンクタンクRANDの上級国際/防衛研究者​である。

 ロシア政府はウクライナの非武装化、非ナチ化、中立性の回復などを求めてきた。ソ連時代にロシアからウクライナへ一方的に割譲された地域のロシアへの返還も実現しようとするだろう。いかなる形でもNATOがウクライナへ入ることは許さないはずだが、西側の好戦派はロシア政府を甘く見て入ってくる可能性がある。核戦争で脅し続ければロシアは最終的に屈服するとネオコンは今でも信じているかもしれない。

 ロシアが実現しようとしている目標の中で最も難しいのは非ナチ化だろう。ナチスはシティやウォール街、つまり米英金融資本から資金援助を受けていた。第2次世界大戦後はアメリカの政府機関に逃亡を助けられ、保護され、雇用され、後継者も育成されてきた。ウクライナでもナチスの後継者、いわゆるネオ・ナチが使われた。米英金融資本を中心とする西側の支配システムが存在している限り「非ナチ化」は不可能だ。

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