☆寺島メソッド翻訳NEWS(2024年11月9日):BRICSは米ドル支配に挑戦する「複合通貨システム」を計画している:ロシア提案の真意は何か?
国際※元岐阜大学教授寺島隆吉先生による記号づけ英語教育法に則って開発された翻訳技術。大手メディアに載らない海外記事を翻訳し、紹介します。
BRICSクロスボーダー決済イニシアティブ(BCBPI)では、米ドルではなく各国の通貨が使用される。ロシア財務省と中央銀行は、国際通貨・金融システムを変革する計画の詳細を記した報告書を公表した。
グローバル・サウス指向の組織BRICSは、国際通貨金融システムを変革し、米ドルの支配に挑戦する計画を発表した。
2024年のBRICS議長国として、ロシアは、BRICS加盟国が自国通貨を使用して貿易を行なうBRICSクロスボーダー決済イニシアティブ(BCBPI) の創設を提案した。
BRICSはまた、米国が監督し、西側の一方的な制裁の対象となっている銀行間通信のSWIFTシステムを回避するための代替的な通信インフラを構築する。
この「複数通貨システム」には、貿易をドル化しないだけでなく、BRICS加盟国や他の新興市場国・発展途上国への投資を奨励するための新たなメカニズムも含まれる。これには、BRICSクリア・システム、「証券会計・決済の新システム」、各国通貨建ての金融商品などが含まれる。
BRICSは分散型台帳技術(distributed ledger technology_DLT )(例えば、ブロックチェーン*)の実験を行い、中央銀行のデジタル通貨の利用を促進する。これにより、SWIFTシステムや第三国のコルレス銀行(仲介銀行)を介さずに、各国が貿易不均衡を直接決済できるようになる。
ブロックチェーン*・・・電子的な台帳であり、暗号技術を使ってリンクされたブロックと呼ばれるレコードの増大するリストの事を指している。各ブロックには、前のブロックの暗号化ハッシュ 、タイムスタンプ、トランザクションデータ(一般的にはマークルツリーで表される)が含まれている。(ウィキペディア)
また、穀物、石油、天然ガス、金などの商品取引センターを併設したBRICS穀物取引所および関連価格設定機関の設立も計画されており、貿易不均衡の解消にも利用できる。
これらの提案は、ロシア連邦財務省、ロシア中央銀行、コンサルティング会社ヤコフ・アンド・パートナーズの共同執筆による報告書「国際通貨・金融システムの改善」にそのあらましは書かれている。(この文書のPDFファイルは、ロシア連邦財務省の公式ウェブサイトで見ることができる。リンクが機能しない場合は、ヤコフ・アンド・パートナーズのウェブサイト https://yakovpartners.ru/upload/iblock/9c2/ci594n0ysocxuukw7iliw6qtr4xz6cc4/BRICS_Research_on_IMFS.pdfでも入手可能である。)
この歴史的な報告書は、10月22~24日にロシアのカザンで開催されたBRICSサミットの前夜に発表された。
BRICSは、当初はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカからなる新興市場および発展途上国の緩やかなグループとして設立された。
その後、この組織は拡大し、2023年のBRICSサミット(開催地は南アフリカ・ヨハネスブルグ)では、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、アルゼンチンの6カ国が新たに招待された。(当初は左派寄りのアルゼンチン政府が招待を受諾したが、2023年12月に親米右派のハビエル・ミレイが政権を握ると、BRICSを攻撃し、参加を拒否した。)
BRICSの議長国は毎年持ち回りとなっている。2023年は南アフリカが議長国を務め、2024年はロシアが議長国となった。
2024年2月、財務大臣および中央銀行総裁からなるBRICSがブラジルのサンパウロで会合を開いた。そこでロシア代表は、「国際通貨・金融システムを改善するための取り組みと提言の一覧を盛り込んだ報告書」をBRICS諸国の指導者向けに作成すると述べた。
ロシアの財務大臣アントン・シルアノフは、その動機について説明した:
現在のシステムは、既存の欧米の金融インフラと準備通貨の使用に基づいている。それは深刻な欠陥があり、政治的・経済的圧力の道具としてますます利用されている。国際通貨金融システムの改革のもう一つの理由は、貿易と金融の制限の濫用の結果となった地理経済の分断である。
今年2月の会議で、BRICSは「多国間デジタル決済・支払いシステム」の構築計画を発表した。BRICSはこれを「BRICSブリッジ」と呼び、「BRICS加盟国の金融市場間のギャップを埋め、相互貿易を拡大するのに役立つ」と述べた。
これらの取り組みは、10月に発表された包括的な調査に結実した。
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米国主導の西側による国際通貨・金融システムの独占
ロシアBRICS議長国報告書は、国際通貨金融システム (IMFS) は「単一通貨と中央集権化された金融インフラへの過度の依存」に苦しんでいる独占状態にあるため、不当であるだけでなく非効率的であると主張した。
同文書は、「現在のIMFSは主にAE (advanced economies先進国) の利益に奉仕している」と指摘している。
さらに、「既存のIMFSは、度重なる危機、持続的な貿易と経常収支の不均衡、公的債務水準の上昇と拡大、資本フローと為替レートの不安定化を特徴としている」とした。
米国がIMFSを独占していることで世界的なドル需要が確保されているため、米国は数十年にわたって巨額の経常赤字を抱える一方で、自国の地政学的利益のために通貨を武器化してきた。
米国政府は世界で経済戦争を繰り広げており、低所得国の60%を含む1/3の国に一方的な制裁を加えている。
米国と欧州の同盟国も同様に、敵対国から数千億ドルの資産を押収している。BRICSの報告書には、ロシア、ベネズエラ、イラン、シリア、リビア、アフガニスタン、北朝鮮など、西側が外貨準備を凍結した国のリストが含まれている。
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世界銀行とIMFに代わるBRICSの選択肢:新開発銀行(New Development Bank_NDB)とコンティンジェント・リザーブ・アグリーメント(Contigent Reserve Agreement_CRA)
国際通貨・金融システムを変革しようと試みるため、ロシアの報告書では、BRICSクロスボーダー決済イニシアティブ(BCBPI)、BRICSクリア・システム、BRICS穀物取引所など、複数の新しい機関の創設が提案された。
また、BRICSがすでに設立した世界銀行および国際通貨基金(IMF)の代替機関である新開発銀行(NDB、旧称BRICS銀行)と、コンティンジェント・リザーブ・アグリーメント(CRA)を強化することも呼びかけられた。
NDBは、開発途上国、特に基盤整備プロジェクトに資金を提供するために創設された。NDBは、BRICS加盟国の通貨建て融資を増やすと約束しており、段階的な脱ドル化を目指している。
ロシアBRICS議長国は、「NDBの融資能力を大幅に拡大し、同時にこのプロジェクトが支援できるプロジェクトの数や多様性の拡大を目的としたプロジェクト選定の原則と評価基準の見直しを行なう」ことを求めた。
しかし、CRAについては楽観的な見方は少なかった。この機関は、国際収支問題に直面する国々の流動性確保の代替策として構想された。しかし、設立以来、CRAはあまり活発に活動しておらず、ロシアの提案では、米ドルとSWIFT銀行間通信システムへの依存が問題であると説明されている。
CRAに関するもう一つの深刻な懸念は、その運営がIMFによって監督されていることである。報告書は、「CRAを設立する条約は、IMFとの並行した取り決めなしに放出できる資源の量を最大値の30%に制限している」と指摘し、また、いかなる取り決めも「IMFの監視と開示に関する義務に従う」必要があると述べている。
「これは、IMFにおける現在の地位により、BRICS CRAメンバーが援助の提供について合意している場合でも、支援を受ける側が金融面での生命線を手放すことになるという状況を引き起こす可能性がある」と、この文書は付け加えている。
IMFと世界銀行は、その組織が欧米諸国によって完全に支配されているという深刻な欠陥を抱えている。両機関において拒否権を持つのは米国だけである。
1944年のブレトン・ウッズ会議でIMFと世界銀行が創設され、ドルが世界準備通貨として確立された際、欧米諸国はこれらの機関に対して大きな影響力を与えられた。(この会議当時、世界の大部分は依然としてヨーロッパ諸帝国による正式な植民地であった)
欧米の支配を確実にするため、世銀総裁はすべて米国籍、IMF専務理事はすべて欧州出身者という暗黙の合意がある。今日まで、この慣例は続いており、世界経済が大きく変化しているにもかかわらず、その傾向は変わっていない。
2023年現在、BRICSの当初5カ国は世界のGDP(購買力平価、PPPで測定)の32%を占めているが、IMFにおける議決権比率は13.54%にとどまっている。
一方、G7諸国は、世界GDP(購買力平価)のわずか30%を占めるに過ぎないにもかかわらず、IMFの議決権株式の41.27%を保有している。
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BRICS報告書は、これらの深刻な懸念を強調し、次のように述べている(強調は筆者):
IMFの管理面も疑問視されている。IMFの主要な利害関係を持つ高所得国にとって、この制度は大きな利点となっている。先進国35カ国の利害は12人の理事が代表する。残りの155カ国は開発途上国の理事12人が代表するか、先進国経済国の選挙区に入れられてしまう。そこでは開発途上国の意見や利害は二の次になってしまう。高所得国の理事はIMFの議決権の63%を占めているが、購買力平価では世界のGDPの46%にすぎない。
こうした構造的不均衡を踏まえ、この文書ではNDBの強化とCRAの改革が求められ、両者が真の代替案となるよう求めている。
BRICSはドルに挑戦する準備通貨を創設するだろうか?SDRは第一歩である
ロシアBRICS議長国報告書は、短期から中期的には、各国通貨での貿易と投資を促進することによって脱ドル化を試みることを明らかにした。
しかし、BRICSが最終的に国際準備通貨としての米ドルの役割に挑戦する国際会計単位を創設するかどうかについては、多くの議論が交わされている。
1944年のブレトン・ウッズ会議で近代的な金融システムが創設された際、著名な経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、バンコールと呼ばれる国際会計単位を提案した。
IMFは、公式用語集で次のように説明している(強調は筆者):
イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、戦後の国際通貨制度の原案の中で、金を含む30の代表的な商品の価値に基づいて独自の通貨 (バンコール) を発行し、各国の通貨と固定レートで交換できるグローバル銀行 (国際清算連合、the International Clearing Union_ICU) を構想した。すべての貿易勘定は銀行勘定に計上されるが、各国はICUに対して銀行勘定を維持し (わずかな差の範囲内で均衡すると予想される) 、ICUに対して当座貸越枠を持つことになる。
各国が大きな貿易赤字 (銀行の当座貸越枠の半分以上) を計上した場合、その国は勘定に利子を支払い、経済調整 (おそらく資本規制も) を受け、通貨を切り下げる。逆に、貿易黒字が大きい国も同様の課税を受け、為替レートを引き上げる必要がある。
ケインズは、このメカニズムが各国間の調整をスムーズに均衡化させ、世界的な不均衡を回避できると期待していた。
ケインズの提案は最終的に却下され、代わりにブレトン・ウッズ会議の米国代表で経済学者のハリー・デクスター・ホワイトの案が採用された。ドルは世界準備通貨とされ、当時、1オンスあたり35ドルの固定為替レートが設定された。
しかし、21世紀に入ってBRICSやグローバル・サウスの多くが脱ドル化を推進していることから、ケインズのような提案に対する関心が再び高まっている。
ロシアBRICS議長国報告書は、そのような国際通貨の創設を明確に呼びかけてはいないが、その概念に関心を示していることははっきりしている。
この報告書によると、それに最も近いものはIMFが発行する特別引出権 (the Special Drawing Rights_SDR) だという。
報告書によると、SDRは「代替的な準備資産、さらには新たな世界通貨」としての可能性は確かにあるが、その用途は「依然として限られている」という。
「補完的な国際準備資産として創設されたSDRは、より大きな役割を果たすことができる」と報告書の著者たちは記し、「実体経済におけるSDRの利用について努力がなされなければならない」と主張した。
著者たちはさらに、「SDRは、超国家的な準備通貨としての機能と潜在的可能性を備えており、長年のトリフィン・ジレンマ*に対する解決策となり得るかもしれない。つまり、準備通貨の発行国は、世界に流動性を提供しながら、準備通貨の価値を維持することはできない」と記述した。
トリフィンのジレンマ*・・・(英: The Triffin dilemma)。国際準備通貨を供給する国において、短期の国内的影響・長期の国際的影響から生じる経済主体間の思惑の衝突のこと。1960年代にベルギー系アメリカ人の経済学者ロバート・トリフィンによって提示された。トリフィンのパラドックス(英: The Triffin paradox)、流動性のジレンマ(英: The liquidity dilemma)とも呼ばれる。(ウィキペディア)
それにもかかわらず、SDRには問題がある。その価値は、米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円、中国人民元の5つの主要通貨バスケットに基づいている。したがって、西側が米国債を保有する敵対国に対して行なったように、主権国のSDRの準備金を凍結または差し押さえできなかったとしても、SDR建ての融資を受けることは依然として為替リスクをもたらすのだ。
米国連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)が2022年と2023年に行なったように急速に金利を引き上げると、新興国経済の通貨に大幅な下落圧力がかかる可能性があり、その結果、SDR建て債務の返済がより困難になる。ただし、中央銀行も金利を引き上げれば、不況を招く可能性がある。
ロシアBRICS議長国報告書が指摘するように、「SDRは利付き通貨であるため、SDRでの借入コストは、SDRを構成する通貨バスケットを構成する国々の現在の高金利環境の影響を受け、SDRの実用的な利用がさらに制限されることになる」。
この懸念にもかかわらず、著者たちは、SDRのような国際会計単位は、別の方法で途上国の通貨に対する外因的圧力を緩和することができると主張した:
SDRは、信用に基づく国家通貨に内在するリスクを排除し、グローバルな流動性を管理することを可能にする。そして、ある国の通貨がグローバルな貿易の基準や他の通貨の指標として用いられなくなり、その国の為替レート政策が経済的不均衡の調整にこれまで以上に効果的になれば、将来の危機リスクを大幅に軽減し、危機管理能力を向上させることができる。
報告書は、SDRの役割拡大を支持しているのはロシア政府だけではなく、中国政府も支持していることも指摘している。
「中国はSDRと人民元による外貨準備、国際収支、国際投資状況の報告を開始した。SDR建て債券も発行している。しかし、(政府機関ではなく) 市場参加者はSDRを会計単位として使い始めておらず、SDRのための市場インフラは依然としてつかみどころがない」と報告書は記述している。
つまり、ロシアBRICS議長国提案は、特別引出権(SDR)のような国際会計単位の考え方に対する条件付きの支持を表明し、「国際貿易、商品価格設定、国境を越えた投資、および帳簿管理におけるSDRの利用を促進する」こと、「投資手段としてSDR建ての金融資産をさらに創出すること」、そして「実体経済におけるSDRの利用拡大と交換手段を目的とした措置が成功した場合に、国際準備資産としてのSDRの役割を再評価し、強化すること」を呼びかけたものだ。
しかし、SDRがIMFによって管理されているという事実は、IMF自体が根本的に変革されない限り、SDRが短期的に本格的な代替案となる可能性は低いことを意味する。
投資・準備金の脱ドル化
脱ドル化の議論では、一方では国境を越えた支払いの脱ドル化、他方では貯蓄と投資の脱ドル化を区別することが重要である。
国際金融システムでは、商品の取引は総取引額のほんの一部を占めるに過ぎず、債券、株式、外国為替市場への資本流入と流出が大半を占めている。また、デリバティブ(金融派生商品)も数百兆ドルに上り、2023年6月時点で715兆ドルに達している。
これに対し、世界貿易機関(WTO)によると、2023年の全世界の商品貿易総額は23兆8000億ドルだった。国連貿易開発会議(UNCTAD)は、2022年の全世界の商品貿易総額は約25兆ドル、サービス貿易総額は6兆5000億ドルだったと算出している。
言い換えれば、世界貿易と国際金融取引の間には桁違いの大きさがある。この大きな格差を考えると、貯蓄や投資を脱ドル化するよりも、商品の国際貿易を脱ドル化する方が簡単である。
とはいえ、ロシアBRICS議長国報告書は、その両方を実現する方法を提案している。
この報告書では、分散型のBRICSクリア・システムの設立を提唱するだけでなく、「プラットフォーム加盟国の大陸における投資ハブの開発」を呼びかけ、「ユーロ建て債券に代わる新たな形態の債務発行、すなわち、参加国の国内通貨建ての可能性もある」と述べている。
BRICSは、「Association of National Numbering Agencies _ANNA(国際標準化機構)に代わるもの」を創設し、「BRICS加盟国の国内通貨建ての金融商品に国際ISINコード、CFIコード、FISNコードを割り当て、維持できるように」すべきであると、著者たちは記している。
報告書は、BRICS諸国に外貨準備の脱ドル化を促すためには、「他の国の通貨 (またはそのような通貨のバスケット) を価値の保管場所としてより魅力的にしなければならない」と強調した。これは、流動性供給メカニズムを確立し、「投資手段として機能する現地通貨建ての債券の普及」を促進することによって行なうことができる。
ロシアBRICS議長国も同様に、BRICSデジタル投資資産(DIA)の創設を提案した。これは、「BRICS構成国が拠出した資産によって裏付けられる」とされている。
しかし、多くの新興市場国や発展途上国における為替リスクに加え、中央銀行やその他の投資家が主要通貨建て資産を保有することを奨励する大きな流れを考慮すると、外貨準備やその他の貯蓄の脱ドル化プロセスは遅々として進まず、困難になるだろう。
何十年もの間、米国債は世界的な準備資産として利用されてきた。それを代替する資産として何を選ぶべきかという問題は、簡単に解決できるものではない。
短期的には、BRICS諸国の中央銀行は金に多額の投資を行なっている。このような世界的な需要の高まりを受けて金の価格はすでに高騰しており、今後も大幅に上昇すると予想されている。
しかし、報告書は、世界経済はここ数十年で大きく変化したが、国際通貨・金融システムは追いついていないと強調した。
2023年時点で、新興市場は世界のGDPの50.1%を占め、また過去10年間の世界のGDP成長の66%を占めていた(購買力平価、PPPで測定した場合)。
2024年には、BRICSの5つの創設メンバーのGDP(購買力平価)は世界のGDPの32%を占めていた。これはG7のGDPの割合よりも大きい。
これらの変化は、国際貿易の流れの変化にも一部反映されている。1995年には、新興市場および途上国間(EMDEs)での貿易は世界の商品貿易のわずか10%を占めるに過ぎなかったが、2022年にはその割合は26%に増加し、2032年には32%に達すると推定されている。
しかし、世界経済における大きな変化は、国際投資の流れには明確に現れておらず、依然として富裕国が不均衡に利益を得ている。
2022年現在、世界の投資のわずか11%がEMDEsから他のEMDEsに流れており、この数字は2010年の8%からほとんど増加していない。世界の投資の大部分は依然として先進国から他の先進国へと流れており、2022年には63%であった。これは2010年の72%からわずかに減少したが、同時期にEMDEsが世界の成長の66%を占めていたことを考えると、減少幅は小さい。
このことは、EMDEsが地球上で最も急速に成長している経済体であるにもかかわらず、外国投資から大きな恩恵を受けていないことを示している。
ロシアBRICS議長国報告書が記述しているように、「貿易の拡大から生み出された利益は、国内経済に還元されるよりも、より流動性が高くアクセスしやすい海外市場に投資されている」のである。
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新しい国際経済秩序の必要性
現代の国際通貨・金融システムの構造は、世界を植民地化した富裕な北半球諸国の利益に奉仕するものであり、植民地化された南半球の低所得国のほとんどを犠牲にするものである。
経済学者のガストン・ニーバスとアリス・ソダーノが所属する「世界不平等研究所」は、2024年4月に発表された研究論文でこのような結論に達した。彼らは次のように書いている(強調は筆者):
その結果、2000年以降、富裕国上位20% (人口加重) の超過利回り (対外資産収益率と対外負債収益率の差) が大幅に上昇していることがわかった。事実上、過去数十年に見られた米国の法外な特権は、規模と範囲が拡大し、富裕世界の特権となった。
最富裕国は世界の銀行家となり、低利回りの安全資産を提供することで過剰な貯蓄を呼び込み、これらの流入をより収益性の高い事業に投資している。このような特権は、最貧国から最富裕国への純所得移転に換算され、上位20%の国のGDPの1% (上位10%の国ではGDPの2%) に相当し、最富裕国の経常収支は軽減される一方、下位80%の経常収支はGDPの約2~3%悪化する。
我々は、豊かな国々はプラスの資本利益を蓄積し、それによって国際投資ポジション(IIP)が改善され、世界的に見て相対的にリスクの低い資産に投資していることを示し、潜在的な損失や引き受けたリスクを補償するために超過収益を獲得しているというこれまでの考えを否定している。
我々の結果は、豊かな国が国際準備通貨の発行国であり、より安価な資金調達 (公共部門と民間部門の両方) にアクセスできるという事実によって説明されるようである。
この研究論文の著者たちはその研究結果を「米国の特権は、BRICSによって資金提供され、富裕層の特権となった」という一文にまとめた。
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このグローバル・サウスからグローバル・ノースへの富の流出は、国を1人当たりの国民所得の5分位に分けるとさらに明らかになる。
上位20%の富裕国はGDPの1%以上の純外国資本所得を受け取っているが、それ以外の国々ではGDPの2~3%が流出している。
この富の流出は、1970年代の新自由主義の台頭以来、特に1990年代の金融化と規制緩和の波以来悪化している。
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「世界不平等研究所」経済学者のガストン・ニーバスとアリス・ソダーノは次のように説明している:
事実上、国際通貨・金融システムにおける富裕国の中心的地位は、世界の銀行家と同様に仲介者として機能することを可能にする。この役割は、彼らの特権をさらに強化するものであり、彼らは有利な立場を活用して過剰な貯蓄を引き寄せ、それを生産的な投資に振り向ける。このサイクルは、彼らの支配を永続させ、世界経済における主要プレーヤーとしての地位を強化する。
彼等の研究論文の結論はこうだ(強調は筆者):
私たちは主張してきた。すなわち、富裕層の特権は市場の結果ではなく制度設計に起因するものであり、それは貧困国に多大な負担を強いるものであると。最下位80%の人々は、毎年GDPの2~3%に相当する額を移転することを余儀なくされており、その額は自国の開発政策に充てることができるはずである。
より平等な体制を促進するために、現在の通貨・金融システムを再設計する努力が向けられなければならない。このシステムは、グローバル化、貿易、金融化、経済成長に貢献してきたが、気候変動、技術革新、不平等の拡大、長期的な人口動態の変化、複合世界における地政学的紛争の激化といった複雑な課題には対処できていない。
第二次世界大戦後に交わされた、中立的な国際通貨・金融システムの確立という当初の約束は、未だ果たされていない。米国が米ドルという特権的地位を獲得したわけではないが、この特権はブレトン・ウッズ体制の初期に課されたものが受け継がれたものである。確かに、ドル準備金は他国によって自主的に蓄積されてきたが、ドルが安定した世界通貨としての役割を担っていた初期の段階において、米国は通貨覇権国となり、途方もない特権を手に入れ、国際的なパワーバランスを自国に有利な方向に傾けることができた。 これまで、米国の覇権は、他の通貨供給国によって部分的にしか争われてこなかった。
ロシアBRICS議長国提案は、これらの構造的問題のすべてを解決するものではないが、正しい方向への一歩である。
BRICS報告書自体は、慎重なトーンで締めくくられている。「現在のシステムが提案されたモデルからどの程度逸脱しているかということは、変化には時間がかかり、各国の共同の取り組みが必要であることを意味する」と著者たちは記し、「前述の構想の実際的な実施には段階的なアプローチが必要である」と強調した。
しかし、「重要なことは、そのプロセスがすでに始まっているということである。代替的な決済システムや金融メッセージのメカニズムはすでに存在しており、二国間決済における各国通貨の使用は拡大しており、デジタル資産を含む新しい取引方法が出現している」と報告書は付け加えた。
国際通貨・金融システムを変革するというBRICSの提案は、万能薬とは程遠いものの、こうした構造的不平等を是正する一助となる可能性はある。
この点において、BRICSの計画は、新しい国際経済秩序(New International Economic Order_NIEO)の呼びかけと同様のものとして捉えることができる。
現在、途上国134カ国が加盟するG77(Group of 77)は、1974年に初めてNIEOが発表されて以来、ほぼ毎年、NIEOの要求を繰り返し訴えてきた。
G77+中国は2024年1月にキューバでサミットを開催し、参加者は「現在の不公平な国際経済秩序が途上国にもたらす大きな問題」を非難した。同月、キューバはG77議長国としてハバナ新国際経済秩序会議を開催した。
ロシアを除くすべてのBRICS加盟国はG77の一員であり、モスクワはNIEOの呼びかけを長年支持してきた。
したがって、BRICSがNIEOの50周年に国際通貨・金融システムを変革する計画を議論していることは、極めて適切かつ象徴的である。
ヴィクトル・ユーゴが言っている:「これ以上はっきり言えることはない・・・着想はその時宜を得たときにいちばん力を発揮する」。
※なお、本稿は、寺島メソッド翻訳NEWS(2024年11月9日)「BRICSは米ドル支配に挑戦する「複合通貨システム」を計画している:ロシア提案の真意は何か?」
http://tmmethod.blog.fc2.com/
の転載であることをお断りします。
また英文原稿はこちらです⇒BRICS Plans ‘Multi-Currency System’ to Challenge US Dollar Dominance: Understanding Russia’s Proposal
筆者:ベン・ノートン(Ben Norton)
出典:Internationalist 360°2024年10月21日
https://libya360.wordpress.com/2024/10/21/brics-plans-multi-currency-system-to-challenge-us-dollar-dominance-understanding-russias-proposal/
国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授